大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:187『大毛島 義経軍の幻と共に』

2021-05-22 09:31:24 | 小説5

かの世界この世界:187

『大毛島 義経軍の幻と共に』語り手:テル   

 

 

 二キロ足らずの鳴門海峡を全力疾走で渡った。

 

 対岸の大毛島の砂浜に立って振り返ると、狭い海峡にはいくつも渦が巻いている。

 あの有名鳴門の渦だ。

 渡るどころか現物を見るのも初めてだった。

 ナルトと言えばコミックだし、学食の中華そばに入っている白地にピンクの渦が巻いている鳴門巻だし、鳴門巻が鳴門の渦にあやかっていたのは懐かしい思い出と共に記憶している。

「なんで、鳴門巻って云うんだろうね?」

 冴子がしみじみと言って笑ったのは、去年の四月。高校に入って初めて学食を使った時の事だ。

 定食はA・B共にニ三年生の勢いに列に並ぶこともできずに、麺類の列に並んで買ったのが中華そば。

 業務用粉末スープを溶いた中に、黄色い中華そば、ネギとモヤシの他には、それだけが彩の鳴門巻。

 冴子は鳴門巻の由来を知らなくって、解説してやると目をへの字にして面白がってくれた。

 なんだか、とても昔の事のように思い出す。

 解説したわたしも、本物のなるとの渦は、渡るどころか見るのも初めてだ。

「ここを走ってきたんですね……」

 歴戦の下士官であるタングニョーストも背嚢を揺すりあげて感心した。

 カサリ

「背嚢のタングリスも感心してるよ」

 骨と皮だけになったタングリスと、それを背負っているタングニョーストを気味悪がったケイトだけども、共に海峡を走破するという偉業をなし終えて、骨のこすれる音にも懐かしさを感じているんだ。

「タングリスがもうちょっと復活して肉が付いていたら渡れないところでした」

「タングニョースト」

「なんだい、テル?」

「わたしにも、戦友の温もりを感じさせてはくれないか」

「テルが?」

「うん、四号に乗ってムヘンの血を乗り切れたのは、いつも隣にタングリスが居たからなんだ。最初は、タングリスが操縦手で、砲手のわたしは、いつもタングリスの背中を見て戦った。ノルデン鉄橋でタングニョ-ストが転属してからは、車長席で、それこそわたしの背中に居た。それを少し偲べればと思ってね」

「そうか、それなら戦友も喜んでくれるだろう……じゃあ、少しの間頼もうか」

「テルの後は、ボクに!」

「ああ、じゃあ、高松からはケイトということで」

「おい、あれは!?」

 ヒルデが岩を挟んだ隣の砂浜を指した。

 イザナギが軽々と岩に登って様子を窺う。

「あれは、義経の軍勢だ。浜に乗り上げて、馬と兵を下ろしている」

「時空が錯綜している、義経がここに来るのは千年先のことだよ」

 歴史オンチのわたしでも、それくらいの事は知っている。

「話題にしていたのは我々だ、呼び寄せてしまったかな」

 目の前の浜で隊列を整えているのは幻だ。

 幻だけれど、まんまと平家の裏をかいた義経は一の谷に次いで奇襲に成功し、平家を壇ノ浦に追い詰める。

 これから、黄泉の国を目指してイザナミを取り返そうとする我々の心を大いに鼓舞してくれる。

 

 いざ、進め!

 

 紫裾濃(むらさきすそご)という、紫系のグラディエーションがオシャレな鎧の袖を翻して進撃の檄を飛ばす義経。

 ピカッ ゴロゴロッ!!

 折から起こった雷光が、兜の鍬形を煌めかせる。

 

 オオ!!

 

 雷鳴に和して、総勢百あまりの軍勢が北西に進路を取って駆け出した。

「威勢はいいが、100ほどの中隊規模でしかないぞ。テル、平家の軍勢は何人ほどだ?」

「ええと……」

 さすがに、高校生の知識では、そこまでは分からない。

「二万近くがいるはずだ」

「分かるんですか、イザナギさん?」

「ああ、源氏も平家も、わたしの裔の者たちだからね、ああやって幻でも現れると分かるようだね」

 そうだ、源氏は桓武天皇の、平家は清和天皇の子孫だ。

「さあ、我々も出発しようか」

 ヒルデが拳を上げて、我々五人の黄泉遠征軍も腰を上げる。

「タングニョ-スト、高松までの前方を敬開してくれ」

「承知しました!」

 身軽になったタングニョ-ストに、歴戦の下士官に相応しい役割を与える。

 殿のわたしに寄り添ってきて、そっと呟くように言った。

「よく、言ってくれた。ただ、交代しようと言うだけでは背嚢を渡さんかったよ、タングニョーストは」

「あ、いや……(^_^;)」

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、全て読まれている。

 

 我々は、義経軍の後を追うようにして高松を目指した。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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ライトノベルベスト・〔俺の妹がこんなにモテるわけがない〕

2021-05-22 06:25:00 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔俺の妹がこんなにモテるわけがない〕  




「受けるったら、受ける!」

 妹の小百合は、それで通してしまった。
 俺を含め家族は、もう説得するのにも疲れた。
「まあ、本人の人生だ。やりたいようにやらせてみようか……」
 親父のこの言葉が家族の総意ということになった。

 小百合は、来春に打ち上げられる人類初の超光速宇宙船の乗り組員に応募しようというのだ。
 なんせ、人類初の超光速である。なにがおこるか分からない。

 妹の小百合は兄の俺がいうのもなんだが、取り柄が無い。

 高校は平成に創立され、今年創立二百周年を迎えた古いことだけが取り柄の『青春高等学校』これが『聖駿高校』でもあれば、音はおなじでも21世紀初頭に流行ったテレビ番組と同じでカッコいいんだけど、なんにもなしの『青春』。この200年間偏差値48を奇跡的に維持。学校関係者は、いっそ『SSK48高校』にしようと真面目に考えたほどである。
 その青春高校でも特に成績がいいわけでもなく、かわいいわけでもない。
 名前が示すように、イメージ古すぎ。平成の時代だったら小野さんが生まれてきた娘に「小町」と名付けるようなもの。この23世紀はカタカナの名前が一般的だ。ちなみに小百合は、この夏に大失恋している。フッた男が玉置コージ、横からかっさらっていったのが親友と思っていた名取ヨウ。二人とも並の上ってとこだけど、フラれた小百合にはフラれたという傷しか残らない。
 存在感の薄さも災いしている。遠足で点呼して、どうしても一人足りない。三回目にやっと小百合を飛ばしていたことを担任が気づくぐらいに存在感が無い。

 そこへ、宇宙船の乗組員の募集があった。

 昔の宇宙船と違って、居住性は客船並。人工重力もあり、21世紀のように宇宙酔いなどはしない。まるで超人を養成するような特殊訓練もない。ただ超光速は人類初で、なにが起こるか分からない。一か月でマゼラン星雲まで行って帰ってくる予定だが、学者によっては、古臭い相対性理論を持ち出して危険と叫ぶ人もいたが、その昔、超音速に人類は耐えられないと言われた以上に少数派で、完全に無視された。

 ……それから40年がたった。

 小百合を乗せた宇宙船は、まだ帰ってこない。専門家は超光速のあまり、異次元に入り込み、二度と、この世界には現れないだろうということで意見が一致していた。

 発射場には記念碑が建てられ、犠牲者の碑が横に並んでいる。全部漢字の小百合の名前は目立っていた。石碑になってやっと目立てたか……老眼の進んだ目に眼鏡という古典的な視力矯正器をかけて、俺は石碑を撫でた。
 23世紀も半ばを過ぎると、ほどほどの科学というのが流行り、日常生活は古典といっていい風俗に変わり始めていた。細胞操作をやれば125歳ぐらいまでは生きられるのだけど、人は、あえて自然な人生を選ぶようになり、親父もお袋も人工関節には入れ替えているが、人並みの年寄りになっていた。

 この墓参りのような妹への追憶も、これを最後にしようと決めた。

 俺たちには、世話をしたり関心を持たなければならない家族や妻や子や孫たちがいる。この23世紀では、まだまだ仕事もしなければならない。
「じゃ、小百合。これでお別れするよ……」
 親父とお袋は、さすがに涙ぐんだ。息子夫婦は神妙にしているが、孫たちは帰って遊びたくて仕方がないようだった。顔も見たことが無い40年前の大叔母などに興味の持ちようはない。

 ……それは、十年に一度あるかどうかと言われるぐらいの、まるで、空がコバルトブルーの海に恋をして染まってしまったような秋晴れの日だった。

 月の交通管制局が、突如地球と月の間に現れた、見たこともない宇宙船の出現に気づいた。

『いきなりコスモレーダーに現れたんです。いやあ、交信した時には驚きました!』

 管制官が、モニターの中で興奮した顔で言っている。

 そう、小百合を乗せた超光速宇宙船が帰って来たのだ!

 宇宙船の搭乗口が開くのを固唾をのんで見守った。

 信じられなかった。乗組員たちは40年前に出発したときそのままの姿だった。
 相対性理論は生きていた。光速以上で移動する乗り物の時間は、その速度に従って短くなる。

「え……おにいちゃん!?」

 そう言って驚いた小百合は、高校三年生のままだった。

 そして、この時代は、新古典主義の時代と言われ、400年以上前の昭和や、平成、令和の文化がもてはやされていた。

 40年前では、なんの取り柄もない小百合だったが、23世紀末では得難い『生きた平成』ともてはやされた。コンタクトレンズ以外何も人工的なものをほどこしていない小百合は、それだけでも賞賛の的だったが、そのルックスと物腰は、トップスターが真似ようとしてもできないもので、小百合は世界のアイドルになってしまった。

 ああ、俺の妹が、こんなにモテるわけはない……のに!

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真凡プレジデント・90《おしゅらさま》

2021-05-22 06:07:03 | 小説3

レジデント・90

《おしゅらさま》    

 

 

 お寺の復旧が真っ先だったそうだ。

 

 大勢集まれる施設が、この集落ではお寺。

 被災直後は、じっさいお寺の本堂に避難した人が多かった。お寺は集落の中でも高台にあって、中でも本堂は床の高さが1.5メートルあって床上浸水を免れていた。だから防災上の問題から復旧が早くなったのかと思ったけど、集落の常識では、何を置いてもお寺からなんだそうだ。

「ここらでは、お寺と言うのが共同体の中心なんだよ」

 藤田先生の説明に「そうなんですか」と答えたけど、ピンときていたわけではない。

 最初にやったのは流木の始末だ。

 被災直後に自衛隊が粗々には片づけてくれてはいたんだけど、生活が落ち着くにしたがって、もう少しやっておきたいところが出てくる。通学や畑仕事の邪魔になっていたものや、あちこちの隙間的なところに挟まっていたり隠れていたりするものがけっこうある。

 そういうものにロープを引っかけて動かすのにはハンビーなどの軍用車両は四駆や六駆で馬力もあるのでうってつけなんだ。

 半壊した納屋や農機具小屋などの取り壊しにも役に立った。

「子守を頼んでいいかいね?」

 お祖母さんに声を掛けられた。

「子守に手をとられて、こまごましたところに気が回らないとことがあるのさ。そういうところに年寄りも出張りたいんで、子守してもらえるとありがたいんだけども」

「はい、わたしたちでよければ」

 生徒会執行部で七人の子守をすることになった。

 お寺の境内や本堂で鬼ごっこをやったり石けりをやったり、本を読んであげたりした。

 夕方になると、年長の子たちがトウモロコシを持って加わった。「どうぞ食べて」と焼きトウモロコシを勧めてくれるんだけど、被災地のものを食べるわけにはいかない。

「もう、食べ物に困ってる段階じゃないから」

 そう言ってくれるし、住職さんも「どうぞどうぞ」と勧めるし、いっしょにお話したりで夕食までを過ごした。

 夕食後、手のすいた人たちも集まって、本堂はけっこうな賑わいになってきた。

「すみません、なんだか遊びに来たみたいで……」

 恐縮して頭を掻く。

「そだ、あたしたちボランティアなんだよ!」

 なつきが寝ぼけたことを言う。

「なんのなんの、こうして楽し気になるのが一番よ」

「そうなんですか?」

「暗くなってては、おしゅらさまも退屈するけんね」

「おしゅらさま?」

「ああ、座敷童みたいなもんで、あんまり暗くしてると居なくなってしまう。おしゅらさまが居なくなると、村は寂れるでね」

 和尚さんが頭を掻く。

「ちょっと、数えてみるか」

 子守のお婆ちゃんが言うと、若い人数人で本堂に集まった人たちの人数を数え、もう一人が名簿を作り始めた。

「じゃ、名前を呼びますんで、お返事ください」

 名簿に従って呼名点呼。むろん、わたしたちも数の内。

「……最後にご住職」

「はい!」

 呼びあげた名前は三十三人。

「で、何人いる?」

「はい、三十四人です!」

 頭数を数えた青年団の女性が答える。

「よしよし、ちゃんとおしゅらさまはご座らっしゃる」

「「「「「え?」」」」」

「知った顔ばかりでも、数えると一人多い。なんなら、やってみますか?」

 和尚さんが、いたずらっぽく勧める。

「わたし、やる!」

 なつきが立候補して呼名点呼。紛らわしくならないように、みずき先輩が人数分だけ紙を用意して、綾乃が呼ばれた人に渡していく。

「紙無くなったわよ」

 和尚さんに渡して三十三枚が無くなった。

 すぐにみずき先輩と琢磨先輩が、紙を掲げてもらったうえで人数を数える。

「「三十四人……」」

 

 拍手が起こって、村のみなさんが口々に「めでたいめでたい」と唱和する。

 

 ちょっと不思議なボランティアの夜が更けていった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号

 

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