魔法少女マヂカ・123
えと……空を飛んでるんだけど。
傍らには寄り添うようにミケニャンが飛んでいる。
ミケニャンは詠唱によって、わたしをセントメイドにすると、ベランダのサッシを目いっぱい解放した。
寒い!
寒かったのは一瞬の事で、気が付くと山手線に沿った上空をアキバを目指して飛んでいるのだ。
「いちどツマゴメに寄ろうと思ったんだけどニャ……どうも、そうはいかないみたいニャ!」
フニャフニャのネコ語だけど、緊迫した面持ちのミケニャン。
「アキバの上空が明るい……いや、燃えているのか?」
アキバの中高層の建物が炎に煽られたようにチロチロしている。建物群の足元は幾百の悪魔が赤い舌を嬲らせているように炎で滾っている。
「予想よりも早い復活ニャ……」
青ざめたミケニャンは言葉を繋ぎかねている……なんだ、このダークエナジーにまみれたデジャブは?
子どものころに布団の中、タブレットで読んだ『魔法少女アギカ』の一節か? 卒論の映像文化史のレポートを書くために読んだ『吉原炎上』の残滓? はたまた虫眼鏡でアリを観察していて太陽の誘惑に負けて次々に焼き殺した負の想念の照り返しか?
「十四年前に陛下が滅ぼされたダークメイドが復活したニャ」
「陛下、陛下とは……」
「あんた、いえ、貴女様のことニャ、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世陛下!」
「……わたしが?」
「そうニャ! 十四年前にアキバのセントメイドクゥイーンであった陛下が、きゃつのHPを全損させて上で封印したダークメイドが復活したニャ!」
ダークメイド…………封印……よもつ……ひらさか……」
「ちかごろの異常気象で黄泉平坂にほころびができてしまったニャ」
「黄泉平坂!? 思い出した! アキバの上空に次元の狭間を現出させて、はるか黄泉平坂までぶちのめして封印した! わたしが封印したのだ!」
「陛下、これを使ってニャ!」
ミケニャンが放ってきた、ジャガイモ?
「不完全だけど、効き目はあるニャ! 思いを込めて振ってみるのニャ!」
「ジャガイモでか?」
「さっさとやってみるニャー!」
手触りで分かった、これは男爵ではなくメイクィーン……」
「メイクィーンはメイドクィーンに通じるニャ」
「オヤジギャグか……」
「ギャグじゃニャい、メイドクィーンロッドの原初形態なのニャ! さあ、振ってみるニャ!」
「あ、ああ」
目をつぶり左手にメイクィーンを握り、そこに弓があるように念を凝らした。
シュィーーーーン!
CGのようなエフェクトがしてメイクィーンは弓矢に変化して、わたしは力いっぱいに弓弦を引いた。
「出でよ、スプラッシュアロー!」
たちまち解き放たれた矢は彼方のダークメイドの胸板を貫いた!
「メイーーーーーン!」
効果はあった、ダークメイドは胸に深々と矢を突き立てられたまま、たちまちアキバの空高くに躍り上がった。
『復活したのかメイドクィーン……しかし、腕はまだまだだな……我が漆黒の衣をわずかに貫いただけに過ぎぬ。致命傷に程遠いわ……フフフ、では、またいずれな。イモクィーン!』
それだけ言うと、ダークメイドは冬の夜空を西を目指して飛び去った。
「手負いのまま逃がしてしまったな……」
仕留められなかった……一気に気だるさが襲ってきて、目を開けていられなくなって、真っ逆さまに落ちていく。
「バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世陛下ぁ!!」
ミケニャンが、わたしの真名を叫びながら手を伸ばしてくる、しかし、しかしなあ、助ける気があるなら、もっと短く呼んでくれないかなあ、さっきみたいにさ……ああ、地上に激突する……!
「バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼン……!」
だから短く言えって……間に合わない、激突するううううう!
ドベシ!!
げ、激突してしまった……。