大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・205『テイ兄さん(^_^;)』

2021-05-09 09:26:31 | ノベル

・205

『テイ兄さん(^_^;)』さくら     

 

 

 失踪同然のお母さんの転院。

 

 それにもめげずに留美ちゃんは普通にやってる。

 お台所の手伝いをやって、本堂やら境内の掃除やら、如来寺便り(お寺が檀家さんに出してる月一のニュース)の手伝いもこなす。

 今月は連休やったこともあって、オンラインで授業受けてるよりも、お寺の手伝いの方が何倍も多い。

 むろん、元々はうちがやってる仕事やったんやけど、同じ部屋で暮らしてることもあって、すっかり留美ちゃんの仕事にもなってきた。

「やっぱり中止なんですか……」

 如来寺便りを封筒に入れようと、最初の一枚を手に取って残念がる留美ちゃん。

「うん、こんな状況ではなあ……」

 封筒の中身を確認しながらテイ兄ちゃん。

「もう長いこと米国さん見てへんなあ……」

 うちもため息が漏れる。

 米国さんとは、落語家の桂米国さん。

 アメリカ人やねんけど、日本の、それも上方落語に心酔してしもてほんまもんの落語家になったニイチャン。

 定期的にうちの本堂で『如来寺寄席』という落語会をやってて、檀家のお婆ちゃんらも楽しみにしてる。

 一昨年の秋にやって以来、うちの本堂ではできてへん。

 原因は、むろんのことコロナ。

「繁盛亭も今月いっぱいは休館するて、今朝の新聞にも書いたったしな」

「いつまでも続きませんよコロナも。延期になった分、楽しみも大きくなりますから(^▽^)/」

 留美ちゃんは、どこまでも前向きな子ぉや。

「ね、テイ……!」

「え?」

 テイ兄ちゃんが小さく驚く。

 いま、留美ちゃんは「テイ兄ちゃん」と言いかけた。

 ほんの昨日までは「あのう」とか「そのう」とかしか呼びかけられへんかった留美ちゃんが、自然に「ね、テイ兄ちゃん!」と呼びかけた。

 分かるわよね?

 思わず「テイ兄ちゃん」と口に出て、と言うか呼びかけて、停まってしもて目を白黒

「え、なに?」

 こういう時、正直にビックリすると、留美ちゃん照れてしもて言えんようになってしまう。

 ポーカーフェイスで「え、なに?」はグッジョブやでテイ兄ちゃん。

「テイ……兄さん」

 テイ兄さん……ま、ええか(^_^;)

「災い転じてって言うのもあると思うんです」

「う、うん」

「どうせやるんだったら、本格的にお茶子さんやってみたいんですけど」

「本格的に?」

「はい、ちゃんと着物着て、名めくりやったり座布団裏がえしたり」

「ああ、それええなあ(o^―^o)!」

「お寺の寄席だから、お客さんの履物の整理とか案内とか、それこそ、お茶のお世話とか」

「あ、それってスタッフいうこっちゃね!」

 うちも乗り気になる。

 落語会は、米国さん一人の時が多い。ほとんど米国さんとテイ兄ちゃんの趣味みたいなもんで、支度とか世話とかは、お寺の人間が、その時その時の都合で適当にやってる。

「とりあえずは、高校卒業するくらいまではやれると思うんです。どうでしょ?」

「それはええ、ええこっちゃ。米国さんとも相談して、ちょっとアイデア錬ってみよか」

「じゃ、さっそく!」

 身を乗り出す留美ちゃん。

「それは夜にでも。これから檀家まわりやし、封筒も三時までに出さんと明日の配達に間に合わんからな」

「あ、そかそか(^_^;)」

 土日を挟んでしまうんで、三時に間に合わさんと、配達は週明けになってしまう。

「じゃ、特急で!」

 

 三十分で仕上げると、紙袋二つに入れて二台の自転車で郵便局へ。

 ちゃっちゃと郵便局の窓口に預けると、ハンドル回してスーパーに、仏さんのお供え物を買いに行く。

 入ってすぐの生鮮食品コーナーに柑橘系が並んでる。

「あ、アメリカのオレンジ!」

 五つ入って390円。

「カリフォルニアや!」

 ガタイのええ生産者のオッサンが「おれんちのオレンジは世界一だぜ!」いうような感じで白い歯を見せてサムズアップ。

 ついさっきまで話してた米国さんのことが頭にあって、迷わずにレジカゴに入れました。

 

 それから二日、本堂は、カリフォルニアオレンジの爽やかな香りに満ちて、留美ちゃんの「テイ兄さん」の呼びかけも馴染んできました。

 うっとうしいコロナは続くけども、如来寺の境内から仰ぐ空は、日本一の五月晴れの日曜日です(^▽^)/

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『ああ、花の五重マル』

2021-05-09 06:40:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ああ、花の五重マル』  




 夏休みの宿題が返ってきた。

 五重マル。これはいい。

 でも赤ペンの評でガックリきた……。

 戦争について調べ八百字程度で、作文を書きなさい。これが宿題のタイトル。

 戦争、それも夏というと、太平洋戦争の終戦、原爆……ぐらいしか、思い浮かばなかった。
 お父さんもお母さんも、昭和四十年代生まれなんで太平洋戦争のことは知らない。
 お爺ちゃん、お婆ちゃんも昭和二十年代生まれなんで、せいぜい、三丁目の夕日だ。

 一日延ばしにしているうちに、お盆になった。お盆に施設に入っている大爺ちゃんの、お見舞いに行った。

「太平洋戦争……ああ、大東亜戦争やな」
「ダイトウワセンソー?」
「ダイトウアセンソウや」
「大爺ちゃんは、戦争いってたの?」
「いきそこないや。飛行時間二十時間で終戦や。あと十時間も乗ってたら特攻にいってたやろな」
「特攻……?」

 大爺ちゃんは、頭はしっかりしてるけど、体力がない。酸素吸入をしながらの話は、それでおしまいだった。
 ただ、あたしに何かを伝えようとして、目の前で、しばらく両手を動かしていた。意味は分からない。

 マユは、パソコンで『戦争に関する感想文』というのをマルマルコピーして、ちょこっと言葉を変えるだけで出すと言ってた。
 あたしは、ダイトウアセンソウと特攻がキーワードだった。で、そこからアクセスしてみた。

 びっくりした。はじめて大爺ちゃんの口から聞いた大東亜戦争が正解だった。太平洋戦争というのは戦後アメリカが強制的に呼ばせた言い方で、日本では、戦争に負けるまで大東亜戦争だった。それに、アメリカと戦争をする何年も前から中国と戦争をしていて、それも含めての言い方だと知った。

 特攻は、サイトのどの文章も難しいんで、ユーチュ-ブを見て、そのまま感じたとおり書こうと思った。

 日本の飛行機がアメリカの船につっこんで、爆発するのや、飛び交う弾丸の中で空中分解するのや、海につっこむのとか、なんだか、おちょこでお酒飲み合って、飛行機に乗っていくとこ。なんだか、画質は悪いけど、ゲームのCGの感覚だった。

 そんな中、二つのショッキングな特攻の動画を見た。

 共通点は、どちらも積んでた爆弾が不発だったこと。でも、結果がまるでちがう。死ぬってとこではおなじなんだけど、違う。そして同じなんだと思った。

 一つは、戦艦に見事に体当たり。

 でも爆弾は不発で、戦艦の甲板で、飛行機はバラバラになって燃え上がった、積んでいた飛行機の燃料に引火したんだ。そして、かたわらには、飛行機から投げ出されたパイロットの亡骸。乗組員は蹴って海に落とそうとするが、艦長が、それを止めた。

「彼は命をかけて、この船につっこんできて、いま神に召されたんだ。見事な軍人だ、礼節をもって弔え」

 それで、その戦艦では、アメリカ式に乗組員が並び、弔いのため弔砲(ムツカシイ言葉だけど調べた)を撃ち、シーツに赤丸を描いた即席の日の丸に包まれた遺体を丁重に水葬にし、みんなが敬礼で見送った。

 もう一つは、航空母艦に突っこんで不発。

 飛行機は甲板を滑って海に落ちた。そしてパイロットが生きたまま浮かび上がり、乗組員に手を振って救助を求めた。
 で、次の瞬間、そのパイロットは、航空母艦の機銃で撃ち殺された……。
 ライフジャケットを着ているので、遺体は沈まない。ぐったりのけ反ったまま、自分の周りの海面を真っ赤に染めて、遺体は流れ去って行った。

 ショックだった。

 同じアメリカ人が、こんなに違うことをすることを。大爺ちゃんが、当時は同じような若者で、一つタイミングが違えば、同じように死んで、今のあたしたちが存在しなかったであろうことが。
 落ち着いて、もう一度ずつ見た。両方とも同じだということに気がついた。
 方や、騎士道精神に則った美しい行為。方や、復讐心がさせた無防備な者の虐殺。

 これは、戦争という異常事態での、異常心理の表と裏だ。わたしは、こんなことが戦場のあちこちで、それぞれの国の中でも、様々な異常心理があったんだろうなと想像した。幼いながら、なにかとんでもないものが背景にあるような気がした。もっと勉強しなければと思った。


 先生の評は、こうだった。

 この悲劇を起こしたのは、当時の日本です。そこを見据えて、戦争の真実をとらえ、勉強しようという思いは、立派です。がんばろう! 大東亜戦争は間違いです、太平洋戦争。言葉は正しくおぼえよう。


 東京オリンピックが終わって一年がたつ。

 オリンピック景気が去って、少し日本の経済は冷え込んだ、しかし内戦が起こったり、餓死者がでたりということは、笑っちゃうけど、ありません。今期に入った経済の短観でも、失業率は下がって景気も回復の傾向だ。

 あたしは、W大学のマスターになり、アメリカの留学生といっしょに、大東亜戦争の経済的背景と民族的問題に頭を捻っている。アメリカ人の相棒の口癖はは、「トルーマンのクソ野郎」である。あたしは、あの夏の日、大爺ちゃんが苦しい息の中、両手で表現しようとした何事かを、時々手だけ真似てみる。分かるのは何十年も先かもしれない。

 電子新聞の片隅に『オリンピック不況を呼んだ政府を糾弾!』という前時代的な集会の記事が出ていた。壇上のオッサンが気になって、指で拡大、九秒の動画にして分かった。

 あの、東京オリンピックが決まった秋に、五重マルをくれた中学の先生だった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・77《見晴るかす限りの草原・3》

2021-05-09 05:56:07 | 小説3

レジデント・77

《見晴るかす限りの草原・3》     

 

 

 ビッチェが立ち上がったと思うと気が遠くなった。

 

 …………気が付くと消防車の助手席。

 消防車はあいかわらず果てしない草原を走っている。

 わたしが目覚めたのに気づくと、ビッチェが小さな声で言う。

「バックミラー……後ろ」

 え?

 戸惑っていると、チラっとビッチェの目配せ。

 バックミラーで、そっと後ろを見ろということなんだ……そう分かって、バックミラーに映る消防車の背中を覗う。

 え?

 消火ホースがとぐろを巻いているところに半透明の女の子が背中を向けて座っている。

 ロクヨンやガンネンよりも幼い印象で、半透明のせいか風になびくロングヘアーもワンピースも白っぽく、いっそう儚げだ。

「あの子は?」

「わかったら忘れて」

「忘れろって……」

「考えちゃダメ」

 

 ムギュ!

 

 右半身に衝撃を感じたと思ったら、半透明の子がビッチェとの間に割り込んできた。

「あ~あ、本格的に憑りつかれちゃったわよ」

「え、え、なに!? 誰よこの子!?」

 肌を接しているので、なんとも気持ちが悪いんだけど、走っている消防車の中なのでどうしようもない。

「ごめん真凡、運転に集中しないと、とんでもないところに行ってしまいそうなの。相手したげて」

「あ、あー、あー、えと……」

 急にフラれても出てくるもんじゃない。

「ごめんなさい、ロクヨンにもガンネンにも相手にしてもらえなくって……」

 たった七日間しかなくって認知度どん底の昭和元年と六十四年からもシカトされる存在ってなんだ?

「わたし……コウブンです」

「コウブン?」

 音の響きで浮かんだのは構文……英語の文法で出てくる分詞構文とかいう人を英語嫌いにする四文字熟語。

「漢字で、こう書きます」

 

 半透明はフロントガラスに『光文』と書いた。

 

 光文……出版社にあったような?

「ですよね~(^▽^) 鉄腕アトムとか鉄人28号とかの『少年』とか『女性自身』を発行してるぅ♪……じゃなくって!」

 一瞬般若のような顔になってバックミラー越しに睨みつけてくる。

 ヒエ~~~~!

「ご、ごめんなさい」

 今度はうなだれてしょげ返ってしまった。

「あ、えとえと……」

「ほんとうは、昭和なんかじゃなくて光文のわたしが年号になるはずだったんです」

 

 ガタン! ガタ!ガタ!ガタ!

 

 消防車が大きく揺れて舌を噛みそうになった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする