大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・212『仏蘭西波止場・2』

2021-05-14 10:02:58 | 小説

魔法少女マヂカ・212

『仏蘭西波止場・2』語り手:マヂカ     

 

 

 震災で半壊してしまったビルの中は真っ暗で、侵入者の正体はすぐには分からない。

 ブリンダも同じで、デスクの陰から窺っている横顔は微動だにしない。

 わたしと同様に、小さく呼吸はしている。

 その呼吸は、侵入者のそれと同調させている。数回同調させると、自然に拍動までシンクロしてくる。

 単に身を潜めるだけなら、体表面の体温を身を隠している壁やデスクと同じにする。そこまでシンクロさせると、相手が悪魔でも、短時間なら見破られない。

 見破られはしないが、とっさに攻撃を掛けることになると体温を下げていては瞬発力が下がって、打撃にしろ魔法攻撃にしろ威力が七掛けほどに落ちてしまう。

 まして、今は敵の上陸を間近に控えている。ここで戦闘になっては、上陸してくる敵に気付かれてしまう。

 ここは、波止場に面したビルの最上階だ。居場所を知られてしまったら、敵の集中攻撃を受けてしまう。

 

 ジリ ジリ ジリ……

 

 そいつが近づいて来て、とうとう曙光が差し始めた窓際にまで迫ってきた。

 新畑!?

 そいつは、震災直後の世界に霧子を連れ出して惑わせている正体不明の新畑青年だ。

 最初はインバネスの釣鐘マント、二度目は漆黒の兵科章を付けた憲兵大尉、そして、今度は……白の上着に黄色い袖章、これは船長? と、思いきや、杉綾格子の探偵のようなスーツ、着流しに兵児帯、素足には雪駄という任侠の男。手に白鞘のドスが現れたと思ったら、ヨレヨレハンチングに口髭の革命家。ルパシカにブーツ、亡命ロシア貴族?

 とにかく、目まぐるしく外見が変わっていく。

 ブリンダが窓を見ろと目だけで示してくる。

 あ?

 曙光に紛れて分かりにくいが、窓の外がイルミネーションのようにチラチラと色を変えていく。

 新畑が窓外に気を取られているのを確かめ、少しだけ身を起こして波止場の様子を窺ってみる。

 ……これは!?

 危うく、呼吸の同期を忘れるところだ。

 新畑の扮装の変化と同期して、波止場の沖合に、次々と艦船が現れる。

 その艦船は、まだ実体化しきれておらず、輝きを増してきた朝日を透き通らせている。

 伝馬船やタグボートが、その存在に気付かずに突き抜けて進んで行く。

——こいつが呼び寄せている!——

 確信を持つと同時に、新畑はゲームのキャラクリがバグったように姿を変えながら窓から飛び出していった。

「やつを停めるぞ!」

 ブリンダが叫んだ時には、わたしも窓から飛び出した。

 

「新畑!」

「そいつらを呼ぶのを止めろ!」

 

 新畑は、海軍陸戦隊の姿で変態を止めて振り返った。

「やあ、君たちでしたか」

「こいつらを呼んでいるのは、あなただろう」

「それは違う」

「革命の波は世界的なムーブメントなんだよ。それは、わたしごとき若輩の潮招きで寄せられるようなものではない」

「現に、おまえの変態に合わせて、船の数が増えているではないか」

「革命をスペイン風邪のように言わないでくれたまえ。僕は、狭い意味で革命と言っているんじゃない。欧州大戦が終わった今日、世界は真の大革命を成し遂げようとしているんだよ。今次の震災によって形而下の文物の中枢が破壊された。形而下の諸々は震災を機として破却されればいい。これからは、政治、経済、文学、化学、軍事などの形而上の革命が起こるんだよ。ロシアに起こった浅薄な革命の云いではない。僕は、真なる革命を世界の同志とともに成し遂げる。そのために、この横浜に革命の風穴を開けるんだよ。その、蟻の一穴のごとき風穴を開けることが僕の役目だ。もう、沖には世界革命の大船隊が迫ってきている」

「妄想だ」

「よく見なさいよ、船に乗っているのは、そんな上等なものじゃないわ」

「世界中から集まった妖どもだぞ」

「なにごとも、原初のそれは雑多で猥雑な妖のようなものだよ。時の流れの中で淘汰され洗練されて、やがて本物になる。どうだろう、日本に招くには、僕の力だけでは及ばないところがある。手伝ってもらえないだろうか?」

「手伝えだと?」

「ああ、自分の事はよく分かっている。風穴を開けることは僕にもできるが、それを日本中に根付かせるには力不足でね。いわば、エンジン出力の足りない飛行機のようなものだ、高く、速く飛ぶにはエンジンの出力を上げなければならない。オクタン価の高いガソリンも必要だ。この女のようにね……」

 新畑は、自分の胸に手を突っ込むと光の球のようなものを取り出した。

「それは!?」

「貴様!」

 魔法少女の目には明らかだ。

 それは、高坂霧子のソウルだ。目を凝らせば、まだ取り込まれきってはいない霧子の顔(かんばせ)が偲ばれる。

「霧子を返せ!」

「返さなければ、おまえを殺すぞ!」

「僕を殺す? そんなことを言っていいのかなあ」

「なんだって……」

「僕は、西郷さんに張り紙をしたんだよ……西郷さんの効果は絶大だね……うしろを見てごらん」

「!?」

「しまった!」

 

 振り返った波止場には、帝都全域の妖どもが集合を終えようとしていた……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  •  

 

 

 

 

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ライトノベルベスト・一週間物語・5〔金曜日はキンキンキン!〕

2021-05-14 06:21:28 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

一週間物語・5〔金曜日はキンキンキン!〕  



 一年生に早乙女姫乃って可愛いのがいる。

 可愛いのは名前だけかと思ったら大間違い。男が10人通れば10人振り返るだろうってぐらい可愛い。
 けども根性はババ色だ。だいいち自分の可愛らしさを十分知っていて、それをひけらかして自分の武器にしている。
 こいつの存在は、先週の土曜までは知らなかった。
 早乙女姫乃って評判の可愛い一年女子がいるのは知ってたけど、こんなに根性ババ色で、ましてあたしの人生に絡んでくるとは思わなかった。

 今日の一時間目、国語の日比野先生は荒れていた。普段は温厚な先生で、無理な解釈押し付けたり、しょーもない文法をやかましく言ったりしないのに『徒然草』で雄介に五段活用でネチネチ絡んでいた。
「姫乃と一悶着あったらしいよ」
 クラスの情報通のサワチンが言ってきた。

 姫乃は、なんと、あのAKPの研究生なのだ!

 AKPは、たとえ研究生でも忙しい。

 一応授業時間に食い込むようなレッスンはやらせないけど、自主練とか選抜メンバーのサクラでスタジオの雛壇に座ったり、その気になれば学校抜けてやることが一杯ある。
 で、姫乃はAKPイノチの子で、なにかと言ってはAKPのスケジュール優先して、学校を休みがちだ。で、担任の日比野先生と、そのことでやりあったらしい。うちは公立高校なんで、芸能特別枠なんてあるはずもなく、成績どん底、欠席、欠時数オーバーを気にして注意するのは担任として当たり前。姫乃は周囲の同情かうために職員室で泣き叫んだそうだ。
「AKPか、学校か、どっちかにしなさい!」
 日比野先生は、そこまで言った。言って当然だと思う。こんな世間をナメタやつは、なにをやっても絶対大成しない、当然AKPでも!

 ところが世の中、理屈通りにはいかない。

 先週の日曜日に某所で、あたしは姫乃に出会ってしまった。
 こともあろうに、AKPのスタジオで……ここから、あたしの話。

 あたしは、演劇部を辞めると決意したコンクールの予選で、AKPの研究生に応募していた。締切ギリギリで、自分でAKPの事務所まで願書を持っていった。そして県大会で優勝したあくる日にオーディションを受けにいった。

 そこで、個人レッスンに来ていた姫乃にばったり出会った。

 姫乃はあたしを知らない。あたしは知っていた。なんたって学校じゃ有名人だ。だけどうかつなことに、姫乃が芸能プロに所属しているとは知っていたけど、まさか天下のAKPだとは思わなかった。
――ヤッベ! 合格したら、姫乃の後輩かよ!?――
 でも、この世界はチャンスと実力だ。一期ぐらいの差はすぐに抜かしてやる!

 オーディションの課題は、歌と、簡単なダンス。そしてプレゼンテーション。

 演劇部で、個人的にやった一年間の自主練はダテじゃない。小暮先生とのやり取りでも分かると思うんだけど、自己表現とかアピールにも自信がある。
 で、モニターで見てたんだろ。
「学年は違うけど、同じ学校なのね。ガンバってね!」
 と廊下で、姫乃のお言葉をいただく。

 で、今日は意気揚々とオーディションの結果を聞きに行く。意気揚々……というのは、ちょいウソ。本当はキンキンに緊張していた。オーディション受けて分かった。あたし程度の人はいっぱいいる。
 普通、こういうオーディションは、その日のうちに結果が出る。でも今回は五日間かけてじっくり選考している。思うに、その時の第一印象だけで決めて、あとで「しまった!」ということがあるに違いない……姫乃みたいにね。

「きみはね、AKPのメンバー全部足して人数で割ったような子。言い方変えると、狙いすぎ。自分だけのオンリーワン見せて欲しかったね」
「ということは……」
「残念だけど。今回は見送らせてもらいます」

 頭を殴られたみたいに、目の前に星がいくつもキンキンに輝いて消えた。あの姫乃に勝てなかった……。

 その時、バイト募集のポスターが目に映った。
――長期バイト募集、16歳以上、委細面談 カフェAKP――
 これだと思った。自分で言うのもなんだけど、あたしは見くびっていた。たかが高校演劇でえらそーなこと言っても、プロの目から見たら、ただ小器用な素人に過ぎない。ここならバイトしながら、ファンの生の声が聞ける。メンバーを直に見ることもできるかもしれない。
 このAKPの付属カフェで勉強しよう!

 あたしは、もう学校を辞める気になっていた……。

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真凡プレジデント・82《秀吉の妹》

2021-05-14 06:09:57 | 小説3

レジデント・82

《秀吉の妹》   

 

 

 

 犬にまで声をかけていく。

 

 むろん通りかかった人には例外なく。

 やあ喜六! これは作次! 清八! きい! くめ! よし婆! 塩じい! 与平! ポチ!

 などと必ず相手の名前を付けて声をかけていく。目につくと犬や猫にまで声をかけるので、通り過ぎる人はクスクスと笑いが絶えない。

「なんじゃ、かめの爺さん具合悪いんか!?」

 しげというおばさんに声を掛けると元気がないので、その表情から舅の具合が悪いと察し、道を曲がってしげさんの家に寄る。

「具合が悪いのかかめ爺?」

「おお、日吉(秀吉さんの元々の名前)か、大したことは無いんじゃがな……」

 わたしが見ても分かる。かめ爺さんは栄養不良だ。

 会話を聞いていると、息子さんが足軽奉公に出て討ち死にしたようで、わずかな貯えも底をついて苦しい生活のようだ。

「今夜は妹のあさひの婚礼じゃ。大したものはありゃせんが、さかなの残りなど届けるでしげといっしょに食べるがええで。それと僅かじゃが、米買うて食べるがええ、弱った時は精をつけることじゃ」

 懐に手を入れると無造作に銭を掴みだしてかめ爺さんの枕もとに置いた。

「そのままそのまま(o^―^o)」

 恐縮するかめ爺さんにとびきりの笑顔を見せると表に出た。

「さ、いくぞ」

 それからも、あちこちに笑顔を振りまきながら目的の百姓家に着いた時は、すでに婚礼が始まっていた。

 

 ビッチェ……いや、すみれさんは分かっていたようだが、途中の村人との会話で、今夜は秀吉さんちで目でたいことがあるんだと想像がついて、かめ爺さんのところで合点がいった。

 あにさん! 日吉! 藤吉郎! 

 いろんな呼び方で歓待される秀吉さんだが、木下様と呼ばれた時は顔を真っ赤にして「それは御城中に居る時だけじゃ、勘弁勘弁((ノェ`*)っ))」と照れまくる。

「いやあ、婿殿、あさひは儂に似ぬ無口な奴じゃが気立ては良いし体は丈夫じゃ、幾久しくな、この通りじゃ」

 そう言いながら、あさひさんの頭を押さえつけて兄妹そろって婿殿に頭を下げた。

「兄者人、もったいない!」

 茂兵衛と言う婿さんは恐縮するばかりだったが、膝付き合わせて飲んでいるうちに、すっかり打ち解けた。

「日吉、おみゃー、かめ爺のとこにも寄ってくれたらしいにゃー」

 にゃーにゃーみゃーみゃーと名古屋弁丸出しで、お母さんのなかさんが目を細める。

 かめ爺さんの見舞いをしたことが知れ渡って来たようだ。

「ハハハ、うちだけが目出度いんじゃ申し訳にゃ~で~」

「いやあ、村のこと気にかけてくれて嬉しいにゃ~」

 親子の会話に、暖かい笑い声が巻き起こった。

 

 祝言もお開き近くになって、秀吉さんは後免こうむると、わたしとすみれさんを外に招いた。

 

「すまん、思いのほかかめ爺のところに置いてきてしまって、酒代もない」

「えーー、それはないですよ!」

「こ、声が大きい」

「だって、ねえ、かえでさん」

「そこで、相談じゃ、いっそ、木下家に仕えぬか? そうすれば、次の節季には給金込みで払ってやれるが」

 抜けていたのか企んでいたのか、すみれとかえでは木下家の侍女になることになった。

「ところで、婿の茂平は、どんな顔をしておったかなあ?」

「まあ、あれだけ、間近でお話していて」

 

 そういうわたしたちも、茂平さんの顔が思い出せない。

 

 印象の薄い顔と言うのは、わたしだけのデフォルトではないようだ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号
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