大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・183『詩ちゃんと大掃除』

2020-12-19 14:52:16 | ノベル

・183

『詩ちゃんと大掃除』さくら   

 

 

 きょうは自分の部屋の大掃除。

 

 来週になると本堂とかの大掃除になるので、まずは自分の部屋から。

 お寺の大掃除はたいへんなんです。

 なんせ、敷地だけど五百坪。本堂の内陣と外陣で百坪。とても一日では終わりません。

 去年は、まずはお寺が先と思て、自分のを後回しにしたら、ヘゲヘゲでなんにもできませんでした。

 まあ、その年の四月に引っ越してきたから、大掃除いうほどのこともないこともあったんやけどね。

 せやさかい、今年は、まずは自分の部屋から。

 

 わたしの部屋は玄関上がって、リビングの外の廊下をL字型に進んだどん詰まりを階段を上がった二階。

 廊下を挟んで詩(ことは)ちゃんと向かい合わせの八畳間。

「「よし、やるぞ!」」

 詩ちゃんと、気合いを入れて、それぞれの部屋にかかる。

 たった一年と九カ月やねんけど、本棚の後ろとかベッドの下は埃だらけ(^_^;)

 床のカーペットを半分まくって、本堂用の掃除機をガアアアアって感じでかけまくる。

 ガアアアアア グガガガガガアアアアアア ガッガッガッガガアアアアアアア

 え、え、なんか音がおかしい(;゚Д゚)

「ゴミが溜まってるんだよ」

 詩ちゃんが廊下まで出てきて忠告してくれる。

「えと……(掃除機の開け方が分からへん)」

「あ、こうやるんだよ」

 バッチンていうんやろか、トランクの金具みたいなんをバッチンと開けて、グニっと回してカパッと開ける。むろん開けたのは詩ちゃん。

「「うっわあああ!」」

 ゴミ袋がパンパン。

「このまま取り出したら、埃だらけになっちゃうよ(^_^;)」

「窓、あけよか」

 詩ちゃんの提案で、越してきた時に一回開けただけの窓を開ける。

 うちの部屋は、あたしが越してくるまでは、ずっと物置になってて、あたしが使う分だけ片づけただけやから、窓を半分隠すようにして、屏風みたいなもんが突っ込んである。それをどけて、どっこいしょ!

 グァラリ!

「うっわああ!」

 開けてビックリ。

 窓の外は、お寺の裏通りになってて、四メートルの生活道路を挟んでお隣りさん。

 ほら、去年火事が起こった、あのお家。

 お隣りとは、町会の班が違うので日常的なお付き合いはない。

 お隣りに行くには、階段を下りて、L字の廊下を通って玄関に出て、本堂と釣鐘堂の前を通って山門を出て、お寺の外周を半分回ったとこ。

 ちょっと遠い感じやったんやけど、こうやって窓を開けると、ちょっとジャンプしたらお隣りの玄関先。

 ちょっと変な感じ。

「去年の火事、大事になってたら、ここから燃え移ってるね……」

 詩ちゃんが怖いことを言う。

「さ、ゴミ袋」

「本堂やったね」

「あ、この部屋にもあるよ」

「ほんま?」

「うん……」

 詩ちゃんはデリカシーのある子ぉで、さすがに元物置とは言わへん。

「こっちのクローゼットにね……」

 これも思いやり。ただの納戸やねんけど、クローゼットと優しく言うてくれる。

「ええと、たしか……こっちに」

「あ、これ?」

「あ、そうそう」

 その時、ちょっと無精して、手前の段ボール箱をどけへんかったんで、バランスを崩した段ボール箱がドサドサっと落ちてきた。

「あっちゃあ」

 オッサンみたいな声あげて、片づけようと思ったら、箱が崩れて中身が出てきてしもた(^_^;)。

「あ、これ、お祖父ちゃんのだ」

 中身はノートやら原稿用紙やらがびっしりと詰まってた。

 チラリと見ると、原稿みたい。

「お祖父ちゃん、昔は小説家になりたかったとか言ってたから……」

「すごい、みんな手書きやんか」

 ビッシリ入ってる原稿、あんまり多いんで読んでみよういう気にはなれへん。とりあえず、ビックリ。

 その中に、厳重に封印されて巻いた麻ひもの結び目も蝋で固めてあるという特別そうなのが目に入る。

「え、うそお!?」

 袋に筆書きしてあるタイトルを見てビックリした。

 

「『鬼滅の刃』!?」

「ちょっと、違うみたい……」

 詩ちゃんと落ち着いて読み直すと……タイトルは……

「『滅鬼の刃』!?」

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・4『幸子は佳子ちゃんと友だちに』

2020-12-19 05:43:31 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子は佳子ちゃんと友だちに』
          

 

  

 

 人間はたいていの環境の変化にはすぐに慣れる。

 自他共に認める「事なかれ人間」の俺は、三日目には、幸子の可愛さと、それに反する憎たらしさに慣れてしまった。
 幸子は、家の外では多少コマッシャクレ少女だが、まあ普通……より少し可愛い妹だ。家の中では、相変わらずのニクソイまでのぶっきらぼう。

 六日目に、一度だけお袋に聞いた。ちょうど幸子がお使いに行っている間だ。

「幸子……どこか病気ってか、調子悪いの?」
「え……どうして?」
 お袋は、打ちかけのパソコンの手を休めてたずねてきた。ちなみにお袋は、在宅で編集の仕事をやっている。
「あ……なんてか、躁鬱ってんじゃないけど、気持ちの起伏が、その……少し激しいような……」
「…………少し病んでるの、ここがね」


 お袋は、俺の顔を見ずに、なにか耐えるように胸をおさえた。


「……あ、ああ。思春期にはありがちだよね。そうなんだ」
 それで納得しようと思ったら、お袋は、あとを続けた。
「夜中に症状がひどくなることが多くてね、夜中に、時々幸子の部屋にお母さんたちが入っているの知ってるでしょ」
 俺は、盗み聞きがばれたようにオタオタした。
「いや……それは、そんなにってか……」
「いいのよ、わたしも、お父さんも。太一が気づいてるだろうとは思ってたから……」
 そういうとお袋は、サイドテーブルの引き出しから薬の袋を取りだした。袋の中にはレキソタンとかレンドルミンとかいうような薬が入っていた。

 処方箋を見ると、向精神薬であることが分かった。


「……俺が何か気を付けてやること、あるかなあ?」
「そうね……どうしてとか、なんでとか、疑問系の問いかけは、あまりしないでちょうだい」
「う、うん」
「それから、逆に、あの子が、どうしてとか、なんでとか聞いてきたら、面倒だけど答えるように……そんなとこかな」
「うん、分かった」
「それと、このことは、人にはもちろん、幸子にも言わないでね」
「もちろん」
「それから……」
 と、お袋が言いかけて、玄関が乱暴に開く音がした。

「お母さん、この子怪我してんの!」

 幸子が、泣きじゃくる六歳ぐらいの女の子を背負ってリビングに入ってきた。


「お兄ちゃん、大村さんちの前にレジ袋おきっぱだから、取ってきて。それから、大村さんの玄関に、これ貼っといて」
 女の子をなだめながら、背中で俺に言った。渡されたメモは広告の裏で『妹さん預かっています。佐伯』とあった。
 メモを貼って、レジ袋をとりに行って戻ってくると、幸子は女の子の足の傷を消毒してやっているところだった。
「公園から帰ってきたらお家が閉まっていて、家の人を探そうとして転んだみたい」
「いたいよぉいたいよぉ」
「大丈夫よ、優子ちゃん。オネエチャンがちゃんと直してあげるからね、もう泣かないのよ……」
 幸子は、まるでスキャンするように優子ちゃんの傷に手をかざした。
「大丈夫、骨には異常は無いわ。擦り傷だけ……」
「はい、傷薬」
 お袋は、手伝うこともなく、薬箱の中から必要なものを取りだして、幸子に渡した。幸子は、実に手際よく処置していく。


 ピンポ~ン

 インタホンが鳴った。


「すみません、大村です。妹が……」
「あ、佳子ちゃん、じつは……」
 佳子ちゃんを招き入れ、お母さんが手際よく説明。優子ちゃんも姉の佳子ちゃんを見て安心したんだろう。涙は浮かべつつも泣きやんだ。
「まあ、幸子ちゃんが。どうもありがとう……わたし、用事でコンビニに行ったら、友だちと話し込んでしもて。それで優子、自分でお家に帰ってきちゃったんや。ごめんね」
「用事って、それ?」
 幸子は、佳子ちゃんが手にしている書類に目をやった。
「あ、わたしドンクサイよって、出願書類コピーで練習しよ思て、十枚もコピーしてしもた」
「佳子ちゃん、どこの高校受けるの?」
「あ、それ、友だちと話ししてたとこ。わたし真田山にしよ思て」


 それがやぶ蛇だった。

 ひとしきりお袋と優子ちゃんの二人を交えた女子会になり、終わる頃には、幸子は大村姉妹と仲良しになり、ついでに受験先も、我が真田山高校に決まってしまった。

 そして、二日後、なんと幸子は真田山高校に一人で体験入学に来た……。

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やくもあやかし物語・33『最初の晩餐』

2020-12-19 05:24:17 | ライトノベルセレクト

物語・33

『最初の晩餐』     

 

 

 それから黒電話に変異は無い、いまのところね。

 七割安心して、三割期待してる……と思って、慌てて否定。

 三割でも期待して、本当になったらどうすんのよ(;'∀')!

 慌てて、ひとりエンガチョを切る。

 

 戦時中の真岡にあったものでもない。単に芳子ひい婆ちゃんのころに電電公社が据え付けたものだ。

 梅の咲くころまでには、そっけない部屋のオブジェとして収まった。

 

 庭の梅の木にポツリポツリと花がほころび始めた時に来客があった。

 

 梅田さんという苗字は暗示的だったけど、お婆ちゃんの和室にお茶を持っていくと、うちのお婆ちゃんと同年配の中肉中背のオバサンだ。お婆ちゃんと同年配でオバサンというのもおかしいんだけど、若く見えるから。

 若く見えると言っても、美人だとかいうわけじゃない。

 ただ、よく喋る。お喋りが若やいでいる。

「まあ、これが孫娘のやくもちゃん?」

 遠慮なく、わたしの顔を品定めする。

「さすがに、あなたの孫ね。キュートで可愛い、学校でもモテるでしょ?」

「いいえ、そんな(#´∪`#)」

 言いながら思った。お婆ちゃんとは血のつながりがないから『あなたに似て』というのはおかしいというか、不用意な発言。

 お婆ちゃんも言い返すこともなくニコニコしている。まあ、ほんの社交辞令と聞き流しているんだろう。

「どう、新しい学校には慣れた?」

 お尻を上げようとすると話題を振られる。

「はい、慣れました」

 だけでは愛想が無い。

「友だちは、そんなにいませんけど、先生も生徒もいい人ばかりです」

「そうでしょうね、やくもちゃん、陰りのないいいお顔してるもの」

 それからも、梅田さんはよく喋った。

 以前は近所に住んでらしたらしく、中学もわたしの通っている中学の出身。うちの中学は昔から美男美女の少ない学校で、うかうかしてるとブスが染っちゃうからほどほどでいいのよなどと言う。梅田さんは「わたしはよく喋ったのでブスが染っちゃったあ!」とケラケラ。

 これは、コミュ障っぽく見える(じっさい友だち少ないんだけど)わたしをフォローしようって気持ちなんだろうけど、しっくりこなくて曖昧な笑顔をしておく。

 いいかげん持て余したころ、部屋の外で電話のベルが鳴った。

「失礼します」

 と言って部屋は出たものの、いつもの固定電話じゃない。

 リビングにいったら、やっぱ、着信のベルは鳴っていない。

「まさか……」

 部屋に戻ると、むろんオブジェの黒電話も沈黙している。

 いったい……?

 腕組みしていると、今度はほんとにリビングの電話が鳴る。

 パタパタとリビングに戻る。

「もしもし、小泉ですが」

 受話器を取ると――あ――と声がする。「あ」だけでも分かる。お母さんの声だ。

――ごめん、間違えて家に電話してしまった! 島田くん、そっちの電話で、ごめんね――

 お母さんは、自分のミスを島田くんとやらに押し付けたようだ。地声がでかいから、受話器を手で押さえていても聞こえてしまう。

「もう、しっかりしてよね」

――そおだ、久々に二人でご飯食べようよ(^▽^)――

 島田くんをスケープゴートにして、久々に親子の晩餐になる。

 それにしても、あの電話の呼び出し音は?

 ま、いいや。少々の不思議には驚きません。

 お婆ちゃんにことわり入れようと思ったら、すでにお母さんが携帯で連絡していた。

 お婆ちゃんと梅田さんの笑顔に送られて、最初の晩餐に出かけるわたしでした。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

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