大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・42『オモヒカネとアメノホヒノミコト』

2021-05-29 09:18:32 | 評論

訳日本の神話・42
『オモヒカネとアメノホヒノミコト』  

 

 

 八意思兼神(ヤゴコロオモヒカネ)、略してオモヒカネという神さまが登場します。

 

 スサノオが大暴れして高天原をメチャクチャにして、頭に来たアマテラスが天岩戸に隠れた話をしました。

 高天原の八百万の神さまたちは困り果てて、天安河原(あめのやすかわら)に集まって会議をしました。困った時には、みんなで集まって会議をする(大勢の時もありますし、主要メンバーだけの時もあります)のが、日本の神話から現代に至るまでの特徴だと申し上げました。

 その天河河原で議長になって話をまとめたのがオモヒカネなのです。

 自分を騙して岩戸から引っ張り出した張本人なのですが、逆に、そのことでアマテラスはオモヒカネを信頼して、相談役にしておりました。

 まあ、アマテラス自身、岩戸に隠れてみんなを困らせたのは更年期のヒステリー……思っていても、口にしませんし、指摘する不躾な神さまもいません。

 オモヒカネを重く用いることで、そういう反省や気持ちを現していたのかもしれません。。

 

 余談になりますが、日本神話や日本の歴史においては、人を糾弾するということが、あまりありません。

 世界史はズボラな勉強しかしませんでしたので証拠を挙げろと言われると困るのですが、外国では、糾弾が行き過ぎて魔女裁判的なことが、たびたび行われます。

 中世や独立前後のアメリカの魔女裁判は、文字通りそうですし。中世の異端審問(ガリレオがやられました「それでも地球は回っている」の呟きが有名ですね)。フランス革命のジャコバン派などの恐怖政治、ロシア革命、中国の文化大革命、東京裁判などがそうですね。日本人は戦犯として3000人あまりが処刑されましたが、アメリカ人など連合軍側で戦犯に問われた者は、わたしの記憶の中にはありません。

 その、オモヒカネにアマテラスは聞きます。

「ねえ、オシホミミが逃げちゃったんだけど、他に適任者はいないかしら?」

「そうですね……それでは、第二皇子の天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)をおつかわしになってはいかがでしょう?」

「そうね……血筋から言ったら、あの子になるかなあ……」

 ということで、アメノホヒが呼び出され豊芦原之千秋長五百秋之瑞穂国(とよあしはらのちあきのながいおあきのみずほのくに)……長ったらしいので、これからは地上と書きます(^_^;)。

「はい、兄に成り代わって、このアメノホヒが地上を治めます!」

 あたかも大河ドラマの主人公のようなカッコよさで引き受けて地上に向かいます。

 しかし、ミテクレはかっこよくとも、政治的な手腕というものは別物です。

 

 アメノホヒがとった政治は、徹底した融和主義とでもいうようなもので、何かにつけてオオクニヌシに相談して政治を行います。

 まるで、源氏の血筋が途絶えた後の鎌倉幕府の将軍です。摂関家や皇子から選ばれた将軍にはなにも決定権がない飾り物でした。

 融和主義というのは、無責任と紙一重なところがあります。

 なんの見通しもなく、ただ優しくすれば道が開けるだろうという、よく言っても楽観主義に陥ることがあります。

 

 幣原喜重郎という、大阪出身の唯一の総理大臣がいました。

 戦前は外務大臣で、大陸に対しては徹底した融和主義をとって、結果的に事態を混乱させ、現地の日本人が多く犠牲になることを防げませんでした。ワシントン軍縮会議では代表になって渡米、当時のタイム誌の表紙を飾ったこともあります。レジ袋を有料化した某長官同様、いわば人気者でした。

 戦後、軍部から遠く、任期もあって、融和主義であったということで戦後二代目の総理大臣になりますが、半年余りの任期では「平和主義」を看板にしただけで、なにもできずに吉田茂にバトンタッチしました。

 二十代の終わりころ、所用で門真市役所に行った時に『幣原喜重郎コーナー』を発見しました。各種受付が並んだ片隅に、学校の購買部ほどのショーケースがあって、レジカゴに三杯分くらいの写真や手紙などの資料が並んでいるだけでした。

 2018年に生誕150年のプロジェクトが企画されたようですが、ざっと見たところ、ちょっと寂しいものを感じました。

 

 脱線しましたが、アメノホヒは、その子の代でオオクニヌシの家来になってしまいました(^_^;)。

 

 アマテラスは、第三の使いを地上に送ることになりますが、今度は、自分の血筋ではない神を送ることになります。

 

 

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ライトノベルベスト『宇宙人モエの危機・2』

2021-05-29 06:43:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『宇宙人モエの危機・2』  

 



 新橋駅の高架下あたりからウソみたいに現れて銀座通りを行進していった……。

 九十七式中戦車三両を一個小隊とする戦車隊。それに挟まれるようにしてトラックに乗った何万人という兵隊の流れ。それらは、銀座を東北東に進み、なぜか信号は全て青になり、その帝国陸軍の列は、丸の内を目指し、そこから数隊に分かれ、国会議事堂を占拠するもの、皇居の警備につくもの、警視庁、NHKを占拠するものに分かれた。
 さらに新しく現れた陸軍部隊は、首相官邸、防衛省、各大臣公邸を襲い首相以下、全閣僚の身柄を拘束した。

 NHKを占拠した部隊は、全国民に向けて放送を始めた。

「我々陸軍の決起部隊は、いたずらに混乱を招来するものではありません。戦後、国際法に反して作られた日本国憲法を廃止し、帝国憲法の復活を宣言するものであります。しかし、急速な変化は混乱をもたらすものであるので、法律、行政機関、民間の経済活動は従前のままとし、帝国憲法が周知徹底されるまで、わが帝国陸軍が……」

 隊長の演説は延々一時間に渡って、民放を含む全放送局で流された。

「モエ、これでいいだろう」

 陸軍中将のナリをして、部下を一個中隊引き連れて、ジョーンズが病院にやってきた。

「なによ、ジョ-ンズ、これは!?」

「お前の報告で、地球を救援にきたんだ。いま地球はメチャクチャで、モエの担当である極東は、その中でも不安定要因を大きくしていて暴発寸前だ。だから、モエの情報を元に、一番自然なかたちで秩序を回復しに来たんだ。もう安心しろ」

 そういうと、ジョーンズは美味しそうに缶コーヒーを飲み干した。

「ジョーンズ、あたし、今は女子高生ってのになってるんだけど、あんまり勉強とかできるほうじゃなくて、ちょっと情報が混乱してるみたいに思うんだけど」

「なにを言うんだ。ここまでやったことを今さら止められんぞ。心配するな。モエが間違えた部分は、我々が修正していく。もう、ここに来るまでに、専守防衛という概念を理解した。けして、外国や日本の実力部隊を攻撃したりはしない」

「そうだ、だから安心しろ!」

 犬に化けたカイが、犬語で喋った。

「入ります」

 ビートたけしに似た下士官が入ってきて、不動の姿勢で報告した。

「TPPの交渉に出かけていた副総理が、事態を知って、グアムに臨時政府を作りました」

「あ、そう」

 ジョーンズは、オヤジギャグをとばした。ギャグというのはジョーンズの思念が言っているだけで、モエにはよく分からない。

 なんか、ズレてる。

 モエは、なんだかよく分からなかったが、とんでもない事態を引き起こしてしまったことだけは自覚した。

「だって、学校の授業じゃ、自衛隊も昔の軍隊も区別つかないんだもん!」

 そう言うと、モエは頭から布団を被ってしまった……。

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コッペリア・7『気が付けば春……』

2021-05-29 06:31:34 | 小説6

・7 

『気が付けば春……』 


    

 久々に朝日のまぶしさで目が覚めた。

 颯太は寝坊したのかと思った。時計を見れば、まだ八時を過ぎたところである。

 ここのところ、はっきりしない天気が続いていたせいもあるが、季節は確実に進んでいるようだ。

「もう、春なんだ……」

 はっきりしない頭でも、そう気づかせるほどに明るい陽射しに、颯太は伸びをして、スーツに着替えた。

 美音とのことが傷になって、とりあえず越してきたものの、この十日あまり、ほとんどボンヤリしていた。

 ダラダラと部屋を片付け、近所のホームセンターで必要なものを買ってきてはいるが、きちんと組み立てて使いだしたのは二人用のテーブルと椅子だけだった。
 一人暮らしに、なぜ二人用かというと、ホームセンターのハンパモノで、この二人用が一人用よりも安かったからである。大家と不動産屋のジイサンも時々顔を出してくれる。ならば二人用もありかと買ったのである。
 他の家具や道具は、まだほとんど手つかずである。

 例の人形のおさまりがつかず、決めかねていた……と、自分を納得させてはいた。

 しかし、いつまでもダラダラはしていられない。あてもなく東京に出てきたが、今までやってきた美術講師の経験と履歴でなんとかなると思っている。東京は都立だけで三百近い高校がある。講師の口の一つや二つはあるだろう。

 パソコンで打ちだした履歴書と教員免許を持って山手線に乗った。

 新宿の西口で降りると、散歩と交通費の節約を兼ねて都教委のある第二庁舎まで歩いた。

 新宿のビルは、どれも颯太の感覚では人間が使用する規模とたたずまいを超えている。歩ている自分がひどく矮小なものに思え、通行人は、どこかデジタル映像のように無機質なものに感じられた。
 それでも庁舎に入ると、教育委員会特有の雰囲気が有り、慣れた流れの中で講師登録ができた。

「やっぱ、規模はでかいけど、中身も流れもいっしょだな。ちょっと東京見物でもしようか」

 一人ごちると、颯太は、再び電車に乗り、山手線を半周して秋葉原まで行ってみた。

 三年生は春休み、一二年は学年末の半日授業でアキバは賑わっていた。新宿よりも、アキバの空気の方が颯太にはあっていた。「こういうやつらを相手にするのか」と、高校生たちを見て納得と覚悟をした。

「ま、口さえあればなんとかなるだろう」

 AKBショップの前を通った……つもりだったが見当たらず、検索したら二年も前に移転している。自習監督に行った時、生徒がアキバに行ったら行ってみたいと言っていたのを思い出したのだが、ついこないだだと思っていたのが、ひょっとしたら三年も前のことかと、時の流れの速さを感じた。

 それでも駅前広場は賑わいは面白い。駅前に蠢く人の大半が若者で、目的のショップに向かうオタクたち、キョロキョロと待ち合わせする女子高生、スマホを弄っているのは目的地の情報を検索しているのか、メールを打っているのか。とにかく活気があって楽しくなる。
 足を延ばしてラジオ館に着いた。ここも近年改装したようで、若者たちでにぎわっている。

 ラジオ館は、ドールやフギュアのテナントで一杯の、その道のオタクたちの聖地である。
 入り口のウインドウの中に颯太のところと同じホベツ150のドールが飾ってあった。颯太のところのものと違って、顔の造作が描かれてていた。うまくポーズは付けてあるが、顔もポーズにも何かが欠けている。

 存在感がないんだ……颯太は、そう思った。

 オレなら、もっと生命感のあるものに……いや、あのドールは素体のままでも十分な存在感がある。ほんのちょっと手を加えてやれば……何を考えているんだ。そう思ったときには神田まで足が延びていた。
 
 古本屋街の一角に、絵画と絵具の店があった。颯太は仕事柄、こういう店を素通りすることができない。
 印象派を中心としたレプリカの絵がウインドウで客を引き付けていたが、颯太は、店の奥にもっと面白いものがあるような予感がしていた。

「これは……」

 数ある絵具の中に、それを発見した。

 ビスクドール用の絵具の中に、一つだけフランス製の売れ残りがあった。色やけしたパッケージのフランス語は、颯太の乏しい語学力でも読めた。

――Peinture de vie――

 ええと……生命の絵具?

 直訳すると、そう読めた。

——やってみるか——

 生命萌えいずる春のせいだろうか。

 颯太は、あのドールに、しっかりした顔かたちを描いてやる気になってきた……。

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