大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・148『ミリーの頼まれごと・4』

2020-12-17 11:12:35 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)148

『ミリーの頼まれごと・4』ミリー    

 

 

 お弁当箱の入った巾着袋を抱えて家庭科準備室へ、階段の踊り場から正門が見える。

 

 遅刻した生徒は、正門を入ったところの守衛室で入室許可書をもらわなければならない。守衛室のカウンターに見覚えのある女生徒……Sさんだ!?

 体調悪いのに大丈夫……?

 この距離でも気配を悟ったのか、わたしの姿に気が付いて、ピョンピョン跳ねながら手を振って来る。

 可愛く健気な姿に、窓から身を乗り出して手を振り返す。

「家庭科準備室行くから! Sさんもいっしょにおいで!」

 我ながら、こういうところはアメリカ人。

 ここをアニメにしたとしたら、顔の上半分を二つのへの字、下半分をノドチンコむき出しの口にして、陽気に叫んでいる金髪女子だね。それで、十秒スポットの予告編になりそう。

 事情を説明すると――わたしもですか?――という表情をするけど、わたしの圧が強いのか、Sさんは大人しく付いてきた。

「体は大丈夫?」

「はい、お弁当張り切り過ぎて、心配かけました」

「そっか、元気ならなによりなにより(^▽^)/」

「でも、なんで家庭科準備室なんですか?」

「ああ、それはね……」

 いきさつを話すと、Sさんも「そうなんですか」と笑ってくれる。

 ほんとうは、目論見なんかあるわけない。なりゆきよ。

 相談にのるとは言ったものの、冷静に考えると、啓介がSさんを受け入れる可能性は低い。

 でも、啓介自身千歳への気持ちが固まっているとも言い難い。

 だからね、Sさんという変数を加えて見れば、結果はともかく、事態は動くと……ちょっと乱暴かもしれないけどね。

「「失礼しまーーーす」」

 二人で挨拶すると『どーーぞ』と先生の声。

「あら、Sさん、間に合ったの!?」

「はい、三時間ほど寝たら元気になりました。休んだら、お弁当無駄になりますし」

「そうね、じゃ、掛けなさいな。家庭科特性のお味噌汁入れてあげる」

「「ありがとうございます」」

「じゃ、お弁当、見せてくれるかなあ(^▽^)」

 お味噌汁をつぎながら杉本先生。

「じゃ、いくよ」

「はい」

「いち、に、さん、でね」

「はい」

 わたしは巾着袋から、Sさんは通学カバンの他にもう一つ持ったバッグから、それぞれ一人分にしては多すぎるお弁当箱を出した。

「ほほ、たまに作ると量が多くなるのね。はい、お味噌汁」

「「ありがとうございます」」

 わたしのは千代子のお婆ちゃん出してくれた曲げワッパ。Sさんは三段重ねの大型タッパー。

 ワッパとタッパー、取りあえずゴロはいい。

「じゃ、いち、に……」

「「さん!」」

 日米のお弁当が御開帳になった!

 

☆ 主な登場人物

  •  啓介      二年生 演劇部部長 
  •  千歳      一年生 空堀高校を辞めるために入部した
  •  ミリー     二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
  •  須磨      三年生(ただし、六回目の)
  •  美晴      二年生 生徒会副会長

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・2『タイトルに偽りなし』

2020-12-17 06:14:06 | 小説3

たらしいのにはがある・
タイトルに偽りなし
    

 

 

 タイトルがおかしい。

 前回読んだ人はそう思うかもしれない。

『妹が憎たらしいのには訳がある』と題しておきながら、八年ぶりの妹を、こう描写している。
 
 すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。

 可愛くのみならず、ニコニコとまで書いている。

 しかし、タイトルに偽りはない……。

 妹の幸子は、喋りすぎるでもなく、静かすぎることもなく、自然な会話の中でニコニコしていた。


 八年前、俺が東京の家を出るとき、まだ七歳の幸子は、電柱五つ分ぐらい泣きながら追いかけてきた。


「おにいちゃーん、行っちゃやだー!!」
 転んで大泣きする幸子を見かねて、俺はタクシーを止めてもらった。
「幸子、大丈夫か!?」
「だいじょばない……おにいちゃん、ファイナルファンタジー、まだクリアーしてないよ。いっしょにやるって言ったじゃないよ、言ったじゃないよ……」
 そう言って、幸子は手を開いた。小さな手の上にはプレステ2のメモリーカードが載っていた。
 メモリーカードには、ファイナルファンタジーⅩ・2のデータが入っている。PS4なんかの最新ゲームに飽きてヤフオクでゲーム機ごと買ったレトロゲームだ。メモリーカードにデータを残すのがお伽話のようで、さちこのお気に入りになったんだ。

「さちこ……さちこ一人じゃ、できないよ。おにいちゃんといっしょじゃなきゃできないよ!」
「がんばれ、幸子。やりこめば、きっとできる。あれ、マルチエンディングだから、がんばってハッピーエンドを出せよ。がんばってティーダとユウナ再会のハッピーエンド……そしたら、またきっと会えるから」
「ほんと……ほんとにほんと!?」
「ああ、きっとだ……!」
 そう言って、俺は幸子にしっかりとメモリーカードを握らせ、その手を両手で強く包んでやった。
「がんばれ、幸子!」
 包んだ手に、幸子の涙が落ちてくるのがたまらなく、俺は幸子の頭をガシガシ撫でてタクシーに戻った。
 バックミラーに写る幸子の姿が、あっと言う間に涙に滲んで小さくなっていった。

 あれから八年。

「コンプリートして、ハッピーエンド出したよ」

 幸子は、黒いメモリーカードをコトリとテーブルの上に置いた。
 八年前の兄妹に戻り、俺は、ほとんど泣きそうになった。

 Yホテルのラウンジの、ほんの一時間ほどで、我が佐伯家の空白の八年は埋められた……ような気になっていた。

 それから一週間後、俺たちは、新しい家に引っ越した。お袋と親父は、それぞれ東京と大阪のマンションを売り、そのお金で、中古だけど戸建ての家を買ったんだ。5LDKで、ちょっとした庭付き。急な展開だったけど、俺には本気で家族を取り戻そうとする両親の心意気のように感じられ、久々にハイテンションになっていた。
 大ざっぱに家具の配置も終わり、ご近所への挨拶回り。
「今日、越してきました佐伯です」
「よろしくお願いします」

 向こう三軒両隣、みなさんいい人のようだった。特に筋向かいの大村さんは、幸子と同い年の佳子という子がいて、なんだか気が合いそうな気がした。

 夕食は大村さんに教えてもらった宅配のお寿司をとった。

「一時間ほどかかりますが」と言っていた宅配のお寿司が、四十分ほどで着いた。
「おーい、幸子、お寿司が……」
 幸子の部屋のドアを開けて、俺も幸子もフリーズした。
 幸子は、汗をかいたせいだろう、トレーナーも下着も脱いで、着替えの真っ最中だった。
「あ……」
「こういう場合、どうリアクションしたらいいと思う?」


 幸子は、裸の胸を隠そうともせずに、歪んだ薄ら笑いを浮かべて言った。

 初めて見る妹の憎ったらしい顔がそこにあった……。


 

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やくもあやかし物語・31『黒電話の怪異・4』

2020-12-17 05:53:52 | ライトノベルセレクト

物語・31

『黒電話の怪異・4』    

 

 

 南に走ったつもりだった。

 

 真岡の街は西に向けて傾斜しているので、東西に方向を間違えれば平衡感覚で分かる。

 しかし、南北には高低差が無いので、銃撃や艦砲射撃が続く中、何度も転んでしまって分からなくなる。平穏な時であれば右手に海、左手に山を捉えていれば間違えようは無いけど、身を低くして頭を抱えて足もとしか見えていないうちに混乱してしまった。

 何度目かに転んだ目の前に真岡電信局が見えた。

 ここだ!

 近くには国民服の人とお巡りさんがねじくれて転がっている。

 ピュピュピューーーン! ピュピュピューーーン!

 二人を地面に縫い付けるようにして機銃弾が走る。子どもが寝転がったまま駄々をこねるように跳ねる。

 ピュピュピューーーン! ピュピュピューーーン!

 まだ生きていると思ったのか、執拗に機銃弾が走る。

 国民服とお巡りさんは、人であったことが分からないくらいにボロボロになってしまった。

 

 ボト

 

 どちらのか分からない手首が落ちてきて、弾かれるように後ずさって電信局のドアにぶつかって転がり込んでしまった。

 疲労と建物の中だという安堵感で目が開けられない。

 荒い息をするうちにアーモンドの匂いがしてきた。

 目を開けると、目の前に横たわった女の人の顔……くしゃみをする寸前のように弛緩した口元から、いっそう強いアーモンド臭。

 青酸カリを飲んだんだ……小説や探偵アニメで覚えた症状だ。嗅いでいては、こちらまでやられる。

 身を起こすと、床に転がったり交換台に俯せるように息絶えた女の人たちが目に入った。ネットで調べた通りの九人……いや、もう一人いる。

 交換台の下、膝を抱えて目を見開きっぱなしのセーラーモンペ。

「……芳子ちゃんね?」

「…………」

「小泉芳子ちゃんでしょ?」

「……だれ?」

「やくも、小泉やくもだよ」

 声を掛けながらも、ダメだろうという気持ちだった。芳子ちゃんは洋子お姉ちゃんを迎えに来て、九人の自決に出くわしてしまったんだ。たぶん、芳子ちゃんがうずくまっている交換台に突っ伏している女の人。だらりと下がった左腕で息絶えていることは間違いない。最後までお姉ちゃんの手を握って命を呼び戻そうとしてるうちに砲撃や銃撃がひどくなって動けなくなったんだ。その目には絶望の色が滲んでいる。

 こんな子を励まして逃げる自信は無い。

「小泉やくも……やくもちゃん?」

 面食らった、急に思い至ったかのように芳子ちゃんの目に光が戻ってきた。

「やくもちゃん! やくもちゃんなんだ!」

 交換台の下から這い出てきて、芳子ちゃんはわたしの手をしっかりと握った。

 これなら言える! 逃げようって言える!

「もう少し、もう少し早かったら、洋子お姉ちゃんも……」

 姉の事を残念がってはいるが、生きて行こうという気持ちは次第に強くなってきている。

 しかし、問題は逃げ場所が無いということだ。

 電信局は占領したあとに使うつもりか、銃砲撃が控えられているようだ。

 しかし、このまま留まっていてはソ連軍にどんな目にあわされるか分かったもんじゃない。外は激しい攻撃にさらされている。

 プルルル プルルル

 空いている交換台のベルが鳴る。交換台には百以上のランプがあって、そのうちの一つが点滅してベルが鳴っているのだ。

 交換台のレシーバーをとって、ジャックを点滅しているところに差し込んだ。公衆電話だってまともにかけられないわたしだけど、これは自然にできた。

「もしもし」

――交換室の後ろのドアから出て――

 あの声が、それだけ言って切れた。

「芳子ちゃん、後ろのドアだ!」

 芳子ちゃんの手を取ると、目についた後ろのドアに向かった。ドアは左右に二つあり、一瞬どちらだろうと思う。右側のドアが開いたので、二人して飛び込んだ!

 入ると同時にグニャリと空間が歪んで、前方のねじくれたブラックホールのようなところに引っ張られていく!

 ヤバイ気持ちと助かるという気持ちが半々、吸い込まれながら芳子ちゃんの手の感触が希薄になっていく……。

 芳子ちゃん……!

 声を振り絞ったところで、ドサリと体が落ちる。

 落ちたところが自分のベッドだと分かるのにしばらくかかった……。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

 

 

  

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