大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・050『三人姉妹』

2020-12-30 10:54:25 | ボクの妹

・050

『三人姉妹』   

 

 

 今日からは中原君といっしょに学校に行ってもらう。

 

 それだけ言うと金剛特務少佐は回れ右してエレベーターの方に歩き出した。

「え、ええ?」

 それだけ言うのが精いっぱい。ズカズカ進む後姿は『だまって俺に付いてこい』オーラが燦然と輝いていて、グイグイ引っ張って行かれる感じになる。

 ガチャリと音がしたかと思うと、中原少尉がドアを施錠。いつのまに入ったのか、手にはわたしの通学カバンとローファー。わたしは、ちょっと顔を出すぐらいのつもりだったからサンダルを履いているんだ。

 エレベーターの中では無言だったけど、エントランスから駐車場に行く間に少佐はガンガン説明……というよりは命じてくる。

「今日からは中原少尉ともいっしょに通ってもらう」

「え、どこに?」

「学校に決まってる。少尉、カバンを渡せ」

「はい!」

「あ、ども…中原さん、その姿!?」

 通学カバンを渡してくれた中原少尉は、いつの間にかトレンチコートを脱いでいて、あろうことか、わたしと同じ第二首都高の制服になっている。

「今日から同じクラスです、よろしくお願いします!」

「は、はあ……」

「高安大尉からくれぐれもと警護を頼まれている。いくらなんでも、わたしが高校生になるのは無理があるからなア」

「は、はあ……」

「同じ学校に通えば、おのずと気心も知れて万全の警護ができる。少尉、靴も履き替えさせろ」

「は!」

 ローファーを差し出され、その場で履き替える。

「人は足元を見る、まりあは少尉の足元を見過ぎたしな」

 ウウ……たしかに、中原少尉には迷惑かけた。

「今日は俺が学校まで送っていく、明日からはおまえたちだけで行くんだ」

 おまえたち……なんか違和感。

「さ、あれに乗れ」

 少佐は、駐車場の隅に停めたRV車を顎でしゃくった。

 ドアを開けて驚いた( ゚Д゚)!

 

「おはよう、おねえちゃん(^▽^)!」

 

 ビックリした! 後部座席にナユタが同じ首都高の制服を着てニコニコ笑っているしい!

「なんで、あんたが……」

 車に右足入れたまま固まってしまった。

「おまえたちって言ったろう、今日から、三人姉妹だ。はやく乗れ」

「三人姉妹?」

「さすがはまりあおねえちゃん!」

「な、なにが?」

「清純派の白パンだ」

「う(#'∀'#)」

 反射で左足も車内に突っ込んで、車に乗り込んでしまう。

「うお!」

 同時にRV車は急発進、反動でドアが閉まって、あっという間に駐車場を飛び出していく。

「さすがにアグレッシブ!」

「なにがあ!?」

「ふつう、ああ言われると、右足ひいて車から出ちゃうんだけど、まりあおねえちゃんは、とっさに乗り込んだ!」

「あ、ああ、たまたま、たまたまよ(^_^;)」

「グ、グフフフ」

 中原少尉が笑いをこらえている。今まで、あれこれやられたことをナユタが仕返ししているようでうれしいんだろうなあ……クソ!

 学校に着いて、さらに驚いた。

「なんで、着いてくるの!?」

 中原少尉とナユタがいっしょに階段を上がって来るのだ。

「同じクラスですから」

 少尉は緊張した笑顔で、ナユタは、その横でピースサインをしている。

 で、さらに驚いたのは階段を上がって角を曲がったところ。

「な、なんで……(;'∀')」

 教室の前に担任と並んで少佐が立っているのよ!?

「保護者として挨拶するんだ」

「え、ええ!?」

 保護者?

「じゃ、中に入ってください」

 担任がドアを開けると、クラスメートみんなの視線が集まる。

「今日から、安倍まりあが復帰します。それと、転入生が二人、このクラスに入ります。じゃ、お父さんから、お話を」

「特務旅団の金剛少佐だ、今日から娘三人が世話になる。向かって左から長女の阿部まりあは知ってるな、病気が治って復帰だからよろしく。その横が次女の中原光子、そのまた横が三女の冷泉なゆただ。三人とも苗字が違うのは養女だからだ。養父は、このわたし、金剛武。事情は察してくれ、じゃ、よろしくな」

 そこまで言うと、少佐はビシッと敬礼を決めて、さっさと教室を出て行った。

 教室のみんなは呆気にとられ、そのあと、三人それぞれ挨拶したんだけど、もう、なにがなんやら憶えていない。

 その中で、親友の釈迦堂さんだけが、興味津々と目を輝かせていたよ……。

 

 

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・15『リアル墜落』

2020-12-30 06:59:41 | 小説3

たらしいのにはがある・15
『リアル墜落』
          

  


 幸子は、また路上ライブを始めるようになった。

 ただ、前回のように無意識な過剰適応でやっているわけではなく。しっかり自分の意思でやっている。
 また、演奏する曲目も「いきものがかり」にこだわることなく、そのときそのときの聴衆の好みにあわせているようで、流行のAKRやおもクロ、懐かしのニューミュージック、フォークや、どうかすると演歌まで歌っていることがある。
 そして、場所は地元の駅前では狭いので、あべのハルカスや、天王寺公園の前など、うまく使い分けている。パーッカッションを兼ねて佳子ちゃんが見張りに立ち、お巡りさんがやってくると場所替えをやる。
 過剰適応ではないので口出しはしない。幸子は、そうやって自分に刺激を与え、自分の中の何かを目覚めさせようとしているように思えるからだ。

「サッチャン、なかなええやんかあ(o^―^o)」

 加藤先輩が動画の幸子を見ながら頬杖をついた。
 加藤先輩は、ご機嫌がいいと頬杖になる。演奏中だったりすると、肩から掛けたアコステの上で腕組みしたりする。そういうマニッシュなとこと乙女チックなとこが共存しているのが、この先輩の魅力でもある。
「みんなも、よう観とき。このノリと観客の掴み方は勉強になるで」
 加藤先輩は、パソコンの動画を大型のプロジェクターに映した。
 視聴覚教室にいるみんながプロジェクターに見入った。
「かっこええなあ……」
「ノリノリや……」
「やっぱり、お客さんがおると、ちゃうなあ」
「ハハ、祐介は、お客さんがいててもいっしょやで」
「そうや、祐介はただの自己陶酔や」
 視聴覚教室に笑いが満ちた。

 当の本人はケイオンの活動日ではないので演劇部の練習をしている。

――あいつら、なんでトスバレーなんかやってんだ――
 窓から見える中庭で演劇部の三人がトスバレー……と思ったら、エアートスバレーだった。ボール無しでバレーをやっている。
――あれか、無対象演技の練習というのは――
「どれどれ」
 優奈たち女の子が興味を持って見始めた。それに気づいて幸子が手を振る。仕草が可愛く、ケイオンの外野が「カワユイ~」なんぞと言い出した。あれがプログラムされた可愛さであることを知っているのは俺だけだ。
「これからエアー大縄跳びやるんです。よかったら、いっしょにやりませんか?」
「面白そうやん!」
 加藤先輩が、窓辺で頬杖つきながら応えた。

「ああ、また山元クンで絡んでしもた!」

 不思議なもので、縄はエアーなのに、みんな、この見えない縄に集中している。で、さっきから、演劇部の山元が何度も絡んで失敗になる。このエアー縄跳びは幸子のマジックではない。ちゃんとした芝居の基礎練習なのだ。ケイオンのみんなが加わったので、場所もグラウンドに移し、四十人ほどのエアー大縄跳びになった。チームも二つに分けて競争した。連続十五回で幸子たちのチームが勝ってグラウンド中が拍手になった。
「ああ、もう息続かへんわ……」
 加藤先輩たちが陽気にヘタってしまった。

 そんな俺たちに注がれる視線に微妙な違和感を感じた。

 違和感の方角には三人の三年生女子がいた。他のみんなのようににこやかに、俺達をみていたが、ヘタったので、笑いながら、食堂の方に行った。
 その後ろ姿……正確にはお尻に目がいった。どうして、このごろ形の良いお尻に目がいってしまうんだろう。
「どこ見てんねん!」
 優奈に、頭をポコンとされる。
「よかったら、サッチャンのライブの動画見ない?」
 加藤先輩の気まぐれ……発案で、ケイオン、演劇部合同で幸子のライブ鑑賞会になった。
「ヤダー、恥ずかしいです」
 幸子は、新しくプログラムした可愛さで照れてみせた。ボクには優奈と六歳の優子ちゃんのそれを足して二で割ったリアクションであることが感じられた。知らないみんなはノドカに笑っている。空には、そのノドカさを際だたせるように、ゆったりと八尾飛行場に向かう軽飛行機の爆音がした。

 ……それは動画を再生しはじめて五分ほどして起こった。

 みんな逃げて!!

 演奏を中断して幸子が叫んだ。飛行機の爆音が微かにしていたが、幸子が暗幕ごと窓を開けると、軽飛行機が上空で鮮やかな捻りこみをやって、この学校、いや、視聴覚教室を目がけて突っこんでくるのが分かった。


 こういうとき、人間というのは急には動けないものであることを実感した。
「みんな、窓から飛び降りて!」
 幸子が反対側の窓を全部開けて叫んだ。視聴覚教室は一階にあるが、窓の位置が少し高く、女の子は躊躇してしまう。
「男子が先。で、下で女子を受け止めて!」
「よっしゃ!」
 男子たちが叫び、女子が飛び降りる。躊躇する女子は幸子が放りだす!

 爆音が、すぐそこまで迫ってきた!

「お兄ちゃんも早く」
 ニクソイ冷静さで言うと、幸子はボクを窓の外に放り出した。景色が一回転して中庭の植え込みに落ちた。目の端に窓辺に片脚をかけて飛び出そうとする幸子が見えた。パンツ丸見え……そう思ったとき、視聴覚教室に飛行機が突っこんだ。

 爆発!

 炎と破片と共に幸子は吹き飛ばされた。幸子は中庭の楠に背中から激突、逆さの「へ」の字のようになって落ちていった。

 人間なら命はないだろう……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 学校の人たち    倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)
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やくもあやかし物語・44『ペットショップの真相』

2020-12-30 06:40:22 | ライトノベルセレクト

物語・44

『ペットショップの真相』      

 

 

 

 久しぶりの駅なのでドアの上の路線図を確認……九つ目がペットショップのある駅だ。

 

 八つ目の駅を出たところで車内放送。

――三両目の前から二番目のドアからは出られません、駅のホームで落下物事故がありましたので三両目前から二番目の……――

 落下事故? ホームから人が落ちたのかなあ? だったら人身事故で到着が遅れるよね、遅れるって放送は無いし……。

 ホームに入って分かった。

 行き先案内表示板が落っこちている。はずみで自販機が倒れて三両目前から二番目のドアの前を塞いでいる。

 それが片づけられずにいるので、ドアが開いても出られないのだ。駅員さんがお詫びをしながら他のドアを使うように指示している。

 仕方なく三番目のドアから出る。

 落下した行き先案内板と自販機の方を見る……自販機の下から液体が流れ出た痕……ジュースかと思ったら血だった!

「準急が到着してすぐ」「ドアが開いたとたんでしょ」「やあねえ」「運かしらねえ」

 どうやら、ドアが開いて直ぐに事故が起こって、ちょうど下りたばかりの乗客が自販機の下敷きになったらしい。

 やだやだ、準急に間に合っていたら下敷きになったのはわたしだったかもしれないよ、運動神経鈍いしね。てことは、乗り遅れて幸いだったかもしれない。

 この駅は十年ぶりくらい。

 駅も駅前も十年くらいでは目立つ変化は無いんだけど、記憶にあるのよりも狭いロータリー、小さなお店たち……だよね、十年前は今の2/3くらいの背丈しかなかったしね。

 駅前では募金をやっていたりティッシュを配っていたりタクシー乗車案内のおじさんがお客さんをさばいていたり。

「どうぞ」

 言われて反射的にポケティッシュを受け取る。

 あれ?

 配っているのはポニテのメイドさんだ。近くにメイド喫茶が出来たようだ。やっぱ変化はあるんだ。

 記憶を頼りにペットショップを探す。

 たしか、二つ目の角に……あれ? ない?

 ペットショップが入っていたビルはそのままなんだけど、ペットショップはスマホのお店になっている。

 まあ十年近い時間がたってるんだ、メイド喫茶ができたりしてるんだ、これくらいの変化はあるだろう。

 確認が出来たらいいんだ。

 ちょっとブラついて帰ろうか……。

「ペットショップをお探しですか?」

 声の方に振り向くと、さっきのメイドさん。

「あ、ええ、でも無くなってしまったみたいで」

「確認してみますか」

 メイドさんはティッシュの入ったカゴを真上に放り上げた。

 するとティッシュではなくて、なんだか霧のようなのが立ち込めた。

 霧は数秒で薄くなっていく、すると、スマホのお店がペットショップに変わっていた。

 え? え?

 戸惑っていると、ペットショップの中から犬や猫たちの鳴き声、とても切羽詰まった鳴き声。

 キャンキャン! フギャーフギャ!

 ボン!

 鳴き声の中に爆ぜるような音がして、直後に店の奥から炎が上がった。

 火事だあ!

 声があがって、お店のマスターやスタッフがケージごと犬や猫たちを運び出した。

「これ以上は無理だ」

「でも、まだ残ってます!」

「助けなきゃ!」

「猫がまだ……」

「あきらめろ!」

「だって!」

 直後、火の勢いが強くなり、店の中には戻れなくなってしまった。

 何匹か残ってしまったようで、スタッフさんがエプロンを握りしめて泣いている。マスターが、その肩を抱いて、一緒に耐えている。

 

「お分かりになりましたか……」

 メイドさんがマスターと同じように肩を抱いてくれている。

「焼け死んじゃったんだね、お父さんが買ってくれた子ネコ」

「はい、けして忘れちゃったわけではないんですよ」

「……」

 涙で前が滲むと。ペットショップは元のスマホショップに変わっていた。

「確かめるって、このことだったんだ」

「事実を知っても耐えられるお歳になったんですよ、お嬢様」

 ふと顔をあげると、メイドさんはポニテではなくツインテールに変わっている。

「あ、あなたは!?」

 そいつは、ペコリお化けの代わりに現れるようになったメイドお化け!

「だいじょうぶ、今日はお守り石持ってるでしょ。交換手さんにも言われてるし。今日は良い子のメイドなんです」

 そういうと、肩に置いた手を下ろし、ゆっくりと後ずさっていく。

「でも、いつも良い子とは限りませんからね……いってらっしゃいませ、お嬢様」

 美しくお辞儀をするとメイドお化けは消えていった。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん      図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け

 

 

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