大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・189『霧子の横・1』

2020-12-15 15:34:16 | 小説

魔法少女マヂカ・189

『霧子の横・1』語り手:マヂカ    

 

 

「ここは物見やぐらなの」

 

 霧子は一人分左に寄って、わたしも窓の外を見るように態度で示した。

 うかつには近寄れない。

 二階建て校舎の二階にある礼法教室の上に三階などあるわけがない。それも、城郭のような物見やぐらなど。

 見たままの物見やぐらだとしたら、物の怪や妖の仕業に違いなく、誘いに乗っては元の礼法教室に戻れないような気がする。

「大丈夫よ、何度もここに来て外の世界を窺っているけど、きちんと戻れているから」

 見透かされたか……仕方がない……後ろ手で密かに印を結んでから霧子の右に立つ。

「見て、ひどい有様でしょ……」

 予想はしていたが、瞬間、感覚が追いついてこない。

 二階の礼法教室から一階分の階段を上がったのだから、わたしの五感は三階を予想していた。

 しかし、物見やぐらの窓から見える風景は優に十階、いや十二階から見たパノラマのように開けている。

「まずは、高さに驚いたかしら……この高さは凌雲閣の天辺ほどにもあるからね」

 凌雲閣とは浅草公園に建てられた十二階の塔で、この時代には珍しいエレベーターが設置され、最上階からは東京市内が一望のもとで、高いところと言うと上野の山しか知らない帝都の民衆に親しまれた観光施設だ。ただ、昨年の関東大震災で九階部分から上が折れてしまい、安全のため、陸軍が爆薬を仕掛けて残りの八階分も撤去されている。

「高さに慣れたら街の様子に注目して」

 震災から半年ほどの東京は、まだ惨憺たるものではある。

 惨憺たるものではあるが、わたしは四半世紀先の東京大空襲の惨状を知っている。震災の痕を摂政の宮として視察をされた陛下は「震災よりもひどい」と小さく漏らされ、大空襲を防げなかった魔法少女は俯いて警護の供奉につくしかなかった。

「そうか……真智香さんは、すでに知っているのよね。西郷家の人だものね、きっと、震災後の救援活動にも行ったのよね」

「少しはね」

 ……戦災を知っているとは言えない。

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

 

 

 

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ライトノベル・ライトノベルベスト・〔年賀状を書こう!〕

2020-12-15 06:22:32 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
を書こう!      



 年賀状を書こう!

 朝目が覚めて、一番に思った。
 毎年思っては書きそびれ、ひどいときは紅白を聞きながら書いていることがある。
 佳世の年賀状は、正月明けのサインだね。と、友達に言われてきた。去年は開き直って七草粥のイラスト付けてだ出したら、結構ウケた。

 せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、(   )

 にして、カッコの中に入るのは何でしょう? というクイズ付。七日に着いて、ちょうど七番目を抜いておく。
 苦肉の策だったけど「こんな手があったか!」と評判だった。
 でも、同じ手は二度とは使えない。それに「七番目はなに?」といっぱいメールが来たのにも閉口。七草ぐらい調べろよな。といって、書いた本人がなにが入るのか忘れている。まあ、思い付きだからしようがない。

 テスト明けだというのに、きちんと目を通し、柄物のフリースにジーパンといういでたちで顔を洗いにいく。誰かが朝風呂に入ったんだろう、洗面台の鏡は見事に曇って、自分の顔が判然としない。ま、長年付き合ってきた顔なので、多少曇っていても歯磨きに支障はない。
 トースト焼いて、ハムエッグこさえて乗っける。以前はマヨネーズを塗ってからトーストにしていた。美味しいんだけどカロリーが高いので、マーガリンだけで済ませる。冷蔵庫を開けると、古いのが切れていたので、新しいバター風味のマーガリンを開ける。何事も新しいものを開けるというのは気持ちのいいもんだ。スープもインスタントだけど、コーンポタージュ。コーンの粒々が嬉しい。こいつも四袋入りのが切れていたので、新しいものを開ける。今日はなにごとも新鮮な感じで「オーシ、やるぞ!」という気になる。

 去年みたいにアイデアを期待していては、いつまでたっても書けないので、パソコンから適当なのを選んで、まあ、ごく普通なのにしよう。ただ、下1/4ぐらいは空けておいて、一人一人コメントが書けるようにしておく。
 完全にパソコンとプリンターに頼ったのは、なんだかダイレクトメールじみていて味気ない。

「そうだ!」

 パソコンのスイッチ入れてから思いつく。お父さんが九州に出張したときに買ってきたお土産の志賀島の金印のレプリカ。「漢倭奴国王」と、一見意味は分からないけどかっこいい。部屋に取に戻って、リビングへ……。

 パソコンが、まだ起動していない。いわゆる「まだ立ち上がっていない」状態。この夏に買い換えたばかり。一分もあれば立ち上がるのに……おかしいなあ。
 あたしは、こういうものには弱いので、兄貴を呼ぶ「おーい、にいちゃん!」

 返事が無い。

 お兄ちゃんだけじゃなくて、お母さんもお父さんも居ない。
「え、今日なんかあったっけ?」
 リビングのテーブルにハガキの束があるのに気付く。喪中葉書だ……。

 娘、瀬田佳代が、この十二月十一日に……そこまで読んで、頭がくらりとした。

「うそ、あたし死んだの!?」
 冷蔵庫を開ける。マーガリンは新品が箱に入ったまま。カップスープも未開封だった。置いたと思った食器はシンクのどこにもない。
 洗面所の鏡は曇っていなかった……自分の姿が見えないだけだ。部屋に戻ったら着たと思ったフリースもジーパンもそのまま、クローゼットの中にある。あたしは、なぜか制服姿のままだ。

 そして、記憶が戻って来た。期末テストが終わって、嬉しさのあまり校門を出たらトラックが迫ってきた。あとの記憶は、さっき目覚めたところまで空白。

 もう一つ思い出した。

 春の七草の最後は……仏の座だ。

 

 

 

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やくもあやかし物語・29『黒電話の怪異・2』

2020-12-15 06:12:38 | ライトノベルセレクト

物語・29

『黒電話の怪異・2』      

 

 

 皆さんこれが最後です さようなら さようなら

 

 憶えているうちにコピーしてYAHOOの検索窓に貼り付けた。

 ちょっとためらってからカーソルを検索のところに持って行ってクリック。

 カチャ

 ウィキペディアの――九人の乙女の像――というのが出てきた。

 夢の中に出てきた言葉なので献策しても何も出てこないだろうと思っていたのでビックリした。

 公衆電話の掛け方には疎いけど、こういう検索に慣れているのは我ながら今どきの子なんだろうね。

 

 1945年8月20日 五日前に戦争は終わっているのに、当時ソ連といったロシアが攻めてきたんだ。

 真岡って、樺太にあった街。

 ソ連が攻めてくるんで、街の人たちは北海道なんかに疎開を始めていた。女子供を真っ先に疎開させたんだけど、真岡の電信局で交換手をしていた十二人の女の人たちが残った。みんな二十歳前後だったんだけど、電信局の交換手の仕事をしていた。交換手が居なくなっては電話が繋がらなくなるからなんだ。

 8月20日 ソ連軍は前触れもなく艦砲射撃をした後に上陸して来て、生きている人を見れば見境なく銃撃してきた。

 真岡の街に取り残された人たちは容赦なく撃ち殺されたんだそうだ。

 局長さんは交換手の女の人たちに逃げるように言ったけど、九人が残って電話の交換業務を続けた。

 電話をかけてきた人には、知りうる限りの真岡の状況と逃げ道などを教えたそうだ。

 そして、電信局にも銃弾が飛び込んでくるようになって、最後に取り次いだ電話にこう言ったそうなんだ。

 

 皆さんこれが最後です さようなら さようなら

 

 そして、九人全員で青酸カリを飲んで自決した。戦後、稚内に記念碑が建てられ、彼女たちの最後の言葉が彫り込まれている……悲劇が起こったのは樺太だけど、ロシアに取られた真岡に建てることもできず、やむなく稚内に建てられた。

 でも、なんでこんな夢を見たんだろう?

 真岡のことも知らなかったし、稚内はおろか北海道にだって行ったことが無いんだよ。

 皆さんこれが最後です さようなら さようなら

 この言葉が、たまたま真岡の彼女たちの言葉と同じだったからだろうか……検索ツールで一年、一か月、一週間と絞ってみたけど、丸ごと当てはまるのは真岡の事しかない。

 この家に来るまでのわたしだったら、ここで投げ出してる。

 なんか、悪い夢見ちゃったでおしまい。ご飯食べるとかお風呂に入るとかして、その次の日には忘れてる。

 でも、ここに来てからいろんなことが起こってるので、ちょっと考えてしまう。

 

 どうも黒電話が怪しい……腕組みして黒電話を睨んでみる。

 

 プルルル プルルル

 

 夢ではなくて電話が鳴った! さっきの夢が無ければ逃げ出してる。

 ぜんぜん怖くなかったわけじゃない。太ももからお尻に掛けてゾワってしてきた。

 恐るおそる受話器を取る……もしもし。

 

――やくもちゃん、窓の外を見て!――

 

 少女らしい声が叫ぶように言って、直後に切れた。

 窓の外を見ると、いつもの庭じゃなかった。

 木製の電柱が並んでいる道が延びていて、セーラー服にモンペ姿の女の子が駆けていく後姿が見えた。

 追いかけなくっちゃ!

 わたしは、窓を開けると外に飛び出して女の子を追いかけた……!

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

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