大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・045『東屋・2 修学旅行に隠された秘密』

2021-05-13 09:22:54 | 小説4

・045

『東屋・2 修学旅行に隠された秘密』ヒコ   

 

 

 思わず聞いてしまった。

 

 何かと言うと、黙とう。

 僕たちは、修学旅行を中断して帰国した。

 中断の理由は、ミクのパスポートが盗まれそうになったり(けっきょく手の込んだやり方で盗まれた)、犯人を追跡したダッシュがケガをしたりとトラブルが多かったこと。宿泊予定だった民宿が何者かによって焼かれたことなどが理由だ。

 そして、何よりテロリストによって学園艦が爆破されて多くの犠牲者が出ている。

 食事の前に一分くらいの黙とうはあってしかるべきだと思う。

「種明かしをしておこう」

 箸をとる前に上様は姿勢を正された。

「実は、爆破された学園艦に人は乗っていなかった」

 

 えええええ!?

 

 これには驚いた。

「実は、学園艦が君たち修学旅行生を乗せて地球の周回軌道に入った時には分かっていたんだよ。テロリストたちに狙われていることはね」

「本当ですか!?」

 ダッシュが目をむいて身を乗り出す。

「ちょっと、落ち着きなさいよ」

 ミクがたしなめて、制服の裾を掴む。

 テルは、ポカンと口を開けて上様のお顔を凝視している。テルが超高速で情報を検証整理している時の顔だ。ダッシュが腰を下ろすと、ミクはすかさずハンカチを出してテルの顎に添える。涎が零れるのを防ぐためだ。テルが深い思考状態になると呼吸と拍動以外の身体活動や機能が落ちてしまうためだ。

「うん、扶桑の諜報組織は優秀だからね。地球の周回軌道に入ったころには分かっていた。実は、他の班は上陸さえしていないんだ」

「本当ですか?」

 今度はミクが質問した。

「テロが予測される中で上陸はさせられないからね。上陸のシャトルに乗せた後は、いろいろ理由を付けて足止めしてあった。別にチャーターした船で、個別に帰国させてある」

「じゃ、俺たちだけが?」

「そうだ、君たちは対応能力が高いので、上陸してもらった。しかし、テロリストの接触は予想を超えた激しいものなので、君たちも帰還させざるを得なかったというところなんだ」

 いったいなぜ?

 これがアニメだったら、四人全員の頭の上に『?』が浮かんだことだろう。

「分かったのよしゃ!」

 テルが、ミクの手を払いのけて、小学生のように手を挙げた。

「はい、テルくん」

「これは、森ノ宮しゃまを扶桑に亡命させるための、壮大なフェイクだったと思うのよさ!」

「さすが、平賀照くんだ」

「どういうことなんだ?」

 ダッシュがついてこれなくて質問する。

「森ノ宮さまの救出を正面に出すと、大事になりゅのよさ。日本との外交問題にもなるし、敵の注目や攻撃も宮しゃまに集中してリスクが大きくなりしゅぎに、それで、あたしらの修学旅行を、襲撃されることを前提に組まれた……たぶん、幕府の隠密局あたりが作った救出劇……」

「いやあ、まいったなあ」

 上様が、正直に頭を掻かれる。学校の先輩的な仕草。深刻な話をしているのに、どこか和んでしまう。

「あ……ひょっとしたや、靖国の……天皇陛下まで関わって」

「ハハハ、そこから先は、さすがに……ね」

 上様は目を『へ』の字にして、やんわりと遮られる。

「あのう……」

「なんだい、緒方さん?」

「わたしのニセモノが、お城に上がったときいているんですけど」

「うん、昨日までここに居たよ。天狗党の諸君も混乱しているんだろうね、ちょっと尻尾を残していったんで隠密局が後を付けている」

「えと、被害とかは無かったんですか?」

「多少はあったかもしれないね……でも、敵も人間だよ。間近で接して見ないことには分からないこともあるからね(^▽^)」

 一国の征夷大将軍とは思えぬ豪胆さに息を飲む。

「いや、さすがにやり過ぎだと、胡蝶や隠密局の服部には𠮟られたけどね(^_^;)。さ、寿司ネタが温くなってしまう、試作の手巻き寿司を食べようじゃないか」

 は、はい!

 ムシャムシャ……

 食べることになると呼吸まで一致するのは健康な高校生の証拠なんだろう。

「ネタのお魚は、二種類あるのよしゃ」

「え……」

「あ、そういうと」

 たしかに、マグロもブリも二口ぐらい食べると分かるくらいに味が違う。

「どっちの方が美味しい(n*´ω`*n)?」

 上様が、初めて調理実習をやった高校生のように聞いてこられるのが可笑しい。ミクなどは小さく「かわいい」と呟いて口を押えた。

「「「「こっちです」」」」

 これも意見が一致して、同じものを指さす。

「ああ、やっぱりレプリケーターには勝てないかあ」

 え?

 ということは、上様は、どうやら魚の養殖にまで手を伸ばされているいるようだ。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

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ライトノベルベスト・一週間物語・4〔木曜日はモックモク!〕

2021-05-13 05:57:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

一週間物語・4〔木曜日はモックモク!〕  




 今週は一日交代に天気が変わる。まるで青春の乙女心だ。

 あ、いま笑ったの誰!? 

「妙子は高校生離れしてて、しっかりものだ!」

 そう読み込んだ人は読み方が浅いです。行間に現れる乙女心分かんないかな!

 え、やっぱり、そうは読めない?

 雄介の告白を上手くさばいたとこや、小暮先生とのやりとりなんて高校生とは思えない? 

 昨日の「シャキッとしてスイッチオン」なんて、心の奥ではビビってる証拠なんだよ。カラオケで雄介とファーストキスやっちゃったことも、今朝起きたら自己嫌悪「あたしは、いわゆる女子高生とは違うんだ!」という前のめりな思い込みがとらせた単なる向こう見ず。

 高校演劇は嫌いだ。去年から、そう感じてた。それなら、最初から主役になんか就かなきゃよかったんだ。
「役者として、すごいとこ見せてやろう!」って助べえ根性があったことも確か。「間尺に合わなきゃ辞めます!」というのは、アンダースタディー(代役)をあらかじめ決めていたとしても、どこか卑怯だ。

 こういうモヤモヤしたことは、ベッドに入ってから始まる。やるときには「これしかない」と思いながら、そうした夜は醜いモヤモヤにやられる。
 今朝は、昨日と打って変わってピーカンの日本晴れ! それだけでモヤモヤは吹っ飛んでしまう。やっぱ能天気な妙子だ。

 雄介とは普通に「おはよう」ができた。廊下で会った小暮先生はガン無視! あ、したのは先生のほうだからね。あたしは挨拶のきっかけとろうとして、ずっと先生の顔見てた。先生は、さりげに窓の外の空なんか見ちゃって、あれじゃ「おはようございます」は言えない。

 三時間目のつまらない日本史に腹が立つ。織豊政権の秀吉、たった5分で終わっちゃう。農民身分から関白へ=下剋上の代表、本能寺の変をきっかけに天下人へ、検地と刀狩。五奉行五大老の名前、文禄慶長の役。三行でおしまい。
 秀吉はチビだ。信長からは「猿」の他に「禿げネズミ」という呼び名ももらっている。肖像画を見ると、なるほどと思う。こういう男の心情を語らなければ、誰も歴史なんかに興味もたないよ。

 なんで、朝鮮出兵だけ強調すんの? あれは、秀吉の誇大妄想ってだけでしょうが、それを日本人の歴史的、民族的性癖にまで拡大するのはどうかと思うよ。

 秀吉については、このエピソードが好きだ。

 小田原攻めのとき、家康と馬を並べて、ある坂にさしかかり、秀吉は馬を止めてしまった。
「いかがなされた?」と、家康。
「若いころに、針売りをしていて売れませなんでな、三日飯も食えずに、この坂を超えるのに丸一日かかりもうした」
「この坂をでござるか!?」
「越せねば飢えて死んでおりましたでしょう……そのころの儂が見えたような心地がいたしましてなあ」
「さようでございましたか……」
 家康は深々と頷いた。あの瞬間、家康は友情を感じたのに違いない。家康も人質ばかりの青春時代だった。友情を感じていなければ、その後の家康の忠勤と秀吉の信頼は説明できない。単なる騙し合いとしか描かない大河ドラマも、そっけない授業も間違っている。

 それは5分間で秀吉の一生が終わった時に起こった!

 ジリリリリリリリ!

 非常ベルが鳴り響いて、緊急放送が流れた。

――南に隣接する倉庫から火災発生。先生方は生徒を誘導してグラウンドに集合させてください。繰り返します……――

 南側の倉庫というのは、倒産した会社の倉庫で、体育館ほどの大きさがある。南側だから、グラウンドに隣接している。常識で考えて、グラウンドに集合することは、火元に近づくことで、避難の仕方としては間違っていると思う。幸い風は北風だったので、火の粉はおろか煙もこなかったけど、大きな倉庫が燃えているのだ。どう風向きが変わるかもしれない。そんなに多い生徒じゃない。中庭集合が順当だったと思う。学校のマニュアルって、ほんと、どうかと思う。

 こんな大きな火事を見たのは初めてだ。火と言うのは人の心をざわつかせるものだと実感。

 避難し終えたころに、あちこちから消防車がやってきた。

 サイレンの音からして、20台以上来ている。消防士さんが十人ほど、プールが面した道路に向かって、外からプールの止水弁にホースを4本ばかり突っ込んだ。他にポンプ車も放水を始め、火は15分ほどで消えた。

 不謹慎だけど、もっと燃えればいいと思った。

 今まで感じたことがないくらい心が騒いでいる。火が消えたあと、猛然と黒い煙が立った。黒い煙は不完全燃焼の証拠。これにも心が泡立った。まるで自分の中の不完全燃焼のあれこれをみせつけられているよう。やがて煙は白くなり、三時間目のチャイムが場違いな長閑さで鳴ったときには完全に鎮火していた。

 あたしは一週間前のあることを思って心がざわついた。精一杯やってきた自信はあった。だけど黒い煙が立ち込めている。火事の記憶か一週間前のあのことへの心残りか判断がつきかねた。

 なんのことかって? それは、まだナイショです!
 

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真凡プレジデント・81《かえでとすみれ》

2021-05-13 05:41:07 | 小説3

レジデント・81

《かえでとすみれ》    

 

 

 

 ここからは歩いていくわよ。

 

 消防車のエンジンキーを切ると、ため息一つついてビッチェが言った。

 よっこらしょっとステップから降りると、サワっと肌感覚があって着物姿になってしまった。

「あ、あれ?」

 戸惑っていると、消防車のノーズを周ってきてビッチェが……ビッチェも着物姿だ。髪も時代劇、それも江戸時代よりも前のヒッツメみたく束ねたもの。

「バックミラー見てみ」

 ミラーに映った自分も時代劇……なんだけど、束ねた髪はお姫様みたく横から垂れてるのが無くて素っ気ない。麻生地の船形袖で、丈は膝までしかなく、清潔な着物なんだけど、薄い緑色に白抜きの葉っぱが散ったような柄。

「時代が分かったら、後ろのステップの荷物、一つ持って」

「う、うん」

 後ろに回ると一抱えもある甕が二つ並んでいる。

 薄汚い甕だけど、口の所だけは真っ新な紙で覆って清々しい紙紐でくくられて、お祝いの品かなあと思う。

 二度目のよっこらしょで、ビッチェと一つづつ抱える。

「ま、入れ物込みで一貫目だから、ちょっとの辛抱ね」

「一貫目?」

「あ、3.75キロ。尺貫法の時代だからね」

「尺貫法の……?」

 そう言って、ビッチェが小さく右手を振ると消防車が消えた。

「ここでのアレコレが終わるまでは隠しとくの、この時代に消防車は無いから」

 そう言ってスタスタ歩き出す。

 チャプンチャプンと音がして、この匂い……中身はお酒だ。

 視界が広くなったと思ったら、今までいたのが、ちょっとした鎮守の森。トトロが出てくるのに相応しい。

「確認しとく、真凡、今の名前は?」

「かえで……あれ?」

 他にもいろんなことが頭の中に湧いてきて、わたしは四百年以上昔にリープしたことを知った。

 ビッチェはすみれだ。

 

「やあ、ご苦労だった!」

 

 森の外周を周って来たのだろう、痩せぎすだが敏捷そうな体の上に顔の表情筋を120%嬉しさに動員した小男が駆けてきた。

 なんだ、この陽気な120%は?

「なんとか手に入りましたよ熱田のお酒。ここで渡していいんですよね」

「ああ、すまん……いや、いっそ、付いて来てくれんか」

「あ、また思い付き」

「そう言うな、わしの思い付きは日枝神社のご託宣と同じじゃ、きっといい目が出る!」

「じゃ、お手当は十文増しね」

「いやいや、おぬしらにはかなわんなあ!」

 二人のやり取りを聞いて、やっと分かった。

 

 この大声の小男は、やっと公に姓を名乗り始めた藤吉郎……のちの豊臣秀吉だ!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号
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