大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巷説志忠屋繁盛記・17『アイドルタイムはアイドルタイム・3』

2020-01-25 06:37:21 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・17
 『アイドルタイムはアイドルタイム・3』    
 
 
 
 年齢不詳というのはウソだと確信した。
 
 ロケバスから降りてきた中谷芳子似の女優……いや、その清楚な雰囲気はアイドルという方がしっくりくる。その彼女はマスターの姿を認めると、まっすぐにマスターの前にやってきた。
「『夢中屋の四季』で新月夢子をやります上野百合です。急なロケでご迷惑おかけいたしますが、よろしくお願いいたします」
 
 ペコリと下げた百合からはシャンプーの良い香りがして、クラっときた。
 
 もちろん五十年前の中谷芳子とは違うのだが、フレッシュなオーラは芳子と同じものだった。首から上は整形やスキンケアでごまかせるが、耳元や襟足、お辞儀した時にフト見える胸の谷間の佇まいなどは騙せない。十中八九、百合はハイティーンだ。
 日ごろバカにしまくっているが、大橋が御贔屓のアイマスのステージ衣装を着せて『お願いシンデレラ』などを歌わせたら似合うと思った。
 
「百合ちゃん、道具のチェックして!」
「あ、はい……キャ!」
 スタッフの声に振り向きざま、百合はよろけてしまう。
「おっと……」
「あ、すみません!」
 こういう時の反射神経はピカイチで、よろけた百合をきれいに抱きとめる。
 どさくさに紛れて胸などを触ったりはけしてしない。重心のある所ををしっかりホールドして男らしく支えてやる。
「まちがいない……」
 服を通してではあるが、両手に残った感触は百合が16歳~18歳の処女であることを確信させた。
「タキさん、目がヤラシーーー」
「うっさい!」
 トモちゃんの冷やかしを一蹴するとロケの借用料の積算根拠になる売り上げの釣り上げ……計算に没頭するマスターであった。
 
 ドラマは『夢中屋夢レシピ』というタイトルの九十分の単発もの。
 高校生のヒロインが母の不慮の死のあと、家のイタ飯屋を父とともに繁盛させるという物語である。
 
 志忠屋の厨房に女性が入ったことは無い。
 特に女人禁制というわけではないのだが、四半世紀の志忠屋の歴史の中でそうなってしまった。
「でも、先代の奥さんは……」
「あいつは女の内には入れへん」
 なぜかこだわるマスターだが、理由はすぐに分かった。
 店の使用料の交渉をやっているのだ。
「……というわけで、女が入ったことが無い厨房やさかいなあ、ま、つまらんこだわりやけど、知ってもろといた方が……」
「ん? でも、トモちゃん入ってなかったっけ?」
「あれはイカの皮むきだけや。厨房のカナメは鍋や、火の周りはオレとKチーフしか触らへんねんぞ」
「アハハ、信ぴょう性に欠けるなあ、後ろでトモちゃん笑ってるよ」
 
 男子禁制は通らなかったが、使用料はマスターの皮算用よりも二割ほど高くなった。
 
「月に三日もやってくれたら助かるなあ……」
 
 マスターが欲どうしい愚痴を呟いているうちにトモちゃんは気づいた。
 
 上野百合って……あ、あの人だ……だよね?
 
 
 
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・20「ウグ……」

2020-01-25 06:30:17 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)20
「ウグ……」                   


 
 須磨の姿が二回りほど大きく見えた。

 啓介はアクション映画で、こんなシュチュエーションがあったような気がしたが、タイトルは思い出せない。
 その映画では、次の瞬間に部屋に居た者は女が持っていたマシンガンで皆殺しになった。

「部員が5人以上いなければ部活としては認めない……いったい、いつの規約よ!?」

 書記の眼鏡少女が律儀に生徒手帳を繰り始めた。
「……昭和21年に新制高校に移行したときに、生徒会規約第28条第3項として作られました」
「そうね、日本国憲法と同じくらい古いの」
「それがなにか? 古いからダメと言うんじゃ話にならないわ」
「そうね……でも、考えてみてよ。その時代って生徒数は今の倍よ、ざっと1300。今は580あまりしかいないの。1300で5人が存立条件なら、580では3人が順当な水準じゃないかしら。国会議員の定数配置だって見直されているわ、生徒定数を頭に入れないで存立条件を70年にわたって放置してきたのは怠慢じゃないかしら」

「「「「「「「「ウ……」」」」」」」」」

 生徒会役員たちが顧問の松平とともに息をのんだ。
 
「松平先生が支持してらっしゃる政党は、議員定数改善の急先鋒でしょ、足元の生徒会の規約をほったらかしにしているのは本末転倒よ」
「ウグ……」
「以上のことは、学校名を伏せた上でSNSに挙げて置いたわ。演劇部はこのまま部室を使用する。いいわね」
「待って」
 美晴が手を広げ、須磨たちの前に立ちふさがった。
「なによ」
「たとえ理屈がそうであっても、規約は規約。守ってもらうわ」
「リスクを考えなさいよ、追い出されたら黙ってはいないわよ。全校生徒にこのことを訴えかけていくわ、同時にネットを通じて同じような目に遭っている日本中のクラブにも働きかける」
「そ、そこまでしなくても。な、瀬戸内も……」
 松平が割って入った。
「先生!」
「これ以上言うのなら弁護士に入ってもらいます。本気です……伊達に4回目の3年生をやってないわ」
「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」
「じゃ、行こうか小山内君。最後は君が締めてよ、部長なんだからさ」

「えと……今のが演劇部としての申し入れです。えと……きちんと規約が改正されるまでは、現状のまま部室を使います」

 演劇部の3人は、揚々と部室に引き上げて行った。

 
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不思議の国のアリス・12『アリスのミッション・玉砕編』

2020-01-25 06:21:39 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・12
『アリスのミッション・玉砕編』 
   


 
「ちよこのあげかたて、書いてたやん!」
「ちょこのあげかたて、書いたんよ!!」


 日本語のむつかしさを、アリスは改めて実感した。

 アリスは、喋る方ではかなり日本語ができる。かなり古い大阪弁だけど……しかし、書く方はもっぱらヒラガナだった。若干のカタカナや漢字は使えないこともないが、たとえば「ナ」と「メ」、「ツ」と「シ」、「ン」と「ソ」の区別がむつかしい。ヒラガナでも「ね」「れ」がときに混乱し『走れメロス』は『歩ねナロス』と覚えていた。で、字のやりとりは、千代子ともヒラガナだった。

 メモをもらったとき、アリスは千代子の思い詰めた表情で、てっきり、好きなカレに女の子の大事なものを捧げることだと思った(捧げるという感覚は、シカゴのお隣のTANAKAさんのオバアチャンから教わった)。
「まさか、たかがチョコレートのあげ方で、あんな悩み方すると思えへんやんか!」
「本命チョコは、気いつかうんよ!」
「たかが、バレンタインのチョコやろ。そこらへんの安もん買うて、ばらまいたらしまいやん。そんなもんで愛情表現するやなんて信じられへんわ!」

 確かに、アリスに日本語を教えてくれたTANAKAさんのオバアチャンが日本にいたころは、バレンタインチョコの習慣はなかった。アメリカではバレンタインは、ごく軽い習慣で、出来合いのキャンディーなんかをばらまいておしまいである。
 イマイマシイが、プロムの感覚と混同したのもミスであった。アメリカではプロム(卒業式のあとのパーティー)で、友だちから恋人に関係を発展させるカップルも珍しくない。だから、卒業式に近いバレンタインの日に、千代子が悩むことを当然だと思った。ネットでも検索して、日本ではバレンタインの日に、そういうことを願う女の子が多いと確認もしておいた。

 アレ?……と思ったのは、昨日のヒラリ・クリキントンの講演での事件である。バレンタインの日より三日早い。それに、スッタモンダあったとは言え、チョコを東クンにあげて安堵した千代子の顔である。チョコをあげるのは、序章にすぎない。ミッションコンプリートはちゃんとした、しかるべきところのベッドの上で行わなければならない。
 
 で、念のため、家に帰ってから、帝都ホテルのリザーブの件を切り出したのである。

 で、「ちよこ」と「ちょこ」の違いに気づき、論争になりかけたのである。

「ちょっと、あんたら、なにもめてんのよ?」
 千代子ママが介入してきた。
「「ううん、なんでもないよ」」
 声は揃った。
「……これ、いまさらキャンセルしたら、もったいないよって、千代子、ウチと二人で泊まらへん?」
「え……ああ、それええかも。ウチも一回、あんなええとこ泊まりたかってん!」
「お母ちゃん、あさって、アリスと泊まりにいってもええ?」
「ええ、どこにい……」
「それがね……」
 リビングで、母子が話している間に、アリスには電話があった。伯父さんのカーネル・サンダースからであった。
 
――カーネル小林から電話があって、「さざれ石」を見にこないかってさ……うん、明日――

 アリスのミッションは玉砕したが、ヤンキー魂は脈々と生きていた。
「ヤンキー魂」と大阪弁の「ヤンキー騙し」はいっしょだなあと思うと、一人笑みが漏れた……。
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