大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・112『今日から三学期』

2020-01-08 13:01:38 | ノベル

せやさかい・112

『今日から三学期』 

 

 

 今日から三学期。

 

 昨日からの雨が残ったらいややなあと思た。

 思たからと言って、てるてる坊主をぶら下げるほど学校に情熱は無い。

―― 始業式が始まるころには晴れ間も見えてくることでしょう ――

 テレビのアナウンサーが、なんでかあたしの心情を知ってるみたいにコメントする。

 そうか、うちの安泰中学だけとちごて、今日は日本中の学校で始業式。

 そない思たら、新学期鬱もちょっとは晴れてくる。我ながら気分転換の名人……かも知れへん。

 

 詩(コトハ)ちゃんの制服姿も二週間ぶりに見る朝食のテーブル。

 

 わが従姉ながら、昔からベッピンさんやと思てたけど、いっそう磨きがかかってる。

 食卓に着く瞬間。さらりとお尻に手をやってスカートのヒダをさばく。反動で、胸と首がこころなし突き出される。で、たまに「ン……」と声を漏らす。かっこ良うて、ちょっとだけ色っぽうて、あたしの好きな詩ちゃんの一瞬。

「あら、さくらちゃんも制服板に付いてきたわね」

 詩ちゃんのお返し。

「あら、ほんとだ。四月は、ちょっと大きいかと思ったけど、なんだかピッタリ。成長してんのねえ」

 おばちゃんまでも……ちょっと照れる。

「さくらも、四カ月足らずで十四歳やねんなあ」

 テイ兄ちゃんまでノッテくると、もうかないません。

「さくらは成長が早いのんかもしれへんなあ、制服小さなったら言いや。なんぼでも新調したるさかいなあ」

 伯父さんは自分の娘同様に喜んでくれて、もう、なんや鼻の奥がツンとしてくる。

「ミス女子中学生コンテストあったら、申し込んどいてくれてええよ(^▽^)/」

 一発かまして笑いをとっとく。せやないと、顔が真っ赤になってしまうさかい。

 詩ちゃんと同じ制服、頼子さんが着てるとこを早よ見たいなあとも思った。

 

 学校に着くと、クラスのみんなとアケオメ。

 

 お祖父ちゃんなんかは「アケオメ」を嫌がる。

 新年の挨拶は「明けましておめでとうございますや」と言う、約(つづ)めた「アケオメ」はぞんざいに聞こえるんや。

 けども「あけましておめでとうございます」は、立ち止まらんと言えへん。大人は、さらに「旧年中はお世話になりまして、今年もなにとぞよろしくお願いいたします」てな具合に長くなる。そんな挨拶を付き合いの薄いクラスメートとはしてられへん。通りすがりとか追い越しざまとかに短く「アケオメ!」とかまし合うのが今の中学生。

 田中がいらんことを言いよる。

「アケオメ言う女子はアケオメコ!」

 同じことをアケオメ挨拶する女子に言いまくりよる。

 これを留美ちゃんにかました時、瀬田が田中の頭を張り倒しよった。

「え? え? なんで?」

 留美ちゃんは意味が分からん様子。

 ええねんええねん、留美ちゃんは大阪の俗語なんか知らんでよろしい。

 

 始業式でびっくりした。

 

 校長先生が、うちら一年一組の担任代行として学年主任の春日先生を紹介した。

 みんなの反応は薄かった。中には小さく喜んでる子ぉもおる。

 気ぃのまわらん先生やったさかいに。

 校長先生はボカシてたけど、お母さんの介護でニッチモサッチモいかへんようになったんや。

 阿倍野で偶然妹さんとモメテたん見てしもてたからね。

 

 それぞれの新学期が始まった。

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・3・で、わたしは……

2020-01-08 07:10:19 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部) 3
で、わたしは……                    


 
 生徒会副会長瀬戸内美晴は、軽く姿勢を崩すと胸元で腕を組むとブレザーに隠れた豊かな胸が強調され、ルパン三世の峰不二子のような押し出しになった。
 
「分かってると思うけど、クラブとして認定されるためには5人以上の部員が必要なの。5人に満たない場合は同好会に格下げ。同好会は正規の予算も執行されないし、部室を持つこともできない。生徒手帳にも書いてあるわよ」
「あ、でもさ、5人以下のクラブって他にもあるやんか。部室も持ってるし」
「そうよね、だからそういうクラブ全部に申し渡してるの。演劇部が最後」
「で、でもさ、すぐに出ていけ言うのんは、ちょっと横暴なんとちゃうかなあ」
 啓介は負けずと腕を組んでみたが、うっかり左腕を上にしてしまったので調子が狂う。啓介は、いつもなら右腕を上にしている。
「そんな対立的に受け取らないでよ。掛けていいかしら?」
「あ、ああ、どうぞ」
 啓介は、机の向こうの椅子を示した。
「どうも」
 美晴は椅子に手を掛けると、ガラガラと押して、啓介の目の前にやってきて足を組んで座った。
「あ、えと……」
「演劇部は、もう4年も5人を割っているの。それを今まで見逃してきたんだから、寛容だとは思わない?」
「え、あ……オレが聞いたのは初めてやから」
「去年の春にも申し入れてある『部員を5人以上にしてください』って。それで知らないって言うのは、そちらの問題じゃないかしら」
「いや、でも……」
「ほら、これが申し入れをしたって記録。先代部長の中沢さんに伝えてある」
 美晴はタブレットの記録を見せた。
「中沢さんて、去年の5月に転校していったから」
「そうね、5月31日。申し入れは4月の20日だったから、十分申し次はできると思うんだけど」
「え、記録残してんのん?」
「あたりまえでしょ。ねえ、空堀高校って伝統校だから、形骸化したものが沢山残ってるの。そういうものを整理して、ほんとうに伸ばさなきゃならないところに力を入れるべきだと思うのよ。学校の施設も予算も限りがあるんだから……でしょ?」
 美晴は微笑みながら啓介の目を見つめた。チラリと八重歯が覗く。
「……フフ、いまわたしのこと可愛いって思ったでしょ」
「え、いや……はい」
 こういうところ、啓介にも美晴にも共通の愛嬌がある。
「うん、可愛い顔したもんね。というのは、まだ余裕があるから」
「余裕?」
「連休明けまで待つわ。生徒会としても伝統ある演劇部を同好会にはしたくないの。がんばってね。言っとくけど幽霊部員はだめだからね。兼部していても構わないから、日常的に活動する部員を集めてね。部室の明け渡しとかは、その結果を見てということで……」
「あ、ああ」
「じゃ、わたしはこれで」
 美晴はロングの髪をなびかせて立ち上がり、形よく歩いてドアに手を掛けた。
「あの……もし集められなかったら?」
「部室明け渡し。で、わたしは……こういう顔になるの」

 振り返った美晴は八重歯が二本剥き出しになり、夜叉のような顔になっていた……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・90『二直目の不寝番』

2020-01-08 06:49:07 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・90   
『二直目の不寝番』          


 

 日夕点呼(ニッセキテンコと読みます。ムズ!)

 わたし達の部屋はたった三人なんで、見りゃすぐに分かるんだけど、そこは自衛隊。

 部屋の真ん中に、三人ならんで名前を呼ばれる。
「仲まどか隊員!」
「はい!」
 てな感じです。夏鈴が、声がナヨってしてるんで叱られる
「声が小さい、もう一度。南夏鈴隊員!」
「は……はい!」
 夏鈴は叱られたことよりも(夏鈴は学校でも叱られ慣れています)叱る大空さんの変貌ぶりに驚いてる。やっぱ本職、勤務と休憩時間じゃ百八十度切り替えている。
――昔なら、ビンタがとんでくるとこだよ。
 乃木坂さんが、面白そうに笑っている。隣りの部屋で、忠クンが同じように叱られてる。
 忠クンは、思いと現実のギャップに若干ショックを受けているみたい。
 それから、明日の朝のためにベッドメイキングを習った。ベッドの四隅を三角に折り込まなきゃならなかったり、案外ムズイ。でも説明は一回ぽっきり。
 日夕点呼から、就寝までの十五分のうち、十分近くがここまでかかった。
 就寝までの、数分間の間に西田さんがベッドメイキングのチェックをしてくれた。ほんの何ミリかの折り込みの違いを修正。
「明日の朝もチェックするが、しっかり覚えておくように」
 西田さんは、そう一言残して行っちゃった。男が、女性の部屋に入るのは禁止なんだそうです、はい。


 ここからは、乃木坂さんが夢の中でしてくれたお話……です。

 不寝番の二直目に当たった西田さんは、忠クンといっしょに一直目の企業グル-プさんから、不寝番四点セット(懐中電灯、警棒、警笛、腕章)を引き継ぎ、午前零時から二時までの立ち番。忠クンは、不安と寒さから喋りたげだったけど、西田さんは一喝した。
「不寝番は沈黙!」
 庇のあるところだったので、雪だるまになることはなかったけど、体は芯まで冷えて、忠クンは歯の根も合わないくらい震え、昼間の疲れもあり居眠りし始めた。
――バシッ!
 西田さんの平手打ちがとんだ。
「居眠りしたら凍えて死んでしまうぞ……!」
……それから二十分ほどして、西田さんは気配を感じ、懐中電灯で宿舎の入り口あたりを照らした。
「どうかしましたか……?」
「今、気配がした……」
 しかし、雪の上には、足跡一つない。
「気のせいか……」
 次の瞬間、障害走路場に続く道で、はっきり気配がした。十数名の声が切れ切れに聞こえてくる。
――オッチ、ニ、オッチ、ニ、ソ-レ……。
「おまえはここにいろ」
 忠クンにそう命ずると、西田さんは声の方向に駆け出した。
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