大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・047『モンスターハント・1・チーチェ』

2021-05-25 08:53:22 | 小説4

・047

『モンスターハント・1・チーチェ』マーク船長   

 

 

 火星に野生動物は居ない。

 野生でなくても、人間以外の動物は、まだまだ希少だ。

 地球では、家畜が脱走して野生化することがある。オーストラリアの野生の馬とか牛とか羊とか、日本で有名なアライグマも二十世紀の末に輸入されたものが野生化したものだ。日本の場合はアニメでアライグマが流行って、ペットとして輸入されたものが脱走したり、大きくなって持て余した飼い主が捨てたりしたのが野生化してしまったんだ。二百年の間にガラパゴス的に進化して『ラスカル』という固有種になって、ニ十三世紀の今日ではアライグマというよりは『ラスカル』の方が通りがいい。子どもの中には『ラスカル』と『アライグマ』は別の動物だと思っている者もいる。

 考えてみれば、地球の自然環境が、それだけ豊だということだ。

 火星に持ち込まれた動物は、人間の保護が無ければ半月も生きられない。餌も無ければ水さえ自然には存在しない。居留地が集中している中緯度以外では酸素濃度も月よりはマシという程度しかない。

 その火星にも、野生動物めいたものが、今世紀になって繁殖し始めている。

 

「見た目には可愛いので、躊躇なさらないでください」

 コスモスが注意する。

 コスモスの背後で匍匐前進しているのは、俺と宮さまだ。

 ベースを出た時には元帥と副官のヨイチも一緒だったんだが、さすがに五人も居ては獲物に気付かれるというので、集合地点を決めて別行動をとっている。

「ロボットなんですよね?」

 宮さまが念を押す。

「ええ、元々はマース条約のもとで作られたペットロボットですから」

 中国の植民地であったマス漢が、開拓民の無聊を慰めるために作ったペットロボットが、ユーザーによって違法改造されたものが野生化したのがチーチェだ。

 日本の『ラスカル』がモデルだというチーチェは、とにもかくにも可愛らしい。

 ネコミミとウサミミの二種類があるのだが、たれ目と丸まっちいボディーはマス漢製であるとは言え、三百年の伝統を誇る日本の萌文化が土壌になっている。

 歴戦の兵士でも、こいつを正面から見るとトリガーを引くのをためらってしまう者がいるくらいだ。

「居た! 一時方向、砂丘の陰」

 コスモスが指差した先、砂丘の陰から数匹分のネコミミとウサミミが覗いている。

「もう30メートルは近くないと当らねえぞ」

「大丈夫です、昨日餌を撒いておきましたから、様子を見ながら寄って来るはずです」

 コスモスの言う通り、四五分待っていると、五匹のチーチェが砂丘を超えてきた。

「か、可愛い……」

「目を見てはダメです、耳かボディーを見てください」

「わ、分かりました(^_^;)」

 宮さまは、努力して、微妙に視線を変えられる。

 見かけは草食系の優男だが、なかなか克己心と自制心のお強い方だ。まあ、そうでなければ、こんな火星くんだりまで避難の足を延ばされることも無かっただろう。

「俺が、左の二匹、コスモスが右の二匹、殿下が中央の一匹を狙います」

「船長、ダメです」

「なんでだ?」

「わたしが三匹、お二人で一匹ずつです。船長、チーチェは三カ月ぶりくらいでしょ?」

「三か月で、なまるような腕じゃねえぞ」

「この三か月で二回バージョンアップしていますから」

「二回もか?」

「ええ、では、呼吸をシンクロさせます」

 お互いに気息を計って呼吸を同期させてから、腹ばいのまま、銃口をチーチェに指向させる。

 視野の端でコスモスの横顔を捉える。射撃のタイミングを合わせるためだ。

—— いま ——

 コスモスの唇が動いて、殿下と二人トリガーを引く。

 プシ

 パルスライフルの幽けき(かそけき)発射音がして、ネコミミ三つとウサミミ二つの首が宙に待った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

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ライトノベルベスト・『サヨナラの意味』

2021-05-25 06:04:43 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

 

『サヨナラの意味』



 

 電車が去りゆく余韻が好きなんだ。

 カタンカタン、カタンカタン、とレールが鳴って、しだいに小さくなっていく。

 なんだか痛みが遠のいていくのに似ているとは思わないかしら?

 大げさに言うと浄化されるみたいな、ちょっとおセンチだけど、大団円を迎えたドラマの最終回みたいな。

 わたしは、そう思うの。

 All my troubels seemed so far away

 と言う感じ。

「じゃ、ユッコ……さよなら」
 あいつに、そう言わせたんだから。
「うん、さよなら……さよなら」
 やっと言わせたさよならだから、二回もさよならを言ってあげた。
 あいつは、電車のガラスに貼りつくようにして、わたしを見ていた。
 わたし、ずっと見ていてあげたよ。
 レールのカタンカタンが小さくなって聞こえなくなるまで。
 お母さんの時代だったら、別れのフォークソングが一つ書けそうなくらいの雰囲気だったよ。

 あいつも、今日は言葉を選んでた。

「時計を見てるユッコは、とてもゆかしいね」
 
 ゆかしい……なんて普通は言わないよ。なんだか昭和の小説みたいでさ。
 でも、今日の二人には「ゆかしい」が似つかわしく思えたよ。
 わたしだって、腕時計なんかしないけどさ。女の人が腕時計見る仕草っていいよね。
 あいつもそう言うからさ、スマホで時間を見るよりは雰囲気だと思って、ドンキで買っていったんだよ。
 なんだか『三丁目の夕日』の人みたくなれて、とっても雰囲気だった。

「俺、言葉は大切にしたいから」

 こないだのデートで「言葉って、どうして軽いんだろう……」って呟いたせいかもしれない。
 大した意味は無かった。
 終電までの時間、間が持たなくて、無口でいる言い訳を、ちょっとアンニュイに雰囲気出しただけなんだけどね。
 あいつは真正面から受け止めて、神田で古本買って勉強したんだって。
 そういうマニュアル的なとこってゲロが出そうなんだけど、鼻にしわ寄せて可愛く笑ってあげたよ。

 だって、今日はサヨナラの日なんだから。

 やっと言わせたさよなら。
 明日からは、気兼ねしないでM君に会えるよ。

 家に帰ったら、気配を察したんだろうか、お母さんが鼻歌を歌っていた。

 別れたら~ つぎの人~(^^♪

 普段は 別れても~ 好きな人~ と唄っている。

 昭和人間のお母さんらしい応援歌だ。

 
 
 いつもあいつと待ち合わせした、あの場所で、今日はM君と会う。

 とてもカジュアルな待ち合わせ場所だけど、あまり雰囲気を作ってもはしたない。
 だいいち待ち合わせの時間が、あいつの時よりも三十分も早い。
 時間を大切にしたいから、そう言ったらM君も「ボクも」そう言ってくれた。
 発展してもいいように、下着もちゃんと替えてきた。おくびにも出さないけどね。
 準備に手間取ったけど、五分前には着いちゃった。M君、先に着いてるかな~?

 いつもの自販機の角を曲がって目が合った……!

「やあ、早かったね!」

 あいつがニコニコ笑顔で立っていた。
「え、ええーーーーー!」
 母音の「え」を伸ばすことしかできなかった。だって、さよならしたんだもん!
 さよならは、これでもうお別れの最後の挨拶だもん!

 昭和の昔は、ごく普通のカジュアルなお別れでも「さよなら」と言っていたらしい。
 あいつは、得々としてマニュアル本を振りかざした。

 横断歩道の向こう側で、M君が白けた顔して突っ立っている。
 声には出さずに口の形だけで「サ・ヨ・ナ・ラ」を言うと、回れ右して行ってしまった。

 ああ、サヨナラの意味ぃーーーーーー!!!!
 

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コッペリア・3『そもそも人形が届いた理由・1』

2021-05-25 05:41:48 | 小説6

・3
『そもそも人形が届いた理由・1』  


           


 開けて驚いた!

 等身大の人形が入っているではないか……。
 
 等身大の人形といっても、ラブドールの類では無く、どちらかというと、デパートなんかによくある目も口もないマネキンに似ている。顔は、申し訳程度に鼻の部分が隆起しているのと、耳が付いているのと、全体のフォルムから、それと分かる程度のもの。

 ただ、関節がやたらに多い。取説を見ると五十か所以上動くらしい。

 それに、マネキンというほどスタイルは良くなく、むき出しの球体関節は色気とは程遠い。
 開けた時のショックで大きい等身大と思ったが、等身大というのには、やや小さい。
 身長150、B67、W56、H76、洋服のサイズで言うとXS。大人になるちょっと手前の女の子のフォルムをしている。それに女の子としての部分はほとんど表現が無い。乳首は触ってやっと存在が分かる程度、股の付け根には谷間の表現もなかった。

 そして、なによりいぶかしいのは、宛名は颯太になっていたが、颯太自身にこんなものを注文した覚えがないことだ。

「ああ、やっぱ着ちまったか」

 家主のジイサンが、不動産屋のジイサンとコンビで入り口に立っている。

「なんなんですか、これは? オレ注文どころか、ここの住所も人に教えてないのに」
「ま、とりあえず忘れた枕だ」
「わたしは、サービスで座布団を。この寒さじゃ痔になっちまう」
 不動産屋は、そういうと座布団を三枚しいて、気づけば奥の和室で三人車座になった。
「おっと……」
 颯太は、備え付けのエアコンのスイッチを入れた。

 エアコンが暖気を吐き出したころで家主と不動産屋が口を開いた。

「じつは、おまえさん、前の店子と同姓同名なんだよ」
「そうなんだよ。そんな気はしてたんだけど、店に帰ってデータを見たら同じなんで、気になって座布団口実に様子を見に来たんだ」
「ええ……!?」

 立花颯太というのは、そうゴロゴロ転がっている名前では無い、颯太自身が一番驚いた。

「立ち入ったことを聞くけど、おまえさん大阪に親類はないのかい?」
「いいえ、御一新以来の江戸っ子だって、いつもひい爺ちゃんがいってました。本籍地も東京です」
「やっぱり前の立花さんは大阪なんですか?」
「さすが不動産屋だ、気が付いていたかね」
「化けるほどやってますからね、今は必要以上の個人情報は聞けませんがね。五分も喋ってりゃ、おおよその境遇とか気性は分かるもんなんですよ」
「前の立花さんは、大阪の高校で先生をやってらした。天涯孤独の身の上で、退職を機に東京に越してらっしゃった。歳も近いんでよく話したけど、おいらは、なかなかいい先生だったと思うよ。生徒の……特に退学していくような生徒の面倒見がよかったみたいだ。おいら、何度か感心して誉めたんだけどね、本人は学校と自分の職業的なアリバイでやったことで、教師の良心なんてもんじゃないって謙遜してらしたけどね」
「だけどね、家主さん。オレは案外本心だったと思うんだ。いや、悪い人だってことじゃないよ。あの立花さんは真面目すぎるんだ。仕事ってのは、どんな仕事でも100%職業的な良心でやれるもんじゃない。不動産屋にしてもそうだ。ときどき仕事の枠を超えて、お客の身の上相談みたいなことをやるけど、江戸っ子の心意気半分、店の評判半分てとこさね」
「もともと、あんたは人間のいざこざが好きなところがあるからね」
「まぜっかえさないでくださいよ。あの立花先生は、そういう半端な自分に嫌気がさしていたんだろうね。そうでなきゃ、心機一転どころか二転三転して東京まで出てきやしねえよ」

 気づくと、目の前に湯気の立ったお茶が置かれていた。不動産屋のジイサンが喋りながら淹れたものだ。でも、それに気づかいさせないところがプロだと思った。

「で、あの人形は?」
「うん、オイラのせいかもしれねえ……」

 家主のジイサンは、渋茶を口に運びながら話を続けた……。 

 

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