大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

まりあ戦記・048『ナユタのおへそ』

2020-12-06 14:42:32 | ボクの妹

・048

『ナユタのおへそ』   

 

 

 カルデラの天辺まで5メートルという岩場のテラスまで上がった。

 

「天辺までは上がらないの?」

「天辺だと、夕日が強すぎて石英の輝きが鈍くなるの、ここらへんが一番きれい。ほら、あそこ」

 ナユタが指差した谷底には、谷底の筋に沿ってキラキラ光る石英の群落が見える。

「ああ……」

 ビックリマークが出るほどには驚かない。

 期待が大きすぎたのか、夕陽を含んで茜色に輝く石英群を、それほどきれいだとは思わない。手をかざしながら西の地平線に迫りつつある夕陽が雲を染めているほうがきれいに思える。

「あ、もう十二月だっけ……?」

「うん、えと……」

 とっさに日付までは出てこないので、スマホを出して確認する。

「あ、もう六日」

「そっか……日差しの入射角とかが影響するらしくって、冬の間は輝きが弱いんだよ。また、こんどかな」

「そうなんだ」

「先輩『もう六日』ってゆったけど、知らないうちに日付が進んだって感じ?」

「うん、いろいろ忙しかったしね」

「いっしょだね、所属は違うけど、ヨミのためにこき使われてるってのは同じだもんね」

「あんたは、どこの所属なの?」

「ヨツビシだよ」

「民間なの?」

「まあね、特務旅団でもやりにくいような開発とか実験とかをやるセクション。開発室って呼んでる」

「あんた……」

「ああ、その『あんた』ってのは止してほしいかな」

「あ、じゃあ、ナユタ」

「それもコードネームなんだけどね、ま、いいや」

「本名じゃなかった?」

「えと……本名はカンベンってことで」

「うん、いいよ」

「ここに来るまでは、京都に住んでてね、鞍馬の麓んとこ」

「京都にしては、訛ってないんだ」

「うん、あんまり人と付き合いなかったし。あ、今度、メールとかしていいっすか?」

「うん、いいよ、番号交換しとこうか」

「うん」

「あれ?」

 ホルダーを開いてみると、すでに『ナユタ』の名前で番号が入っている。

「てへ、ちょっとフライングしちゃった」

「ハッキングの能力とか?」

「ちょっと、嬉しくなっちゃったりするとね(n*´ω`*n)。あ、先輩のは送ってくれないと登録できないし」

「そう、じゃ……スマホは?」

「ナユタのはウェアラブルみたいなもんだから、送ってくれるだけでいい」

「そう、じゃ、送るよ……」

「はい、受け取りました」

 用事がすんだスマホを戻そうとしたら、バッグがパンパンで入らない。

「キツキツなんだ」

「仕方がない……」

 ポケットの過去帳と入れ替えにすることにする。

「え、それ、なんですか?」

「あ、過去帳」

「過去帳? 先輩の黒歴史とかっすか!?」

「違うわよ。うち浄土真宗だから、亡くなった身内は、ここに書いておくのよ」

「見せてもらっていいっすか?」

「え、あ、うん、いいわよ」

 手をパンツの脇で拭くと、気を付けして両手で受け取った。

「なんか、月別になってるんですね……え、先輩って中国の人だったんすか?」

「え、なんで?」

「釋 善実……読み方分かんないけど、こういうのって中国とか半島とか?」

「アハハ、法名って言ってね、死んだらお坊さんが付けてくれる、まあ、戒名みたいなもの」

「そうなんだ……で、なんて読むんですか?」

「シャクゼンジツ、あたしのお兄ちゃん」

「お兄ちゃんっすか!?」

「うん、生きてたらいっこ歳上なんだけどね」

 ナユタは顔を近づけ、指で愛しむように俺の法名を撫でやがる(n*´ω`*n)。間近で見ると、まだまだ幼さの残る顔立ちをしていやがる……か、かわいいぜ!

「ありがとう」

 過去帳の俺はスマホと交代にバッグの中に押し込まれてしまう。

「そうだ、この辺にも石英の欠片があって……ほら、あそこ!」

 見上げると、二メートルちょっとのところに光るものがある。

「あれ?」

「うん、ヨミのパルスショックで出来たものだから、飛び散ったのがね…手に取ってかざしてみると、とてもきれいで、ちょっと取って来る!」

「あ、大丈夫?」

「へいきへいき!」

 猿のように岩肌をよじ登るナユタ。

 カットソーがめくれ上がって、下から見守っているとブラまで見えそう……石英を取ろうとして体を捻ると笑いそうになる。なにのお呪いか、おへその所が絆創膏が✖の形に張り付けてあった。

 

 

 

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やくもあやかし物語・20『ミチビキ鉛筆』

2020-12-06 06:55:41 | ライトノベルセレクト

物語・20

『ミチビキ鉛筆』   

 

 

 夢だと分かってる。

 

 だって、焦ってるもん。

 お医者さんに注射をされた。

 風邪の注射だから眠くなるんだ。

 でも、自然な眠りじゃないから、少しだけ意識がある。

 その意識が、これは夢だと言っている。

 

 明日は試験があるんだ。転校して最初のテストだから欠点はとりたくない。

 

 注射のお蔭でだいぶ楽になった。だから、起きて少しでもノートとか見ておきたい。

 ノートは真面目にとってる。だから、ざっと見て、大事なとこを書くだけで平均点ぐらいはとれるんだ。

 だから目覚めなきゃ……目を……覚まさなきゃ……目を…………

 

 しまった!

 

 NHKの朝八時のニュースが聞こえる。お爺ちゃんがダイニングで朝ごはん食べながら聞いてるんだ。それが、わたしの部屋まで聞こえてくる。いつもだったら玄関を出る時間だ。風邪ひきなもんだから、休ませようと思って、だれも声を掛けないんだ。

 一分で制服に着替えると階段を掛け下りる。

「だいじょうぶ、やくも?」

「あ、お母さん!?」

「休んでなさい、学校には電話しといてあげるから」

「だめ! 今日は試験だから休めない!」

「でも、やくも……」

 

 というわけで、ミチビキ鉛筆を前に置いて一時間目の試験が始まろうとしている。

 

 十秒で説明すると、お母さんがくれたミチビキ鉛筆。

 お尻のところの塗装を削って1~5の数字が書いてある。答えに詰まったら転がして出た数字が正解なんだそうだ。

 急いでいたから、そのまま胸ポケットに入れてきた。

 チャイムが鳴る前に練習問題で試してみた。五問やって全部正解が出た!

 これ、いけるじゃん!

 思ったけど、ポーカーフェイスで答案が配られるのを待っている。

 前の子が緊張した顔で問題用紙を送ってきた。一瞬目が合って――がんばろうね!――エールの交換やる余裕さえあった。

 なんたってミチビキ鉛筆が、わたしにはある!

 

 チャイムが鳴って「始め!」と先生の号令。

 

 問題用紙と解答用紙をひっくり返して、まずは名前を書く。

 第一問……ゲ!?

 選択肢がA~Gの七つもある! 目を下にやると、八つ。その下は九つ、その次は十個!?

 これではミチビキ鉛筆が役に立たない! タラ~っと汗が流れる。

 

 だんだん答案用紙がボヤケテきて焦る。

 こうなっては、勘を頼りに書くっきゃない!

 

 破れかぶれの決心したところで……目が覚めた。

 あれもこれも夢だったんだけど、今日からテストであることは現実だった。

 

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かの世界この世界:154『オオカミ王子フェンリル二世』

2020-12-06 06:43:42 | 小説5

かの世界この世界:154

『オオカミ王子フェンリル二世』語り手:ポチ    

 

 

 なにを驚いてるの?

 

 トンネル小僧が不思議そうな顔で聞く。

「そ、それは(ついさっきまで1/6サイズだったなんて言えない)……おまえが、か、かわい……変わってるからだ! お、オオカミの耳こそしてるけで、まだ、ほんのガキじゃないよ!」

「子どもでも立派なオオカミだ」

「どこがよ! あたしと目が合っただけで、ぶっ飛んで逃げちまうし、グニャグニャトンネルとラビリンスの区別もついてないし、あたしみたいな女の子に組み伏せられるし!」

「おまえが怖すぎるんだろ! おまえ、目が合った時は人形みたいにちっこかったくせに……」

「ちっこいゆーーーな! あ、あたしは、最初っからこのサイズよ、あんたの目がおかしいんだ!」

「え? そ、そうなのか…………また見間違えたのか」

「え?」

「………………」

「簡単にしおれないでよ。だいたい、何者なのよ、あんた?」

「おれは、フェンリル二世だ」

「ニセ? おまえ、なにかの偽者か?」

「二世だ、に・せ・い、二代目って意味の二世だ!」

「二世? おまえ、田舎貴族かなんかか?」

「田舎貴族だと!? 失礼な! おれはオオカミの王子だ」

「オオカミの王子? お、おまえが!?」

「お、おう」

「オオカミの王子が、なんで、泥棒みたいにエスケープハッチから入ってくんのよ!?」

「森の出口が二重になってんのかと思ったんだよ」

 森の出口? 

「カテンの森も縮んでしまえば、ヨトゥンヘイム(巨人族の国)は完璧に縮んで、スヴァルトアルムヘイムがユグドラシルの中心の地位を取り返せるからな」

「取り返すだと?」

「そうだよ、世界樹ユグドラシルの中心は根っこのスヴァルトアルムヘイムだ。ヨトゥンヘイムの巨人たちじゃない。いや、もう巨人でさえない半神族にやられた上に、縮んでしまったからな」

 むかつく話だけど、疑問が大きくなる。

「ちょ、その半神族のスヴァルトアルムヘイムに、なんでオオカミ族のあんたが肩入れしてんのよ?」

「スヴァルトアルムヘイムは、元々はオオカミ族のものだ。半神族が大オオカミ王たるフェンリル一世を姦計にかけるまではな」

「大オオカミ王?」

「ちょっと長い話になるけど、いいか?」

「お、おう、聞いてやろうじゃないのよ」

 フェンリルは、記憶を整理するように空を仰いでから語り始めた……。

 

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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