大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:184『ボロクズと奇跡の柄杓』

2021-05-05 09:10:16 | 小説5

かの世界この世界:184

『ボロクズと奇跡の柄杓』語り手:テル   

 

 

 ズサッ!

 

 背後の草むらからボロクズが転がり出てきた。

 ウワアーー!! キャーー!! 汚ッタネーー!!

 楽しく美味しくたこ焼きパーティーを楽しんでいたところに、ゴミダメの底で腐っていたようなボロクズが飛び込んできたのだ。みんなたこ焼きのトレーを持ったまま飛び散ってしまった。

 ボロクズには手足が生えていて、背中の所がポッコリと膨れて、頭は廃棄寸前のモップのようにギタギタに絡んで悪臭を放っている。

 みず……みずを……水を……

 ボロクズが口をきいた!?

 そいつは肥えツボからやっと這い上がってきたドブネズミのように臭くてグロテスクだが……人の言葉を発している。

 どこかで聞き覚えのある……?

 最初に思い当たったのはヒルデだ。

「お、おまえは!?」

 ヒルデは、食べかけのたこ焼きトレーをほっぽりだすと、ドブネズミに取りついた。

「おまえ、タングニョーストではないか!?」

「「タングニョースト!?」」

 ドブネズミを抱き上げると、モップの毛のように汚れて絡み合った髪をかき分けて、そいつの顔を露わにして声をあげた。

「ひ……姫……やっと……お会い出来ました……」

「だれか、水を! タングニョーストに水を!」

「ヒルデ、これを!」

 ケイトが差し出したペットボトルは一瞬で空になって、ドブネズミのようだった顔の汚れが落ちて、タングリスと相似形の凛々しくも美しい美少女の面影が現れた。

 それは、紛れもなく、ムヘンの流刑地からノルデン鉄橋までいっしょだったトール元帥の副官にして超重戦車ラーテの操縦手であるタングニョーストだ。

「みんな、もっと水を!」

「これを」

 まだ手を付けていないペットボトルを渡して、ヒルデがタングリスの口元に持っていってやる。

 ジューー

 タングリスの唇が動いたかと思うと、水は一瞬で蒸発してしまう。

「リミッターが外れたんだ、もっと大量の水がいる」

「じゃ、これも」

「これも」

 飲みかけやら、手つかずのものやら、ペットボトルの水を与えるが、いずれも唇に触れるか触れないかで消えていく。タングニョーストの渇きは尋常ではない。

 もともとブァルハラのトール元帥に付き従っている軍人だ。並の飢えや乾きなどビクともしない。

 それが、ここまでボロボロになるのは生半可な旅ではなかったのだ。

「海の水じゃダメなんだろうね……」

 目の前には紀淡海峡の豊かな海が広がっているが、いかに豊かと言っても海水だ、使えるわけがない。

 しかし、そう思ってしまうほどに原初の日本は海水でさえ清々しい。

「ああ、ダメだろうな……」

 荒れ地の万屋ペギーが居れば、スポーツドリンクや天然水ぐらいいくらでも調達できるんだろうが、ここは次元の違う日本の異世界、望むべくもない。

「これを使え!」

 イザナギが差し出したのは神社の手洗所に置いてあるような小さな柄杓だ。わずかに水が入っているようだが、これでは口を漱ぐにも足りない。

「え、これは?」

 タングニョーストの口に当てがわれた柄杓からはコンコンと水が湧いているようで、彼女の喉は絶えることなくコクコクと動いている。

「奇跡の柄杓だ!」

 ケイトが目を丸くする。

「国の天地(あめつち)が固まったら、これで川の源流にしようと思った柄杓だよ。アメノミヒシャクとでも言っておこうか」

「ありがとう、イザナギ。これで、タングニョーストは生き返るよ」

 そうやって、水を飲ませていると、みるみるタングニョーストの汚れや穢れが取れていき、ボロボロだった野戦服も新兵のそれのようにキレイになって、ノルデン鉄橋で別れた時よりも凛々しく清げな女性兵士の姿に戻った。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

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ライトノベベスト・『憧れの莉乃と同じクラスに! その②』

2021-05-05 06:11:25 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『憧れの莉乃と同じクラスに! その②』  




「ポジティブに受け止めたほうがいいんじゃないかな。いつまで同じグループでつるんでちゃ、面白くなくない?」

「あのね、問題はあたしたちをゴミみたいに分別した学校なのよ……!」
「それを前向きに、進歩とか成長のファクターとして捉えなきゃ、程度の低い恨みでしかない」

「なんだって!?」
「莉乃ッ!」

 佳乃子は莉乃の襟をつかんだ。

 ブチ!!

 セーラーの胸当てが外れる音と、佳乃子の頭の線が切れる音が重なった。

 今までのつつましやかな莉乃からは考えられない行為……いや、暴挙だ。オレは成りたての「付き合っている男」として黙って見て居るわけにはいかない。尻込みしながら半歩前に出た時「ン!」という吐息とも気合いと「キャー!」という悲鳴がした。

 その場に居合わせたみんなが、オレを含めて目をつぶった。

 一瞬が数時間にも感じられた。

 だれもが無残に投げ倒された莉乃の姿を思い浮かべた。が、事態は逆であった。
 今まで体育の教師を相手にしても負けたことのない佳乃子が、潰れた蛙のようにへばっていた。
「ごめんね、でも海老原さんが先に胸倉掴んで足払いかけようとしたから、正当防衛よ。手加減したから怪我はしてないと思うんだけど……あんたたち、なにをボサッとしてんのよ。リーダーが倒れてるんだから、起こしてあげなさいよ!」

 佳乃子の手下たちは莉乃の迫力に気おされ、薄情なことに、佳乃子を放り出したまま蜘蛛の子のように散っていってしまった。

「海老原さん……」
 莉乃が優しく手を伸ばした。
「ほっといて、あんたの手で起こされたくなんかない!」
 佳乃子は、そのまま校門から外に飛び出してしまった。

 オレは引きちぎれて、少しあらわになった莉乃の胸元に目がいった。

 え?

 少し覗いた花柄のブラがまぶしかった。

「それでは、クラス開きを行います」
 Z教組らしく、こういう組合的な展開が担任の西村郁美は好きだ。一人一人自己紹介をやらされる。だれも、こんなとこで本音で自分のことを話すやつなんていないのに。
「自己紹介と、新学年の抱負を語ってもらいたいんだけど、その前に転校生の紹介をします」

 転校生という言葉に、みんなは互いの顔を見合わせた。みんな元のクラスは違うけど、見覚えのある顔ばかりだった。

「蟹江さん、前に」

「はい」

 意外の声が上がった。

 わが担任西村郁美は、とうとうおかしくなったか。学校でも評判の可愛い莉乃を転校生と間違えるなんて。

 ところが、莉乃は言われるままに教卓の横に立つと、背筋を伸ばした。

「転校生の蟹江莉奈です。今まで双子の姉の莉乃がお世話になっていましたが、この春からお互い環境を替えようということで、転校してきました。活発で面白い学校で、わたし的には気に入ってます。みなさんよろしく」

 オレは絶句した。

「莉乃さんとはそっくりだけど、別人です。慣れない学校なんで、みんな助けてあげてください」
 担任が嬉しそうに言う。
「いいえ、学校のことは分かっています。わたしたち、時々学校入れ替わって行ってましたから。三学期は、ほとんどわたしがこっちに来て慣れておきました」
 これは担任・西村郁美も驚いた様子だった。で、オレは次の言葉でひっくり返った。

「一応、学校でのカレは、そこの会田くん。今朝わたしの方からコクっておきました。当分売約済みなんで、よろしく」

 そう言って、莉乃……いや莉奈はニヤリとオレの顔を見た。

 複雑なオレの気持ちはチャンスがあったら話すよ……。

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真凡プレジデント・73《昭和二十年十月二十日・2》

2021-05-05 05:45:54 | 小説3

レジデント・73

《昭和20年10月20日・2》     

   

 

 終戦から二か月とは思えない清らかさだ。

 

 病室は八畳ほどの個室で、開かれた窓には網戸が施され、網戸の向こうには叢林を挟んで瀬戸内の眠ったような海が広がっている。ついさっき巨神兵のような水柱がそそり立っていたのが嘘のようだ。

 その清らかな静寂に愛しまれるようにおカッパの少女が眠っている。

――来島美奈子ちゃん、国民学校の三年生よ。広島で原爆に遭って、この病院に収容されているの――

――原爆に……?――

 意外だった、ケロイドっぽい傷跡も無いし、髪も、ついさっきシャンプーしたようにサラサラだ。

 ベッドから出たパジャマの両手は癪に障るほどに白くて細い。指は小学三年にしては長くて形もよく、美しくピアノを弾いているのが似つかわしいと思った。原爆に遭ったといっても爆心からは相当離れていたんだろう。

――ううん、美奈子ちゃんは爆心から500メートル。地下室に居たので外傷は全くないの……そろそろ目覚める、もう一度化けるわよ――

 ビッチェが指を振ると、ビッチェは開襟ブラウスの女先生に、わたしは、ビッチェより若い女先生になった。

 

 ……あ 先生

 

 目覚めた美奈子ちゃんが、わたしたちに気づいた。

 透き通るような笑顔だ。

「あら、起こしてしまったわね」

「起きて良かった、寝ていたら、そのまま帰ってしまったんじゃないですか」

「ううん、起きるまで待ってるつもりだった」

「じゃ、お待たせしたんじゃ……」

「ううん、ついさっき来たところ」

「……先生、助かったんですね」

「うん、体育倉庫の陰に居たところでピカだったから、熱線を浴びなかったの」

「体育倉庫は頑丈ですもんね……よかった。そちらは?」

「吉水先生、美奈子ちゃんが良くなったら担任をしてくださるの」

「こんにちは美奈子ちゃん」

「こんにちは……えと、先生は?」

「わたしは倉敷に帰るの」

「倉敷……先生の故郷ですね」

「そう、それで代わりに担任してくださるのが吉水先生」

「どうぞよろしくね、美奈子ちゃんが戻ってくるの待ちきれなくて来てしまいました」

「嬉しい……入院してから、初めて知ってる人に会いました」

「そうね、美奈子ちゃん直ぐに良くなるだろうって、直ぐに戻って来るだろうって、先生堪え性がないから来てしまいました」

「まあ、いけない子です先生は」

「美奈子ちゃんに叱られてしまいました」

 

 アハハハ

 

 病室に笑いが満ちたところでドアがノックされ、軍服に白衣の女医さんと看護婦さんが入って来た……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

 

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