大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・181『プリンセスの崇拝者』

2020-12-05 13:23:00 | ノベル

・181

『プリンセスの崇拝者』頼子   

 

 

 ほんとうは諦一さんという。

 

 だけど、さくらが「テイ兄ちゃん」と呼ぶので、わたしも『テイ兄ちゃん』と認識するようになった。

 さくらの家である如来寺の若ボン(檀家のお婆さんたちからは、そう呼ばれている)で、23歳の若さで専業のお坊さん。

 近ごろはお寺の子でもお坊さんにはなりたがらない。理由はいろいろなんだろうけど、なりたがらない気持ちは分かる。

 わたしもヤマセンブルグ公国の王位継承者で、プリンセスの称号を持ってるんだけど、正式な王女になるのは抵抗がある。

 だって、王女とか女王とかはたいへんなんだ。

 年中行事に引っ張り出されるし、お行儀悪くできないし、選挙権も言論の自由もないし、職業選択の自由も移動の自由も制限される。

 まだ、正式に王位継承者になっていないのに、ボディーガードが付いている。ソフィアという女の子で、祖母の女王は「魔法使いの末裔だから心強いわよ」と太鼓判。日ごろは、わたしが通う真理愛女学院に一緒に通っている。部活も、本当は剣道部とかをやりたかった様子なんだけど、わたしをガードするためにわたしが気まぐれに作った散策部という地味~な部活で我慢してくれている。

 お坊さんもね、王族ほどではないんだろうけど、いろいろ制約がある。

 お行儀良くしてなくちゃならないだろうし、お寺だけでは、なかなか食べていけないから、他に仕事を持たなければならない人が多い。如来寺は檀家さんが多いので、珍しく『専業坊主』だそうだけど、さくらの内緒話によると、この先ずっと専業でやっていける保証はないらしい。

 そんなテイ兄ちゃんは、わたしを崇拝しているフリをしてくれている(n*´ω`*n)。

 崇拝者だから、この三月まで、わたしが部長を務めていた文芸部の我がままに喜んで付き合ってくれている。主にアッシーさんなんだけどね。女の子の我がままで、急に思いついた「あそこに行きたい!」「こっちを見たい!」なんかにも、軽いノリで車を出してくれ、わたしたちの好奇心をサポートしてくれる。

 そのテイ兄ちゃんが師走を地で行くほどに忙しい。

 なんでも、お寺仲間の専念寺のご住職さんが入院されたので、専念寺の仕事を丸々如来寺が引き受けることになって、檀家周りや、お寺の付き合いでてんてこ舞いということらしい。

『ごめんね、頼子さん。八尾の残念さんに連れて行ったげる話、なかなかでけへんで(;^_^A』

「あ、気にしないでください。残念さんは四百年前から、あそこに居て、お引越しの予定もないそうですから、また、みんなの都合がよくなったときにお願いします」

『そう言うてもらうと、気が楽やけど、頼子さんらが残念さんにならんように考えるから、えと、忙しいから頭回ってへんねんけど、なんかリクエストないかなあ? そっちのリクエストに合わせて考えた方が手っ取り早いと思う』

「えと……じゃあ……あ、そうだ! 去年やった除夜の鐘とか?」

『え、そんなんでええのん!? 寒い中、お寺の鐘突くだけやで!?』

「はい、めちゃくちゃ楽しかったですし、テイ兄ちゃんこそよろしかったら」

『それやったら、人手不足のお寺はなんぼでもあるから!』

「じゃ、候補が見つかったら、またお電話ください」

『承知承知、これで、頼子さんに電話する口実できるさかいに、こっちこそラッキーや』

「ハハ、お電話でしたらいつでも」

『そうか、ほんなら、プラン考えとくさかい。まとまったらメールします。ほんじゃね!』

 電話を切ると、背中に気配。

 そう、言うまでもなくソフィア。

 そのソフィアが目を輝かせて迫ってきた。

「ジョヤノカネってなんですか? です!?」

 今月も、いろいろ起こりそうな予感の師走の十二月が始まった。

 

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やくもあやかし物語・19『風邪とお爺ちゃんと……』

2020-12-05 06:15:57 | ライトノベルセレクト

物語・19

『風邪とお爺ちゃんと……』  

 

 

 けっきょく風邪をひいた。

 

 ほら、土砂降りの雨の日。

 もう、学校を休もうかと思ったら、お婆ちゃんがお母さんの赤い長靴出してきて、それ履いて学校に行ったでしょ。

 いろいろあったけど、足は濡れずに済んだ。

 だけどね、足以外はビチャビチャの濡れネズミ。

 帰ってすぐに熱いお風呂にでも入れば良かったんだけど、図書室当番だったんだ。

 一度代わってあげたことのある小桜さんに頼もうかと、昼休みに小桜さんの教室に行った。

 すると、廊下で友達三人に囲まれて、帰ったらみんなで遊ぶ話をしていた。で、頼めずに、下校時間まで図書当番やって帰った。

 急いで家に帰って風呂掃除。

「お爺ちゃん、今日は先に入っていい?」

 掃除終わって、お爺ちゃんに頼んだら「ちょっと、待て」と言って、お爺ちゃんは、わたしのオデコに手を当てた。

「すごい熱だ、お風呂どころじゃないよ!」

 そのまま抱きかかえられた。

「服が濡れてるじゃないか!?」

「あ、うん、着替えるの面倒で……」

 お爺ちゃんは、抱っこしてくれたままで部屋まで運んでくれて、ベッドに寝かせてくれた。

「やっぱり、着替えなきゃだめだ」

 そうだろ、このまま寝たらお布団まで湿ってしまう。

「うん、着替え……」

 ノロノロと体を起こし、ベストを脱いでリボンを外してスカートのホックに手を掛けたところで力尽きる。

「お爺ちゃん……着替えさせて……」

「あ、ああ……」

 着替えを出して枕もとに置いてくれたところで手が止まった。

「婆さんでも居ればなあ……」

 お爺ちゃんは、わたしの服を脱がせるのに迷っているんだ。

「……そだね……うん、自分でできる……えと……ちょっとの間出ててくれる?」

「あ、そうだな」

 アタフタと部屋を出ていくお爺ちゃんを精一杯の笑顔で送る……送ったところで部屋が横倒しになる……いや、わたしが倒れたんだ。

 早く着替えなきゃ、お爺ちゃんに心配かける。でも、目の前の着替えに手が届かない。

 意識が飛びそう……誰かが心配そうにのぞき込んでるような気がする。

 誰か……なにかが……うん、部屋……家全体が包み込むようにして見てるような……。

 

 気が付くと枕もとにお爺ちゃん。手探りすると、ちゃんと着替え終わってる。

 

 自分で着替えた記憶はない、お爺ちゃん? いや、この純情シニアは、さっきの様子からも、女子中学生を着替えさせて平然とはしていられないだろう。

 すると、さっきの何かが――よかったよかった――と呟いたような気がした。

 

 次に目が覚めると、お医者さんが来ていて、お婆ちゃんとお母さんが後ろで心配顔。

「いやあ、先輩に頼まれちゃ仕方がないですなあ」

 お医者さんが汗を拭いている。どうやらお爺ちゃんが無理を言って引っ張ってきたお医者さんのようだ。

 ぶっとい注射を一本打たれると、落ちるようにして眠ってしまった。

 

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かの世界この世界:153『カテンの森のトンネル小僧』

2020-12-05 06:10:18 | 小説5

かの世界この世界:153

『カテンの森のトンネル小僧』語り手:ポチ    

 

 

 横に伸びる穴をトンネルというんだ。

 当たり前のことを思い出したのは十分くらいガスマスクを追いかけた時だ。

 トンネルだとは思えないくらいに地底の穴はグニャグニャなのだ。でも、トンネルと推測するのは間違っていないと思う。

 だって、いっこうに枝分かれというか分岐が無い一本道だから。

 これは、落ち着いてアナライズすれば簡単に分かるだろう。

 

 地べたに座り込んで、両方の壁に手を伸ばす。

 グヌヌヌ……体がちっこいので、両方いっぺんにタッチすることができない。

 

 エイ! エイ! エイ!

 

 仕方なく、反復横跳びみたくステップ踏みながらタッチ。

 グニャグニャになっている訳が分かった。ここはカテンの森の地下なので、カテンの巨木の根っこが深くまではびこっている。

 トンネルは根っこを避けて掘られているのでグニャグニャなんだ。もし、横穴とかを掘っていたらラビリンスになって、もっと迷ったことだろう。

 地中なので捜索には時間がかかるけど、反復横跳び100回で全体が分かった。

 トンネルは、カテンの森の地下一面に及んでいるみたい。みたいなんだけど、出口は意外に近い。

 右横の壁を一メートルほど行ったところから縦になっていて、そこを下りて行った形跡がある。ちなみに、そのまま足跡をたどっていくと、総延長は100キロを超えてしまい、大変なロスをするところだ。

 ポチという名前を付けられたせいでもないだろうけど、横穴は十分足らずで開けられた。あ、でも、ちゃんとタガーを使ってだからね。手で掘ったわけじゃないから。

 竪穴の底は青く光っていた。海かなあ? とりあえず飛び込んでみる。

 

 エイ!

 

 勢いで抜けると、引力が逆さまになって、三メートルほど突き抜けてから逆に落ちる。そのまま落ちては、また穴の中に落ちてしまうので、穴の縁を蹴って、ドサリと着地。一面の草が生えていて痛くはなかった。

 あ、こいつ!

 目の前に、探検隊みたいなコスで、脇にガスマスクを転がして寝ている男の子がいる。

「おい、起きろ!」

 馬乗りになって、頬っぺたをペシペシ叩いてやると「ギョエ!」っとカエルみたいな悲鳴を上げて目覚めやがった。

「あんたでしょ、デバガメみたくエスケープハッチから覗いていたのは!?」

「な、なんでえ!?」

 目をまん丸にして驚いた顔は意外に可愛い……んなことはどーでもいい!

 はずみで、緩くかぶっていたしょうちゃん帽がポロリと脱げて、立派な耳がピョコンと現れた。

 弧の耳はオオカミさんの耳だ! それが、ひどく似合っていて、自分でも目尻が下がるのが分かった。下がった目尻なんて観られたくないから、両手の人差し指で目尻を上げて詰問した!

「お、おまえ、正直に言え! 何者なんだあ!#o#!」

「な、なんで、来られたんだ!? あんなグニャグニャのラビリンスに掘ったのに!?」

「ああいうのはラビリンスとは言わん!」

 トンネルの単純さを指摘してやると、ガックリと肩を落とす。

「とりあえず、お腹の上から降りてくれないかなあ、ちょっと苦しいよ」

「あ、あ、ごめん」

 慌てて降りて、びっくりした。

 

 あたしってば、普通の大きさになっていたよ!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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