大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・11『憎たらしさの秘密・2』

2020-12-26 06:40:30 | 小説3

たらしいのにはがある・11
『憎たらしさの秘密・2』
          

 

 

 
「幸子、裸になって」
「……はい」
 
 無機質な返事をすると、幸子は着ているものをゆっくり脱ぎ始た……。

 妹とはいえ、年頃の女の子の裸なんて見たことない。
 でも、不思議と冷静に見ていることができる。幸子の無機質な表情のせいかもしれない、これから顕わにされる秘密へのおののきだったかもしれない。

 幸子はきれいなな体をしていた。その分、左の腕と脚の傷が痛々しい。
 お母さんは、小さな殺虫剤ぐらいのスプレーを幸子の体にまんべんなく吹き付けた。
「幸子は、心身共に未熟なの。だから、肌もこうやってケアするのよ」
 ラベンダーの香りがした。幸子が風呂上がりにさせていた香りだ……驚いたことに、傷がみるみるうちに消えていく。
「メンテナンス」
 お母さんが、そう言うと、幸子はベッドで仰向けになった。
「ウォッシング インサイド」
 幸子の体から、なにか液体が循環するような音がしばらく続いた。電子音のサインがして、指示が続く。
「スタンバイ ディスチャージ」
 幸子は両膝を立てると、静かに開いた。M字開脚! 
 さすがにドキリとして目を背ける。
「見ておくんだ。緊急の時は、お前がやらなきゃならないんだからな」
「ドレーンを」
「うん」
 まるで手術のような手際だった。
「ここにドレーンを入れるの。普段なら、こんなもの使わずに、本人がトイレで済ませるわ。太一、あんたに知っておいてもらいたいから、こうしてるの」
「う、うん」
 お父さんがドレーンの先を、ペットボトルに繋いだ。
「ディスチャージ」
 ドレーンを通って、紫色の液体が流れ出し、ペットボトルに溜まっていく。
「レベル7だな」
「そうね、まだ未熟だから、ダメージが大きかったのね。さらにダメージが大きいと、この洗浄液が真っ黒になるのよ。ダメージレベルが6までなら、オートでメンテする、太一覚えた?」
「あ、うん」
「復唱してみて」
 ボクは、今までの手順をくり返して言った。
「オーケー。幸子メンテナンスオーバー」
 幸子は、服を着てベッドに腰掛けると目に光が戻ってきた。
「これで、いざって時は、お兄ちゃんたよりだからね。よ・ろ・し・く」

 あいかわらずの憎たらしさ。

「……じゃあ、幸子は五年生の時に一度死んだっていうこと?」
「ザックリ言えばね。脳の組織も95%ダメになったわ……」
「お父さんも、お母さんも、ほとんど諦めた……」
「でも、大学病院の偉い先生が、一人の学者を紹介してくれたの……時間はかかるけど、幸子は治るって言われて……」
「藁にもすがる思いでお願いしたら、幸子の体は別の手術室……いや……」
「実験室……みたいなところ」
「そこで……?」
「幸子そっくりの人形……義体が置かれていた……で、幸子の生きている一部の脳細胞を義体に移植した」
「分かり易く言えば、サイボーグね……」
「でも……あの体は、小学生……じゃないよ……」
「あれは三体目の義体だ……あれで、義体交換はおしまいだ……そうだ」
「ずっと、十五歳のまま……?」
「いや……人口骨格は5%の伸びしろが……ごちそうさま」
「人工の皮膚や筋肉は、年相応に変化……させられる……そうよ。ごちそうさま」
 俺たちは夕食をとりながら、この話をしていた。幸子は安静にしている。

「問題は……心だ……」

 お父さんが、爪楊枝を使いながら言った。
「太一……あなたには、幸子、冷たいでしょ」
 お袋が、お茶を淹れながら聞いた。
「冷たいなんてもんじゃない、憎ったらしいよ!」
「すまん、太一ひとり蚊帳の外に置いてしまったなあ」
「どんなふうに憎ったらしかった?」
「え、えと……」
 俺は唾とお新香のかけらと共に、一カ月溜まった思いを吐き出した。
「あれが、今の幸子の生の感情なんだ」
 親父は顔にかかった唾とお新香のかけらをを拭きながら続けた。
「人前や、わたしたちに対するものは、プログラムされた反応に過ぎないの」
 と、テーブルを拭きながら、お袋。
「いま、幸子は劇的に変化というか成長しはじめている。過剰適応と思われるぐらいだ。幸子の神経細胞とCPを遮断すれば、普通の十五歳の女の子のように反応はするが、それでは、幸子の成長を永遠に止めてしまうことになる」
「お母さんもお父さんも、幸子のようなお人形は欲しくない。たとえぎこちなくとも、いつか、当たり前の幸子に戻ってくれるように、太一に対してだけは生の感覚でいてくれるようにしているの」
「だから太一、お前が見守っていてやってくれ。幸子は、お兄ちゃんが一番好きなんだから……」
「お願い、太一……」
 お父さんも、お母さんも流れる涙を拭おうともせずに、すがりつくような目で俺を見る。
「……うん」
 ボクも、涙を流しながら頷いた。

 幸子が憎たらしい理由は分かった。
 しかし、まだ俺たち親子は、幸子の秘密の半分も知ってはいなかった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・40『お爺ちゃんの大掃除』

2020-12-26 06:22:57 | ライトノベルセレクト

物語・40

『お爺ちゃんの大掃除』     

 

 

 

 片づけばっかりやってると早死にしますよヽ(`Д´)ノ。

 

 片づけに熱中して、やっとお昼ご飯を食べに来たお爺ちゃんにプンスカ言うお婆ちゃん。

 お爺ちゃんも、なんとか切り上げてきたんだから、食卓に着いたとたんに言うことじゃないと思うんだけど。

 

 今日のお昼は、お婆ちゃんとわたしとで作ったカルボナーラ。

 お婆ちゃんは、わたしが手伝ったお昼ご飯に遅れたことを咎めているんだ。

 お婆ちゃんだけで作ったお昼なら、遅くなっても文句は言わない。ラップをかけてテーブルの上に置いておく。

 

 お爺ちゃんのお片づけも、わたしがお母さんといっしょにやったのに触発されたんだ。

 「ほう、感心感心、わしもやってみよう!」

 ねぎらいの言葉として聞いていたんだけど、ほんとにやりだして大掃除のようになってきた。

 広い家なので、そんなに気合いを入れてやることもないんだけどね。勢いというやつ。それと……これを言ったら言霊だから言わない。

 

 変わったこけしねえ。

 

 お爺ちゃんががんばったんだから、様子を見に行く。

 それで見つけたんだ、廊下に出されたいろいろの中に混じっていた太っちょのこけし。

「ああ、マトリョーシカっていうんだ」

「マトリョ……?」

「マトリョーシカ、ロシアのこけしだ」

 お爺ちゃんが手を伸ばすと、ホコリで滑ったのか、床に落っことしてしまった。

「あ……?」

 マトリョーシカはお腹の所で上下に割れて、中から一回り小さいマトリョーシカ、それも割れて二回り小さいマトリョーシカが顔を出した。

「入れ子になっていてね、全部で七つなんだ」

「触っていい?」

「ああ」

「……三つしかない」

 三つ目の中は空っぽだ。

「うん、どこかに行ってしまったんだ。普通のマトリョーシカは五つか多くても六つの入れ子なんだけど、こいつは七つ入っていたんだ」

「行方不明?」

「そうだな。薄汚れてるし、三つしかないから、値打ちなんかはない。次のゴミで出そうと思ってる」

「捨てるんだったら、もらってもいい?」

「ああ、いいよ。ちょっとアルコールで拭いてあげよう」

 

 そういうことで、マトリョーシカは、わたしの部屋、アノマロカリスを見下ろす棚の上に収まった。

 

 二つの新入りを眺めてるうちに寝てしまった。

「あんた、まだなにか隠してるんでしょ」

 マトリョーシカが文字通りの上から目線でアノマロカリスに言った。

「そんなデカイ図体しててメルル一個ってことはないでしょ!?」

「いや、それはな……」

 言葉のお尻を濁しながら、アノマロカリスはビー玉のような目を、わたしに向けた。

――あ、そうか!――

 アノマロカリスのお腹のヒダはメルルが入っていたところだけじゃない。

 

 目が覚めてから、アノマロカリスのお腹を探ってみた。

 

 すると、出てきた。桐乃、黒猫、あやせ、麻奈美、バジーナ、俺妹女子キャラの揃い踏みだ。

 先に出てきたメルル同様に少々歪んでる。十年近くアノマロカリスのお腹に閉じ込められていたんだから仕方がない。

 お腹の子を全部出して、心なしかホッとしたようなアノマロカリス。

 こういう時、無駄に大きいわたしの机は存在意義を増した。

 

 俺妹の女子キャラ全部を並べると、なかなかの眺めになった。

 

 プルルルル プルルルル

 

 黒電話が鳴った。

「もしもし」

―― 交換手です。俺妹の女子キャラの揃い踏み、おめでとうございます ――

「あ、ども」

 考えてみたら、発端は交換手さんの言葉だった。ま、おめでとうの電話くらいあってもいい。

―― フフ、まだ隠れているものがありますよ。出てきた子たちをよーく見てみましょう ――

 退屈させない交換手さんだ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
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