大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・207『今年の梅雨は気が早い』

2021-05-21 09:53:27 | ノベル

・207

『今年の梅雨は気が早い』さくら     

 

 

 今年は梅雨が早いなあ……。

 ほんまやねえ……。

 

 お爺ちゃんと孫の会話。

 お爺ちゃんはうちのお祖父ちゃんで、孫はうち。

 留美ちゃんは委員会の用事で、おっちゃんとテイ兄ちゃんは檀家周り。おばちゃんは町会の打合せ、詩(ことは)ちゃんは大学に行ってるんで、帰宅後のひと時をダミアをモフモフしながらリビングでボンヤリしてる。

 それで、換気の為に開けた窓からそぼ降る雨を二人で見てるという次第。

「梅雨いうたら、六月のもんと決まっとったのになあ、今年の梅雨は気ぃが早い」

 お祖父ちゃんの感想には切迫感がない。

 この四月から、お爺ちゃんは檀家周りをひかえてる。なんせ歳やし、コロナのこともあるしね。

 

「お義父さん、血液型はなんでしたっけ?」

 おばちゃんが聞いたのが先月。

「えと、AB型やけど」

「お義父さん、AB型はコロナの重症化率50%増しだそうですよ」

 おばちゃんは、新聞をパサリと置いて、眉の間にしわを寄せながら宣告する。

「ほんまかいな!?」

「ほら、新聞に!」

「ええ……ほんまや(;'∀')」

 ということで、お祖父ちゃんの檀家周りは、ほとんどゼロになってしもた。

 うちの如来寺は檀家の多いお寺やねんけど、三人で回るほどやない。住職不在の専念寺さんのヘルプも、他のお寺さんが手伝うてくれはるようになって、負担やなくなってきたということもある。

「ほんなら、そうしよか」

 と言うて、お爺ちゃんは実質的にリタイアの状態。

 

「お祖父ちゃん、ボケるんちゃうやろか」

「ちょっと心配だね」

 

 詩ちゃんと夕飯の片づけやりながらコボしたことがある。

「口に出したらホンマになるなるで」

 テイ兄ちゃんにおこられる。

「世の中には『言霊(ことだま)』いうのがあってな、口に出したらホンマになるて昔から言うんや」

 うん、これは頷ける。

 お寺やさかい『南無阿弥陀仏(ナマンダブ)』は日に百回くらいは聞く。本堂では、如来寺ができてから数億回の『南無阿弥陀仏』が唱えられてきて、柱や欄間の黒光りは、そのナマンダブが染みついた証。

「せや、テルテル坊主こさえよ!」

 お祖父ちゃんが膝を叩いた。

「テルテル坊主?」

 お祖父ちゃんの横におったもんやさかい、テルテル坊主は、一瞬禿げ頭の坊主を連想してしまう。

「白い布(きれ)やったらいっぱいあるしなあ……綿は古い座布団のん使たらええしな……」

 お祖父ちゃんといっしょに二階の倉庫に行って材料を取ってきて、三十分後にはニつのテルテル坊主ができる。

 留美ちゃんと詩ちゃんが帰ってきて、寄り合いの終わったおばちゃんも加わって、晩御飯までには三十個あまりのテルテル坊主ができた!

 お寺のテルテル坊主なんで、前の方に『南無阿弥陀仏』のハンコが押してある。顔は定番の『へのへのもへじ』です。

 晩ご飯終わってからは、面白がったテイ兄ちゃんとおっちゃんも加わって、全部で46個。期せずして『如来寺46』になりました!

 テイ兄ちゃんのテルテル坊主はラノベのヒロインみたいな顔。だれかに似てるなあと思いながら本堂の軒やら山門の軒にぶら下げる。

『如来寺46(^▽^)/』

 写真を付けて頼子先輩にも送ると『わたしもやる!』と返事が返って来て、うちの周囲は、ちょっとしたテルテル坊主ブームになりました。

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ライトノベルベスト『ユイとフェブ』

2021-05-21 07:14:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ユイとフェブ』  




 それはいきなりだった。

 いきなりって、スマホの着信なんて、いつでも誰でもいきなりなんだけど、フェブのそれは、いつもいきなりって気がする。
 それは、ボクが、なによりも誰よりもフェブのメールを待ちわびているせいかもしれない。

 フェブと出会ったのは、節分の夕方。

 帰宅部のボクは、ダラダラと教室でユイたちととりとめのない話をして、ゲンが「腹減った!」とお腹の虫といっしょに叫んだのを汐に、やっと帰ることにして、そして駅の改札で上りホームのゲンたちと別れた。

 下りはオレとユイの二人だ。

 ユイとは一年から同じクラスで、二年になってから、クラスで一番気の合うカノジョだ。
「いつまでもバカやってちゃダメだね」
 ユイが、待合室のガラスに写るボクに言った。
「そう……だな」
 あいまいに返事した。
 帰宅部の半分くらいが進級が危ぶまれている。実際一年の時の帰宅部の半分が二年になれなかった。

 この会話は儀式みたいなもんだ。

 二年になっても三回目は言ってる。

 そう誓っては、その次のテストでは赤点だらけ。で、傷の舐めあいみたく放課後遅くまで残って、くだらない話をして時間を潰す。たまにみんなでカラオケとか行くけど、それ以上の付き合いなんかじゃない。

 よくわかっている。

 ユイもボクの事をカレだと思ってくれているけど、一年の学年末テストの前にキスのまね事をしただけだ。本当に男と女の関係になったやつもいたけど、二年になった時には学校にはいなかった。

 ボクたちは、高校生のまね事をやっているだけなのかもしれない。だから、ユイもガラスに写ったボクにしか言わないし、ボクもいいかげんな返事しかしない。

 フェブは、商店街の脇道の風俗街の入り口で、客寄せのポケティッシュを配っていた。赤いダウンを羽織って、少し疲れた笑顔で配っていた。ハーフなんだろうか、どこか顔立ちが外人ぽかった。
「キャ!」
 フェブが悲鳴を上げて倒れた。スマホを操作しながらサラリーマン風が知らん顔して行ってしまった。アニメとかだったら「オッサン待てよ」くらい言って、そこからドラマが始まるんだろうけど、ボクは二三回金魚みたいに口をパクパクさせただけで言えなかった。

「大丈夫……?」

 やっと口パクに声を載せて、ボクは飛び散ったポケティッシュを拾い集めた。ダウンの前がはだけて中のコスが見えた。AKB風の夏のコスだった。超ミニのスカートから伸びた白い足がまぶしかった。反対側の足をかばっていた。指の間から血が滲んでいる。

「よし、これで大丈夫」

 伯父さんは手際よくフェブのひざの傷の手当てをしてくれた。伯父さんは商店街で薬局をやっている。ボクは急いでフェブを連れてきたんだ。普段なら見ないふりして通り過ぎていただろう。でも、もののはずみと、フェブの風俗ずれしていない可憐さ、そして、なんだか分からない申しわけなさがごちゃ混ぜになって、風俗の子を助けるという……いつにない行動に走った。

「すみません、あたしみたいなのが表通りまで出てきちゃって……」
「事故なんだから仕方ないよ。鈴木の店で働いてんだね。あそこなら安心だ」
「分かるんですか?」
「ああ、やつとは幼馴染だからね、神社の次男坊の気軽さかな、あいつは商売の方が向いてるよ」
「マスターは今夜は実家の手伝いです」
「節分だもんな。健、お前には珍し人助けだったな」
「そうだ、ありがとう。まだお礼言ってなかった」

 それがフェブとの出会いだった。

 フェブは、ナントカって国(聞いたけど忘れた)と日本のハーフ。風俗で働きながら芸能界を目指しているらしい。
 いろいろオーディションを受けたり、バックダンサーの端の方で時々テレビにも出ているらしい。
 フェブというのは、二月生まれなんで、フェブラリーの頭をとってつけた名前らしい。伯父さんの店でメル友になった。

 フェブは芸能界でがんばりたいので、高校を中退してがんばっている。というのは表向きで、経済的な理由で続けられなかったようだ。

 遅刻しないだけが取り柄のボクは朝が早い。

 商店街の喫茶店で働いているフェブを見た。夜はガールズバー、朝は早くから喫茶店。
 笑顔でがんばってるフェブがまぶしかった。
 フェブからは、しょっちゅうメールが来る。学校のいろんなことを聞いてくる。その都度ボクはメールを返した。おかげで、ボクの時間割から、成績まで教えてしまった。
 フェブは、授業時間中には絶対メールをよこさない。中退したフェブは学校の大事さをよくわかっているようだ。

 帰り道、三日に二度ほどフェブと短い立ち話をした。

「テスト一週間前なんだから、もっと早く帰って勉強しなきゃダメだよ!」
 先週は本気で怒られた。
「ここってとこで本気になれないやつって最低だよ」
 とも言われた。

 でも、ボクは放課後ダラダラとミユたちとしゃべってしまう。ボクはフェブに嘘をつくようになった。図書室に残って勉強してるって……。

 だけど、フェブにはわかるようだ。嘘には、どこか矛盾が出てくるからね。そして、嘘は学校で補習を受けているっていうところまで広がってしまった。

――このごろ、話すとき目線が逃げるけど、なにか……考えてる?――
――ちょっと疲れてるかな――

 そのあくる日に最後のメールが来た。

――来月の一日にオーディション。準備があるから、明日から東京。あたしにも健にも二月は28日までしかないんだからね――

 その日、ユイの誘いを断って早く帰った。

 ユイは「うん、そうだね、それがいいよ」と言ってヒラヒラと手を振った。「一緒に帰る」と言うかと思ったんだけど、手を振られちゃね。

 駅のホームに出ると、タイミングよく準急が来たので乗った。

——ドアが閉まります、ドアにご注意ください——

 アナウンスがあって、ホームへの階段を上がって来るユイが見えた。

 とっさに、閉まりかけのドアにカバンを挟む。ドアは、もう一度開いた。

 瞬間、目が合った気がしたけど、ユイは目線を避けて待合室の方に歩き出す。

 降りようかと思ったけど、再び閉まり始めたドアの馬力に負けて……負けたことにして、そのまま帰ってしまった。


 フェブからは、それからもメールは来ていたけど、だんだん返事を返さなくなった。

 ユイともそれっきり……声を掛けようとして、まだ声を掛けられないでいる。

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真凡プレジデント・89《峠を越えて》

2021-05-21 06:20:02 | 小説3

レジデント・88

《峠を越えて》     

 

 

 

 戦車は一両もいないだろ。

 

 先生に言われて振り返る。

 たしかに迷彩塗装のいかつい車ばっかしなんだけど、大砲とか機関銃が付いた車両は一つも居なかった。

「キャタピラ履いてるのもいないだろ」

 琢磨先輩が付け加える。たしかに4WDとか6WDの車両ばかりなんだけど、キャタピラのは居ない。

「日本じゃ、キャタピラとか大砲積んだやつは許可が無いと一般道は走れないからね……ほら、これがアメリカのサバゲーマニアだよ」

 琢磨先輩がスマホで見せてくれた画面には、アメリカの道路を何両もの戦車が隊列を組んで走っている。

 それに比べれば、この車列は大人しく見える。

「これでツーリングとかしたら、カッコいいよね!」

「旅行なら使わないよ。このハンビーでもリッター八キロしか走らないからね」

 なつきの提案は、あっさり却下された。

 

 二回インターチェンジで休憩して、一般道に下りて峠を越したところで被災地が目に入ってきた。

 道路は、とたんにガタガタになってきて、ハンビーはグニャグニャ揺れながら走る。まだ、流れ出た土砂が取り切れていないで、道路の整備が完全じゃないんだ。

 横っちょを鉄道が走ってるんだけど、横目で見ても分かるくらいにレールが赤さびている。

 まだ電車は走ってないんだ……すると、渓谷に隔てられ鉄路との距離が開いて分かった。車が通っているほうの一般道はまだましだけど、鉄路の方は数百メートルにわたって、土手ごと削られていて、一般道といっしょに川を渡っている所では、鉄橋が土台を残して流されていた。

「鉄橋の復旧は年が明けることになりそうだよ」

 藤田先生がポツリと言った。

 

 もう一つ峠を越えたところで景色が開けた。

 被災地は盆地になっていて、遠目にも、宅地や田畑があちこちで皮を剥いだように土気色になり、川の堤防があったあたりは白や黒の土嚢が積まれていて、いかにも傷跡だ。

 水害から一か月もたって、もう少しはましになっているとボンヤリ思っていたけど、認識を新たにした。

 ツーリングのノリのなつきも唇を噛み、ほかの執行部員も神妙な表情だ。

 

「藤田先生、ありがとうございま~す(^▽^)」

 

 地元の小母さんたちが待ってくれていて、思いのほかの明るさで出迎えてくださった。

「すみません、一週遅れてしまって」

 ハンビーから降りると、藤田先生やサバゲーのみなさんはペコペコと頭を下げた。

「いいえいいえ、わたしらも少しは頑張ったで、峠を越えてだいぶようなりました」

 年かさの小母さんが元気に言うと、ほかの被災地のみなさんも穏やかに頷かれる。

 わたしたちには、衝撃的な被災地に見えるけど、地元の皆さんに言わせれば、うんと回復した状況なんだ。社交辞令的に「まだまだ大変そうですね」なんて言葉を用意していたんだけど、みんな口をつぐんで頷くしかなかった。

「いや、それは困ります」「もう、何度も来てもらってるんだから」「そうそう」「でも」という応酬が聞こえてきた。

 村の真ん中にあるお寺の修復が完了したので、ボランティアはお寺の本堂に泊って欲しいというのが地元の希望なのだった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号
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