銀河太平記・023
急きょ火星に帰ることになった。
ホームステイ先の家が焼かれて、調べに行ったヒコのハンベが目の前でクラッシュした。
ハンベのクラッシュは持ち主の危険を現わしている。ハンベロストのシグナルは地球の周回軌道を周っている学園艦に直ちにキャッチされ、同じ班員(俺とか未来とかテルとか)のハンベがオートで状況を学園艦に状況を報告する。
アキバと靖国の事件も大ごとだが、生徒の身に危険が及ばない限り、学園艦の先生たちが干渉してくることは無い。正直靖国神社で陛下をお助けした時は学校からリアクションが有るかと思ったが、何も言ってこなかった。
扶桑の教育と言うのは古い言い方をすると質実剛健。とにかくワイルドなんだ。まあ、地球のように生ぬるい教育をしていては、まだまだ開拓の段階にある火星では通用しないからだ。
当たり前なら羽田宇宙港からの帰還になるが、羽田までの道中は危険が伴う。
学園艦からは『北富士駐屯地』に向かえという指示が来た。
「ひょっとして、軍の護衛付きでご帰還とかにゃ(^▽^)?」
この状況になってもテルは無邪気だ。
「万一のことがあっても、軍の施設なら民間に迷惑かけないからでしょ」
ミクは現実的だ。
「北富士は砲兵部隊だから、ひょっとしたら電磁砲に入れられてドッカーンと周回軌道までぶっ飛ばされるのかもな」
「日本で一番標高の高い駐屯地だ。960メートルだったかな、眺めはいいはずだ」
ヒコが締めくくった通り、駐屯地へのつづら折りの道はレトロ車で行くには絶好のドライブではあった。
門衛の隊員に来意を告げると、そのまま駐屯地の裏門に向かいトラックのあとを付いて演習場に向かえと指示される。
カクン
軽いショックが路面から伝わって来る。
「オートで光学迷彩をかけられたな」
「だけじゃない、後ろを見てみゆよ」
「ん?」
振り返ると、光学ダミーのトヨタが光学ダミーの俺たちを載せて衛庭に向かっていく。軍も気をつかってくれているようだ。
「あのトラックだな」
ちょうど裏門を出て行こうとしている牽引トラックの尻についていく。
軍の支援車両にもパルス動力のものがあるが、大型で力のいるものはタイヤを履いているものが残っている。舗装道路のない演習場に入れば光学迷彩をかけていてもレトロ車では砂埃が立つし轍が残る。トラックのあとをつけていけば、たとえ衛星から覗かれてもごまかせるというわけだ。
烹炊車が収まっている藪に潜り込むと、トラックは停止し、俺たちのトヨタは烹炊車との間に滑り込んだ。
「無事に来れたね」
ミクが安心の吐息を漏らすと、それを台無しにするような怒声があがった。
「おらあ、おまえらあ!」
藪の外で怒鳴っているのは俺たちの担任、姉崎すみれであった(^_^;)
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる