大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・206『ネットで着付け大会』

2021-05-15 09:20:58 | ノベル

・206

『ネットで着付け大会』頼子     

 

 

『テイ兄さん』には笑った。

 

 いかにも留美ちゃんという感じが好ましい。

 留美ちゃんは敬語がデフォルトだ。

 大人からすると、かなり好ましい子だろうね。

 お行儀もいいし、心地よい敬語で接してくれて、成績も良くって、控え目だけど、頼んだことや決まったことは真面目にやり遂げる。

 いわゆる委員長タイプだ。

 でも、こういうタイプは、知らないうちに人と垣根が出来てしまって、友だちができにくく、孤立したまま三年間の学校生活を終えてしまう。

 眼鏡を取ったら、けっこう美人なことも承知している。

 何を隠そう、二年前、さくらと留美ちゃんを文芸部に引き込もうと策略を練った。

 その甲斐あって、中三の一年間は退屈せずに過ごせたし、私自身、大げさに言うと人生の勉強にもなった。

 看護師のお母さんがコロナに感染して重症化。留美ちゃんは、ほとんど会うこともできずに、先日転院されてしまった。お父さんが手配されたようだけど、複雑な家庭事情があるようで、留美ちゃんには転院先も教えられていない。

 なにか手を差し伸べなければと気をもんだけど、さくらの働きとテイ兄ちゃんをはじめとする如来寺の人たちのお気遣いで、家族同様に暮らすことができた。

 小さな心配は人との垣根だ。

 如来寺の人たちは、けして人に無理強いするということが無い。

 留美ちゃんの敬語は、なかなか直らないだろうなあと心配していた。

 それが、お寺の手伝いをしている間に、ごく自然に「テイ……」まで出たんだ。いきなり「テイ兄ちゃん」は敷居が高いというか「テイ……」まで口に出て、戸惑いやら恥ずかしさが出てきてしまい、留美ちゃんは「テイ兄さん」と締めくくった。

 でもいいよ。

 留美ちゃんにしたら大進歩だし、『テイ兄さん』と呼ぶ距離感が新鮮だ。

 こういう微妙なところに留美ちゃんを落ち着かせたのは、間違いなくさくらの性格だ。

 でも、そんなこと言ったら、留美ちゃんもさくらも意識してしまって身動きが取れなくなってしまう。

 だから、そんなことはおくびにも出さずに60インチのモニターの前で浴衣の着付け大会をやっている。

「そんなんじゃ、お茶子さんなんかできないわよ( ´艸`)」

 お寺の子のくせに、さくらは着物がさまにならない。

『そんなことないですもん!』

「はい、じゃあ、今度は裾さばきに気を付けて、階段を下りてみる」

 カメラが階段の下に切り替わる。カメラはテイ兄ちゃんだ。カメラが微妙に揺れているのは、きっと笑いをこらえているから。

『ほんなら、いきまーす!』

 まるで、スタートラインに着く陸上選手のように手を挙げるさくら。

 もう、これだけで可笑しくって、カメラもブレてるんだけど、さくらの後ろで控えている留美ちゃんは奥女中のように真面目な顔で控えている。この対照も面白い。

 ミシ ミシ…………

 階段を踏みしめて、桜の姿が大写しになる。

 あ、

 キャーー(;'∀')!!

 ドンガラガッシャーーン!!

 大音響と共に画面がブレまくり、ピントが合わなくなった。

 プ(* ´艸`)

 わたしの後ろでソフィアが吹きだす。ソフィアも着付け大会に参加してくれている。

 この、護衛係り兼・学友のソフィアもだいぶ慣れてきて、語尾に「です」を付ける癖も直って、今では、十年も前から日本に住んでる感じになっている。

「さくらぁ、その階段は勾配が急だから、手すりに掴まりながら、ちょっと体を横にしないとね、裾が絡んで、おっこちゃうのよ」

 文芸部の校外部室のある如来寺は、わたしにとっても自宅同様なのだ。

『そういうことは、最初に……』

「言ったよ、最初にさ。ね、さくらってさ、ゲームやってもマニュアル読まない子だよね?」

『そ、それは……』

 図星だ。

「じゃ、今度は留美ちゃん!」

『はい』

 留美ちゃんは、指摘した通り、楚々と階段を下りてくる。

「わあ、もう、このまま旅館の若女将が務まりそうだあ」

『いえ、そんな……』

「照れる留美ちゃんも、可愛いよ(^▽^)」

『て、照れます(#'∀'#)』

 照れる後ろで「アハハハ」とさくらがノドチンコむき出しで笑っている。

『さくらだけではありません』

 テイ兄ちゃんの声がして、カメラがパン。

 すると、リビングに通じる廊下に如来寺のみなさんが出ていて、ウフフ アハハと笑っている。

 なんだか、とっても懐かしく、許されるなら、このままジョン・スミスに車を出してもらって如来寺に直行したい気持ちになって、不覚にも鼻の奥がツンとしてくる。

「では、わたしも、修業の成果をお見せしたいと思います」

 背後で、ソフィアが立ち上がる。

 ジョン・スミスがカメラに切り替えてくれて、モニターの上1/6がソフィアを追う画面になる。

「ちょっと、どこまで行くの?」

 カメラは、領事館の中庭に出るソフィアを追いかけている。

 わたしも、裾を気にしながら中庭に。

「では、ソフィア参ります……」

 そう言うと、ソフィアは中庭の築山の上に……

 セイ!

 掛け声をかけたかと思うと、裾もみださずにジャンプ! 空中で一回転したかと思うと……

 ドスドスドス!

 どこから取り出したのか、回転しながら手裏剣を投げ、中庭で一番大きい楡の木に三本とも命中させた(^_^;)

 コロナの非常事態宣言真っ最中の大阪だけど、有意義に過ごしているわたし達でした。

 

 

 

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ライトノベルベスト・一週間物語・6〔土曜日はドウドウと!〕

2021-05-15 06:00:29 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

一週間物語・6〔土曜日はドウドウと!〕  




「すみません、ここでバイトしたいんですけど」

 思った時にはチーフと思しきオニイサンに声を掛けていた。

 正式には履歴書がいるけど、AKPを受けた時の書類のコピーがあったので、それで間に合った。あとは未成年なんで親の承諾書。こいつは帰ってから一悶着を覚悟。フライングしてマニュアルやら、お店のあれこれを教えてもらって、駅に向かおうと思ってAKP劇場のロビーで立ち止まる。

「そうだ、学校のこと、先に話つけとこ!」

 思った時には学校に電話していた。

 偶然日比野先生が電話に出た(ほら、姫乃の担任)で、うちの担任は帰っていたので、携帯のアドレスを教えてもらった。

「……というわけで、わたし学校辞めることにいたしました……はい、こんな電話でつくような話ではないことは承知しています。あらかじめお伝えしておいた方が、正式にお話ししたときに、互いに理解が早いかと思いまして……はい……はい。では来週よろしくお願いいたします」

 あたしってば、AKPシアターのロビーであることも忘れて、大きな声で話して、スマホに深々とお辞儀までしていた。

 当然だけど、親には反対された。

 でも双方決裂はしたくないので、決定的な結論は出さずに、とりあえず年内いっぱい好きにしてみる……と言っても、実質一か月もないんだけど。やってみる。やらせてみるということになった。

 そして土曜日。

 あたしは、9時からカフェに行って、いろいろ細かいこと教えてもらって、即実戦。
「いらっしゃいませ、お早うございます!」
 そう声を掛けてたまげた。最初の客は、なんと姫乃だった!
「あら、妙子さんだったわね……バイト……ってことは落ちたんだ。まあ、次ってこともあるから、がんばってね」
「はい、ありがとうございます。姫乃さんも、いっそう期待してます。頑張ってください」
「もちよ。あ、オーダーはオーレで」
 姫乃は、そう言うと、もうあたしには目もくれず、ノートの振り付けやらフォーメーション描いたのを開いてお勉強を始めた。

 正直ムカつく。

 でも学校辞めるって決めたあたしだ。姫乃は後輩じゃない、お客さんなんだ。そう自分に言い聞かせた。

 ランチタイムが終わってクタクタになっていると、チーフから声がかかった。

「事務所の方で話があるって、急いで行っといで」
「あ、カフェの事務所って」
「そんなものないよ。事務所ったら、上のAKPの事務所だよ」

 とっさに思ったのは、午前中のお客さんに、AKPの事務所の人がいて、なにか失礼なことがあったんじゃないかということ。覚えているだけで、お釣りの間違いが二回、飲み残しのお水こぼして「すみません」が一回あった。こういうとこのスタッフさんは気難しい人が多い。あたしは、妙子としてではなく、カフェのスタッフとしてミスしたんだ。きちんとお詫びしなくちゃ。そう思って階段を上がった。

「すみません、カフェAKPの増田妙子と申します。お呼びがあって伺いました」
「え、ああ、増田さん。奥の部屋行ってくれる」
 ドア近くのオネエサンに声を掛けたら、そう言われた。初めて入った事務所だけど、奥と言われてエライサンの部屋だろうと見当がついた――ああ、粗相があったのはエライサンだったか! と、臍を噛む思いだったけど。けして卑屈ではなく、きちんと謝ろうと思った。

「ああ、君が増田さんか。なるほど……足して割った感じだ」

――え、なにか割っちゃったっけ!?――

「申し訳ありませんでした!」
 早手回しに謝っておく。
「え、なに謝ってんの?」
「あ、カフェで失礼を……」
「失礼は、こっちだよ。あ、ぼく大曾根。さっきいろいろビデオ見せてもらってた。いや、今度は出張でオーディションに付き合えなかったから、今朝見せてもらったんだよ。君にはAKPの全てがある。パッと目には、ただの物まねに見えるけど。君には力があるよ。下のカフェで、バイトし始めたって聞いて、失礼だけど様子を見に行った(いつの間に!?)防犯ビデオまで見せてもらった。昨日、ロビーから学校に電話してただろう。きちんとしてたね。店での対応もしっかりしている。お釣りを二度ほど間違えたみたいだけど、直後に気づいて、自分のミスをフォローできてる。きみは標準的だけど、伸びしろがある。研究生の枠を一人増やして君をいれたいんだけど、どうだろ?」
 
 大曾根ってば、AKPのチーフプロディユーサーだ。ラフな格好なんで気づかなかった。そして、足に震えがきた。

「あ、ありがとうございます!」
 声が裏返りそうになった。家で飼ってもらえることが決まったときのポチの気持ちってこんなんだったかと思った。
「やってもらえるんだね、よかった。それと学校辞めちゃダメだよ。両立できないやつは、メンバーになっても続かない。分かったね」
「はい!」

 で、学校ではなくバイトを辞めることになった。

 いろいろ手続きやって、家に帰ろうと駅に着いたら、駅前に雄介がいた。

「学校辞めるな」

 そう一言言った。で、後の言葉が続かない。

「大丈夫よ。辞めないことにしたから」
「ほんとか!?」
「うん、ほんと。でも、雄介の心に置いた住民票……当分そのまま。で、個人情報だから人には言わないで。あたし、そういう世界に入っちゃったから。ごめん」

 あたしは、チョコンと頭を下げた。詳しい事情を説明すると雄介も分かってくれた。

 家まで一緒に歩いて、それが最初で、当分オアズケのデート……疾風怒濤の一週間だった!

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真凡プレジデント・83《婚礼から二十年ちょっと》

2021-05-15 05:47:57 | 小説3

レジデント・83

《婚礼から二十年ちょっと》    

 

 

 

 ちょっと飛ぶわよ

 

 あさひさんの婚礼が、酒代の踏み倒しということ以外無事に終わって、すみれのビッチェさんが指を立てた。

 貧血の症状のように視野が狭くなって、次にパッと明るくなったと思ったら大坂城の御殿だった。

 

 どうやら婚礼から二十年ちょっとたっている。

 

 すれ違う奥女中や茶坊主やらが、みんなお辞儀をして行く。

 一瞬戸惑ったが、かえでとすみれは清州以来の奥女中として、文字通りのお局様になっているのだ。

 

「おー、待ちかねとるがあ!」

 

 奥女中らしくしずしずと奥へ向かっていると、突き当りの襖が開いてサルが……秀吉さんが駆けてきた。

「昔は、呼べば走って来たのによ、もっと、てってと来んとあかんがね」

 文句は言いながらも、清州以来のわたしたちには楽し気に言葉をかける秀吉さんだ。

「はよ来い、はよ来い」

 後ろに回った秀吉さんは、急き立てるのを口実に、わたしとすみれさんのお尻を押した。

「その気もないのに、お尻を押さないでくださいな」

「いや、すまん、この手が悪い。てい、てい」

 秀吉さんは、自分の手を叩くと、上機嫌で書院の襖を閉めた。

 

「では、わたくしは、これにて」

 

 書院の下座に座っていた若侍が頭を下げる。

 

「待て佐吉、お主にとっても勉強じゃ、この年増二人の言葉をよう聞いておけ」

「しかし、奥の事でもございますし、表のわたくしが」

「あほう、この秀吉に奥も表もにゃあわ」

「徳川殿のことでありますね?」

 すみれさんが、さらりと言う。

「さすがは、我が家いちばんの女中じゃ。して、なんで分かった?」

「石田様の、キリリとした思案顔で……」

 ここにいたって、わたしにも分かった。

 

 本能寺の変のあと、天下の雄は秀吉さんと家康さんの二大チャンピオンで決せられることになり、つい先日小牧長久手の戦いが終わったところだ。

 秀吉さんは、戦になれば負けることは無くとも、相当な被害を被り、その分天下統一が遅れてしまう。

 なんとか、戦をしないで家康さんを臣従させようかと、悩み半分楽しみ半分に考えている最中なのだ。

 秀吉さんの偉いところは、この場に佐吉と呼ばれる石田三成を侍らせているところだ。

 この問題を解決するところに佐吉さんを座らせておくことで教育をしているのだ。

 

「それで、すみれ、かえで、二人に存念はにゃあか?」

 

「あたりまえならば、越後の上杉、坂東の北条、奥羽の伊達を先に調略すべきかと」

「佐吉、お前の献策は正しかったぞ、すみれが同じことを言いよる」

 すみれさんは秀吉さんと阿吽の呼吸なんだ。とりあえずは佐吉さんの肩を持っておくんだ。

「しかし、それでは時間がかかりますね……」

 わたしもかましておく。

「四国には長曾我部、九州には島津が控えております。中国の毛利殿も幕下に加わられて日が浅く、時間をかけていては鼎の軽重が問われます」

「そこじゃ! 下手をすれば、わし一代の時間では足らんようになる……なによりも、調略は暗~てかんわな」

「家康殿には北の方は、どなたでしたっけ?」

 すみれさんが、まるで小娘のような気軽さで秀吉さんと佐吉さんにかけた。

「徳川殿の北の方は月山殿と申された今川家の姫であられましたが、総見院様(亡くなった信長様)のご勘気に触れ……」

「さすは石田さん。そうよね、家康様が泣く泣く切られたのよね」

 

「かえで殿、よう申されました!」

 佐吉さんが閃いた。

 

「上様、徳川殿に北の方様を進ぜましょう!」

 さすが! すみれさんは、ヒントをほのめかし、石田さんに思いつかせた!

「さ、佐吉、おみゃーは、とんでもにゃーことを言う。寧々はかわいいやつじゃが、もう五十路。ちょっと無理があろうが」

「め、滅相もございません!」

 分かったうえでの冗談に、真面目に反応する石田さんもかわいい。

「お身内より、相応しき姫君を養女にされて、北の方様としての縁談を勧めるのです」

「なるほどのう……しかし、養女だったら、軽~はにゃあか。この秀吉と繋がりの濃い女子でのうては……」

「え? ええ?」

 

 秀吉さんは、わたしの顔を見たよ~(;'∀')。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号
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