魔法少女マヂカ・190
授業が始まるわよ。
二階建ての校舎からは見えるはずもない十二階相当の高さからの景色を見続けているのは不吉なので、小さく声をかける。
「大丈夫、学校の時間は停まっているから……ちょっと外に出てみましょ」
霧子が向くと、今の今まで漆喰の壁だったところにエレベーターの扉が現れた。
エレベーターと言っても令和に時代のそれではなく、武骨な鳥かごのようなもので上がって来ると、鳥かごの前面が折りたたむようにして開く様式。
チン
音がすると蛇腹になった鉄格子が開き、霧子と二人で乗り込む。
チンチン
二度音がすると、ガチャリと蛇腹鉄格子の扉が閉まって、エレベーターは降下し始める。
「気持ち悪くはない?」
「え?」
「始めて乗ると、気分の悪くなる人がいるから」
「ああ」
降下し始めたエレべ-ターは一瞬無重力に似た浮遊感がある。大正時代の人間は、ほとんどエレベーターなどに乗ったことが無く、この浮遊感に酔うことがあるんだろう。
「慣れているようね」
「少しはね……」
あとは聞かずに一階に着くのを待つ。
ガックン
令和のそれと比べるとショックの大きい到着音、続いて到着を示すチンの音がしてガシャガシャとドアが開く。
「「あ」」
二人で同じ声をあげる。声は同じだが、意味は微妙に違う。
わたしは、てっきり一階に着くものと思っていたが、着いたのは、どうやら地階なので驚いた。
霧子は、どうやらいつもとは様子が違うので戸惑っている驚きのようだ。
霧子といっしょに首を巡らすと理由が知れる。
凌雲閣の八角形の壁面に合わせて、合計八枚のドアが付いているのだ。
「ひょっとして、いつもは一つだけ?」
「ええ、そうよ。ドアはいつも一つだった。それを開けると階段で、一階分上がって地上に着くの」
「どのドアか、分からない?」
「ええと……」
八枚のドアは、アールヌーボー式の装飾の付いた鉄製のドアで、目の高さにプレートが嵌っているんだけども、プレートはのっぺらぼうでなにも記されてはいない。
「もどる?」
「試してみましょ、真智香さんは左からおねがい。わたしは右側から」
「うん」
分担して八枚のドアに挑戦。
ガチャガチャ ガチャガチャ
どのドアも施錠されていて、四枚ずつ点検して、互いに半周したところで出会ってしまった。
「ぜんぶ閉まってる」
「ひょっとして……」
エレベーターのドアに向かってみるけど、エレベーターのドアは鉄の格子ごと鎖と南京錠で施錠されている。
「閉じ込められた!?」
さすがに霧子も声が尖がって来る。
「ええと……あ、見て!」
エレベーターと対面のドアに照明が当たり、プレートに表示が浮かび上がってきた。
1923/09/01
関東大震災が起こった日付を示していた。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手