大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・77『鯉のぼりと例の黒い影』

2021-05-06 08:40:50 | ライトノベルセレクト

やく物語・77

『鯉のぼりと例の黒い影』    

 

 

 連休が終わったとたんに日本晴れになった。

 

 連休中、特に出かける予定も無かったし、じっさい出かけなかったんだけど、連休明けたとたんの日本晴れは胸糞が悪い。

 授業がつまらないのと、開け放した窓から吹いてくる風が爽やかなんで、つい、窓の外を見てしまう。

 校舎の向こうに街が見える。

 四階建て校舎の三階の窓だから、見えると言ってもスカイツリーから見下ろすほどには見えない。

 見慣れた学校の近所の景色なんだけど、昨日までの雨が嘘みたいにあがったあとで、青空が広がってとっても爽やか。

 あ、鯉のぼり。

 ちょうどいい風が吹いたんだろう、フワっと風を孕んで三匹の鯉が青空に泳ぎだした。

 近ごろは、マンションのベランダとかから斜めにポールを突き出して小振りな鯉がタラ~ってぶら下がってるのが多いよね。

 あれって、鯉のぼりを挙げてるというよりは干してるって感じで、あまり面白くない。

 その鯉のぼりは、かなり広い庭があるお屋敷なんだろう、ご近所の二階建てやら三階建てやらの家々の屋根たちの上に翩翻(へんぽん)と翻っている。

 考えたら、子どもの日は終わってるから間の抜けた話なんだけど。それでも、ちょっと得した気分になって眺めている。

 風が弱くなってきて、鯉がクタ~っとなってきたので視線を黒板に戻す。

 戻す途中に、向かいの校舎の屋上が見えてしまった。

 屋上の給水タンクの上に、瞬間やつが見えた。

 ほら、教頭先生が言ってた黒い影。

 時間にして、ほんの0.1秒ほど。

 ほんの0.1秒ほどだけど、背筋がヒヤッとした。

 それにね、黒い影は0.1秒ほどの間に姿を変えた。人の形にね。

 0.1秒だったことと、真っ黒だったことで人の形ってことしかわからないんだけど、背筋が凍るのには十分だった。

 幸か不幸か、よそ見している間に先生の板書は結構な量になっていたので、それを写すことで、なんとか平常心には戻れたよ。

 

 放課後は図書当番も掃除当番もないので、まっすぐ学校を出る。

 

 ちょっと寄り道しようと決心していた。

 ほら、授業中のよそ見で発見した鯉のぼり。あれを間近で見てみたいと思ったのよ。

 見当をつけて歩いてみる。

 あたりはニ三十坪の戸建て住宅が多い。

 ニ三十坪の戸建てって庭がないんだよね。

 たいてい一階部分がガレージ、ちょっと広いところは駐車スペースにしている。

 こういう住宅では鯉のぼりのポールを立てるのは不可能だ。

 ときどき五十坪とか百坪ほどの、時には、その倍以上のお屋敷も見かけるんだけど、鯉のぼりは見当たらない。

 あれから数時間たっているので、ひょっとしたら片づけたのかもしれない。

 この角を曲がって見えなかったら諦めよう。

 そう決心して角を曲がったら……。

 

 あった!

 

 江戸時代からあったんじゃないかと思うくらいの古いお屋敷の塀の中で、鯉のぼりは風を孕んで翻っていた。

 ポールは、青々とした孟宗竹で、鯉の上には五色の吹き流しもたなびいて、天辺には矢車がカラカラと音を立てて回っている。

 こんな、正式と言うか古風と言うか立派な鯉のぼりを見るのは初めてだ…………!

「すごいだろ」

 うしろで声がしてビックリして振り返る。

 え……!?

 自分が立っている。

 以前、杉野君の妄想から生まれたドッペルゲンガーを見たけど、一見して、そいつとは違う別のドッペルゲンガー!

 寸分たがわず小泉やくもなんだけど、迫力が違う。

 だいいち、前のドッペルゲンガーは口をきいたりしなかったよ。こいつは「すごいだろ」って言った。

「えらく感動した様子だったんでな、もう一度見せてやることにしたんだ」

「あ……えと……」

「ドッペルゲンガーとかじゃないぞ」

「え、あ……だったら」

「二丁目断層だよ」

「二丁目……」

「教頭が言ってただろ、給水タンクの黒い影さ。おまえ、面白そうだから、オレの友だちになれ」

「え、えと……」

「いや、もう友だちだな。オレが決めたんだから」

「えと……」

「じゃあな」

 それだけ言うと、そいつはスイッチを切ったように居なくなった。

 気が付くと、お屋敷も鯉のぼりも無くなって公園になってしまっていた。

 公園で遊んでいた子供たちが、わたしを見て、いっせいにアハハと笑った……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層

 

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ライトノベルベスト『爺さん高校に通う』

2021-05-06 06:03:30 | 自己紹介

イトノベルベスト

『爺さん高校に通う』  




 最初は新しい校長先生かと、瑞穂は思った。

 府立S定時制高校の始業式である。
 定時制と言っても昔のように、中卒で苦労し、なんとか高卒の資格をとっておきたいという年配の者はほとんどいない。大概が、全日制にいったん入ったが、何らかの理由で中退せざるを得なかった過年度生が多く、瑞穂自身も三年前の秋に人間関係のこじれでA女学院を中退していた。
 学校に行かなくなってから、喫茶店のバイトをやり始め、今は、それが楽しく全日制を受け直す気にはならなかった。

 だから入学時のクラスは大半が16歳から、せいぜい18歳ぐらいまでで、成人の生徒というのは見かけない。それも四年生ともなると生徒の数は減ってしまい、一年の時23人いたクラスが15人しかいない。

 その爺ちゃんは、式服を着て、どこから見ても校長先生である。
 それが、なんと式場では、瑞穂の横に座っていた。

 実際の校長は、新任ではあったが、昼間の全日制と兼務で、話が長いだけの五十代半ばの貧相なオッサンだった。

「いやあ、定年で辞めてから二年になるんですけどね、ふと身辺整理をしてたら高校時代の成績表が出てきましてな。ほんなら、数三落としたままやいうことに気いつきましてなあ。必履修やないんで、そのままでもええんですけどね。なんや忘れもんに気いついたみたいで気色悪いんで、数学の時間だけ、みなさんとごいっしょさせてもらいます。須藤健一と言います、どうぞよろしく」
 爺さんの自己紹介は、過不足がなかった。それまでの人生やら、教訓めいたことは一切言わへん。みんなからは「須藤さん」と呼ばれた。むろん先生らも、そない呼ぶ。数三は週に2時間しかないんで、須藤爺ちゃんは週に二回だけくる。
 授業が終わっても、八時半の終業まで学校におって、先生やら生徒やらと楽しそうに話して帰る。

「いや、わし、数学大嫌いでな。毎年数学は落として、追試でとってた。三年の時ぐらいお情けで単位くれるかと思たんやけど、しっかり落とされてしもた。数学の先生きらいな奴でなあ。大学の入試と追試が重なってしもたこともあって、とうとう取らずじまいやった」
「今の姫ちゃんは?」
 姫ちゃんとは、今年赴任してきたばっかりの小野田姫乃先生のこと。口癖は「分かる?」
 単元が終わって「分かる?」 練習問題をやっては「分かる?」
「先生、ジジイのわしでも分かってるんやから、みんなも分かってると思いますよ」
 と助け船。
 微分積分なんか、正直あたしでも分からへん。
「かましません。みんなきちんとノートとって、説明も聞いてます。魚心に水心でいきましょ」
「そやけど、須藤さん……」
 すると須藤さんは、やにわに教壇に立って、黒板に『微分』『積分』と書いた。
「微分は、微かに分かる。積分は分かった積りて読みます。そんなとこでドガチャガで」
 これには、教室中から笑い声が起こった。

 連休過ぎに黒川君が学校にこんようになった。四年で辞める子は少ないけど、みんな、それぞれ事情がある。みんなの反応は「やっぱりなあ」でしまい。
 そんな黒川君が、中間テスト一週間前から来始めた。なんでも須藤さんが毎日のように家や職場に来て、うっとうしいから来ることにしたらしい。

 夏にはあたしがお世話になった。

 あたしは、店のお客さんからプロポーズされてた。明るうて面白い営業のお客さん。休みに映画とドライブに誘われて、三回目に六甲山で神戸の夜景見ながらプロポーズされた。
「あの男はやめとき」
 須藤さんの忠告を初めてうっとうしいと思うた。
「あの男は、他にも女がおる。離婚も一回やっとる。原因はあいつの素行とDVや。結婚したら豹変するタイプや、悪いことは言わん。やめとき」
「せやけど、あたし……」
「初めての男はええように見えるもんや。君らの年頃は恋愛の最後の練習期間や。勉強やったと思たら、なんでもない」

 須藤さんの言うてたことは、当たってた。二週間後、会社のお金使い込んで、ドロンしよった。あのままやったら、なけなしの貯金あげてたとこやった。

 二学期の始業式が傑作やった。

 須藤さんが、先生らの列の中にいてた!

「ええ、日本史の栗本先生が病気で当分お休みになられます。その間講師で須藤先生に入ってもらいます。須藤先生は、三年前まで府立高校の地歴公民の先生で……」
「校長さん、もうよろしい。みんな適当に知ってくれてますよってに。ほんなら、月曜と水曜は先生しにきますから、みんなよろしゅうに」

 こうして、須藤先生は、頭を掻きながら一礼。月水は日本史の先生、火木は生徒として教室にやってきた。
 卒業間近に分かったことやけど、校長先生は須藤さんが最初に担任した時の生徒やった(^_^;)。

 そのせいか、この一年間は校長先生の話は短くて、少しは内容のあるもんになってたです。はい。

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真凡プレジデント・74《昭和二十年十月二十日・3》

2021-05-06 05:45:38 | 小説3

レジデント・74

《昭和20年10月20日・3》     

 

 

 ドクターも看護婦も、わたしたちを無視した。

 

 終戦直後、米軍に接収された病院。見舞いに来れるだけでも大変なことなんだろう。

 病室の隅でビッチェが化けた女先生とともに静かにしている。

「ミナコチャン、オ薬ノ時間ネ」

 検温が終わって看護婦さんが言った言葉はたどたどしい、おそらくは日系アメリカ人の看護婦さん。

 もちろん女医さんはアメリカ人。

 職業的な微笑は絶やさないが、どこか冷たく感じるのは気のせい?

「いつ退院できますか?」

 薬を手にすると、いったん口元まで持って行った手を休めて看護婦さんに聞いた。

「アーット、ソレニツイテハ先生カラオ話ガアルノ」

 看護婦さんが目配せすると、女医さんは英語で答えた。

「You wil go to USA」

「ミナコチャンハアメリカニ行ッテ治療ヲ受ケル、日本デハパーフェクトナイカラネ」

 

 え?

 

 一瞬ポカンとした顔になった美奈子ちゃん。

 たぶん、もっと早く退院できると思っていたんだろう。見かけは健康に見えるもの。

「えと……パーフェクトって、どういう意味ですか?」

「ア、ゴメンナサイネ。十分トカ完全トカイウ意味。分カル?」

「あ、はい。大切にしていただいてありがとうございます」

 

 うそだ、パーフェクトの意味が分からなくても、アメリカに行くことは理解できているはずだ。

――気をつかっているのよ。パーフェクトを意味不ということにしてごまかした――

 ビッチェの気持ちがダイレクトに伝わった。

「さっき、夢を見たんです。国民学校の担任の先生と若い吉水先生、担任が吉水先生に替わるんです」

「ソウ、ソレハ楽シミネ。ジャ、オ薬飲ンデ」

「はい……」

 

 薬を飲ませると、アメリカ的な笑顔を残して二人は出て行った。美奈子ちゃんは天井を見つめたままだ。

「美奈子ちゃん……」

「美奈子ちゃんには見えていないわ。二人が入ってきた時にステルスにしちゃったから、だから、美奈子ちゃん夢だと思ってる」

「それじゃ……」

 姿をあらわそうと思ったら、美奈子ちゃんの頬を涙が伝っているのに気が付いた。

「分かっているのかも……さっきの薬は単なるビタミン剤」

「え?」

「原爆症が薬で治るわけないじゃない」

「え、え、じゃあ……」

「ちょっとワープ……」

 

 病室がグニャリと歪んで渦巻になったと思うと、英語の表示があちこちにあるラボのようなところになった。

 

「三カ月後、カリフォルニアの陸軍のラボ……二つ向こうの棚に美奈子ちゃんがいる」

「え?」

 そこはいろんなサイズのガラス容器が並んでいて、その後ろがデコボコに見えている。わたしは、一歩踏み出した。

「見ない方がいい。保管してあるのは美奈子ちゃんの内臓だけだから」

「え?」

 ちょっと混乱したけど、棚の前に進んだ。

 見届けてあげなければならないと思ったから。

 ビッチェは止めなかった。

「………………」

 

 美奈子ちゃんは、原爆が人の臓器にどんな影響を与えるか、そのサンプルになるためにだけアメリカに渡ったんだ。

 そして、記録上は、あの病院で亡くなったということで処理された。

 

 気づくと、消防車の助手席に収まって混沌の中を進んでいるところだった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

 

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