大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・41『オシホミミ、母はあそこが欲しい……』

2021-05-23 09:21:14 | 評論

訳日本の神話・41
『オシホミミ、母はあそこが欲しい……』  

 

 

 スクナヒコナと、それに続いたオオモノヌシのお蔭で、豊芦原中国(トヨアシハラノナカツクニ)は安定した豊かな国になりました。

 その繁栄ぶりを雲の上の高天原から見ていたアマテラスは思います。

「あそこが欲しい……」

 アマテラスは、続けて考えます。

——トヨアシハラノナカツクニを治めるオオクニヌシも、その妻であるスセリヒメも、わが弟であるスサノオの子孫。スサノオは高天原で好き放題に暴れまわって、ずいぶん迷惑をかけたわよね……損害賠償とかもしてもらってないし……わたしの子どもや子孫が治めてもおかしくない……というか、わたしの子孫こそが治めるべきよね——

 思い立ったアマテラスは息子であるアメノオシホミミ(正勝吾勝々速日天之忍穂耳命・まさかつあかつかちはたひアメノオシホミミノモコト)に命じます。

「わたしの名代として、あそこを治めなさい。名前も豊芦原中国から豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)と改めなさい」

「ちょっと長すぎるんじゃないかな……お母さん」

「そう?」

「うん、瑞穂銀行だって、平仮名のみずほ銀行にしてるくらいだし」

「ああ、それって、なんだか子ども銀行みたいで、きらいなのよ」

「でもさ、豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)銀行なんてありえないでしょ」

「ま、名前は考えるとして、とにかくオシホミミ、あなたが行きなさい!」

「いや、でも、スサノオ叔父さんの子孫の国だよ。ぼくなんか、とても(^_^;)」

「なに言ってんのよ、オシホミミ。生まれた時の事思い出してごらんなさいよ!」

「えと……」

 

 オシホミミは思い出します。

 

 はるか昔、スサノオが母のイザナミ恋しさに母親似のアマテラスを訪ねた時の事です。

 かねて乱暴者の評判が高く信用のならない弟に「真心を示しなさい」と注文。

 スサノオが差し出した剣をバキバキに折ってしまいました。

「な、なにすんだよ、姉ちゃん!?」

 頭に来たスサノオは、アマテラスが差し出した勾玉をバキバキに噛み砕いて吐き出します。

 その勾玉のカケラから生まれた男神の一人がオシホミミだったのです。

 アマテラスとスサノオ二人の因縁が込められているので、アマテラスは最適だと思ったのかもしれません。

 

「で、でもさ、あれってお母さんが、屁理屈で叔父さんやりこめて、ちょっと険悪な雰囲気になったじゃん」

「え、そう?」

「そうだよ。お母さんが叔父さんの剣を折って三人の女神にしたでしょ?」

「そうよ、あの子たちは今でも高天原キャンディーズって呼ばれてるわ」

「キャンディーズ……いつの時代だよ(;'∀')。ま、いい。叔父さんが噛み砕いた勾玉からは、ぼくを含めて五人が生まれてきてさ、高天原のスマップか嵐かって言われたもんだよ」

「あんたも古い」

「キャ、キャンディーズよりは新しい!」

「で、叔父さんは『姉さんは三人、オレは五人だから、オレの勝ちだろ!』って言ったら、『それって、わたしの勾玉から生まれたんだから、わたしの勝ちよ』って、言い負かしたんだよね」

「オシホミミ、ちょっと深呼吸してごらんなさい」

「深呼吸?」

「いいから、やってみる!」

「う、うん」

 スーーーーー

「そこで、息を止める!」

「う、うん…………………………………………………………………………」

「よし、吐け!」

 ハーーーーー

 いきなり言われたオシホミミは、盛大に息を吐きだして、全身の緊張が抜けてしまいます。

 ポコ

「ほらね」

「え?」

「力が抜けるとね、あんた、ポッコリお腹が出るのよ」

「い、いや、これは……」

「国を治めるのは、それくらいに緩んでる方がいいのよ」

「で、でも、ぼくは嫌だよお!」

「オシホミミ!」

「いやだったら、いやだあああああああああ!」

「あ、ああ……逃げちゃった(^_^;)」

 オシホミミはなりふり構わずに嫌がるので沙汰闇になってしまいました。

 

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ライトノベルベスト『SO LONG』

2021-05-23 06:35:18 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『SO LONG』 




「SO LONG!」 

 ユキリンが流行の言葉で「バイバイ」と言った。

「SO LONG!」
 軽い気持ちで、同じ言葉を、レジで料金の支払いをしているユキリンにかけた。
 鏡に写ったユキリンが手を振っていたようだけど、優香は、もうほとんど夢の中だった。

 おとつい、バレンタインで、手作りチョコ……つまり本命チョコを誠司に渡した。

「あさってか、しあさって、空いてる?」
 思いがけず、誠司がストレートで聞いてきた。
「あ、あ……」
「空いてるんだね?」
「うん、空いてる!」
「よかった、ホワイトデーまで待つなんて、まどろっこしいだろ。オレも優香がこんなのくれるって思いもしなかったから、優香の気持ちが変わらないうちに予約とらなきゃって思ってさ」
「わたしもよかった。ホワイトデーの次の土日は、お婆ちゃんの一周忌で抜けられなかったから」
「そうか、善は急げで、正解だったな!」
「ほんとだね!」

 もう一カ月半もしたら、学年末テスト、短い春休みを挟んで、新学年。三年生になったら、誠司とはコースが違うので、別々のクラスになる。このバレンタインがキッカケと、なけなしの度胸からいって、告白の最後のチャンスだった。それが、こんな両思いで、話がトントン拍子に発展するなんて思わなかった。

「優香、ショートもいいんじゃないかな。なんだか、優香の積極性は、そっちがあっているような気がする」

 優香は、物心付いたころからロングヘアーで、時にポニーテールやツインテールやオダンゴにしていた。

――そうか、誠司はショートが好きなんだ!――

 そう思って、優香は生まれて初めてショートヘアーにしようと思って美容院ハナミズキに来たのだ。そこで、同じ部活のユキリンに出くわした。

「いいよね、優香は髪質がいいから、ロングが栄えるよ。いろいろヘアースタイルも変化つけられるしさ」

 羨ましそうにするユキリンには生返事をしておいた。どうせ部活でバレるんだけど。いま気づかせることもない。どうでもいいけど……優香は、そんなこんなで、明日の誠司との初デートのことで頭がいっぱいだった。

「はい、できあがり!」

 美容師の立石さんに言われてハッとした。以前にも増して、お嬢様風にアレンジされたロングヘアーだ!?

「内向きにアイロンかけて、可愛さアップだよ!」

――あ、あの時!――

「SO LONG!」
 ユキリンが声を掛けたときに、立石さんはなにか聞いていた……。
「ロングだよね、優香ちゃんは」
 で……。
「そー、ロング!」
 と……聞こえてしまたんだろうなあ。
 立石さんの満足そうな顔、お店の混み具合で、とてもやり直してくれとは言えない優香だった。

 仕方なく、優香は三つ編みの先をトップにもってきてショ-トっぽく見えるようにして、誠司との初デートに臨んだ。
 映画を観て、イタメシでランチ。そして、少し散歩して、お茶にした。

「……ごめん、ショートにしなくて」

 自分をチラ見する誠司の視線に耐えられなくなって、優香は謝った。
「いや、優香は、断然ショ-トだよ!」
 意外なほど強い誠司の物言いに、優香は泣きそうになって、ことの次第を説明した。
「ハハハ……」
「そんなに笑うことないでしょ……」
「ごめん、優香は、断然ロングだよ」
「は……?」
 優香は混乱した。
「オレが言ったのはポジションだよ。優香ぐらい機敏で、積極性があるんなら、守備はセカンドなんかじゃなくて、ショ-トがいいって言ったんだぜ」

 そう、優香の部活はソフトボールで、ポジションはセカンドであった。オッチョコチョイな自分とはSO LONGしたくなる優香であった。

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コッペリア・1『事故物件』

2021-05-23 06:16:56 | 小説6

・1
『事故物件』
            


 

「え、ここですか!?」

 思わず声に出してしまった。

「うん、ここだよ」

 不動産屋は、こともなげに応えた。

「あのう…………オレ、月3万……て言ったんだけど」
「そう、駅から8分、築8年、環境良好、日当たり良好、ご近所良好、内装は全部新装。で、月3万ポッキリ」

 颯太は、改めて部屋を見まわした。

 1LDKとは言え、安出来のワンルームマンションではない。ちゃんとしたアパートだ。安く見積もっても月8万はする物件である。

「え……なんで、こんなに安いんですか?」

 半分隠居仕事のような不動産屋のジイサンが、外の景色を見ながら話を続けた。

「仕事柄、うちは学生さんのお客が多いんだけどね、今日日はみんな親子連れで物件を探しにくるんだ。そこが、あんたは一人でやってきた。それに、見たところ新卒の入学じゃない。時期的に少し早いし、なにより雰囲気が初心(うぶ)じゃない。わけあって学校かわりましたって感じだ。なあに、こんな仕事長くやってると、分かるもんなんだよ。どんな理由で引っ越そうとしてるか。お前さんは、そう差し迫った理由なんかない。親子喧嘩かなにか、勢いで家を飛び出してきた……だろ。悪いことは言わない、もう一度うちの人と、とっくり話すこった」

 不動産屋に飛び込んでいったときに、最初は若いニイチャンが対応してくれたが、途中からこのジイサンが割って入ってきた。どうやら事情を察してのことらしい。どんな仕事も化けるほどやっていると、奥の奥まで分かってしまうところがある。
 どうも、このジイサンは、商売を離れて颯太に説教をするつもりらしい。気のいい颯太は、そんな不動屋のジイサンの気持ちを嬉しく思ったが、基本のところで外している。それに、そんな颯太に、こんないい物件を紹介するのが分からなかった。

「まあ、わしの話から聞きな。お前さんがいぶかるように、ここの家賃は相場の半分以下だ…………事故物件だからね」

 事故物件の意味ぐらい颯太にも分かった。泥棒が入ったとか、人殺しがあったとかいうイワクつきの物件で、その部屋を含めて入居者が減って、家主が家賃を下げている物件のことだ。

「殺しでもあったんですか?」
「そんな剣呑なことじゃないけど、人が死んでる。60をいくつも出ていない人だけど、発見されたのは死後三日目だ。ほら、お前さんが立ってるフローリングの上でこと切れていたんだ。嫌がって隣は引っ越しちまうし、下の空き部屋にも客がつかない。家主もいい歳だし、いつポックリ逝くかわかんねえ。そうなりゃ遺産相続で、このアパートは売りに出される。まあ、まっとうに入っても、いつ追い立て食うかわかんねえってもんだ。どうだ、少しは考え直す気になっただろう」
「オジイサンの言うことは分かるし、半分当たってもいるけど、オレ、そういうの気にしないんです」
「無理すんなよ」
「無理は言ってません。オレんち浄土真宗の寺なんです。真宗じゃ幽霊なんかは存在しませんから」
「ほう、坊主の息子かい」

 ジイサンの目が少し和んだ。奥の和室に座り込んで、颯太は自分のワケ有を話した。

「……なるほどね。今時の若い者んにしちゃあ、殊勝な心がけだ。分かった、話しを進めておくよ。ま、なにかあったらオイラのとこに電話くれよ。ま、さっきも言ったけど事故物件だ、多少のことには目をつむっておくれや、じゃ、ここにハンコ。鍵はこれだ、よろしくな」

 颯太はリビングにペットボトルのお茶を置き、仏説阿阿弥陀経をひとくさり唱えておいた……。

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