大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:164『瀕死のトール元帥』

2020-12-31 13:02:57 | 小説5

かの世界この世界:164

『瀕死のトール元帥』語り手:テル    

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 少年巨人族のアドバイスで野営のテントを張り終えたとき、森の中央あたりでとんでもない音がした。

「え、なに?」

 ペグを打つ手が止まって、目を向けた時にはヒルデも少年巨人族も駆け出している。

「テル、行くよ!」

「うん!」

「わたし」

「ユーリアと少年は残れ!」

 ペグもハンマーも放り出し、テルと並んでカテンの森を奥に向かって掛け進む。

 ヒルデたちの姿は見えなくなっているけど、森の真ん中と思われるあたりから煙が立ち上っているので、それを目当てに奥を目指す。

 奥に近づくにしたがって、鉄と油と肉の焼ける臭いが濃くなって、すこし息苦しく、目もシカシカしてくる。

 うわあ…………(;'∀')

 言葉にならなかった。

 小学校の校庭ほどに木々がなぎ倒され、その木々を押しつぶしたり下敷きになったりして数十両の戦車が擱座している。煙や炎を噴き出しているもの、これでも戦車かと目を疑うようなひしゃげ方をしたものばかりで、まともなものは一両もないありさまだ。

 そして、その戦車のことごとくがトール元帥の部隊の所属を示すミョルニルハンマーのマークがついている。火や煙を噴いている車両からは肉の焼ける臭いがして、戦車の周囲には半ば焦げた戦車兵たちの骸が転がっている。

「あ、あそこに!」

 タングリスの声がして、わたしとテルも、そこを目指した。

 砲塔が吹き飛んだ五号戦車の横にトール元帥が横たわっている。

「元帥、しっかりしてください!」

 タングリスが駆け寄ってトール元帥を抱き起す。ヒルデは比較的無事な車両からAEDを取り出して、元帥の軍服の胸をはだけようとする。

「姫、そのようなものでは、もう間に合いません……」

「元帥!」

「わたしの手にも負えないところまで来ております、なんとかカテンの森まで撤退してきましたが……ここまでです……姫たちはお逃げなさい……別の次元に……異世界に……」

「じい、死ぬな!」

「間もなく、敵の追手が……」

「元帥!」

 ちょっと違和感……トール元帥が普通の人間の大きさになってしまっているのだ。

 そうか、デミゴッドの呪いめいたものが元帥にまで影響しているんだ。

 若返って消えてしまわないのは、トール元帥の神性によるものなのかもしれない。

「元帥、タングニョーストは?」

「激戦の中で行方がしれん……おそらくは、わしの退路を確保するために……」

「元帥、アルティメイトリカバリーを」

「タングリス!」

 ヒルデが目をむき、元帥が息をのんだ。

「このために、自分は存在しているのです」

 そう言うと、タングリスは軍服を脱ぎ始めた。

「タン……グリ……」

 数秒で美しい裸身を晒したタングリスはトール元帥の上に覆いかぶさっていく。

「お、おまえらは見るな!」

 わたしたちの存在に気付いたヒルデが小さな体を張って隠そうとする。

「あ、あわわわ……」

「すまない!」

 ショックを受けているケイトを引きずって焦げた木の陰に隠れる。

 

 ア! アッ! アア……アアアア……!

 

 苦痛とも喜悦ともとれるタングリスの声が森の中に木霊する。

 この声を聞いてはいけない! 聞かせてはいけない!

 テルの頭を抱えるようにして木陰に蹲った。

 

 

☆ ステータス

  •  HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
  •  持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
  •  装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
  •  技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
  •  白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
  •  オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・16『グノーシス・片鱗』

2020-12-31 06:13:25 | 小説3

たらしいのにはがある・16
『グノーシス・片鱗』
          

 

 


 大きな破片が目の前に迫ってきた!

 まともに食らったら死んじまう!

 思わず目をつぶる……直後に来るはずの衝撃やら痛みが来ない。
 薄目を開けると、破片が目の前二十センチほどのところで止まっている。
 ショックのあまりか、体を動かせず目だけを動かす。

 ……時間が止まっている。

 様々な破片が空中で静止し、逃げかけの生徒が、そのままの姿でフリ-ズしている。
 加藤先輩は、一年の真希という子の襟首を掴んで、中庭の石碑の陰に隠れようとしている。ドラムの謙三は、意外な早さで、向こうの校舎の柱に半身を隠す寸前。祐介は、途中で転んだ優奈を庇った背中に、プロペラの折れたのが巨大なナイフのように突き立つ寸前。まるで『ダイハード』の映画のポスターを3Dで見ているようだ。

 目の前の破片がゆっくりと横に移動した……破片は、黒い手袋に持たれ、俺の三十センチほど横で静止した。当然手だけが空中にあるわけではなく、手の先には腕と、当然なごとく体が付いていた。

 黒いジャケットと手袋という以外は、普通のオジサンだ。なんとなくジョニーデップに似ている。
「すまん、迷惑をかけたな」
 ジョニーデップが口をきいた。
「こ……これは?」
「ボクはハンスだ。ややこしい説明は、いずれさせてもらうことになるが、とりあえず、お詫びするよ」
「これ……あんたが、やったのか!?」
「いや、直接やったのはぼくじゃない。ただ仲間がやったことなんで、お詫びするんだよ……もう正体は分かってるぞ、ビシリ三姉妹!」

「……だって」
「……やっぱ」
「……ハンス」

 柱の陰から三人の女生徒が現れた。さっき俺がお尻に目を奪われ、優奈にポコンとされた三人だ。
「まだ評議会の結論も出ていないんだ。フライングはしないでもらいたいね」
「まどろっこしいのよ、危険なものは芽のうちに摘んでしまわなくっちゃ!」
 真ん中のカチューシャが叫んだ。
「あの勇ましいのがミー、右がミル、左がミデット。三人合わせてビシリ三姉妹」
「美尻……?」
「ハハ、いいところに目を付けたね。あの三姉妹は変装の名人だが、こだわりがあって、プロポーションはいつもいっしょだ。スーパー温泉、電車の中、そしてこの女生徒。みんな、この三人組だよ」
「おまえらがやったのか、こんなことを!?」
「まあ、熱くならないでくれるかい。あと四十分ほどは時間は止まったままだ。その間にキミにやったように、ここの全員の危険を取り除く。太一クン、キミはその間に妹のメンテナンスをしよう。今度はレベル8のダメージだろう。ほとんど自分で体を動かすこともできない。保健室が空いている。ほら、これで」
 ハンスは、小さなジュラルミンのトランクのようなものをくれた。
「要領は知っているな、急げ。ここは、わたしとビシリ三姉妹で片づける。さあ、ビシリ、おまえらのフライングだ。始末をつけてもらおうか!!」
「「「はい!」」」
 美尻……いや、ビシリ三姉妹がビクッとした。

「メンテナンス」

 そう耳元でささやくと、幸子の目から光がなくなった。だけどハンスが言ったようにダメージがひどく、幸子は自分で体が動かせない。しかたなく、持ち上げた。思いの外重い。思うように持ち上がらない。
「幸子の体重が重いんじゃない。死体同然だから、重心をあずけられないんだ。こうすればいい……」
 ハンスは、幸子を背負わせてくれた。
「せっかくなら、運んでくれれば」
「血縁者以外の者が触れると、それだけでダメージになるんだ。すまんが自分でやってくれ」

 保健室のベッドに寝かせ、それからが困った。前のように、幸子は自分で服を脱ぐことができない……。

「ごめん、幸子」
 そう言ってから幸子を裸にした。背中の傷がひどく、肉が裂けて金属の肋骨や背骨が露出していた。
「こんなの直せんのかよ……」
 習ったとおり、ボンベのガスをスプレーしてやった。すると筋肉組織が動き出し、少しずつ傷口が閉じ始めた。脇の下が赤くなっていた。さっきハンスが背負わせてくれたとき触れた部分だ。そこを含め全身にスプレーした。やっぱ、他人が触れてはいけないのは事実のようだ。
「ウォッシング インサイド」
 幸子の体の中で、液体の環流音はしたが、足が開かない。すごく抵抗(俺の心の!)はあったが、膝を立てさせ、足を開いてやり、ドレーンを入れてやった。
「ディスチャージ」
 幸子の体からは、真っ黒になった洗浄液が出てきた。
「オーバー」

 幸子の目に光が戻ってきた。

「早く服を着ろよ」
「ダメージ大きいから、まだ五分は体……動かせない」
 仕方がないので、下着だけはつけさせたが、やはり抵抗がある。
「……オレ、保健室の前で待ってるから」

 五分すると、ゴソゴソ音がして、幸子が出てきた。なぜか、ボロボロになった制服はきれいになっていた。
「服は、自分で直した。中庭にもどろ」
 憎たらしい笑顔……どうも、これには慣れない。

「あなたたち、グノーシスね」

 中庭での作業を終えたハンスとビシリ三姉妹に、幸子が声をかけた。
「……ぼくたちの記憶は消去してあるはずだが」
「わたし、メタモロフォースし始めている。グノーシスのことも思い出しつつある」
「悪い兆候ね……」
 ビシリのミーが言った。
「どうメタモロフォースしていくかだ。結論は評議会が出す。くれぐれも勝手なことはしないでくれよビシリ三姉妹」
「評議会が、ちゃんと機能してくれればね」
「とりあえず、ぼくたちはフケるよ。二人は、あそこに居るといい」
 ハンスは、視聴覚教室の窓の真下を指した。
「あんな、危ないとこに?」
「行こう、あそこが安全なのは確かだから」
 幸子が言うので、その通りにした。
「もっと、体を丸めて。この真上を破片が飛んでくるから」
 幸子に頭を押さえつけられた。その勢いが強いので、尻餅をついた。
「では、三秒で時間が動く。じゃあね……」
 そういうと、ハンスとビシリ三姉妹が消え、三秒後……。

 グワッシャーン!!!!!!!

 バグっていたアクション映画が、急に再生に戻ったような衝撃がやってきた……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち   ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス

 

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やくもあやかし物語・45『虹色のヘアピン』

2020-12-31 05:52:22 | ライトノベルセレクト

物語・45

『虹色のヘアピン』      

 

 

 ペットショップが火事になるなんてめったにあることじゃない。

 

 でも、じっさい火事はおこってしまって、わたしのところに来るはずだった子ネコは焼け死んでしまった。

 だから、お父さんはアノマロカリスのお腹に入れたままになっていた手紙の事を言わなかったんだ。わたしは、アノマロカリスのお腹に俺妹女子キャラの縫いぐるみがあることさえ気づかない鈍感だ。鈍感はいいことじゃない。でも、鈍感だったから子ネコが焼け死んだことを知らずに済んだ。知ってしまったら、今よりもずっとナイーブだったわたしは耐えられなかっただろう。

 お父さんも忘れっぽかったんじゃない。

 知ってしまえば、わたしが傷つくことを分かって、あえてほっぽらかしにしたんだ。やさしい心遣いをしていたんだよね。

 でも、それだけ優しい心遣いができるのにさ、どうして離婚することになったんだろう……。

 いけないいけない、そのことを考えられるほど大人にはなっていないよ。

 

 ここで思考を停止して帰りの電車に乗る。

 

 なんだか簡単に見えるけど、そうじゃない。

 ペットショップの跡地の前で十分以上も呆然としていたし、それからもまっすぐ帰らずに街をうろついた。ウインドショッピングしてファンシーショップで少し買い物をした。女の気分転換にはショッピングが一番。以前は軽蔑したお母さんのモットーが正しいことを認識した。正しいと言っても中学生だから大人買いはできない、お小遣いと相談の上TPOを考えなければならないんだけどね。とりあえず、今日はいいんだ。

 電車に乗って気が付いた。

 いちばん可哀そうなのは焼け死んだ子ネコだ。

 かってもらえると(買うと飼うを兼ねてる)分かって、どんな家にかわれるんだろう? まさか、あのおじさんじゃないよね。しげちゃん(お店のスタッフ、とってもわたしらに愛情をもってくれている)との話でも「うちの娘が……」とか言ってたし、どんな娘さんなんだろ? 猫っ可愛がりしてくれるといいなあ♡ とか思ってたんだろうなあ。それが、あんな火事に遭ってしまって、あたし、まだ名前も付けてもらってなかったんだよ、名無しのニャンコ……生後三十日の命だったんだよ……。

 そんなこと思ってると、とても悲しくなって涙が止まらなくなった。

 オイオイ泣くもんだから他の乗客さんたちが変な目で見てる。前の座席のオバサンなんか――どうしたの?――という顔になってる。声を掛けられたら面倒だし恥ずかしいし……三つ目の駅で降りてしまった。

 駅のベンチに座っても涙が止まらない。

 三歳くらいの女の子が、しゃがみ込んで、わたしの顔を見ている。

 気配が無かったので正直びっくり。反射的に立ち上がってホームの階段を目指す。

「おねーちゃーん」

 あの子が呼んでる。

 みっともないので改札を出てしまう。ファンシーショップの袋が破れていて買ったばかりのアクセを一個落としてしまった。

 虹色のハートが付いたヘアピン。お気にだったけど仕方ない、いまさらもどれないよ。

 仕方ない、一駅歩いて電車に乗りなおそう。

 とぼとぼ歩くと背中をツンツンされた。

「落っことしたです、おねえちゃん」

 さっきの女の子が小袋をフリフリ捧げ持っている。

「え、あ、いいわよ。やさしく気遣ってくれたからお礼にあげる」

「あ、でも……」

「いいわよ、取っておいて」

「そう……ありがとうおねえちゃん!」

 もらうことに決心すると、小袋からヘアピンを取り出した。

「うわーー、とってもキレイ!」

「よし、髪につけたげよう」

 つけてやると、ピョンピョン跳ねて喜んでくれる。思わず写メを取る。

「あたし、えりか。おねえちゃんは?」

「やくも」

「やくもおねえちゃん。うん、いい名前だ。じゃ、まったね~」

 ピョンピョンとスキップして行ってしまった。

 ケリがついたんだから目の前の駅に戻ってもよかったんだけど、次の駅まで歩くわたしだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け
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