大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・3『なんだか変』

2020-12-18 06:53:51 | 小説3

たらしいのにはがある・
『なんだか変』
          

 

 なんか変なんだ。

 例えて言うなら、ライブの舞台セットの裏側と表側。
 セットの表側は、きれいに飾られ、電飾やらレーザーやらの照明が当てられて、とても華やか。でも裏側にまわると、それはただの張りぼてで、ベニヤ板が剥き出しだったり、配線が生ゆでのパスタのようにのたくって薄暗く、まるで建設現場のように素っ気なく乱雑だ。
 幸子は、Yホテルで会ったとき、引っ越しでご近所周りをしている時は明るく可愛い女の子だった。家の中を整理しているときは、親父、お袋、そして俺たちも忙しく立ち回り、いわばセットの立て込み中のスタッフのように、テキパキと無駄なく動いていた。だから、素っ気なくて当たり前だと思った。
 
 でも、落ち着いてからの幸子は変だ。

 兄妹とはいえ、平気で上半身裸の姿を晒し「こういう場合、どうリアクションしたらいいと思う?」は無いと思う。それも歪んだ薄笑いで……。


 親父とお袋には普通の態度だ。


「ウワーーーーー奮発したのね! これ宅配寿司でも高級なやつじゃん!」
「佐伯家の再出発だからな。まあ、これくらいは」
「う~ん、この中トロたまら~ん!」
「よかったら、お母さんのもあげるわ。脂肪が多いから」
「ごっちゃん、遠慮な~く!」
「ハハ、幸子は東京で舌が肥えちまったなあ」
「下も上も肥えてませーん。ナイスバディーの十五歳で~す!」
「そうよ、ブラのサイズ、この冬からCカップになっちゃったもんね」
「もー、そういう秘密は、家族でも言っちゃいけません!」
「ハハ、友だちにも自慢してたくせに」
「女の子の友だちだもん。でも、お父さんならチラ見ぐらいさせてあげるわよ(^▽^)/」
「おいおい、親をからかうもんじゃないよ」
「ハハ、お父さん赤くなった!」
「アハハハ……」
 
 俺は、この食事の間、ほとんど会話には入っていけなかった。

「幸子、ムラサキとってくれよ」
「…………」
 幸子は笑顔をさっと引っ込め、例の歪んだ笑顔で俺を見た。


「ムラサキって醤油のこと」
「分かってる……」


 幸子は、まるで犬にものをやるように……いや、ゴミ箱に投げ入れるような無機質さで、ムラサキの魚型チュ-ブを放ってきた。それも、俺の手許三センチのところにピタリと。そして、俺と始めかけた会話など無かったように、続きを始めた。


「で、敦子ったら、敦子って、東京の友だちなんだけどね……」
「そりゃ、びっくり……」
「ハハ、年頃の女の子って……」
「ハハ、お父さんも苦労しそう……」
「だーかーらあ……」
「アハハハ……」

 その夜、トイレに行こうとしたら風呂に入ろうとしていた幸子と廊下で出くわした。

「……覗くんじゃないわよ」

 今度は、歪んだ笑顔なんかじゃなくて、無機質な真顔だった。スニーカーエイジで機材を間違えて置いたときにとがめ立てしたスタッフのようにニクソかった。
「覗くわけないだろ。昼間のは事故みたいなもんだったけど」
「でも……可能性の問題としてね」
 そう言って俺の前を通っていく幸子の手には着替えやらバスタオルが抱えられていたが、チラッと金属のボンベのようなものが見えた。偶然か、それを察したのか、幸子は縞柄のパンツでそれを隠した。
 トイレと風呂場は隣同士で、脱衣場とトイレ前の洗面とはカーテン一枚で仕切られているだけで、幸子が潔く服を脱いでいく衣擦れの音がモロにした。昼間見た形の良い胸が頭に浮かんだ。

――俺ってば何考えてんだ(^_^;)――

 その夜、新しい寝床で寝付けずにいると、隣の幸子の部屋で気配がした。幸子一人ではない気配だ、つい耳をそばだててしまう。


「……やっぱ、無理か?」
 親父の声だ。
「うん、幸子が拒否……」
 お袋の声だ。でも拒否だと? 壁に耳を付けると間が空いた……。
「ま、引っ越しとかで疲れがでたんでしょ。とにかくゆっくり眠りなさい」
「はい、ごめん。お母さん、お父さん」
 なんだか、急にボリュ-ムが上がったような気がした。

――なに盗み聞きしてんのよ――

 幸子のニクソイこえが聞こえたような気がして、俺は慌ててベッドに潜り込んだ……。

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やくもあやかし物語・32『黒電話の怪異・5』

2020-12-18 06:43:37 | ライトノベルセレクト

物語・32

『黒電話の怪異・5』     

 

 

 本当に落ちたわけじゃない。

 

 真岡電信局の事は夢か幻だ。

 だから、交換室の後ろの扉から芳子ちゃんと手を繋いで飛び出したことは現実のことじゃない。

 ベッドの上に落ちたと思ったのは錯覚なんだ。錯覚なんだけど、落ちたと思って瞬間身体に力が入って、あちこちの筋が違ったんだろう。

 あーーいててて……

 夕飯のテーブルに着くのも、要介護三くらいのお婆さんになったみたいだ。

 

 アハハ、どうしたのよ?

 

 テーブルの向かいでリアルお婆ちゃんが笑いながら食器を並べている。お爺ちゃんは鍋の具材を整えながら聞きたそうにしている。

「じつは、黒電話がね……」

 黒電話の発見から公衆電話の使い方まで祖父母には世話になっているので、夕飯の鍋が煮立つ間にあらましの事を話した。

「芳子ちゃんと言ったんだね?」

「うん、セーラーモンペでね、とても走るのが速いの」

「お兄さんが、小泉……」

「名字だけで名前は聞いてない」

「ちょっと待てよ……」

 お爺ちゃんは、リビングの棚から古いアルバムを取り出した。

「まあ、埃だらけ、あっちでやってくださいよ」

「ああ、すまんすまん」

 いったん廊下に出てからお爺ちゃんはアルバムを開いた。バリバリいう音がテーブルまで聞こえてくる。

「古いアルバムだからページが貼り付いてんのね」

 お爺ちゃんは、バラして必要なページだけ持って戻ってきた。

 そのページには見覚えのある真岡の街の景色や学校の行事の写真が貼られている。

 裏を返したところには人の写真。

「あ、これだ!」

 それは一家三人の写真だ。

 写真館で撮ったんだろう、背景も横に置かれた台付きの花瓶もしっくりしている。

 前に椅子が三脚、女学生二人と国民服の青年。後ろに年配の国民服とかっぽう着の女の人、たぶん三人兄妹のご両親。

 で、言うまでもなく。三人は小泉兄と妹の洋子さんと芳子ちゃん。

「この芳子ちゃんと一緒だったんだよ」

「芳子は、俺のお袋だよ」

「え、そうなんだ……」

「源一郎伯父さんと洋子伯母さんは真岡で亡くなった。伯母は電信局で亡くなったんだけど、伯父さんは死体も見つからなかったんだ」

 そうだろう、わたしを逃がした後路地に直撃弾だったもん……ていうか、わたし、リアルに体験してしまった!?

「芳子さん……お義母さんは、あの日の真岡での記憶が無いのよ。お姉さんを助けようとは思って走ったんだけど、艦砲射撃が始まって、気が付いたら港の収容所に入っていたって」

 そうだろ、あんなものを見たら記憶飛んじゃうよね。

「じゃ、あの黒電話は真岡の?」

「そこまで古くは無いさ、俺が子どものころに電電公社が交換しに来たやつだ。まあ、ほとんどお袋専用みたいだったけどね」

 そこまで話したところで鍋が食べごろに煮立ってきた。

 お鍋をいただいているうち、話題が変わってしまい、しばらくは真岡の話に触れることは無かった。

 ツケッパのテレビが立春になったことを目出度く報じていた……。

 

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

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