大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:163『ミョルニルハンマーの小型版』

2020-12-21 15:07:27 | 小説5

かの世界のこの世界:163

ミョルニルハンマーの小型版語り手:ポチ    

 

 

 ちょっと予定が狂った。

 

 オーナーのオジサンがうつむいたまま呟いたよ。

 あんまり密やかな声なんで、どこかに人が隠れていて、思わず漏らした声かと思ったくらい。

 でも、すぐに顔を上げて、あたしとダグ(フェンリル二世)の顔を見たんで、オーナーだと分かる。

「仕方がありません、ここで処理しましょう」

 オバサンもゆっくりと顔を上げたよ。

 ダグはどうしているのかとチラ見したよ。

「え……ダグ?」

 ダグは「ところで、オーナーさんたちは半神族じゃありませんね……」の、最後の「ね……」の顔のまま固まってしまっている。

「いやはや、おどかしてごめんね、ポチ」

「ポ、ポチ!?」

 いきなり真名で呼ばれてしまったんで、思わず両手で頬っぺを挟んで、ムンクの『叫び』みたいに驚いてしまったよ。

「あなた、この子の今の名前はポナですよ」

「ああ、そうだったな。ポナ……」

「いえ、わたしはルポライターのエリザベス……」

「もういいのよ、あなたは素直な子だから、フェンの言うままに、ここまで来てしまったのよ」

「フェンは悪い奴じゃないんだけど、思い込みがきつくて、自分の目的の為に人を巻き込んでしまう」

「もう、フェンの力だけで立て直せるほどユグドラシルは簡単じゃないのよ」

「フェンには、少し眠ってもらって、ポナは姫のところに戻ってもらう」

「でも……いえ、いったい、お二人は?」

「主神オーディンに仕える者だよ、もともとはトール元帥の部隊に居たんだけどね」

「あなた、それは……」

 オバサンがオジサンの手を握った。なんだか、あたしが聞いてはいけない話のようだよ。

「時の女神は、もうユグドラシルには居ないわ」

「え!?」

「姫が、このままブァルハラに進まれても何も解決しない。オーディンから姫の進むべき道を示すように命じられてきたんだけどね、わたしたちの姿は、もう姫には見えないんだ。それで、こちらの世界にやってきたポチ(ポナだって(^_^;))に頼もうと思ったんだけどね、フェンが先に……」

「それで、ここに宿を作って、ね……」

「今夜、眠っている間にケリをつけるつもりだったんだがね」

「フェンが余計なことを言うから」

「まだまだ、フェンは子どもだからな」

「じゃ、あなた」

 オバサンがカウンターからトンカチのようなものを取り出した。

「釘でも打つんですか?」

「まあ、釘をさすってとこかな」

 オジサンが釘を出して、オバサンに差し出した……そのトンカチ、見覚えがあるよ。

「ミョルニルハンマーの小型版」

「トール元帥の部下だったって言ったでしょ」

 釘はオバサン、ハンマーはオジサンに持ち替えられた。ちょっと儀式めいている。

「これから起こること、しっかり見ておくんだよ。ポチが人形になって、そして、原寸大になったのは意味のある事なんだから」

「う、うん」

「じゃ……」

 オバサンが目の高さに持ち上げた釘をオジサンがハンマーで打ち付けた。

 ガシッ!

「え!?」

 息をのんだ。

 釘を打つ音は、ごく小さい『カツン』という音なんだけど、『ガシ』って音は、となりで固まってるフェンの頭からしたんだよ。

「え、ええええ!」

 直接釘が撃ち込まれたわけでもないのに、フェンの額にヒビが入って、みるみる全身に広がって行ったかと思うと。

 パリン

 儚い音を立てて、フェンは無数のポリゴンになって崩れていってしまった。

「さあ、こんどはポチの番だ」

「え?」

「大丈夫、死ぬわけじゃないから」

 オジサンがハンマーを一振り……目の前が真っ白になった……。

 

  •  ☆ ステータス
  •  HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
  •  持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
  •  装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
  •  技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
  •  白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
  •  オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾
  • ☆ 主な登場人物
  • ―― かの世界 ――
  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  • ―― この世界 ――
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妹が憎たらしいのには訳がある・6『過剰適応』

2020-12-21 05:55:49 | 小説3

たらしいのにはがある・
『過剰適応』
          

 

  


 見てはいけないものを見た気がした。

 幸子は、たった十五分でアコギをマスターし、いきものがかりのヒットソングを、ケイオンの女ボス加藤先輩よりも、はるかに上手く唄っている。
 加藤先輩はおおらかな人柄で、自分よりうまい幸子に嫉妬などせずに、素直にその上手さに感心して、バックでベースギターを弾いて合わせた。他のメンバーも加わり、まるで視聴覚教室はライブのようになってしまった。

 いたたまれなくなって、そっと視聴覚教室を出て、そのまま下足室に向かった。
「おい、なんかケイオンが、ライブやってるらしいで!」
「ほんまや、チーコがメール送ってきよった」
「なんや、すごい子が……」
「行ってみよか!」
 そんな言葉を背中で聞きながら、俺は靴に履きかえ、家に帰った。

「「おかえり」」

 親父と、お袋の声がハモって出迎える。
「早いんだね」
「ああ、今日は出張だったんで、出先から直帰してきた」
「幸子といっしょに帰ってくるかと思ったのに」
「幸子なら、学校で人気者になっちゃって、ケイオンのみんなに掴まってるってか……掴まえてるってか」
 俺は、学校でのあらましを話した。
「そう、あの子は熱中すると、のめり込んでしまうからね」
「いや、そんなレベルじゃないよ」
「幸子、わたし達が別れてから、お兄ちゃんに会いたいって、ファイナルファンタジーにのめり込んで、一月で、コンプリートしたのよ」
 俺は、再会した日のメモリーカードを思い出した。

――コンプリートして、ハッピーエンド出したよ!――

「それから、いろんなものに熱中するようになったわ。ゲームから始まって勉強まで。それで成績トップクラス。だから、まだ三学期が残ってるのに引っ越しもできたんだけどね」
「部活は?」
「最初は、書道部やってたんだけど、中一で辞めちゃった……」
 そう言って、お袋は、一枚の作品を持ってきた。
「これが、一枚だけ残ってる作品。あとは、幸子、みんなシュレッダーにかけちゃった」
「すごいよ、これ……」
 素人の俺が見てもスゴイできだった。
「都の書道展で、金賞とったのよ」
「どうして……」
「上手いけど、個性が無いって。投げ出しちゃった」
「幸子は個性にひどくこだわるんだ……」
 俺たち親子は、幸子の「天衣無縫」と書かれた作品をしばらく見続けた。

 どのくらい見続けていたんだろう。自転車の急ブレ-キとインタホンの音で我に返った。

――向かいの佳子です。幸子ちゃんが駅前で!――

「どうしたの、幸子が!?」
 すぐにお母さんが、ドアを開ける。佳子ちゃんが、転がり込んできた。
「実は、幸子ちゃん……!」
「過剰適応だ……太一は自転車で駅前に行け、その方が早い。母さんとオレは車で行く!」
「あたしも、行きます!」

 佳子ちゃんと二人、自転車で駅前に急いだ。

 駅前は、佳子ちゃんが言ったように黒山の人だかりだった。人だかりの真ん中で、幸子の歌声が聞こえた。それは、視聴覚教室で聞いたときよりもさらに磨きがかかっていた。これだけの人がいるというのに、怖ろしく声が通り、ハートフルでもあった。
 俺は、なんとか聴衆をかき分け、幸子が見えるところまで来た。幸子はクラブで貸してもらったんだろう。練習用のアコギをかき鳴らし、完全に歌の世界に入り込み、涙さえ流しながらいきものがかりの歌を唄っていた。
「幸子、もう止せ、もういい!」
 幸子を止めさせようと思ったけど、オーディエンスのみんなが寄せ付けてくれない。いら立っていると、聴衆をかき分けかき分けしてお父さんがやってきて、幸子の耳元で何かささやいた。すると、幸子は、残りを静かに唄いきって終わった。


「どうもみなさん、ありがとうございます。もう夕方で、交通の妨げにもなりますので、これで終わります。ごめんなさいお巡りさん。じゃ、またいつか……分かってますお巡りさん。ここじゃないとこで」


 警戒に立っていたお巡りさんが苦笑いをした。

 人が散り始めるのを待って、親父は幸子をお袋の車に乗せようとした。

「最後の曲分かった?」
 いつもの歪んだ笑顔で聞いてきた。
「ああ、いきものがかりの『ふたり』だろ」
「そう、なんかのドラマの主題曲……」
 さらに冷たい声を残して、車は走り出した。
「…………あ」
「どないかした?」
 ペダルに足をかけながら、佳子ちゃんが聞いてきた。

 あの歌は『ぼくの妹』の主題歌だ……

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・35『A君』

2020-12-21 05:44:32 | ライトノベルセレクト

物語・35

『A君』       

 

 

 A君が転校しました。

 

 担任の先生が言う。

 クラスのみんなは無言だけど――ああ、やっぱりな――という空気が流れる。

 次の休み時間には、クラス委員二人でA君の机を運び出していった。この三か月、A君の机はみんなの物置同然だった。

 季節が寒い時期に差しかかるところだったので、机の横や、後ろの棚に置ききれない防寒着やいろいろを置くようになったんだ。

 クラスの何人かは――A君はイジメられていた――と噂していた。クラスのXやYやZやらがイジメていたと言うけど、わたしには分からない。みんなも無関心、ひょっとしたら無関心を装っているのかもしれないけど、シレっとしている。

 そして、なにより、わたしはA君を思い出せない。

 わたしも学年の途中で転校してきた人だし、A君は休みがちだったし。

 ま、仕方がないと思う。

 

 もうちょっとで三学期も終わる。ほんのちょっとの春休みが終われば新学年。

 ま、やり直せばいいさ。

 

 学校というのは横の連絡が悪い。

 美術の時間で、こんなことがあった。

「今から二三学期の作品を返しま~す」

 のどかな声で言って、先生が名前を読んで作品を返す。

「A君……A君……A、休みかあ?」

「先生、A君は転校しました」

 委員長が答える。

「え、あ、そうか」

 思い当たったのかとりつくろったのか分からない声をあげて、先生は分かりやすく当惑した。

 分かるんだけどね、年度末に向けて準備室とか整理したのに、ハンパにものが残るのはね……。

 でも、無いと思いますよ、そういう反応は。

 先生は、一度準備室に戻って、九十秒ほどで戻ってきた。

「小泉さん、あなたA君ちの近所だから持ってってくれないかなあ」

 今の九十秒で、先生は学校のCPにアクセスして、A君最寄りの生徒を検索してたんだ。

 こういう場合「無理ッ!」とか「えーーーなんでわたしい!?」とか言えば逃れられるのかもしれないけど、そういうのを何度も見聞きしていると、そんなささくれだった言い方はできない。

 は……はい。

 大人しく引き受けてしまう。

 作品の中に自画像が入っていた。

 なんかエヴァンゲリオンの碇シンジみたいな思い詰めた顔が画用紙の1/2くらいの面積で描かれている。

 めんどくさそうなヤツ……思ったけど、顔には出さない。

 

 帰り道、崖道を通る。

 

 A君のこと考えたくないから、あちこち景色を見ながら歩く。

 あれ?

 ペコリお化けが居ない。

 それどころか工事も終了していて、今風のポリゴンを節約しまくったCGのように素っ気ない家が建っている。

 わたしってば、こんなに無関心に歩いていたんだ。

 一度帰ってしまうと、きっと億劫になる。だから、先生に書いてもらった地図を頼りにA君の家を探す。

 ……あった。

 もう引っ越していない確率50%できたんだけど、ピンポンを押すと本人が出てきた。

 先生が「Aは一人っ子だから、男の子が出てきたらAだから」と、念を押した。わたしが「会えませんでした」とか言って持って帰ることを恐れていたから。

 リアルA君は、自画像ほどにはひどくなかった。

 でも、やっぱ、こんな人いたっけ?

「ありがとう、小泉さん」

 とても嬉しそうに受け取ってくれた。碇シンジは訂正、碇シンジはこんな風には笑わない。

 なんか、一言二言言って別れた。

 

 いっけない、お風呂掃除!

 

 慌てて家に帰る。お爺ちゃんは出かけていて、結果オーライ。

 お茶の間で一息ついていると、お隣りさんが回覧板を持ってきた。

 緊急連絡が入っている。

 え…………ええ!?

 A君が夕べ病院で亡くなって、葬儀のダンドリとかが書いてある。

 さっき……作品を手渡ししたA君は何者なんだ?

 ゾゾ……

 ここのところ居座っている寒波のせいではない寒気が背筋を伝わった。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする