大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・118『近所の火事!』

2020-01-29 12:32:57 | ノベル

せやさかい・118

『近所の火事!』 

 

 

 ウウーーカンカンカン  ウウーーカンカンカン  ウウーーカンカンカン

 

 サイレンと鐘の音で目が覚めた。消防自動車や!

 日ごろはサイレンの音は区別はつきにくい。救急車かパトカーか消防車か。たいてい遠くやから『あ、サイレンや』としか分かれへん。たとえ目の前を通っても自分に関係なかったら直ぐに忘れるし。

 せやけど、ほん家の近所となると、はっきり聞き分けるというか、気になる。

『近所だよ』

 詩(ことは)ちゃんの声も聞こえて来たんで、半纏を羽織って廊下に出る。

「二丁目みたいやなあ」

 おじさんの声が階下でする。続いて家のもんの気配、カカッとかザッとか履物を履く音、玄関が開けられる。とたんにサイレンの音が大きくなる。

「行ってみよ……」

 詩ちゃんに促されて、うちらも境内に。

 山門の向こう……たぶん、通り二つ向こうから夜目にもはっきりと立ち上る煙が見える。

 直ぐに消防車の放水が始まったみたいで、何かが水圧で飛ばされる気配、ボボボと燃え広がるような消されていくような、どっちともつかん音。

 山門の前を近所の人が通っていく。

「諦一、脚立持ってきて屋根登れ。諦念は外から見回れ」

 お祖父ちゃんが指示して、テイ兄ちゃんとおっちゃんが動く。緊急事態はお祖父ちゃんの指示が頼もしい。

 

 ボ!

 

 なにかの拍子で、ひときわ大きな炎が立ち上って、火の粉が舞い上がる。

「美保さん、ホース延ばしといて、詩は消火器を」

「うん、お祖父ちゃん」

 家族みんながテキパキ動く。あたしはノコノコ出てきたダミアを抱き上げてオロオロするばっかり。

「念のためや、念のため」

 お祖父ちゃんは、安心させるように微笑みで返してくれる。

 やっぱり年の功やと思う。

 

 炎は、さっきの『ボ!』が最高で、ちょっとずつ下火になっていく。

 

「詩、消火器!」

 築地の外でおっちゃんの声。

「さくらちゃんも、一本」

「う、うん」

 詩ちゃんと二人で山門をくぐって急行!

 うちのお寺と違て、道を挟んだ家の駐車スペースから煙。屋根が無いので、落ちてきた火の粉が隅に積んだった段ボール箱なんかに燃え移って煙を上げてる。

「早よかせ!」

 おっちゃんは受け取ると、ブシューーーーっと、もたつきながらも消火器で火を消した。

 消し終わって、その家の呼び鈴を鳴らすけど反応がない。家の中に灯りも点いてないから、誰も居てへんみたい。

 しばらくすると、防火服から水を滴らせた消防士さんが二人着て、状況を確認し始める。

 どうやら危ないとこやった。

 

 鎮火の宣言がされて、お寺に戻る。

 

「さくら! 大丈夫やったあ!」

 なんと、頼子さんが駆けつけてくれてた。

 よかったよかったとハグしてくれる。

 持つべきものは先輩や!

 ニャー……と鳴いたダミアの声が震えてるのに気付く。

 ノコノコ出て来たなんてごめんな、ダミアも怖かってんなあ。

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巷説志忠屋繁盛記・21『13人の予約・2』

2020-01-29 08:39:20 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・21
『13人の予約・2』     

 

 

 夕べの客は大変だった。

 

 そう、あの十三人の団体さんだ。

 幹事は湯田という感じのいいおっさん。

 十三と湯田(ユダ)で分かると思うのだが、あれはキリストと十二人の弟子たちだ。

 数年に一回、ユダが予約を入れて志忠屋で飲み明かす。

 欧米人は十三人で飲み食いするのを不吉に思う。滝さんは気を利かして開いている席に人形を置いた。人形を置くことで13の不吉から逃れることが出来るからだ。

「いや、それはいいですよ」

 キリストも弟子たちも微笑みながら人形を断る。これだけは十三人の意見が一致する。

 

 滝さんを入れたら十四人ですから。

 

 湯田さんなどは、滝さんの耳元で小さく、しかしハッキリと礼を言う。

 こいつら、また、俺に仲裁させるつもりやなあ……。

 思っていても、滝さんは口に出さない。

 せっせと料理を作ってはテーブルに並べ、古今東西の酒をふるまってやる。早いとこ酔い潰すのに限るからだ。

 宴たけなわの手前くらいでヨハネが口を開いた。

 ヨハネは弟子たちの中で最年少。いつもは先輩弟子たちの話をニコニコと聞いている気のいい若者で、キリストや兄弟子たちの一挙手一投足を尊敬と憧れの目で見ている。

 ただ、若さゆえに言葉が足りないところがある。だからこそ、宴の席では寡黙でいるのだが、この日は口を滑らせた。

「マグダラのマリアさんは、主を愛していらっしゃいます」

 ここまでにしておけば罪はなかったのだが、一番弟子のペトロが最年少のヨハネに花を持たせてやろうと思った。

「主と交わった人々は皆、主のとりこになる。しかし、それだけでは言葉が寂しい、もう少しマグダラのマリアさんの愛の思いを描写してごらん」

 青年の憧れや思いを寿いでやろうと、キリストも弟子たちも暖かい眼差しをヨハネに向ける。

 麗しい心配り……なんだけど、ちょっと危ういと滝さんは思う。

 ヨハネは続けた。

「マグダラのマリアさんは愛しておられました。だから、ベタニヤのシモンの家で食事をなさっていたとき香油の油を主の頭に垂らしたのです」

「そうだね、マリアは若さゆえに主に接した喜びを表す言葉を持たなかった。だから、歓喜の衝動のままに香油をね……そして、すぐさま、その長く麗しい黒髪で手のお体を拭ったのだよ。ユダなどは目を三角にして起こったけど、主は承知しておられたのだよ、だからこそ、マリアがなすままにされておられた」

「そうです、主もマリアさんを寿ぎ……いえ、主もマリアさんを愛しておられたのです。二無きものと愛しく思われていたのです」

「二無き者とは?」

 ユダが身を乗り出した。

「主よ、マリアさんと付き合ってやってください!」

「付き合っているではないか、マリアはわたしの敬虔な信徒だよ」

「いえ、そういうことではなく。ぜひ、恋人に、嫁にしてあげてください!」

 

 滝さんは、ちょっとヤバいと思って割って入った。

 

 いつものように滝さんの割り込みで事なきを得たが、滝さんは、ちょっと後悔している。

 また牧師から勧誘されそう……。

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ライトノベルセレクト・194『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・3』

2020-01-29 06:21:32 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・194
『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・3』


 家に帰ると、もう由香里が来ていた。

 マネージャーやら放送局のスッタッフなんかを引き連れて、まるで事件現場の取材チームだぞ。
 
「ウワー、薫ねえちゃん、いっそうマニッシュ!」
 
 パシャパシャ! パシャパシャ! パシャパシャパシャパシャ!
 
 由香里が叫ぶと、レポーターがスタッフを引き連れ、由香里といっしょになって俺のことを撮り始めた。
 
「従姉の薫さんですね。いやあ、お話以上ですね。あ、手にしてらっしゃるのは原作の『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』じゃありませんか! そうなんだ、今度の由香里さんの映画の初出演に合わせて、いっそうヤンチャ女子高生って感じで迎えてくださったんですね!」
「薫ねえちゃん、ありがとね。あたしが、こうして、この世界でやっていけるようになったのも、ガキンチョのころからの薫ねえちゃんのスパルタ教育のおかげ」
「ほんと、大したもんですね。録画の時も言ってたんですけど、由香里ちゃんはろくに人の顔も見れない子だったとか!?」
「根は、いいもの持ってた子ですからね。自信さえ持てば、俺、いやボク、いやアタシが世話焼かなくっても、これくらいに……」

 そこで、由香里と目が合ってしまった。

 テレビで観たとはいえ、俺の頭の中の由香里は下ぶくれギョロ目の泣き虫に過ぎなかった。それが目の前で見ると、ビビッとくるような可愛いアイドルに成長している。なんだか胸がときめいてくる。俺って気づかないうちに女捨ててしまったのかなあ、と思ったぐらい。

 一つ疑問があった。

 なんで映画の撮影にH市みたいな地方都市に来るんだ。原作読んでも舞台は大阪と東京の南千住だ。こんなチンケな街のどこを写すんだろうと思ったら、訳が分かった。
 話の中で、二回劇場のシーンが出てくる。大きな街のホールは、この時期スケジュールが一杯で、とてもロケなんかには使えない。
 そこへいくと、このH市は、地元から有力国会議員が出ていることもあって、立派すぎる市民会館がある。それも大中小と三つも揃っている。で、今回、大と中のホールを使って、ロケとあいなったわけである。

「ねえ、薫ねえちゃん。今度の由香里は、可愛いんじゃなくて、いじめっ子なのね。だから、今の薫ねえちゃんみたいなツヨソーな、で、ちょっち斜に構えたような女の子やるわけよ。あとで、コツ教えてくれる」
「え……ああ、いいよ」
 
 十年ぶりぐらいで、二人で風呂に入って話がついた。
 
 祖父ちゃんの趣味で大きめに作った風呂だけど、さすがに二人はきつい……と、感じたけど、昔は平気で入っていた。それだけ、由香里との距離が遠くなってしまったということなのかと寂しく思い、そしてショックだった。
 由香里の裸はイケてた。プロポーションはもちろん肌のきめの細かさ、つややかさ……そういうものはアイドルなんだから当然磨きがかかって当たり前なんだろうけど、そういうもんじゃない……なんて言うんだろ、精神の確かさから来る美しさがあった。俺も元は……ハハ、言い訳になっちゃう。大事なのは今だ。不規則で荒れた毎日おくってるもんだから、肌の荒れなんかが由香里と一緒だと際だってしまう。そして心の荒みさえ体に表れているようで落ち込んでしまう。
 
「薫ねえちゃん、なんか落ち込んでる?」
 
「バーロー、(;'∀') 由香里は、相変わらずネンネだなって思ったんだ。由香里、まだオトコ知らないだろ?」
 なんて質問するんだと思いながら、つい意地悪なことを言ってしまう。我ながら根性が斜めだ。
「だって、AKRは恋愛禁止だもん。あ、薫ねえちゃん経験済み!?」
「え、あ、それは……」
 うろたえる俺を、由香里はシゲシゲと見つめる。それも全然邪気のない無垢な目で……。裸の自分をこんなにハズイと思ったことはない。
「いや、薫ねえちゃんがミサオをささげるんだ。とってもドラマチックでビビットな恋だったんだろうね……」
「バカ、それ以上見ると拝観料とるぞ!」

 風呂から上がると、由香里は、いろんな姿勢を試していた。
「おい、行儀悪いってか、汚ねーよその姿」
「そっか、これなんだ!」
「え、なにが?」
「だよね、伯母ちゃん?」
「うん、薫そっくり」

 そう言われてゾッとしたが、ここで湿気っちゃ俺の値打ちが下がる。それから寝るまでワルの姿を伝授した。

 で、やや複雑な気持ちで二人で寝た。懐かしい由香里の匂いと一緒に昔の自分の思い出が蘇ってくる……。
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・24「なにこれ!?」

2020-01-29 06:07:08 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)24
「なにこれ!?」                   


 
 あれから啓介は調子が悪い。

 喉になんだかからんでくるし、目がシカシカする。
 バルサンが収まるまで部室に閉じ込められていたのだから無理もない。
 窓から逃げることも、ドアをけ破って出ることもできたのだが、ダニ・虱が付いているかもしれない制服のまま廊下に出てしまったのだから文句は言えないと思った。
 グータラではあるが、啓介にはこういう律儀な一面がある。

「……うん、快適になったわね」

 最初は恐る恐るで、読んでいるワンピースもロクに頭に入ってこなかった千歳だったが、30分無事に過ごせたところで、ホッと安堵の息をついた。
「あ、もう大丈夫なの?」
 ソファーで横になっていた須磨もパチッと目を開けた。
「先輩、起きてたはったんですか?」
「さすがのあたしも眠れなかったわ」
「啓介先輩も、大丈夫なんですよね?」
 千歳がジト目で見る。須磨も半眼にした目で見つめている。
「大丈夫やて! そんな人をダニみたいな目ぇで見んとってーや!」
「んーーーーまあ、いいんだけどね。小山内君て、そういうとこあるんだよね。なんだか、いつもノーパソに向かってるじゃない」
「え、ええやないですか、好きなことやってて。うちは、そういうユルーイ部活なんやから」
「そりゃあ、そうですけどね。気になるじゃないですか。あたしはワンピース読んでて、須磨先輩はソファーでお休み。すごく分かりやすいでしょ。ノーパソってのは画面がこっち向いてないと、何やってるから分かりませんからね」
「大したことはやってへんよ。ニコ動とかユーチューブとか、たまにブログ読んだり、ネットサーフィンやねんさかい」
 
 グヮラッ!! 音を立ててドアが開いた!

「な、なんや、キミらは!?」
 部室の入り口には、この部室棟に入っているクラブの部長やらマネージャやらが、モゾモゾしながら立っている。
「演劇部だけでバルサン焚いたやろ!?」

「「「え……!?」」」

「ちょっと、あたしらの部室見に来てくれる!?」
「え、あ、それは……」
「ちょっと、顔かし!!」
「うお、ちょ、ちょっと!」
 
 啓介は、部長たちに拉致られてしまった!
 
「……大丈夫かなあ……啓介せんぱい」
 顔を見交わすと、2人の視界の端にノーパソの画面が入ってきた。
「……ん?」

「「……なにこれ!?」」

 啓介が切り忘れたノーパソの画面を見て、千歳と須磨はブッタマゲてしまった!
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不思議の国のアリス・16『カーネル・サンダースの謎々・2』

2020-01-29 05:59:45 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・16
『カーネル・サンダースの謎々・2』    



 謎々の中味は、ちょっとした短編小説だった。

――江戸時代の終わり頃、大阪の堺で殺人事件が起こった。殺されたのは、堺の唐物商、和泉屋の主人であった。袈裟懸けにバッサリと切られ、店の前に倒れていたのを、店を開けた丁稚に発見された。
 そのころ和泉屋は新撰組から、押し借り(無理矢理借金を申込み、踏み倒す)をせまられていた。京、大坂、堺の商人たちが、この被害に遭い、かなりの損害を被っていた。てっきり下手人は新撰組であろうと、奉行所も手をこまねいた。泣く子と新撰組には勝たれぬご時世で、この事件は不問に付されようとした。今で言えば「お宮入り」である。
 ところが、数日後、奉行所の壁に張り紙がされた。
『下手人は、堺より紀州の内にあり』
 堺より紀州(和歌山)よりということは、堺の南側で、新撰組という線は薄くなる。そこで、奉行所の役人達は、堺から紀州までの間の、主に商人で、和泉屋といさかいのあったものたちを調べ始めた。奉行は、その張り紙をよく見て、奉行所の幹部を集め、問いただした。
「下手人は、その方たちの中におる。吟味(捜査)してもよいが、武士なら潔く申し出よ」
 結果、一人の幹部役人が進み出て、白状した。その役人は、和泉屋が尊皇攘夷派の武士たちに倒幕の資金提供をしていたのに腹を据えかね、犯行に及んだ。
 なぜ、奉行は、奉行所の幹部役人の中に犯人がいることが分かったのか?――

 この答が分かったら、夕べの帝都ホテルの宿泊代はカーネル・サンダースの伯父さんが持つと書かれていた。
 
 これは挑戦しなければ損だ!
 
 梅林の見学もそこそこに、千代子の家に帰って、アリスは頭を絞った。

 アリスは考えた。英語ではなく、わざと漢字交じりのむつかしい日本語で打ってきた。千代子もいっしょに考えてくれたが、千代子にはまるで分からなかった。アリスは文章をヒラガナにしてもらい、むつかしい単語は千代子に聞いた。千代子にも分からないものは、検索してみた。

○ 堺は、当時有力な商業都市であった。

○ 奉行所というのは、今の警察である。

○ 新撰組、幕府が雇った京都や大阪の治安部隊で、傭兵部隊のようなもの。

○ 紀州=和歌山と紀州の間の地図とにらめっこ。

○ 奉行所の幹部は、同心とか与力とかがあった。

 千代子は、三時のお八つどきには降参した。それから三十分ほどして、アリスは叫んだ。
 
「分かった、ウチ分かったでえ!!」

 さっそくアリスは、答を伯父さんに送った。折り返し「ご名答!」のメールが返ってきた。

 さて、読者のみなさんは、お分かりであろうか?

 答は、次号で発表……!
 
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