大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・184『テイ兄ちゃんの部屋にいく』

2020-12-28 10:55:05 | ノベル

・184

『テイ兄ちゃんの部屋にいく』さくら   

 

 

 専念寺のゴエンサン(住職)さんのお見舞いに行った話はしたよね。

 

 お孫さんが二人居てて、女の子のお孫さんが祖父のゴエンサンから得度(坊さんの資格を取ること)を受けるように言われて、困って、祖父のゴエンサンやらお見舞いに来たうちにまで当たり散らしてた。

 せやけど、交通事故で母ネコに死なれた子ネコを引き取って飼うことにした話。

 病院でゴエンサンに当たり散らしてた時は――なんちゅう愛情のない子ぉや(*_*)!――と思たんやけど、ま、じっさい病院の待合で睨んできよった目ぇは終わってたしね。でも、子ネコに掛けた愛情は本物やと思う。

 たしか鸞ちゃんやった。

 うちもお寺の孫やから分かったんやと思う。お寺の跡を継ぐというのは、ちょっと大変。

 せやさかい、鸞ちゃんのいらだちも、よう分かる。

 やっぱり、この一年半でうちも成長したでしょ(^▽^)/

「また寝落ちしとおる」

 用事があってテイ兄ちゃんの部屋に行くと、ごっついアイマスクしたままひっくり返ってる従兄を発見。

 テイ兄ちゃんは、うちの副住職やりながら、専念寺さんの手伝いもやってる。二つの寺を掛け持ちして頑張ってるのは、まあ、尊敬したんねんけども、この姿はねえ。

 ごっついアイマスクいうのはスタンドアロン式のVRで、ガラスのない水中眼鏡みたいなもん。このごろは、暇さえあると、このVRで異世界にトリップしとおる。

「……え……ああ、さくらか」

「そんなもん掛けたまま寝たらアホになるで」

「アホにならなら坊主は務まらん」

「また、屁理屈を……」

 言いながらも深追いはせえへん。

 さっきも言うた通り、大学を出てすぐにお寺の跡継ぎを決心するのは大変やいうのん分かってるしね。

 そやけど、男のVRはイヤラシイ。

「また、スケベエなもん見てたんやろ」

「ちゃうちゃう、ゾンビをやっつけて世界平和に貢献してた」

 これは嘘や。VR技術が進歩したんは、ひとえに男のスケベエ根性。

 うちの好きなプレステでもVRがあって、コナミなんかは水着の女の子を間近に見られるコンテンツがある。うちは格ゲーの『デッドオアアライブ』が好きで、ネットでも検索したりするねんけど、ごひいきのかすみちゃんが悩殺水着でR指定のポーズとってるのにショックを受けた(-_-;)。で、テイ兄ちゃんがやってるのは、そんなR指定のポーズがお遊戯に見えてしまうくらいのH系コンテンツ。

「あのなあ、スタンドアロンはパソコンに繋げへんから、そっち系のゲームはでけへんねん。で、用事はなんやねん?」

 このエロ坊主、頼子先輩にはメッチャやらしい、いや、やさしいねんけど、三親等のうちには遠慮がない。お寺の跡継ぎが大変いう認識が無かったら、きっと張り倒してると思う。

「大掃除してたら、いろいろ出てきてね」

「ああ、さくらの部屋は、元々は物置やったさかいなあ」

「お祖父ちゃんが若いころに書いてた原稿が、いっぱい出てきて」

 ズイっと、段ボール箱を押し出す。

「他にも、資料とかあって、どないしょうか思て……」

「ああ、けっこうあるなあ……お祖父ちゃん、若いころは作家志望やったらしいからな……お祖父ちゃんに渡したらええのんとちゃう?」

「渡したら見られへん」

「え、見たいんか?」

「うん、どの原稿も封印したあるやんか、読も思たら開けなあかんし」

「お祖父ちゃんに言うたら」

「ぜったい『あかん』て言うし」

「ああ……そうかも知れへんなあ。お祖父ちゃんは、俺と違て、坊主になるまでは紆余曲折のあった人やもんなあ。封印したあるもんを『読んでええ』とは言わへんやろなあ」

「これなんか、タイトルが『滅鬼の刃』やんか」

「あ、ほんまや。パクリか?」

「んなわけないやん、昭和52年の日付やしい」

「ううん……よし、まかしとき」

「どないすんのん?」

「それは……」

 そこまで言うたときに、テイ兄ちゃんのスマホが鳴った。

 廊下に出て、なにやら話してると『分かりました、ありがとうございました、いえいえ、こちらこそお。では、よいお年を……』

 そない締めくくって、テイ兄ちゃんは、首だけのぞかせて、こう言うた。

「今年の除夜の鐘ツアーは中止やて」

「あ、やっぱりコロナで?」

「うん、GO TOも中止やしなあ」

 予測はしてたから、そんなにショックはない。

「ほんなら、頼子先輩に電話するわ」

「あ、それは、俺がやる(^▽^)/」

 ああ、やっぱりスケベエ坊主や……。

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・13『その明くる日』

2020-12-28 06:15:45 | 小説3

たらしいのにはがある・13
『その明くる日』
          

 

    


「よかったあ! 思ったより元気そうやんか!」

 佳子ちゃんは登校前に幸子の様子を見に来てくれた。

「切り傷だけだから、治りは早いと思うの。でも、昨日の今日だから用心しないとね」
「そうやあ、傷跡残ったら大変やもんね。ほんなら、連絡事項なんかあったら、聞いとくわ。サッチャンのクラスの未来(ミク)とは中学で同級やったさかい」
「じゃ、よかったらお兄ちゃんと行って。昨日のこといろいろ知ってるから」
「おお、それは、願ってもない!」
 好奇心むきだしで、佳子ちゃんは賛同した。

 で、俺は寝癖の頭を直す間もなく、佳子ちゃんといっしょに学校に行くハメになった。

「佳子ちゃんに、手出すんじゃないわよ」
 オチャメそうではあるが、プログラムされた俺への対応もカワイイとは言えない。
「大丈夫、サッチャンのお兄ちゃんは、そういうカテゴリーには入ってないから」
 佳子ちゃんも、デリカシーがない。
「今のところはね(^#0#^)!」
 行ってらっしゃいの声でドアを閉めた後、佳子ちゃんがウィンクしながらグサリと刺す。どうも女子高生というのは嗜虐的な生き物だ。
「わあ、お姉ちゃん、今朝はアベック!?」
「せや、ウラヤマシイやろ?」
「わーい、アベック、アベック!」
 妹の優ちゃんもなかなかの幼稚園児ではある。

「で、ほんまに傷跡とかは残らへんのん?」

 事故の責任が百パーセント相手の車にあることを説明したあとに、佳子ちゃんは真顔で聞いてきた。
 今朝の幸子は念入りだった。左脚に重心を載せないようにし、左手も庇うようにして、ほっぺにバンドエイドを二枚も貼るという念の入れようだった。まさか、スプレー一吹きでメンテナンスしたとは言えない。


「うん……あれでも、いちおう女の子だからね」
 と、兄らしく顔を曇らせておく。佳子ちゃんの顔がみるみる心配色に染まっていく。ちょっとやりすぎたか……。
「大丈夫、小学校の時の事故でも、傷跡ひとつ残らなかったから」
 そう言って、鼻の奥がツンとした。あの事故で、幸子は死んだも同然なんだ。今の幸子は、ほとんどプログラムされたアルゴリズムでしか反応できないサイボーグ……。
「ほんまに大丈夫?」
 佳子ちゃんは立ち止まってしまった。目には涙さえ浮かべている。俺はシマッタという気持ちと、素直な反応をする佳子ちゃんをカワイイと思う気持ちで、少し混乱した。
「ダイジョブダイジョブ(^_^;)。佳子ちゃんが真剣に心配してくれるんで、感動したんだよ。これからも、言い友だちでいてやってくれよ」
「うん、まかしといて! サッチャンは佳子の大親友や!」
 それからの話は、女子高生とは思えないシビアさだった。示談の仕方から、示談の相場、弁護士事務所まで紹介してくれる。なんで15歳の女子高生が示談のやり方知ってんだ(^_^;)?

 学校に着くと、祐介と優奈からも聞かれた。

「加藤先輩も、えらい心配してはったわ」
 で、俺は午前中いっぱいの休み時間と昼休みを使い、加藤先輩、顧問の蟹江先生。幸子の担任の前田先生、保健室の先生。演劇部の生徒と顧問、それから、噂を聞いてきた幸子のクラスメートへの説明に追われた。
 だれも、俺の心配はしてくれなかった。見た目ピンピンしてることもあるが、俺だって、救急車に載せられ、CTなんか撮ったりしたんだけどな!

 放課後は、幸子のクラスメートの未来から、ノートの写しなんかもらい、その後、はんなりとクラブが始まった。

 いつもの教室でバンドのメンバー。ベースの祐介、ドラムの謙三、ボーカルの優奈、そしてギターの俺。
 最初は、当面の課題曲である「いきものがかり」の曲を少しやったが、すぐに研究と称してダベってしまう。気に入っているアーティストの曲なんかかけて、あーだこーだと思いつきを喋る。練習しなきゃという気持ちが無いわけでは無い……でも、互いの気持ちを都合良く推し量り、ただの喋りになってしまう。まあ、収穫と言えば優奈が見つけてきたユニットがいけてることを発見したぐらい。

 帰りの電車は運良く座れた。

 今日はアコギを持ってかえるので、ありがたかった……気が付くと、俺の前に背を向けてつり革につかまっている女の人のお尻を見ていた。パンツの上からでも、夕べ露天風呂で(アクシデントとは言え)見てしまった女の人のお尻に似てるなあと思った。

――いかん、妄想だ!――

 自分を叱りつけて家路についた。
「これ、未来から預かったノートの写しやらなんやら」
「おう」
 予想はしていたけど、ニクソイ笑顔にはムカツク。
「あれ、あのギター、どうしたんだ!?」
 渡すモノを渡して、さっさと、幸子の部屋を出ようとしたら、ドアの横にギターラックと、そこに掛かっている新品のギターに目がいった。
「こ、これ、ギブソンの高級品じゃないか!」
「加害者の人から……これと治療費をもってもらうことで手を打った」
「触っていいか!?」
「ダメ。わたしの」
「じゃ、いっしょに練習しようぜ!」
「お兄ちゃんとじゃ、練習にならない」
 方頬で笑って、無機質に言うところがニクソ過ぎる!
「お兄ちゃん。言っとくけど……」
「この上、なんだよ!?」

「昨日の事故ね、お兄ちゃんが飛び込んでこなきゃ、わたし一人で避けられたのよ」

「な、なんだと(゚Д゚)!?」
「お兄ちゃんが助けたように見えるように……で、お兄ちゃんを怪我させないように……そして、わたしが義体だって気づかれないように計算したのよ」
「おまえなあ……」
「だから、そのギターは幸子の戦利品。ギタイギター……シャレのつもり。笑ってくれると嬉しいんだけど」
「は…………」
「まだ、道は長いわね……お兄ちゃん、これから、幸子が危ないと思っても手を出さないでね。かえって、ややこしくなるから」
「あ……ああ」
「世の中、だれが見ているか分からないから」
「だれが、見てるって言うんだよ」
「……一般論よ」
 幸子は、なにかを言いかけて一般論で逃げた。俺もころあいだと思って部屋を出た。

 そのあと、幸子がギターを弾きながら歌うのが聞こえた。曲は、今日優奈から聞かされたユニットの曲だった……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・42『俺妹を読み返す』

2020-12-28 05:56:42 | ライトノベルセレクト

物語・42

『俺妹を読み返す』     

 

 

 ―― 今夜は早く寝た方がいいですよ ――

 

 俺妹の第一巻を手に取ったところで黒電話が鳴った。受話器を取ったら交換手さんが、そう言って切れてしまった。

 アノマロカリスのお腹から俺妹の女子キャラ縫いぐるみが出てきて、久々に俺妹の文庫を読んでみようと思ったのだ。

「せっかく読む気になってんのに」

 読む気満々で、ポテチの袋も開けてしまっていたので、交換手さんの忠告を無視して読むことにした。

 何度も読んだ俺妹なので、二時間もあれば最初の大団円まではいけるだろう。京介が妹の桐乃を庇ってお父さんにフルボッコにされる。そいで、桐乃が何年かぶりで「あ、ありがとう」ってお礼を言うんだ。

 ここ大好き。

 たとえ肉親でも、言葉にしないと気持ちなんて伝わらない。

 恥ずかしがりながらでも、むちゃくちゃ抵抗があっても、たとえ蚊の鳴くような声でも口にするのが大事なんだ。

 ここを読むと、とても気持ちが暖かくなる。

 集中して読んでいると、俺妹女子キャラの縫いぐるみたちが近づいてきている。

 最初は本立ての前に一列に並べていたのが、気が付いたら焚火を囲むように半円形になって、いっしょに文庫を読んでいる。「あ、ありがとう」のところでは、桐乃の縫いぐるみが真っ赤になって、他のキャラがニコニコしている……あれ? カナカナ(メルルのコスプレした加奈子)がいないぞ。

 ガチャリ

 ドアの開く音がした。振り返ると、等身大になったカナカナが立っている。むろんメルルのコスプレ。

「おめーな、文庫読んで追体験なんかしてんじゃねーよ」

「な、なによ」

「メモだよ、メモ」

 カナカナが星屑ウィッチのロッドを振ると、目の前にメモの文字が浮かんだ。

―― お金は払ってある、受け取りにいくといいよ ――

「ずっと子ネコは待ってんだ、行ってやれよ」

「だって、何年も前だよ」

「んなのかんけーねーよ、お金は払われってから、行ってやれえー!」

 音もなくジャンプすると、わたしの首を跨ぐようにして絡みついてきた。

「わ、わーっふぁ!わーっふぁ(;゚Д゚)!」

 カナカナのお股で口と鼻を塞がれたのでフガフガとしか言えないけど、なんとか意味は通じたようだ。

 プハーーー

 窒息しそうになったところで、カナカナが飛びのいた……と思ったら姿が消えた……と思ったら、机の上バジーナの横に縫いぐるみに戻って立っていた。

 ポテチを摘まんだまま突っ伏して寝てしまっていた。右の腕に涎の痕。わたしってば、自分の腕で窒息しかけていたんだ。

 ペットショップに行ってみよう……そう決心して歯を磨きに行った。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間

  

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