大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

となりの宇宙人・17『ヘーラーホップ!』

2020-01-02 06:11:46 | 小説4
となりの宇宙人・17
『ヘーラーホップ!』           

 鈴木聖也は、あたし(渡辺愛華)のとなりの家に住んでいる幼馴染(?)の亡命宇宙人。
 秋のある日、駅で暴漢に襲われ、学校では食堂の工事現場の鉄骨に潰されそうになるけど、聖也が時間を止めて救けてくれた。
 犯人は、なんと、これまた幼馴染(?)の吉永紗耶香。紗耶香も宇宙人で、聖也を抹殺するために、あたしを殺そうとした。
 あたしは聖也の命の素になる宇宙エネルギーを、聖也に合うように変換できるから。
 そのために殺されそうになり、救けられもしたんだって……でも、それだけ?


 
 南先生は、中学であたしたちの社会の先生だった。

 だったというのは、この三月で辞めて大学にもどっていったから。
 エジプト考古学が専門で、授業中もよく脱線してミイラの話とかしていた。
 若いくせにオッサンの臭いが濃くて、最初はだれも「この先生はハズレ」と思った。
 だけど授業になると俄然おもしろい。
「立ちションすると、オシッコが地面に着くまでに凍っちゃうのが南極。途中で蒸発するのがエジプト。で、これが凍ったオシッコを型どりしてシリコンで作ったの、こっちが蒸発したオシッコを瓶詰にしたの」
 と氷雪気候と砂漠気候の違いを目に見えるかたちで爆笑とともに教えてくれた。むろん南極でオシッコしても、そんなに早くオシッコは凍らないし、エジプトでそんなに早く蒸発することもない。でも導入というか興味を持たせるのはうまい。

 体育祭では劣勢な白組(運動部の生徒が紅組の半分しかいない)の応援に入り、担当の綱引きを優勝させた。
 日本では綱引きの掛け声は「オーエス!」が定番だけど、南先生に指導された白組は「ヘーラーホップ!」と掛け声をかけた。
「ヘーラホップ!」というのはエジプトの掛け声で、ピラミッドを作ったときも、この掛け声だったというのが南先生の説。
 で、綱引きは「ヘーラーホップ!」の白組が優勝。白組の生徒も観覧席の先生や保護者も古代エジプトを目の当たりに体感。

「おーい、こっちこっち!」

 校門に入ろうとしたら、脇に停まっていたマイクロバスの窓から南先生が手を振っていたのに気づいた。
「ここじゃ駐禁になりませんか?」
「ハハ、中に停めるのは気恥ずかしくってな。きみたちが最後だ、乗った乗った」
 バスに乗ると、車内は盛り上がっていた。ヨッコのこと心配だったけど、紗耶香たちといっしょに笑い転げている。
「なによ、その手に持ってるの?」
 バスの先客組は、手に手に百均のホコリとりのようなものを持っている。
「ほら、これあんたたちの!」
 紗耶香がホコリとりを投げてよこした。聖也はうまくとったけど、あたしのは顔にぶつかってしまった。ドッとみんなが笑う。
「なによ、とりそこなったのが、そんなにおもしろいの?」
「それ、古代ローマの生活必需品!」
 ヨッコが活き活きと叫ぶ。
「生活必需品?」
「これ、ガマの穂ですね」
 聖也はニオイをかいでいる。またみんなが笑う。
「用を足したあと、それで拭くのよさ」
「なんの用?」
 また笑われた。
「用を足すって、トイレに決まってるじゃん!」
「え、うそ!?」
 あわてて放り出したのを、南先生がキャッチ。

「大丈夫、まだ未使用だから」
 
 先生は、そう言ってニコニコとガマの穂を渡し直してくれた……!


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Regenerate(再生)・29≪見つかるサーバー≫

2020-01-02 05:58:09 | 小説・2
Regenerate(再生)・29
≪見つかるサーバー≫ 



「これで五つ目ね……」

 ジョギング中の片方が呟いた。荒川の土手をジョギングするOL二人組のように見える。二人は詩織とドロシーの擬態である。
「うん、これでドット点滅が2000ほど消えたず」
「しかし、携帯の基地局がブランチになってるって、よくわかったわね」
「ドットの中心あたりに基地局があったんで、ピンときたんだす……したども……」
「どうかした?」
「簡単すぎるず」
「そんなことないわよ。携帯の受信にわずかなノイズが入っていて、それがサーバーからの信号だって気づいたのはドロシーだもん」
「ノイズは日本中の基地局から出てるず。似たようなノイズが出てるところは500以上もあるず。大半は、メカの特性からくる自然なノイズだす。それが五つ続けてビンゴなのがねえ……なんか出来すぎ」

 国道〇号線との交差に差し掛かったとき、いきなり加速して突っ込んでくるタンクローリーに気づいた。

「「ヤバイ!」」
 
 ドッガーーーーーーーーーーーーーン!! 
 
 人間として不自然でない程度に身をかわすと、タンクローリーは橋の欄干を突き破って川に落ちてしまった。
「ウンちゃん乗ったままだす!」
 詩織は、ドロシーの言葉を最後まで聞かずに、荒川に飛び込んだ。そして水没した運転席から、若いドライバーを助け出したところでタンクから漏れたガソリンに火が付いた。

 水中を20メートルほど泳いで顔を上げたところで、タンクローリーは爆発した。詩織はドライバーを庇って水に潜り込んだが、髪の毛とスェットの一部を焦がしてしまった。
 警察と救急は、他の通行人がしてくれていた。詩織はドライバーに人工呼吸を施すと、ドロシーといっしょに現場を離れた。

「ファーストキスが、人工呼吸になっちゃった」
「ま、イケメンだったから、ええんでないかい。それより、今のは……」
「ベラスコの攻撃ね」
「やっぱ、ビンゴだべ」

 こうやって、ベラスコの妨害を受けながらも、携帯基地局に感染させられていたウィルスを次々に無効化していった。ウィルスは、ソフトとして感染させられていたが、外から侵入して退治できるようにはできておらず、いちいち基地局に行き、そのたびにベラスコの妨害を排除。八割がた片付けたところで、教授が言った。

「これは、壮大なダミーかもしれない……」
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乃木坂学院高校演劇部物語・84『稽古は暗礁に乗り上げていた』

2020-01-02 05:48:29 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・84   
『稽古は暗礁に乗り上げていた』    


 
「……さん」

 わたしたちには語尾しか聞こえなかったけど、マリ先生には全部聞こえたようだ。
「だれ……関根さんて?」
「あ……それは」
 マリ先生に聞かれてとぼけるのはむつかしい。潤香先輩も例外じゃない。
「……姉の元カレです。夢の中に出てきた人が……顔は見えないけど、そんな感じだったんです。わたしにも実の妹のように接してくださって……姉には内緒にしておいてください。姉には、大きなトラウマなんです」
「分かったわ……そういうことだったんだ」
「え……」
 潤香先輩をシカトして、先生は命じた。
「いまのことは口外無用。潤香も含めて……いいわね」
「はい……」
 四人が声をそろえて返事をした。


 稽古は暗礁に乗り上げていた。
 最初の口上もそうだけど、歌舞伎や狂言的な表現には苦労ばっか。
 無対象の演技も、縄跳びなんかのレベルじゃない。見えないちゃぶ台に見えない食器、それも見えないお盆に載せて運ばなきゃならない。
 バケツに水を入れるのも一苦労。空と水が入ってるんじゃ重さが違う。
 ちゃぶ台を拭くのも、また一苦労。雑巾を水平に拭くのってムズイ!
 お茶を飲んだら、里沙と夏鈴はともかく乃木坂さんにまで笑われちゃった。
――それじゃ、お茶を被っちゃうよ。
「だって、ムツカシイんだもん!」
「まどか、誰に言ってんのよ?」
「え、あ……自分に言ってんの。自分に」
「ヒスおこしたって、前に進まないよ」
 そりゃあ、幽霊役の夏鈴はお気楽でいい。壁でもなんでも素通りだし、幽霊のノブちゃんだけ無対象の演技が無いんだから。
 で、稽古場の奥じゃ本物の幽霊さんがお腹抱えて笑ってるしい~(プンプン!)

 乃木坂さんは、ときどき上手に見本を見せてくれる。無対象でお茶を飲んだり、お婆さんの歩き方を見せてくれたり。
 でも稽古中にそっちを見ていると、こうなっちゃう。
「モーーー、どこ見てんのよ!?」
「いや、その……考えてんのよ。で、遠くを見てるような顔になんの!」

 乃木坂さんは、メモも残してくれる。
 ありがたいんだけど、古いのよね……「体」は「體」だし「すること」は「す可」だし、まるで古文。むろん理沙や夏鈴に見せるわけにはいかないし。
 はるかちゃんにも聞いてみた。説明はしてくれるんだけど、やっぱ、チャットじゃ限界。
 いっそ、乃木坂さんが理沙や夏鈴にも見えたらなって思ってしまう。
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