大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・023『修学旅行・23・北富士駐屯地』

2020-12-24 13:15:58 | 小説4

・023

『修学旅行・22・北富士駐屯地』ダッシュ   

 

 

 急きょ火星に帰ることになった。

 

 ホームステイ先の家が焼かれて、調べに行ったヒコのハンベが目の前でクラッシュした。

 ハンベのクラッシュは持ち主の危険を現わしている。ハンベロストのシグナルは地球の周回軌道を周っている学園艦に直ちにキャッチされ、同じ班員(俺とか未来とかテルとか)のハンベがオートで状況を学園艦に状況を報告する。

 アキバと靖国の事件も大ごとだが、生徒の身に危険が及ばない限り、学園艦の先生たちが干渉してくることは無い。正直靖国神社で陛下をお助けした時は学校からリアクションが有るかと思ったが、何も言ってこなかった。

 扶桑の教育と言うのは古い言い方をすると質実剛健。とにかくワイルドなんだ。まあ、地球のように生ぬるい教育をしていては、まだまだ開拓の段階にある火星では通用しないからだ。

 当たり前なら羽田宇宙港からの帰還になるが、羽田までの道中は危険が伴う。

 学園艦からは『北富士駐屯地』に向かえという指示が来た。

「ひょっとして、軍の護衛付きでご帰還とかにゃ(^▽^)?」

 この状況になってもテルは無邪気だ。

「万一のことがあっても、軍の施設なら民間に迷惑かけないからでしょ」

 ミクは現実的だ。

「北富士は砲兵部隊だから、ひょっとしたら電磁砲に入れられてドッカーンと周回軌道までぶっ飛ばされるのかもな」

「日本で一番標高の高い駐屯地だ。960メートルだったかな、眺めはいいはずだ」

 ヒコが締めくくった通り、駐屯地へのつづら折りの道はレトロ車で行くには絶好のドライブではあった。

 門衛の隊員に来意を告げると、そのまま駐屯地の裏門に向かいトラックのあとを付いて演習場に向かえと指示される。

 カクン

 軽いショックが路面から伝わって来る。

「オートで光学迷彩をかけられたな」

「だけじゃない、後ろを見てみゆよ」

「ん?」

 振り返ると、光学ダミーのトヨタが光学ダミーの俺たちを載せて衛庭に向かっていく。軍も気をつかってくれているようだ。

「あのトラックだな」

 ちょうど裏門を出て行こうとしている牽引トラックの尻についていく。

 軍の支援車両にもパルス動力のものがあるが、大型で力のいるものはタイヤを履いているものが残っている。舗装道路のない演習場に入れば光学迷彩をかけていてもレトロ車では砂埃が立つし轍が残る。トラックのあとをつけていけば、たとえ衛星から覗かれてもごまかせるというわけだ。

 烹炊車が収まっている藪に潜り込むと、トラックは停止し、俺たちのトヨタは烹炊車との間に滑り込んだ。

「無事に来れたね」

 ミクが安心の吐息を漏らすと、それを台無しにするような怒声があがった。

「おらあ、おまえらあ!」

 藪の外で怒鳴っているのは俺たちの担任、姉崎すみれであった(^_^;)

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・9『幸子 事故に遭う』

2020-12-24 05:38:57 | 小説3

たらしいのにはがある・
『幸子 事故に遭う』
          

 


 その日は言い出しかねた。

 入学式の入学宣誓は参列者のみんなが驚いた。
 宝塚のスターのように堂々とした宣誓は大評判で、参列した指導主事(府教委から派遣された監視役)が、ぜひ、府のネット広報にアップロードしたいと申し出があった。アップロ-ドするということは、誰かがビデオ撮影していたということだけど……まあ、俺は、そういうことは深く考えない。


 話しかける隙がなくて幸子にケイオン入部の申し入れができなかった。

「ドンクサイねん太一は。アタシがさっさとOKとっといた。演劇部とも話ついてる」

「え、いつの間に!?」
「ダテに三年生やってへんで。演劇部は木曜休みやから、木曜はベタ、あとは気の向いた時に朝練しにきたらええ……という線で手ぇ打った。まあ、演劇部は、一学期には壊滅するやろから、実質ケイオン専門になっていくやろけどな。アハハハ……」
 高笑いを残して加藤先輩は行ってしまった。

 明くる日から、幸子は俺のアコギを担いで学校にいくようになった。

「朝練に使うの、終わったら部室に置いとくから。ギター遊ばしといちゃもったいないでしょ」


 前の晩、風呂上がりに俺の部屋にきて、いつもの憎たらしい無表情でアコギに手をかけた。そのとき幸子のパジャマの第二ボタンが外れ、胸が丸見えになったが、例によって気にする様子もないので、なにも言わなかった。ただ、ほんのかすかにラベンダーの香りがしたような気がした……。

 なんと、演劇部の練習は幸子がリードするようになっていた!

 初日は単調な発声練習を言われるままにやっていたが、二日目には幸子がクレームを付けた。優しく提案というカタチではあったが。
「新しい発声やってみません?」
 幸子が見本を見せると、先輩二人よりもかなり上手い。で、あっさりと、幸子のメソードに切り替わった。
「ちょっと走ってみません。長音で二十秒ももたないのは、肺活量が弱いからだと思うんです。わたしも弱いから、付き合っていただけると嬉しいんですけど(o^―^o)ニコ」
 と、可愛く言う。で、演劇部はストレッチをやったあと学校の周りをランニングすることになった。
「山元先輩、もうちょっと足伸ばすとかっこいいですよ。宮本先輩、胸をはったら、男の子が……ほら、振り返った!」
「アハハハ……」
 完全に幸子が主導権を握っているが、あたりが可愛く柔らかいので、二人の先輩は、そうとは感じていない。

 幸子と暮らし始めて一カ月あまり、俺は半ば無意識に幸子を観察しはじめていた。


 その他大勢のケイオン平部員である俺たちは部活の開始時間はルーズなので、少々遅れても、誰も文句は言わない。それに、アコギは、幸子が朝練でチューニングをやってくれているので、その分時間もかからない。俺は正門前の自販機で、パックのカフェオレを買って飲んでいる。食堂の業者が代わり、いつも飲んでいるやつが、正門前のそこでなきゃ買えなくなったことが直接の原因ではあるけれど。やっぱり俺は観察していたんだ。

 それは、ランニングを始めて三日目に起こった。

 最初の一周は三人いっしょに走るが、二周目は、幸子は立ち止まり、コーチのような目で先輩たちのフォームを観察している。俺は、校門前でウダウダしている生徒たちに混ざってカフェオレを飲んでいる。
「幸子ちゃん、かっこええねえ……」
 まだ、部活が決まらない佳子ちゃんが並んで、ため息をつく。
 佳子ちゃんは、がらに似合わず、缶コーヒーのブラックを飲んでいる。塀に上半身を預け、足をXに組み、ポニーテールを春風になぶらせている佳子ちゃんも、けっこういけてるなあ……。
 そう思ったとき、道の向こうから少々スピードを出しすぎた軽自動車が走ってきた。運転しているオネエチャンはスマホを持ったままで、学校の校門前にさしかかっていることに気づかない。

――危ない!――

 思った時には体が動いていた。

「幸子!」


 幸子が振り返る。そして景色が二回転して衝撃がきた。


「幸子、大丈夫か!?」
「大丈夫、あんたは……」
 無機質でニクソゲに幸子は応えたが、ジャージの左肘と左の太もものところが破れて、血が滲んでいた。
「佳子ちゃん、救急車呼んで! だれか先生呼んで来て!」

 それから、救急車やパトカーや先生たち、ご近所の人たちがやってきて大騒ぎになった。一見して幸子の傷がひどいので、幸子はストレッチャーに載せられ、俺は、念のための検査で救急車に乗った。
 俺は揺れる救急車の中で、スマホを出してお袋に電話した。


――先生から電話があった。お母さんも、すぐ病院へ行くから! 救急隊の人に病院を聞いて!――
 
 病院は真田山病院だった。

 俺は、簡単に頭のCTを撮って触診だけで解放されたが、幸子は、左の手足に裂傷を負っており、縫合手術をされ、レントゲンが撮られた。そして、医者がレントゲンを見ながら、とんでもないことを言った。

「妹さん、左手は義手。左脚は義足なんだね……それも、とても高度な技術で作られている。こんなの見たこともないよ!」

 

※ 主な登場人物

佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄

佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 

大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生

大村 裕子      佳子の妹(6歳)

学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音)

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やくもあやかし物語・38『ぼっちの図書室』

2020-12-24 05:25:05 | ライトノベルセレクト

物語・38

『ぼっちの図書室』     

 

 

  広い図書室に一人ぼっちということがある。

 

 しょっちゅうあることじゃないんだけど、相棒の当番の子がまだ来ていなくて、図書室を利用する生徒も来ていない時ね。

 図書の小出先生は居ないことの方が多いしね。

 一人ぼっちの図書室は神秘的だ。

 数千冊の本たちが寝息を立てているみたいな気がする。

 カウンターからは見えない書架の陰に何かの気配を感じることもある。

 図書室にはカーブミラーみたいなのが幾つか付いていて、カウンターからは死角ができないようになっている。

 本を盗んだり、ページを破ったり、飲食したり、そういうのを取り締まるために付けたらしいんだけど、それって生徒に対する剥き出しの不信感だよね。そういうこともあって、カーブミラーは埃をかぶってくすんだままにされている。天井の照明の陰になることもあって、人が居てもよく分からない。

 わたしは、ときどき不思議な目に遭うので、期待半分怖さ半分でチラ見する。

 

 プルプルプル

 

 ビックリした!

 カーブミラーには何も映らなくて、背後の司書室の電話が鳴ったのだ!

 日ごろはささやかな音なんだけど、意表を突かれたので、スッゴク大きな音に感じた。

 司書室の電話は先生用だから、生徒が出る必要なんてないんだけど、小出先生とかに急用だったら困るので、いらっしゃいませんを言うために受話器を取る。

「はい、図書室です……」

―― やくもちゃんね? ――

 ふたたびビックリ!

「あの……」

―― 小泉電信局の交換手です ――

 あ、あの黒電話に住み着いている身長一センチの!

―― 燃えないゴミを出しましたよね ――

 出した。お母さんが前の家から持ち帰ってきたガラクタを今朝指定の袋に入れて出したところだ。

「それがなにか?」

 不思議さも忘れて答えてしまう。

―― あの中にアノマノカリスのぬいぐるみがあります ――

「アノマロカリス?」

―― ほら、牙を出したイカみたいなやつです ――  

「あ、ああ」

 思い出した、大昔、お父さんがクレーンゲームで取ってくれたやつ。気持ちが悪いんで整理を口実に物置に放り込んだんだ。

「あれならゴミでいいんだよ」

―― そうおっしゃらずに、一度見てください。一時間もしたら回収車が来ますから ――

 でも、いらないし……言おうと思ったら、頭の中でフラッシュするものがあった。

 失ったら取り返しがつかない……気持ちだけが爆発した。なんなのか分からないけど、アノマロカリスがとても大事なもののように思えてきた。

 電話を切ると、やってきた相棒の小桜さんに頼んで家路を急いだ……。

 

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

小出先生      図書部の先生

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間

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