魔法少女マヂカ・119
わたしとブリンダは、それぞれ個別に三軒のメイド喫茶とメイドカフェを巡ったあとでツマゴメに戻された。
最初の二軒は、メイドではなく厨房と営繕の仕事をやらされた。エアコンや店内の照明の修理。ツマゴメの母体が妻籠電気なので、そういう仕事も引き受けているわけだ。
「いや、ちがうぞ」
ブリンダが囁いた。
「オレがメイド服を着るとな、この美貌が邪魔をして、他のメイドたちがイモに見えてしまうんで、わざと裏の仕事を回したらしい」
「そうなのか?」
「ああ、我々が引き取ったあとの、メイドたちのモチベーションを考えると怖くて使えないのだろう」
「一度くらいはメイドをしてみたいなあ」
「そうだな」
それで周って来たのが忍者メイドの仕事だ。
なんせ、四百年前は本物の忍者に混じって安土や大坂の街々や美濃や近江の山野を駆け巡っていた。オーダーされた食べ物飲み物を一瞬でテーブルに現出させたり、天井にぶら下がってオーダーを取ったり、手裏剣を投げて伝票をテーブルに打ち付けたりして、決め台詞の「ニンニン」も胴に行ったものだと自画自賛。
そして四日目にツマゴメに戻ったのだが、ここのメイドたちは群を抜いていた。
「お帰りなさいませご主人様~」
この一言こそはオーソドックスなのだが、そのあとの「ご希望によってシュチュエーションを選べます。ご主人様、あなた、お兄ちゃん、にいに、先生、先輩、キミ、殿、御屋形様、殿下、陛下、他にもご希望次第でさまざまに。そして、それぞれに、ノーマル、ツンデレ、ヤンデレ、ショタコン、NTR、など様々なバージョンをご用意しております。でも、お勧めはおニャンコなのニャ(^▽^)/」というぐあい。
そして、それぞれのバージョンや設定が、みな堂に入っていて、わたしとブリンダの洗練されたメイドのスキルでは、かえって浮いてしまう。忍者メイドなどは全くの際物で、あえて「普通のメイドもやっております(/ω\)」と言わなくてはならないほどだった」
むろん、その中心にいるのがミケニャンとバジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡の両雄だ。
「ミケニャン、あの壁に掛けられているメイド服はなんなの?」
それは、甘ロリのメイド服。単なるディスプレーと思っていたのだが、他のメイドたちや、常連と思われるお客たちの視線が違うのだ。もし、この店内の人間が全員カトリックだとしたら、まるでバチカンに保管されていると言われる聖骸布見るような畏敬の光が感じられるのだ。
「ああ、あれはニャ……このアキバでセントメイドとして崇敬されている初代バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世(⋈◍>◡<◍)。✧♡の聖遺物なのニャ」
「三世というのは伊達じゃなくて、一世、二世がいたのか!?」
感動していると、店内にパイプオルガンの音が響いた。
「なんだ、これは?」
歴戦の魔法少女のブリンダも思わず耳をそばだてる荘厳な空気が店内に漲り、お客もメイドたちも、それぞれの場所で額づくのであった。
「信徒のみなさん、今日も聖バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世(⋈◍>◡<◍)。✧♡のご遺徳をしのぶ祈りの時間がやってきました……」
バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡がローマ教皇のように朗々と祝福と祈りを捧げ始めた。
祈りは、ほんの二分ほどで終わり、店内はそれまでの空気を取り戻した。
「それで、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世(⋈◍>◡<◍)。✧♡というのはどんな人だったの?」
ミケニャンに聞くと、予想もしない答えが返ってきた。
「十年も前にメイドの神と言われた、その人の名は……安倍晴美さんと言うのニャ」
すぐにはピンとこなかった。
「ほれ、あんたたちにバイトを斡旋した安倍晴美先生なのニャ!」
ええ!?
天地がひっくり返った!