大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:186『淡路島阿那賀岬に立つ』

2021-05-16 09:23:07 | 小説5

かの世界この世界:186

『淡路島阿那賀岬に立つ』語り手:テル   

 

 

 淡路島の西の端に来た。

 海を挟んだ四国との間には、幅四キロほどの海が広がっている。

「ちょっとあるなあ……」

 ケイトが独り言めいてこぼす。

 ケイトの優しさなのだ。

 タングニョーストは背中にタングリス(骨と皮だけど)を背負っている。ほかにも装備品を身に着けているので、ちょっときびしい。

 我々は、オノコロジマから淡路島までは海の上を走ってきた。

 右足を出したら、その右足が沈まないうちに左足を出し、出した左足が沈まないうちに右足を出して進むという、超人的な技で走ってきたのだ。

 顔にこそ出さないが、キツイ、かなりキツイ(;'∀')。

 加わったばかりのタングニョーストはキツイどころの話ではないだろうし、たとえ思っていても、言い出しにくいだろう。イケイケのヒルデは気が付きもしないし、自分が言わなければと思ったのだろう。ちょっと成長したな。

「この先に阿那賀岬というのがある。そこからなら、半分の距離だ。行ってみよう」

 さすが、国生みのイザナギノミコトだ、まだできたばかりの国土を名前ごと掌握しているみたい。

 スマホもろくに使えない、この世界。高校二年生の地理的知識は小学生と変わりない。東京近辺ならともかく、関西の地形や地名には、ひどく疎い。

「ミサキとはなんですか?」

 タングニョーストが素朴な質問をする。

「ええと……」

 素朴すぎてイザナギは返答に困る。

「英語ではCAPEね」

 たまたま憶えていたので答える。

「うん、そうなんだけど、最初だから、もうちょっと突っ込んで説明するね」

 イザナギは、異世界からやってきた下級将校に出来のいい転校生に対するように接する。

「海に突き出た陸地の事でね、大きいのを半島という」

「ああ、半島なら分かります」

「小さいのを岬と呼ぶんだけど、もともとの意味は陸地の先っぽの『先(さき)』でしかないんだ。それにくっついた『み』は、尊敬の意味の『御』の字がくっついたものだ」

「地形を尊敬するのですか?」

「うん、海を行くときに目印になるのが岬なんだよ。岬を見て『目的の港が近い』とか『もう少しで目的地』だとか分かる。だからね、日本人は岬そのものを神さまのように感じて、岬の前を通過する時にはお酒を供えて手を合わせたりするんだ」

「そうなのか!?」

 今度はヒルデが感動した。

「岬の前と言うのは岩礁とかが多くて、遭難することが多いので、我々の世界では悪魔が住んでいるというぞ」

「それは……そちらの世界の人たちが冒険心に富んでいるからだろう。日本人は、そういう点では少し大人しいのかもしれない」

「冒険心も度が過ぎると、わたしのように勘当されたりするがな」

 アハハハ……神さま同士の労りのこもった社交辞令なのだろうけど、少しばかりヒルデの傷を見たような気がした。

 

「おお、これなら距離は半分だ!」

「はい、これならなんとか!」

 

 阿那賀岬の先に立って、ヒルデもタングニョーストも頷いた。

「のちの時代、源義経が四国に逃げた平家を追って海を渡ったところでもあるんだ」

 イザナギがものを投げるような仕草をすると、阿那賀岬の前を五隻の船で海峡を渡る義経軍の姿が浮かんだ。

「それって、屋島の戦いですか?」

 乏しい日本史の知識と結びついた。

「ああ、一の谷の戦いで海に追い落とされた平家は、高松の屋島に陣地を布いて、海から攻めてくる源氏に備えるんだが、義経は裏をかいて、大嵐の中、ここから阿波の国に渡って、陸地から平家を攻めるんだ」

「なるほど……」

 ヒルデはタングニョーストと説明を聞きながら砂浜におおよその地図を描いて納得している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士ではある。

 わたしも、参加してみたい気分になって、乏しい知識を喋ってしまう。

「二十世紀の終わりには、橋が掛けられてね、とっても便利になるんだよ」

「ああ、本四架橋!」

 ケイトが嬉しそうに同調してくれる。

「ここに橋を架けるのか!?」

「うん、神戸から淡路島へも橋が掛けられて、本州と四国は船を使わなくても行き来できるようになる」

「それは……」

「ここに橋を掛けるなんて、まるで神の御業のようだが……なんか、つまらんなあ」

 どうも、神さまと人間では感覚が違うようだ。

 

 我々は、タングニョ-ストの荷物や装備を分けて持ってやって、右! 左! と、気合いを入れて海の上を走って、対岸の讃岐に渡ったのだった。

 

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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ライトノベルベスト『ジュリエットからの手紙・1』

2021-05-16 06:17:22 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ジュリエットからの手紙・1』  

 




 思いがけなく遅くなってしまった。

 で、普段はあまり通らない商店街の裏道を通って帰ることにした。商店街は私鉄とJRの間にあり、その一本裏通りの住宅街との間の裏道が、我が家への近道。

 いつもは通らない。

 朝は、高校に入ってから仲良しになったノンコといっしょに商店街を歩いて駅まで行く。帰りは、人通りが少なく、女子高生としてはちょっと敬遠。

 でも、今日は特別。

 コンクールを控え、部活が遅くなってきたところへもってきて、わたしはグズグズしていた。いや、グズグズじゃ、自分がかわいそう。
 部活が終わって、校門を出たところで、わたしは、クラスメートでサッカー部の杉本君といっしょになってしまった。
 
 わたしは、そこでコクられてしまった。

 まったくの想定外。杉本君はイケメンで、いかにもスポーツマン。でも、わたしは、そんな目で杉本君を見たこともなかったし、見られているとも思っていなかった。
「感情吐き出して、今すぐ素直になれ♪」「好きって言葉は最高さ♪」などと、アイドルグル-プは、お気楽に歌っているけど、現実は、そんなに簡単なもんじやない。
 
 わたしは、告白しようなんて思ってないけど、好きな人がいる。わが部活のコーチの稲葉さん。

 A大の演劇科の学生。そして、わたしたちの学校の先輩でもある。今回の地区大会で優勝できたのも稲葉先輩のお陰なんだ。
 女子ばっかりの演劇部で、稲葉さんは、公平に部員を見てくれる。顧問の増田先生からも言われてるんだろうし、自分でも、そうケジメをつけている。コ-チ就任のときも「ボクには彼女が居る」と、わざとらしく宣言している。稲葉さんに彼女がいるとしたら、演劇の女神様だ。
 
 わたしは、杉本君を傷つけたくなかった。

 だから、駅までノラリクラリ。で、思いかけず遅くなってしまったわけ。
 この道は、夏休みの部活で通って以来だ。この道は「く」の字になっていて、「く」の字の角のところで、商店街に抜ける路地につながっていて、一軒だけお店の裏側が、この裏道に面している。そのお店は、昔はアンティークのお店だったけど、今は、どんなお店になっているか分からない。

「く」の字の角で、わたしは「あれ?」と思った。

 四角いゴシック風な箱に足が付いたポストが立っている。

 

――ジュリエットのポスト――

 

 浮き彫りになった下に注意書き。

『郵便局のポストではありません。ジュリエットへの手紙のみ、このポストに入れてください』

 タソガレ色のライトに照らされて、とても不思議な感じだ。

 明くる日からは、コンクールの本選に向けて朝練が始まり、わたしは、その近道の「く」の字を通って学校に行った。

 あれ……?

 ジュリエットのポストは、そこにはなかった。ちょっと戸惑ったけど、そのまま学校へ行った。
 杉本君は、教室ではポーカーフェイスでいたけど、わたしを意識しているのは分かる……ってことは、わたしも意識しているということなのだろうか。
 クラブでは、稽古も大詰め、稲葉先輩のダメ出しにも熱がこもり、わたしの稲葉先輩への思いにも熱が籠もる。
 帰り道、やっぱ杉本君といっしょになる。他にサッカー部の男の子が前の方を歩いているので、たまたま演劇部の遅練が、サッカー部といっしょなんだと思った。
 そして、杉本君と別々になって帰り道の「く」の字に入る。朝には無かったジュリエットのポストが立っていた。

『恋にお悩みの貴女、ご遠慮なく、お手紙を。ジュリエット』

 夕べとは、注意書きが変わっていた。まるで、わたしの心を見透かしたように……。

 そんな日が五日続いた。朝になれば無くなっているジュリエットのポスト、日ごとにつのる稲葉先輩への思い。そして、帰り道、必ず一緒になる杉本君。三日目には、わたしたちの前後にサッカー部員の姿は無く、日ごと遅くなる私の部活に彼が合わせて待っていてくれていることが分かった。

 で、とうとう、スマホの番号を教えてしまった。

 杉本君は、浮ついたところのない男の子で、メールも日に一回しか寄こさない。わたしの心が、彼からは少し距離があることを知っていて、自然な距離をとってくれている。そんな彼の気配りに、少しずつ気持ちが傾いていく。

 コンクールの本選では、わたしたちは惜しくも選外になり、部活は、平常のそれに戻り、稲葉先輩も、あまり来なくなった。コーチというのは、年間指導日数が決まっていて、それを超えると、交通費も含めて自腹になり、学生である稲葉先輩が、毎日来るのは厳しいものがある。それに、なにより、先輩自身学生で、自分の勉強だって生活だってある。アルバイトとか、彼女とのこととか……妄想は愛おしさとともに膨れあがっていく。

 日々の付き合いから、杉本君に傾くわたし。会えないことで稲葉先輩への思いを募らせるわたし。

 わたしは、自分が分からなくなってしまった。

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真凡プレジデント・84《よう言うた!》

2021-05-16 05:52:02 | 小説3

レジデント・84

《よう言うた!》      

 

 

 

 勘違いするところだった。

 

 秀吉さんは、わたしかすみれさんのどちらかが家康さんの嫁になれと言うつもりではなかった。

 二人とも、まだ三十代で十分魅力的なんだけど、それは二十一世紀の令和の時代でこそ言えることで、戦国時代も終盤の十六世紀末、秀吉さんの感覚でなくとも――おみゃーは、もう、そういう歳ではにゃ~よ――ということなんだ。

「かえで様はお血筋ではございませぬ」

 石田さんは、そうフォローしたけど――あなたさまは年齢的に無理です――という本音がありありと分かる(^_^;)。

「おるではにゃーか。うってつけの血筋のもんが~」

 

 ピンとこない三人に正解が告げられた時、わたしもすみれさんも息をのんだ。

 え!?

 石田さんは、はっきりと反対の意思が表情に出て、一言言おうとしたところに秀吉さんが被せた。

 

「佐吉、そーゆー顔は人に嫌われるでかんわ。驚くところまではえーが、相手の言葉も終わらんうちに不足な顔するんでにゃ~」

「これはしたり。ならば、そのお使い、佐吉が承りまする」

「よし、よう言うた!」

 

 早手回しに使者を名乗り出た石田さんは偉い。それを即座に褒めた秀吉さんも大したもんだ。

 

 はっきり言って、石田さんには向かない仕事だ。

 頭の回転は素晴らしいが、この優等生顔で理屈を言われても人は反発が先に立つ。

 秀吉さんは、石田さんの申し出を、こう修正した。

「佐吉では論が立ちすぎる。それに、これは羽柴家(まだ豊臣の名乗りはしていない)と徳川家とあの家の奥向きの話だでよ、柔らこういかにゃなあ……」

 そうして、わたしとかえでさんが秀吉さんの内々の使いと言うことになり、石田さんは、頼りない奥女中二人のお目付け役ということで収まった。

 

 わたしたちは、奥女中二人の寺参りほどの身軽さで、そこを目指した。

 

 一万石の小身ながら尾張の名族である佐治日向守さまのお屋敷。

 当代は夫婦養子である。

 取り立てて業績のある大名ではないが、万事に腰が低いが卑しくもなく、実直に家を守ろうとする姿は、一族郎党から領民の間にまで悪い噂が立たない。

 その夫婦養子には、一つだけ問題があった。

 夫婦の間に子が生まれないのである。

 当主の日向守は、そのことには無頓着で、いずれ一族本流の家から養子を迎えて、自分は妻共に隠居しようと考えている。

 そうすれば、自分たちが養子に入り込むことを腹の中では反対していた佐治家の者たちも納得、夫婦二人も気楽に老後を迎えられると考えている。

 

 そう、この佐治家の当主夫妻こそが、二十年前に婚礼を上げた茂平さんと秀吉の妹のあさひさんだったのだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号
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