大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・1『再会』

2020-12-16 07:07:34 | 小説3

たらしいのにはがある・
『再会』
    


「土曜日、お母さんと会うからな」

「え………………………………?」

 これが全ての始まりだった。

 

 俺は、どこと言って取り柄も無ければ、欠点もない(と思ってる)、ごく普通の高校生だ。
 通っている高校も偏差値58の府立真田山高校。クラブは、どこの学校でも大所帯の軽音楽部。特に軽音に関心が高いわけじゃない。
 中三の時、友だちに誘われて、親父のアコステを持ち出して校内の発表会に出た。
 バンドというだけで注目だった。
 どっちかって言うと、そういうのは苦手。俺は、ただ習ったコードをかき鳴らしていただけだ。本番でも五カ所ほど間違ってしまった。とてもアコステをマスターしたとは言えない。でも、観客の生徒はみんなノリノリだった。友だちのボーカルが多少イケテル感じはした。ボーカルも「アコステよかったじゃん!」とか言ったけど、あとで見たビデオはひどいものだった。親父譲りのアコステは、そのまま物置に戻した。

 だから高校に入るまで、そういうのとは無関係だった。中学のアレは、義理ってか、押し切られたとか、錯覚とか、まあ、そういう範疇のものだ。

 俺は、自分は特別だとか思い込む中二病的因子は少ない方だ。良く言えば冷静、普通に言えば落ち着いた、悪く言えば面白みのない奴。中規模企業の課長で定年ぐらいの無難な人生がいいと思ってる。

 高校で軽音楽部に入ったのは、とにかく人数が多くて適当にやっていれば、学校の居場所としては悪くないと思ったから。
 実質は十人ほどの上級生が独占的にやっていて、俺たちはエキストラみたいなもんだ。


 でも、それでよかった。


 やったことと言えば、伝統の「スニーカーエイジ」に出場した先輩の応援にかり出され舞洲アリーナで弾けたぐらい。

 パンピーと言うかモブして観客席で群れているのが性に合っている。


 だから、入部したときに組まされたメンバーも、そういう感じで、ケイオン命ってんじゃなくて、お友だち仲間というベクトルが強い。お友だちというのは、互いに深いところでは関わらない。他愛のない世間話をするぐらい。
 スニーカーエイジの授賞式で先輩と目が合って「おめでとうございます」と言った時、先輩は俺の名前が出てこず、曖昧な笑顔をしていた。こういうことにガックリ来る人もいるだろうけど、俺は名もないモブであることにホッとした。


 俺はさ、そういうヌルイ環境が心地いい。

 さて、本題。

 俺の両親は、俺が小学二年の時に離婚した。

 原因は親父の転勤だった。


 なにか仕事で失敗したらしく、実質は大阪支店への左遷だった。ずっと東京育ちだったお袋は大阪に行きたがらなかった。そして、それよりも左遷されて、自信やプライドを失ってしまった親父にお袋は嫌気がさしてきたようだった。
 で、あっさりと離婚が決まり、俺は親父に引き取られ大阪に来た。一つ年下の妹はお袋が引き取り、我が家は、あっさりと大阪と東京に分裂した。

 それ以来、お袋にも妹にも会っていない。特別不幸だとは思っていない、今の時代、片親だけの奴なんてクラスに七八人は居る。

 妹が四年前交通事故で入院した。親父は一度だけ日帰りで会いに行った。
「大したことはなかった」
 その一言だけで親父は二度と東京にいかなかったし、当然俺も東京には行っていない。
 それが、今朝、ドアを開けて出勤しようとして、まるで天気予報の確認をするような気軽さでカマされた。

「この土曜日、お母さんと会うからな」
「え………………………………?」

 俺は、人から何か頼まれたり命じられたとき、とっさに返事ができない。

 一拍おいて「うん」とか「はい」とか「おお」とか、たいてい同意してしまう。小学校の通知票の所見には「穏和で、友だち思い」と書かれていた。要は事なかれ主義の、その場人間。親父に似てしまったんだと思う。この時は一拍遅れの「うん」も聞かずに、親父はドアを閉めてしまった。だからだろう、初めて乗ったリニア新幹線の感動も薄かった。

 そして、その土曜、Yホテルのラウンジ。

 目の前に、八年前と変わらないお袋が座っていた。
 そして、その横には、すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。

 

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やくもあやかし物語・30『黒電話の怪異・3』

2020-12-16 06:29:36 | ライトノベルセレクト

物語・30

『黒電話の怪異・3』     

 

 

 真岡の街だ……

 

 走りながら思った。

 南北に長くて西に向かって坂道が下っている、坂の向こうには港のパノラマ……港の沖には灰色の船がたくさん浮かんでいる。

 船たちにチカチカと火花と煙が立つ。

 ズドドーン ズドドドーン ズドドドドドーン

 数秒遅れて雷のような音、軍艦が揃って大砲を撃ってるんだ!

 ネットで検索したままの景色……ソ連軍の攻撃が始まったんだ!

 その子はピョンピョンお下げを振りながら坂道を駆け下っている。

 舗装されていない坂道は、その子とわたしの駆ける音でザッザッザッザと音がする。

 スピードに身を任せていると、足がもつれて転びそうだ。重心を後ろに傾けて転ばないようにする。

 その子は坂道に慣れているんだろう、どんどん距離が離れていく。

 

 ドッカーン! ドカドカドーン! ドドドドーン!

  キャッ!!

 ソ連軍の艦砲射撃が着弾し始める。

 港の方を狙っているようで、このあたりには着弾しない。

 それでも足の裏から震えがやってきて満足に走れない。その子が角を曲がった。

 数秒遅れて角を曲がると、すぐそこまでソ連軍が迫っていた。

 ズドドド ピューン ピューン

 機銃の音やら弾があちこちに当たって爆ぜる音が、ビックリするほど近くでする。

 ピューン! ピューン!

 目の前の路面に見えない矢が突き立ったように砂柱が立つ!

 ヒヤーーー!

 思わず立ちつくしてしまう。立ちつくした側を銃弾がかすめる! 逃げなきゃいけないんだけど体が動かない!

 もう、あの子を追いかけるどころじゃない!

 

 あぶない!

 

 声と共に男の人が横っ飛びにぶつかってきた!

 天地がグルングルンと二回転! 男の人に抱きかかえられたまま路地に転がっていった!

「ソ連軍が、そこまで来てる、南の方に逃げるんだ、逃げなさい」

 男の人は怖い顔を十センチくらいにまで近づけて言う。

 カーキ色の服は兵隊さんかと思ったけど、水筒をぶら下げているだけで武器は持っていない。平和学習で聞いた国民服という奴だろうか、胸には住所や名前を書いた布が張って……小泉源一郎と読めた。

「きみは名札……ないんだね」

「あ、はい、きゅ、急なことだったもので」

「そうか、そんなこともあるよね……名前はなんというの?」

「あ、えと、小泉 小泉やくもと言います」

「そうか、僕と同じ苗字だ……やくも……いい名前だ」

 男の人は、わたしを落ち着かせようとして聞いてるんだ……自分で分かるくらいに歯がカチカチいってる。

「お、おじさんは、どうして?」

 落ち着かなきゃならないと思って、わたしも質問する。

「妹がね、あ、下の妹なんだけど、お姉ちゃん、上の妹を迎えに行ってしまってね……危ないから追いかけてきた」

「あ、あ、セーラーとモンペにおさげ髪……」

「ああ、たぶん、この先の電信局……でも、もう間に合わないなあ……芳子……洋子……」

 そこまで言うと、おじさんは仰向けになった。右のわき腹が真っ赤に染まっている。

「痛みには強い方なんだけどね……」

 出血が多くて動けなくなっているんだ。

「南の方に逃げなさい……この路地を東に抜けて、南に……」

 銃撃の音に混じって、シュルシュルという音がしてきた。

「逃げろ!」

 おじさんは、わたしを路地の奥の方に付きとばした。突き飛ばされた勢いで数秒走った。

 

 ドッガーーーーン!!

 

 目の前が真っ赤になり、キナ臭い刺激臭と土埃で息が止まりそうになる。

 そして……今の今まで居たところが、見事に吹き飛んでしまった。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

 

 

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