大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・020『修学旅行・20・富士登山』

2020-12-02 07:57:59 | 小説4

・020

『修学旅行・20・富士登山』穴山 彦   

 

 

 けっきょくパルスボードということになった。

 

 ほら、修学旅行三日目の富士登山さ。

 一昨日の成駒屋の夕食の時から話題にはしていたんだけど、なんと言っても二百年前の昭和平成ノスタルジーには抗しがたいものがあって、水道水の温泉(今どき塩素消毒の水道なんて太陽系で、ここだけだ)、風呂上がりの卓球、歴史的な昭和平成時代の食材による修学旅行メニューの夕食、そしてクライマックスの枕投げに熱中してしまって沙汰やみになってしまった。

 あくる日も上野・浅草の歴史的建造物群で遊び惚けてしまった。御即位二十五周年は、各地で様々な行事が行われていて、食べ物もレプリケーターではなくて、手間暇かけてリアル調理されたものが出されている。どら焼き、人形焼き、キビ団子、もんじゃ、ハヤシライス、メンチカツ、ポークソテー、うな丼、かつ丼、天ぷら……

 全部食べるわけのも行かないので、どれを食べるかで四人は喧々諤々。

「五人か七人でくればよかったよお」

 ミクが発展的にぼやく。

 理屈は分かる。四人だと、二対二になったり四人バラバラになったりで、なかなか決められない。

 三対一というのは、ちょっと気まずい。

 五人なら二対三、 七人なら三対四という感じで別れるにしても発展的だ。

「だけじょ、気ままにまわりゅなや、この四人の組み合わせしか考えらえにゃいしい」

 テルの舌足らずの感想も的を射ている。

 けっきょく、ほとんど全てを食べ歩き、一人前を四人で分けて賑やかに盛り上がった。

 さすがに『はなやしき遊園』はバーチャル体験だったけど、昔のVRとは比べ物にならないフルダイブのVRだったので、とてもリアルな体験ができた。

 けっきょく楽しみ過ぎて、富士登山のことは当日の朝になって決まった。

 

 パルスボードは、昔のキックボードに似ていて、パルス動力で浮遊して、ボードが体の傾斜を感知して動くと言う代物だ。

 自分の足で登るほどではないが、けっこう、あちこちの筋肉を使うので――自分で登った!――という気にさせてくれる。

 そのパルスボードでも七合目でテルはバテてしまい、僕とダッシュで交代で負ぶってやることになった。

「ちょっと、じっとしてろって!」

 キョロキョロするテルを持て余して、ダッシュがぼやく。

「らって、下界がしゅごいのよさ!」

「ああん?」

「あ、ほんとだ!」

 促されて振り返ると、眼下には緑一杯の富士の裾野が広がり、ちょうど角度のいい太陽に照らされて富士五湖の湖面がキラキラと輝いている。

「これが地球なんだねえ……」

 ミクが目を輝かせる。日ごろは少年みたいなやつだけど、物事に感動した時は、きちんと女の子らしく暖かなかまぼこ型の目になる。ダッシュに対しても時々こういう目をするんだけど、友だちとは言え、誘導するようなことは言わない。こういうことは当人同士が気づくまでは放っておいた方がいい。

「火星の地表は、まだまだ地のままだからなあ」

 火星の緑化は、まだほとんど実験段階だ。食料になる野菜や観葉植物が、なんとかドームファームで育てられているというのが現状、この富士の裾野のようにむき出しの緑というのはお目にかかれない。

「頂上でサプライズイベントがあるらしいぞ!」

 ダッシュがハンベのアラームを見て山頂を指さす。

「え、なに?」

「時間がねえ、行くぞ!」

「ちょ、かってにいかないでよ!」

「キャッホーー!」

 目いっぱいの前傾姿勢をとって山頂に急ぐ。

 

 ウワアアアアアアアアアアアアア!

 

 テルがダッシュの背中で叫んだ。

 なんと、眼下の雲海を抜けてゼロ戦の大編隊が飛び出してきたのだ。

「羽田に着いた時に見たやつだな!」

 そうだ、御即位記念行事に使われることは分かっていたが、富士山上空での編隊飛行とは思わなかった。

 ゼロ戦に続いて雲海を駆け抜けてきたのはジェット戦闘機だ。

 あ、あれは!?

 山頂の人たちからも歓声が上がる。

 古典軍事には疎いので、ハンベに聞いてみる。

『F4EJ4400、空軍の前身である航空自衛隊で2020年まで使われていたファントム戦闘機。ファントムは日本でライセンス生産され、二百年前の今日、最後のフライトを行いました。1966年に選定されて以来50年以上実戦機として使われた記念碑的な機体です』

「レプリカかなあ……?」

『いいえ、ご大典に合わせて整備された実物で、操縦は……』

 オートフライトではなくパイロットが乗っているのにはタマゲタが、さすがに人間ではなく、航空団所属のロボットパイロットではあった。

 でも、その卓越した操縦と飛行に山頂からは大きな拍手が巻き起こった。

 本当は、夜のうちに出発して昭和の昔のようにご来光を拝みたかったんだけどね。

 羽田宇宙港に着いて以来、立て続けに事件に巻き込まれて、みんな自信が無かった。

 でも、口にするのは悔しいから、誰も言わないけどね。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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やくもあやかし物語・16『赤い長靴・2』

2020-12-02 05:11:05 | ライトノベルセレクト

もあ物語・16

い長靴・2』    

 

 

 川というよりも滝だ。

 

 二丁目の崖道は、二丁目そのもの緩い谷底のようなところにあるので、平場じゃ、どうってことのない雨でもけっこうな流れになる。水嵩はしれてるけど、ほとんど激流。

 むろん、側溝やら下水道があるから吸収されるんだけど、一丁目や三丁目の雨水も流れてきて限界を超えている。

 子どものころに、お父さんとお母さんに連れられてハイキングに行った。途中に流れの速い小川があって、靴も靴下も脱いで親子三人中州を目指して歩いた。子ども一人だったら流されそうなんだけど、お父さんとお母さんがしっかり手を掴んでくれていたので、キャッキャ言いながら楽しかった。

 あの小川の流れほどの水量ではないんだけど、ハイキングじゃないので、この雨のなか学校に行かなければならないという理不尽に、気持ちは斜め下に落ち込んでしまう。

 流されることは無くても、滑ってひっくり返るかもしれない。ひっくり返ったら、きっと下着までビチャビチャになる。

 折り返しを曲がって崖下の道に差しかかる。ほとんど傾斜は無いのでマシになるかと思ったら、あちこちからの流れが合流して、水嵩はさらに増している。

 気を付けなくっちゃ。

 一歩一歩、長靴の脚を置くようにして進む。踏み出した足に、きちんと重心を載せるまでは、次の一歩を踏み出さないのだ。

 めっちゃ時間がかかる。

 学校への直線道に入ったところで、追い越していった男子が、見事にお尻からひっくり返る。

 立ち上がると、気持ち悪そうにしているけど、そのまま校門に向かって走っていった。

 

 やっと、昇降口にたどり着く。

 

 いつもより時間がかかったので、昇降口は登校してきた生徒でごった返している。

 ハンカチやタオルを出して拭いたり、靴の中に溜まった水を出したり、靴下脱いだり、いつもだったら掛からない手間で人が溜まってしまうんだ。

 ちょっと時間待ち。通学カバンと上着の右側、スカートの下半分がベチョベチョで気持ちが悪い。長靴のお蔭で、足だけはサラサラだ。でも、みんなが赤い長靴に注目しているような気がする。

「お早う、よく振るねえ」

 声に振り返ると小桜さんだ。

「おは……あ、かしこ~い!」

 小桜さんは、スカートと足首にビニールを巻き付けていた。それをさっさと外すとゴミ箱へ。これならあとくされがない。

「かわいい長靴じゃない!」

 大きな声で、長靴に注目する。

「え、あ、お、お母さんのお下がりだから」

 自分の意思で履いてきたんじゃないを言いたかったんだけど、なんかマザコン的でヤな感じだ。

「ふ~ん、いいと思うわよ、そういうのって。あたしなんか、まるっきりオッサンだもん」

「そんなことないわよ」

 お下がりっていうよりも、オッサンと言った方が何十倍もマシ、いや、むしろカッコよくさえあると思う。

 

 やっと下足箱の順番がまわって来る。

 

 上履きに履き替えて困った。

 なんと、長靴がロッカーに入らないのだ。ロッカーの上に置こうか……ダメダメ、目立ちすぎる。後ろがつかえているし。

「持って上がればいいじゃん!」

 小桜さんの力強い一言で、長靴を持ったまま教室に向かうことになった……。

 

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かの世界この世界:150『進撃NO!巨人!!』

2020-12-02 04:56:11 | 小説5

かの世界この世界:150

『進撃NO!巨人!!』語り手:ブリュンヒルデ     

 
 
 大神官……?
 
 四号のみんなが驚いた。
 どう見ても十二三歳の少年だ。ヴァルハラの神官でも最年少は三十歳のベルクだ。大神官ともなれば六十歳以下では考えられない。
「よく分かったね、ナフタリン」
「ラタトスクは人が発するオーラで区別しているんだ。妖精や聖霊は姿が変わるやつも多くて、見かけで判断していてはメッセンジャーは務まらねえし」
「そうか、オーラでな……オーラであっても神官の属性が残っているのなら嬉しいことだよ」
「いったい、なにが起こったんだよ?」
「ヨトゥンヘイムは国ぐるみ縮んでしまったんだよ」
「縮んだ?」
「巨人の国であるヨトゥンヘイムは図体が大きいので莫大なエネルギーを必要とする。エネルギーの源泉は、我々巨人族に向けられる畏敬の念だ。それが失われてきて、何とかしなければと考えあぐねているうちにこうなってしまった」
「畏敬の念が失われた?」
「十年くらい前から『進撃する巨人』が流行して、ユグドラシル中で大人気になった。ズシンズシンと地響き建てて進撃する姿、踏み出す足の確かさ、振動、風圧、そこに人々は神を見た。我々は神ではないと互いに戒めてはいたが、いつしか、そう見られることに喜びを感じて進撃することを止められなくなってしまった。しかし、あの図体で歩けば意図せずにモノを壊してしまう。通過する街や村の家々にはヒビが入ったり傾いたり、時には倒壊させてしまうこともある。道路には巨大な足跡が穿たれ亀裂が走る。畏敬は畏怖へと変わり、ついには、ただの怖れになってしまった。我々は、それに気づくのが遅すぎた。気づいた時にはヨトゥンヘイムから遠く離れてしまい、帰ることも覚束なくなり、振り返ると、人々は高い塀を巡らし『進撃NO!巨人!』と叫んで拳を振り上げた。畏敬の念どころか怖れと憎しみを向けられ、仲間の多くは巨体を維持することが出来なくなって縮こまって、ついには命を落としていった。そうすると、巨人族揺籃の地、ヨトゥンヘイムそのものも縮み始め、このような有様になった……かいつまんで言うとそういうことだ」
「マシガナさま、神殿の下敷きになっているのは?」
 ロキが気味悪げに指さした。
「それは半神の神官だよ」
「「「半神?」」」
「神と人の属性を持った種族で、我々巨人族の天敵だ。我々の衰退に乗じて、このヨトゥンヘイムに現れ、ついには大神官たるわたしを追い出した、半神三傑の一人ノヤ。君たちが、こいつを押しつぶしたのは啓示なのかもしれない……あなたは姫と呼ばれている。主神オーディンの姫君ブリュンヒルデ殿下ですな」
「いかにも、大神官どの」
「これも何かの縁……というには唐突に過ぎるでしょうが、とりあえず我が家にお運びください」
「しかし、この始末はどうしたらいいだろうか。仮にもヨトゥンヘイムの神殿を壊してしまったのだから」
 タングリスが言うと、乗員みんなの目がマシガナに注がれた。
「おまかせを」
 
 そう言うとマシガナは瓦礫の上に上がって、周囲に呼びかけた。見かけは人の少年に縮んでしまったが、その声は巨人に相応しい大音声だった。
 
「ヨトゥンヘイムの人々! 神殿を占拠していたノヤが打ち取られた! 打ち取ったのは、主神オーディンの姫君、ブリュンヒルデ殿下であるぞ!」
 
 ホォーーーーーーーーー
 
 家々から安堵のため息が立ち上った。
 
 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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