大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:009『ジージの高校時代』

2020-01-23 15:10:26 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:009

『ジージの高校時代』  

 

 

 ジャノメエリカは窓辺に置いてある。

 

 窓辺と言っても外側。

 室内は暖かすぎて良くない。窓辺の外に脚立を立てて、その脚立の上に置いてある。

 外に置いていても姿が見えなきゃね。できたら花が咲く瞬間というのを見てみたいもん。

 直ぐに咲くわけじゃないのに、チラチラ見てばかり。買ってきたあくる日はチラ見ばっかしてしまって、ジージのファイルも開けなかった。

 

 今日は五分ほどチラ見して、ファイルを開く。五分も観ていたらチラ見とは言わないのかもしれないけど。

 

 

『ジージのファイル』

 ジージが高校生だった頃の話をしようか。

 ジージは家の近所、公立のA高校に行った。近くにあるというのが一番の理由なんんだけど、他にも動機がある。

 A高校は、通っていた小学校の向かいにあった。

 だから、A高校の様子は生き帰りだけじゃなく、教室の窓からもよく見えたものさ。穏やかで、行儀がよさそうで、生徒も先生も賢そうでね。放課後になると、いろんな部活の様子も見えるんだ。テニス部は、なんだか天皇陛下と美智子さまの軽井沢の恋って感じがして。吹奏楽やコーラス部は、もうそのままコンサートかというほど上手かった。

 そうそう、校舎は全て戦後に建てられた鉄筋コンクリートで、戦前からの木造校舎を使っていた小学校から見ると、とても近代的な感じだ。

 正門を入って右手にはガラス張り二階建ての食堂があってね、脱脂粉乳を飲んでアルマイトのお皿のコッペパンばかりだったジージたちには天国のレストランみたいに見えた。

 決定的だったのは、三年生の時の担任の湯浅先生だ。

 湯浅先生は大学を出たばかりの美人でね、A高校の出身だったんだ。小三だったけど、他のクラスのやつには羨ましがられて、湯浅先生はジージたちのアイドルだった。

 もう、A高校への憧れはマックスになったさ!

 

 そして、小三の憧れから六年後に晴れてA高校に入学した。

 先生もクラスメートも、みんな賢そうに見えた。

 入学式では、壇上の先生がこう言ったのを覚えてる。

「先生たちには授業をする以外にもたくさんの仕事があります。だから職員室に居るとは限りません。教官室や準備室や分掌の部屋にいたりします。他にも教科ごとの学会があったりして……」

 びっくりしたよ、学会だって言うんだもの。

 学会というのは大学の先生が行くものだと思っていた。小学校のころ読んでいた『鉄腕アトム』に天馬博士とかが学会いくとか言う話が載っていたからね。

 そうか、高校の先生と言うのは鉄腕アトムが作れるほど偉いんだと思った。

 ジージは見かけだけは賢そうに見えるもんだから、すぐに学級委員長を仰せつかった。

 担任がこう言うんだ。

「始業のベルが鳴って五分経っても先生が来ない時は、委員長、おまえが呼びに行くんだ」

 大変な仕事を受け持ったと思った。

 さっきも言ったけど、先生たちは小学校、中学校よりもはるかに広い校内のあちこちに散らばっているんだからな。

 最初の国語の授業で、国語のS先生は言った。

「オレ、一時間目は来ないからな、内緒だけど。その時は自習していてくれ、おまえらも自習の方がいいだろ? な、だから委員長、オレが来なくても呼びに来るんじゃないぞ」

 半分冗談かと思ったが、つぎの一時間目の授業、S先生は、ほんとうに来なかった。

 なんとなく噂は聞いていたんだろう、担任が見に来たよ。

「委員長、ちょっと」

 廊下に呼び出されて「先生が来ない時は呼びに行かなきゃだめだろう!」っておこられた。

 だから、正直に答えたよ、S先生に言われたことを。

 すると、次の時間、今度はS先生に呼び出されておこられた。

「屯倉、おまえ、ナイショだっていっただろうがあ!」

 まあ、A高校というのは、そういう学校だった。

 

 そいうって、どうとったらいいんだろ?

 自由? チャランポラン? ジージも呆れているような、面白がっているような……。

 ま、とりあえずファジーだったんだと理解しておく。

 洗濯物の取り込みを手伝って、お昼ご飯と晩ご飯の手伝いをした。明日から月末までお天気は下り坂らしい。無理して外に出ることは無いよね。

 

 

 

 

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せやさかい・116『キングダムハーツ・3追加シナリオRe Mind』

2020-01-23 11:15:20 | ノベル

せやさかい・116

『キングダムハーツ・3追加シナリオRe Mind』 

 キングダムハーツ・3追加シナリオRe Mindの最新版を始めたよ!   「キングダムハー...」の画像検索結果 

 

 キングダムハーツは保育所のころからやってるゲーム。

 言うてもガチガチのゲームオタクやない。

 ディズニーキャラとファイナルファンタジーのゲームキャラが出てきて、一粒で二度おいしい!

 このゲームやってるうちは、なんや夢の中に居てるみたいで、そういうとこが好き。

 大河ドラマの重要キャラになってながら薬物に手ぇ出して逮捕された女優さんがおったけど、薬物やったときの夢の中みたいな感じは近いかもしれへん。

 日本橋で試遊したVRの没入感もすごかったけど、あたしは『キングダムハーツ』で十分というか、こっちの方がええ!

 ただ、ネットのダウンロードでしか買われへんので、ちょっと戸惑い。

 プレステストアチケットをコンビニで買う。5280円(消費税込み)がけたくそ悪い。

 3000円のチケットを二枚(6000円)買わならあかん。

 あたしは、このために、去年の秋から貯金してる。

 お祖父ちゃんにもろた豚の貯金箱に500円玉12枚。しっかり小銭入れにいれたらパンパンになった。

 レジでお金払たら、小銭入れは空っぽのペラペラになってしもた。

 欲しいものを買うたんやから、納得のハズやねんけど、なんとも言えん寂寥感。

 

 プレステ4を起動してチケットをチャージ。

 

 夕べのというか、午前零時にダウンロードが始まったんを確認して「よし!」とガッツポーズしてから寝る。ほんまはインストールも済ませて二時間ほどプレーしたかったけど、学校があるから無理して目ぇつぶって寝る!

 朝起きて、一回起動してみる。ばっちり入ってるのを確認して、「よし!」と、またまたガッツポーズ。

 学校でも部活でも、もう心ここに在らずという感じ!

 頼子さんは「あれ?」いう顔をしてたけど、留美ちゃんは上目遣いでニタニタ。きっと留美ちゃんもやってるんや!

 

 晩御飯を食べて、すぐに二階の自分の部屋に。

 

 アイタ!

 階段の最後の一段で足の親指を引っかける……めっちゃ痛い!

 けども、痛さ堪えてテレビの前へ。

 情けないけども涙が滲む。痛さのせいか感動のためかよう分からん涙。

 

 初めてみて発見した!

 

 黒ずくめコートにフードを被ってる謎のニイチャン(正式なキャラ名は忘れてる)の声、どこかで聞いたことあると思てたら、分かってしもた。

『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズの、お気に入りキャラである(きょんくん)の声ではないか!

 それで、今度は『涼宮ハルヒの憂鬱』が気になって、DVDを取り出して二時間も観てしもた!

 

 ほんで、メッチャ眠たい。

 今日は、新作ゲームでアホになったさくらのお話でした。

 チャンチャン

 

 

 

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不思議の国のアリス・10『アリスのミッション・激闘編』

2020-01-23 06:20:01 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・10
『アリスのミッション・激闘編』
    


 その夜、アリスは奇襲攻撃をかけた。
 
 奇襲とは、敵がこちらの攻撃を予想もせず、油断したときに、敵の拠点を強襲し壊滅的打撃を与えることである。

 一方の敵である東クンについては、今日「千代子への気持ち」を最終確認するという策敵任務を完了した。

 次はXデーに向けての千代子の戦意と準備状況の確認である。むろん最終戦闘は、千代子と東クンが帝都ホテルのベッドの上で行うわけだが、そこへいたる道筋はアリスがつけてやらなきゃならない。

 敵は、まったくの無防備で現れた。
 
 つまり風呂上がり、髪をバスタオルで拭き、アクビをしながら部屋に入ってきたのだ。
 この半年の共同生活で、千代子が心身共にリラックス、つまり油断しているのは、風呂上がり。まさに、この瞬間であることを熟知している。
 
「千代子が好きなんは、東クンやろ?」
「ア、アリスには関係ないやろ」
 千代子は、目を泳がせて真っ赤になった。
「ほらほら、顔が赤うなったで」
「お、お風呂から、あがったばっかりやからや」
 敵は、最初の一撃で、混乱した。アリスは追撃した。
「その顔は認めたんといっしょやで。ちゃんと準備はしてんのか?」
 アリスは、余裕でトドメを刺した。
「ウチ、今日学校でアンケートとってん。ほら、これな……」
 アリスは、アンケートの結果をベッドにぶちまけた。
「なに、これ……?」
「心理テスト。で、結果から言うて、東クンも、千代子のことが好きや!」
「ちょっと、こんな余計なこと!」
「大丈夫、ダミーに七人とったし、千代子のことは分からんようにリサーチしたあるよってに」
「あのなあ、アリス!」
「で、準備はちゃんとしてんねんやろな!?」
 アリスは千代子の顔に五センチまで近づいて、真顔で聞いた。
「なんで、アリスに……ウチは、きっちりヒニンする!」
「あたりまえやろ、ヒニンは。そやかてラバー(Rubber)ぐらい……」
「ラバー(Lover)やなんて、いくらアリスでもなあ!」
「かんにん、かんにん。ちょっと立ち入りすぎたなあ……」

 アリスは千代子をかわいく思った。この半年でアリスが分かっただけでも、クラスの1/5ほどが程度の差はあれ、その種の体験があった。TANAKAさんのオバアチャンに聞いていたテイソー観念との落差は大きかったが、まあ、今時の高校生に日米の差はないと感じた。
 しかし、覚悟を決めたわりに、千代子は準備不足だ。
「ようし、明日はウチが全部用意したろ!」アリスは決心した。

「あら、アリスちゃん、今日はえらい大人びたかっこうで……」
 千代子ママは、そう言って送り出してくれた。途中までは、千代子といっしょだった。あべのハルカス前で落ち合うことにして、別行動をとることにした。夕べの千代子の態度では、別々にした方がいいと、アリスは思ったからだ。
――ちゃんと準備はするから――
 千代子は、そう言ったが、あのオネンネぶりでは、せいぜいチョコレートを買うのが精一杯。まあ、清水の舞台から飛び降りるような気持ちになるかもしれないが、その時はその時。ダブったら、シカゴの友だちミリーへのお土産にしようと思った。ミリーは小柄で、サイズがいっしょなのを知っている。

 アリスは、ほとんど日本語が分からないアメリカのオネエサンという感じで必要なものを買った。サイズが違うので、こう、店員には言った。
「for my friend you see?」
 シカゴなら平気なんだけど、どうも日本、それも大阪というのは手に負えない。店内や、店の前のオーディエンスの遠慮のない目にはショージキむかついたが、ここは阿倍野。クラスメートの目に触れないとも限らない。

 それから、コーヒーショップで、スマホを取りだして、明日のヒラリ・クリキントンの講演のお知らせメールを打った。「あとで領事館でランチ付き」と添付。そして一斉送信のボタンを押しかけて、考えた。このメールを送った相手の名前を全部書き足した。

 あべのハルカスの前で会った千代子は目的を果たしたのだろう。アリスと同じぐらいの紙袋を持って、ニコニコしていた。
「アリス、ありがとう。ウチも明日行くさかい!」
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巷説志忠屋繁盛記・15『アイドルタイムはアイドルタイム・1』

2020-01-23 06:09:07 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・15
 
『アイドルタイムはアイドルタイム・1』     
 
 
 マスターは写真集を封印した。
 
 ここのところアイドルタイムになると昭和の八尾の写真集にのめり込んでしまうので、トモちゃんに持って帰ってもらったのだ。
 実際に伝票の整理が遅れてしまって仕事に差し障るとチーフからも言われている。
 
「仕事に身ぃ入れるとお客さんの入りもちがうでしょ」
「ほんと、お店の外に列が出来てるわ」
「悪い日に来てしもた~(;'∀') どうぞ、お待ちの二名様~」
 勝手知ったるトコは急きょエプロンを付けさせられ、臨時のウェイトレスにさせられている。
「海の幸とビーフシチューのランチセットです、はいご注文承ります……はい、お冷すぐに……」
「すみません、一つお詰め合わせ願えますか、申し訳りません、お一人でお待ちのお客様~」
「山の幸大盛りあがり~」
「オーダー入ります、海と山、海大盛りで麺硬め~」
 厨房もフロアーもてんてこ舞い、ズーーっと自動ドアが開く音。
「すみません、満席ですので……」
 
 トモちゃんが振り返ると交番の秋元巡査。
 
「店の前、ちょっと整理してもらえませんか」
 お客が溢れかえって通行の邪魔になってきているのだ。
「ごめん秋元巡査、すぐに……」
 首を45度も回せば見渡せる店内をサーチライトのように三往復舐めまわした。
「お、大橋、それ食べたら店の前整理して!」
「え、おれか?」
「他に大橋はおらへん」
 マスターは、この作品の作者さえも使い始めた。大橋の人柄の良さと現役教師時代に熟練した列整理(教師は集会や行事で整理の仕事が多い)の技で、店の外をきれいに整理した。念のためマスターがチラ見すると『最後尾』のプラカードが見えた。
――あんなプラカードあったんかいな?――
 詮索する暇もなく厨房に戻り八面六臂獅子奮迅の働きで二時過ぎにやっとアイドルタイムにこぎつけた。
 
「あーーしんどかった……」
 
 マスターが冷蔵庫に背中を預けた時には、チーフはじめトモちゃんも臨時のトコも作者の大橋までもカウンターに打ち伏せていた。
「ご苦労様でした、マスター」
 四人掛けシートの向こうから声が掛かった、どこに潜んでいたのか、テーブルを潜って顔を出したのは近所のテレビ局の中川女史だった。
「あ、中川はん……」
「じつはお願いがあるんだけど……」
「…………なんでっしゃろ?」
 返事に間が開いたのは、疲れていたこともあるが、こんなクソ真面目な顔をした中川女史は初めてで、海千山千のマスターの脳みそは『要注意』のアラームが灯っていたからだ。
「お店をロケに使わせて欲しいねんけども」
「え、あ……いつ?」
 以前にもグルメコーナーで紹介されたこともあるので、そういう線だろうと思った。
「いや、ドラマの収録やねんけども」
 違う答えが返ってきたが「ドラマ」という言葉にカウンターのゾンビたちも顔を上げる。
「で、いつなん?」
「実は、今日……もう、その角曲がったとこで、みんなスタンバイしてるんやけど……」
 
「え、なんやて?」
 
 入り口に近かったトコが外まで出てみた。
「わ、えらいこっちゃ!」
 カメラやマイクの機材を構えたスタッフだけではなく、キャストを乗せたロケバスまでが今か今かと待機していたのだ。
「そんなことは前もって言うてくれやんと」
 不平そうに言うマスターだが、ランチの爆発的な客の入りもあって、頬っぺたが緩んでいる。
「実は……もう部分的には撮影させてもろてんねんわ」
「「「「「え?」」」」」
「めっちゃ流行ってる店という設定で、ランチのお客は、うちの仕込みやねんわ……」
「な、なんじゃと!?」
 
 ひっくり返りそうになったアイドルタイムであった。
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・18「部室明け渡し!?」

2020-01-23 05:58:28 | 小説・2
 オフステージ(こちら空堀高校演劇部)18
「部室明け渡し!?」                   


 お互いネコのようだと思った。

 普通教室まるまる一個分の部室に3人しかいない。
 その3人が、互いに関わることも、3人揃ってなにをするでもなく、好きなようにしている。
 啓介は、ヘッドホンをして好物の冷やし中華を食べながらスマホを弄っている。
 千歳は、チェーホフの短編で隠すこともしないでワンピースを読みふけっている。
 そして、須磨が一番ネコらしく、椅子を並べた上に丸く寝そべって寝息をたてている。
 
 放課後になって部活が始まってから、ずっとこんな調子だ。

 かりに誰かが3人を撮っていて、部活の始まりから観ていても、この3人が演劇部であることは見抜けないだろう。
 それもそのはずで、啓介は、校内で隠れ家が欲しいだけで演劇部の看板を利用している。車いすの千歳は、学校を辞めるに足る部活参加の実績を作って、一学期末には「空堀高校でがんばったけどダメだった」と周囲を納得させるためだけに入部し。4回目の3年生をやっている須磨はタコ部屋(生徒指導分室)以外の部屋に行きたいために4年ぶりに復活している。

 この昼下がりのネコカフェのようにアンニュイな静けさは、30分おきに小さく破綻する。

 目をつぶったま須磨はムックリと起き上がり、尻を軸として180度旋回し、再び横になる。
 まるで猫のように膝を曲げるので、スカートの中が丸見えになってしまう。
「っつ……千歳、頼むわ」
「啓介先輩が移動すれば?」
「もう2回移動した。それに今は食事中やし」
「もう……あたしは足……」
「うん……?」
「なんでもない」
 千歳は足が不自由なことを言いわけにはしない。口をつぐむと床に落ちた毛布を拾って須磨の体にかけてやる。
「こんど目が覚めたら、スパッツとか穿くように言うてくれへんかなあ」
「きのう言った。暑くなるからやなんだって」
「…………」

 そして、再びアンニュイな淀みが部室を満たし始めた時、ドアがノックされた。
 入ってきたのは1週間ぶりの瀬戸内美晴だ。

「……あら、3人になったの?」
「あ……うん。これくらいで堪忍してくれへんかなあ」
「なに寝ぼけてんのよ。あたしは5人と言ったのよ。ちゃんと生徒会規定に則って」
「あ、でも、そこの松井先輩は6年目で4回目の3年生だし」
「ええ、そう。松井先輩1人で3人分くらいの値打ちあるんじゃないかしら」
「2人とも、寝言は寝てから言ってくれる。規定は規定、揃わなかったんだから、週末までに部室を明け渡してね。じゃ」
「ちょ、ちょっと副会長!」

 回れ右をすると美晴は、そそくさとドアの外に消えて行った。

「ちょ、ちょっと、どうにかならないの!?」
「3人で……いや、2人で、もう一度話しにいこう!」

 あわただしく2人は美晴を追いかけ、三度目の寝返りを打った須磨だけが残された。 
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乃木坂学院高校演劇部物語・105『仰げば尊し』

2020-01-23 05:47:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・105   



『仰げば尊し』


 話しは戻るけど、三月十日は乃木坂さんがいなかった。

 三月十日は東京大空襲の日。乃木坂さんの命日でもあるし、大事なあの人、マサカドさんと言おうか、三水偏の彼女と言おうか、その大切な人の命日でもあったんだもんね。
 乃木坂さん自身の平気な顔は――それには触れないでほしい――という意思表示だと思ってわたしたちも、聞かないことにした、やっぱ成長したでしょ。

 潤香先輩は、ロケの疲れで二日ほど寝込んでいたけど、梅の花が満開になったころから、時々稽古を覗きにきてくれるようになっていた。

 そして……それは、桜の蕾が膨らみ始め、新入生たちの教科書や制服やらの引き渡しの日に起こった。
 稽古場の同窓会館にいても、新入生たちの満開のさんざめきが聞こえてくる。
 その日は、理事長先生と潤香先輩が稽古場でいっしょになり、乃木坂さんは、バルコニー近くで、静かに、しかし厳しい目で稽古を見ていた。
 
 クライマックスのシーンで、それは起こった。
 
 都ばあちゃんが、地上げ屋の三太にも三人の子供たちにも見放され、一人お茶をすするうちに突然脚と腰に走る痛み。遠く聞こえる若き日のなつかしの歌。
 
 埴生の宿も わ~が宿 玉の装い羨まじ……♪
 
 都ばあちゃんの最後が迫る。登場人物がみんな……といっても都ばあちゃんを入れて三人だけど、「埴生の宿」の合唱になる。都ばあちゃんは最後の力をふりしぼって、最後の一節を唄う。
「……楽しとも……頼もしや……🎵」

 そこで、見えてしまった。乃木坂さんの体が透けてきているのを……。

「乃木坂さん!」
 おきてを破って叫んでしまった。一瞬乃木坂さんは「だめじゃないか」という顔になり、そして……気がついた。
 自分にその時がやってきたことを……。
「あ、あなたは……」
 潤香先輩にも見えてしまったみたい。
「水島君……」
 理事長先生は、驚きもせずに、静かに、そして淋しそうに乃木坂さんの本名を呼んだ。
「高山先生……先生は、ご存じだったんですか」
「三月の頭ごろからね……この歳になるととぼけることだけは上手くなるよ。本当は、イキイキとした君の姿を見られて、とても嬉しかったんだ」
「……僕の役割は、もう終わっていたんですよ……それが、この子達と居ることが楽しくて、嬉しくて……つい長居をしすぎたようです」
「わたしを助けてくれたの……あなた……あなた、なんでしょ?」
 潤香先輩が、ささやくように言った。
「君は、こんなことで死んじゃいけない人だもの……僕は、昔、助けたくても助けられなかった人がいる。自分の命と引き替えにすることさえ出来なかった……みんな、最後は、こう思ったんだ。自分は死んでも構わない。その代わり、他の誰かを生かして欲しい……親を、子を、孫を、妻を、夫を、教え子を、愛しい人を一人だけでも……みんな、そう思って、身も心まで焼き尽くされて死んでいったんだ」
 わたしは、カバンから、あの写真を取りだした。
「この人だったんでしょ。乃木坂さん……水島さんが守りたかったのは、苗字の上の字が三水偏の女学生。ねえ水島さん」
「……そうだよ。あの時は、他の仲間に申し訳なくて言えなかった。今、ここに居る仲間は喜んで許してくれる。その子は、十二高女の池島潤子さん。潤子の潤は……」
「わたしと同じ……?」
「そう……不思議な縁だね」
「潤いを人に与える良い名前だよ」
「水島さん。下のお名前も教えてください。わたし一生、あなたのことを忘れません」
「それは、勘弁してくれたまえ。僕たちは『戦没者の霊』で一括りにされているんだ。こうやって、君達と話が出来ることだけでも、とても贅沢で恵まれたことなんだよ。苗字を知ってもらったことだけで十分過ぎるんだよ。高山先生、こんな何十年も前の生徒の苗字、覚えていただいていて有難うございました」
「もう歳なんで下の名前は……忘れてしまった。でもね、僕は時々思うんだよ……この歳まで生かされてきたのは、君達の人生を頂いたからじゃないかと」
「先生……」
「だとしたら、そうだとしたら、僕はそれに相応しい……相応しい仕事ができたんだろうか」
 水島さんは、仲間の承諾を得るようにまわりを見渡し、ニッコリとした笑顔で大きくうなづいた。
「ありがとう、水島君。ありがとう、みなさん」
 空気が暖かくなってきたような気がした。水島さんの体がいっそう透けてきた。

「それじゃ……」

 と、水島さんが言いかけたとき、バルコニーの外の桜がいっせいに満開になった。最初、水島さんに会ったときの何倍も、花吹雪は、壁やガラスも素通しで談話室に入ってくる。
 気づくと、壁に紅白の幕。理事長先生の後ろには金屏風、日の丸と校旗も下がっている。
「これは……」
 と言ったのは、水島さん。わたしは思った、ここにいる大勢の水島さんの仲間がはなむけにやった演出だ。
「ありがとう、みんな……先生、最後に一つだけお願いがあります」
「なんだい、僕に出来ることなら……」
「『仰げば尊し』を唄わせてください。僕は唄えずに死んでしまいましたから、最後にこれを……」
「では、僕たちは『蛍の光』で送らせてくれたまえ」
「僕には、もう、そこまで時間が残っていません」
 水島さんの手足は、消え始めていた。
「じゃ、じゃあ、みんなで唄おう!」
 理事長先生は、ピアノに向かった。  

――仰げば尊し我が師の恩 教えの庭にも早幾年(はやいくとせ) 思えば いと疾し この年月 今こそ別れめ……いざ さらば――

「さらば」のところでは、もう水島さんの声は聞こえなかった。そして、桜も金屏風も紅白幕も、日の丸も消えてしまった。

 でも、校旗だけがくすんで残っていた。

 いえ……最初からあったんだけど、だれも気がつかなかった。何ヶ月もここを使っていながら。
 そして……悔しかった。わたしたちだれも『仰げば尊し』を完全には唄えなかった。ちゃんと水島さんを送ってあげられなかった……わたし達は、この歌を教えてもらったことがない。
 でも、歌の心は分かった。
 それを忘れるところまでわたし達のDNAは壊れてはいなかった。その心が少しでも水島さんに届いていればと願った。
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