大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:185『タングリスはどうした?』

2021-05-10 09:23:17 | 小説5

かの世界この世界:185

『タングリスはどうした?』語り手:テル   

 

 

「ありがとうございます、やっと人心地がつきました……」

 

 タングニョーストはアメノミヒシャクにかぶりついて、五分ほども飲み続けたあと、顎の雫を拭いもせずに、ひとまずの礼を言った。

「こちらは、この世界の主神であられるイザナギさまだ。人心地着いたら、ご挨拶しろ」

「これはご無礼をいたしました。自分は北欧の主神であるオーディン陛下の臣にして、ムヘン方面軍司令トール元帥の副官を務めております、タングニョ-ストであります。任務とは言え、無断で、こちらの世界に侵入して申し訳ありません。アメノミヒシャク、ありがとうございました」

「いや、こちらも、やっと国造りの緒に就いたところでね、ヒルデさんたちには大変助けていただいているんだよ。慣れない国生みで妻のイザナミを死なせてしまってね、まだまだ国づくりには妻の力が必要なので、黄泉の国まで迎えに行くところなんだ。よかったら、タングニョーストもいっしょに来てはくれないだろうか?」

「むろんです。姫がお決めになられたことであれば、その指揮のもとに行動するのは臣の務めでありますし、軍司令トール元帥の命じるところでもあります」

「ありがとう。それでは、しばらくの間、よろしくお願いするよ」

「ハ! 了解いたしました!」

 イザナギに正対して、ビシッと敬礼を決めるタングニョースト。ちょっと遅れて答礼するイザナギ……なんとも敬礼の似合わない神さまだけど、これが日本の神さまの大元だと思うと、ちょっと微笑ましい姿でもある。

「ところでタングニョ-スト、タングリスはどうした?」

 あ……わたしも気には掛けていたけど、ヒルデははっきりと聞いた。

 タングリスは、瀕死の重傷を負ったトール元帥に自分の体を食べさせたのだ。

 そういう宿命にあったとはいえ、森の中で大破した戦車の陰で、トール元帥に自分の体を与えていたタングリスの姿、そしてガツガツと音を立てながら貪っていた元帥の背中は日本人のわたしには、ちょっとトラウマになる光景だった。

「タングリスは、この背嚢の中であります」

 

 え!?

 

 これには我々も驚いた。

 タングリスはトール元帥に食べられて骨と皮だけになっている。その、骨と皮だけになったタングリスが入っているのかと思うと、ちょっとね……。

「タングリスも最後まで姫のお供をすることを希望しておりましたので、トール元帥が同道することを許可してくださいました」

「そ、そうか」

「骨と皮が残っていれば、環境が良ければ数週間で回復するよ。回復したら、よろしくな(^▽^)」

 ヒルデが背嚢を叩くと、カサカサと骨がこすれる音がした。

「タングリスも頑張るって言ってるみたい! 今の音は、笑顔になって顎の関節が動いた音だよ!」

 気味悪がっていたケイトも、骨のこすれる音で旧友と言っていいタングリスの気分が分かって嬉しいようだ。

 カサカサ ポロロン

「おお、手足の骨が動かして肋骨を鳴らして、相棒も嬉しいようであります(^▽^)」

 ムヘン組は和やかな気持ちになったが、イザナギは笑顔のまま頬が引きつっている(^_^;)。

 

 タングニョーストを交えて食事を済ますと、我々は西の対岸、四国を目指した……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

 

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ライトノベルベスト・一週間物語・1〔ゲゲゲの月曜日〕

2021-05-10 06:42:40 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

一週間物語・1〔ゲゲゲの月曜日〕  




 月曜日は目が覚めるとゲゲゲだ。

 目はパチッとなんか覚めない。ボンヤリ濁った底から意識が浮かび上がって……朝かな、と微かに感じる。見ていた夢が、急速におぼろになって、記憶の底の底に沈んでいく。楽しい夢だったら、なんとか尻尾だけでも掴まえておこうと思うけど、なかなかうまくいかない。

 あたしは夢を覚えておくのが苦手だ。楽しかった、怖かったという思いだけが残って、肝心の夢の中身はドライアイスのケムみたく消えてしまう。
 で、次に「今日は月曜なんだ!」という厳然たる現実が暖かいお布団を突き抜けて、あたしの胸に突き刺さる。

 小学校の頃から学校って嫌いだから、この「今日は月曜なんだ!」は切実。
 今日から、五日間も、あのしんどい学校に行かなければならないのかと思うと「ゲゲゲ!」になる。
 学校が嫌いな理由はいっぱいある。

 一口では言えないから、この一週間だけ付き合ってくれる? そしたら、なんでか分かるから。

 今日は、ゲゲゲのあとにニンマリしてしまった。今日は振替休日なんだ。だからお母さんの「妙子、もう7時よ!」の声もしなかった。

 でも、こういう時、若いって損だ。目が覚めてしまうと、もう寝られない。他の子は違うらしい。二度寝、三度寝というのができるらしい。あたしの、このクセっちゅうか体質は年寄りに近い。世間のお婆ちゃんは「目が覚めると、寝てられなくてね」と早起きする。うちのお祖母ちゃんは、この点少女だ。二度寝が、あの歳になってもできる。

 お祖母ちゃんとは、去年の春から同居している。

 61の時に三つ年上のお祖父ちゃんが亡くなった。で、一人暮らしになったお祖母ちゃんは、自分から言いだして同居しだした。今年で65になるけど、まだ仕事をしている。信じられないことに高校の再任用の先生。22の歳からやってるから、ええと……43年も先生。よくやると思う。あたしなんか小中と高校一年半だけで顎が出かけてる。

 おトイレ行って、部屋着用のジャージに着替える。寝てる時はバーゲンのジャージなんだけど、起きてる時は、あたしなりのブランドジャージ。むろん、この季節なんで下にはヒートテック。
「ポチ、お散歩」
 飼い犬(ペットなどという範疇のものでは無い)のポチが「あれ?」っという顔をしている。ポチの散歩は、お父さんが帰ってからの日課になっている。散歩というと夕方か、夜のものだと思い込んでいる。それにお嬢様のあたしが声をかけたんで二重のビックリ。

 朝のポチはオズオズと歩く。

 調子を出すためにリードを引っ張って駆けてみる。瞬間嫌がったけど、そこは犬の習性。ランナーズハイになって、どっちが引っ張られているのか分からなくなる。
 公園に差し掛かると、多分他の犬のニオイいに触発されたんだろう、ウンコをしたがる。用意したウンコセットで、しっかりとってやる。思い付きの散歩だけど、このへんのヌカリはない。

 あたしは、ヌカリのない女子高生だよ。

 覚えた?

 30分ほど散歩して帰ると、予測通りお母さんとお祖母ちゃんが朝ごはんを作ってくれている。

 お祖母ちゃんが同居するようになってから、朝食は和食が多くなった。インスタントだけどお味噌汁に玉子焼き。それに漬物が少々。どれもお母さんよりも上手い。
「珍しいわね、休日なのにポチ散歩に連れてってってくれたの?」
「休みなの忘れて目が覚めちゃったから」
 そう言いながら、心の屈託が、ポワポワと心に浮かんでいるのに気付く。そうなんだよね、今朝の早起きは、今週中に解決しなきゃならない幾つかの問題のせいでもあるんだ。

 歯を磨く前に、もよおしてくる。トイレに急ぐと、ちょうどお父さんがパジャマ姿でトイレから出てきたところだ。ちょっと怯んだけど、三つ数えただけでトイレに入る。脱臭はされているけど、そこはかとなくお父さんが用を足した臭いが残っている。ファブリーズして……便座に座る。早朝散歩のお蔭か、ゲゲゲと思うくらい、すっきりする。

 この一週間で、あたしの問題もすっきりすればと願って、一週間物語の始まりだよ。

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真凡プレジデント・78《見晴るかす限りの草原・4》

2021-05-10 06:27:41 | 小説3

レジデント・78

《見晴るかす限りの草原・4》     

  

 

 バン!

 

 車の揺れの為にフロントガラスに手を突いたのかと思った。

 違った。

 コウブンが手を突いたフロントガラスには『死ね東京日日新聞!』と呪いの札が張られているではないか!

「な、なにこれ!?」

「東京日日新聞が『次の年号は光文だ!』とすっぱ抜いたのよ」

「え、それで?」

「急きょ『昭和』に挿げ替えられたの」

「ほ、ほんと?」

「本当の本当!」

 にわかには信じがたくてビッチェの顔を窺うんだけど、見えないレーンを外れないように必死でハンドルを握っていて声を掛けられない。コウブンはダッシュボードに爪を立て、目に泪を浮かべながら唸っている。

「グヌヌヌ……!」

 

「年号と言うのはね……」     

 

 コウブンとわたしを取り持とうとして説明を試みるビッチェ。

「中国の『四書五経』のような漢籍から取ってくるのよ。そこから話してあげたら」

「う、うん……昭和というのは『四書五経』の「百姓明 協万邦」から取ってるのよ」

「……あ、ああ。昭と和ね」

「でもね、江戸時代に『明和』って年号がすでにあったの」

「……なるほど『百姓昭明』の昭と明の違いだけなんだ。いかにも間に合わせましたって感じね」

「でしょ! ロクヨンもガンネンもプータレテるけど、たとえ七日間とは言え、実際に存在したんだもんね。わたしなんか完全に消されてしまって、ビエーーン( #ノД`#)!!」

 ダッシュボードに顔を付けて泣き崩れるコウブン。小さな肩が震えて可哀想なんだけど、コウブンの震えが車体に伝わって振動がものすごくなってくる。ハンドルを握るビッチェも肩に力が入って必死でハンドルを操作するけど、それでもコウブンに文句は言わない。それほどコウブンは危ない子なんだ(^_^;)。

「そうなんだ……」

「平成だってね、小渕さんが発表する三時間前に毎日新聞がすっぱ抜いたのに、ちゃんと三十年も続いて……間に合わせの昭和なんかにしなかったら、もっといい時代になっていたかもしれないのに」

「でも、わたしは聞いたから、ちゃんと覚えておくわ。光文……いい響きじゃないの。平成ももう終わっちゃったし、いまは令和だし」

「だって……だって!」

「わたしが光文の年号でカウントしてあげようか!?」

「え?」

「フフ、私年号ね」

 ビッチェが呟く。

「あ、それ嬉しいかも!」

「任しといて、ちゃんとカレンダーにもするから。わたし生徒会のプレジデントだから、生徒会室にも貼っておくわ」

「あ、ありがとう! 真凡っていい奴なんだなあ!」

「どういたしまして」

「安心した……安心したら、なんだか眠くなってきちゃった……」

「いいわよ、わたしにもたれても」

「うん、ありがとう……」

 

 コウブンは、そのままもたれてきたが、重さを感じることは無かった……コウブンはそのまま溶けるように姿が消えて、右半身に感じていた圧も、フッと消えてしまった。

「コウブン……」

「真凡……この旅が終わったら、ちゃんと、ほんとうに使ってやってね」

 ビッチェと二人シンミリすると、しだいに振動が収まって、舗装したての高速道路を走っているようになってきた。

「ん……やっと道が見えてきた。抜け出すよ!」

 次の瞬間、消防車は次の世界にジャンプしていった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号

 

 

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