大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・40『オオモノヌシ・2』

2021-05-17 09:39:01 | 評論

訳日本の神話・40
『オオモノヌシ・2』  

  

 


 我を大和(奈良盆地)の東の山に奉れば国造りはうまく行くと宣言し、それを受けて大国主神はこの神を祀ることで国造りを促進したと古事記には記されています。

 奈良盆地の南に、揃って形のいい小さな三つの山があります。

 天香久山(あめのかぐやま) 畝傍山(うねびやま) 耳成山(みみなしやま)

 いずれも、標高200mに満たない単独の山で、山梨や長野など2000m級の山々が聳えている地方の感覚からは、丘に見える代物かもしれません。

 じっさい、大和三山は人工的に作られたものではないかという説があったぐらいです。

 この大和三山を含んだ奈良盆地の南部が飛鳥地方で、藤原京(平城京の前の都)ができるまで、古代大和朝廷が箱庭のように営まれていたところで、大和三山は鉄道模型のジオラマに置かれたように可愛い山です。

 

 春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣(ころも)ほすてふ 天の香具山    
  
             持統天皇

 

 持統天皇(聖徳太子の伯母さん)が宮殿の廊下を歩いていたら、宮殿の軒端に普通に見えているような近所の山です。

 その、大和三山から東北に行った山地と盆地の間にあるのが三輪山です。きれいな三角錐の山で標高461mですから、高さでは大和三山の倍以上、ざっと見た大きさは数倍に感じます。

 つまり特別に立派な山なんですね。

 この、特別で立派な山を依り代として迎えたのですから、大物主(オオモノヌシ)と言うのは、その名前の通り大物として扱われたのでしょう。

 麓には大神神社(おおみわじんじゃ)があって、今でも三輪山をご神体とする別格の神社としてあがめられております。

 古事記には、こんなエピソードが書かれています。

 三嶋湟咋(みしまのみぞくい)の娘の玉櫛姫に一目ぼれしたオオモノヌシは丹塗りの矢に化けて、用を足していた玉櫛姫のホトを突いてびっくりさせます。姫は、その矢を持って帰ると(なんで、持って帰るんでしょうねえ(^_^;))、その矢は麗しのイケメンくんになって、めでたく二人は結ばれます。のちに女の子が生まれて、その子が長じて神武天皇の后になります。

 もう一つは箸墓古墳にまつわる話です。

 倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)という早口で言ったら舌を噛みそうな姫神さまがいました。この姫の元に夜な夜な通ってくる男神がいたのですが、この男神は、ぜったいに姫に姿を見せません。

「ねえ、一度でいいから、明るいところで姿を見せてくれないかしら」

 寝床の中で、姫は男神にねだります。最初は「無理!」とか「ありえねえ!」とか断っていましたが、姫の熱意にほだされて約束をしてしまいます。

「じゃ、正体見ても、ぜったい驚いちゃダメだぜ」

「うん、たとえ化け物でも驚かないよ(#・ω・#)!」

「じゃ、朝になったら、枕もとの小物入れを覗いてみろよ」

「うん、分かった!」

 まあ、姫は、どこか腐女子的なところがあって、少々の事なら夏コミの同人誌的展開になっても驚かない自信があったんでしょう。

 朝になって目覚めると、さっそく姫は枕もとの小物入れを覗いてみます。

「どれどれ……え? あ? あ? キャーーーーー!!」

 電気が走ったように、姫は驚いてのけぞってしまいます。

 小物入れの中には、一匹の白蛇が蟠っていました。

 で、悲劇が起こります。

 のけぞって尻餅をついた姫のお尻の下には箸が置いてあって、それが姫のホトに突き刺さって、姫はあえなくも亡くなってしまいます。

 そして、この倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)が葬られたのが、大和盆地でもかなり早い時期に造られた前方後円墳だと言われる箸墓古墳であります。

 倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)は七代孝霊天皇の皇女ということになっていますが、箸墓古墳の被葬者は卑弥呼という説もあって、いずれにしろオオモノヌシが特別な神さまとして扱われていることが偲ばれます。

 しかし、玉櫛姫といい倭迹迹日百襲姫命といい、Z指定の死に方ですねえ。

 ゲームなどで、こういう描写をしたら、確実に問題になります。ホトという言い方も教科書ではNGワードになっていて、日本神話を教科書に載せられない、小さな言い訳の一つにされています。

 とにかく、オオモノヌシは、スクナヒコナと並んでオオクニヌシの国造りの柱石になった神であります。

 二人とも、海の向こうからやってきたということで、朝鮮半島からやってきたという学者もいます。

 そんな検証をするような知識はありませんが、オオクニヌシの政権は、けして独裁ではなかったことを示しているように思います。

 日本海側のさまざまな勢力の女神とのロマンスやスクナヒコナやオオモノヌシのエピソードが物語るように、妥協と協調によってできた政権のように思います。

 日本と言うのは、神話の時代から、どこか、みんなで話し合ってとか力を合わせてという印象があって、わたしは好きです。
 スサノオが高天原で大暴れして、ブチ切れたお姉さんのアマテラスが天岩戸に隠れた時も、天安河原(あめのやすかわら)に大勢の神さまが集まって相談しました。そして、アメノウズメやタヂカラオなどが役割分担してアマテラスを引き出すことに成功していましたね。一芸にだけ秀でた神さまがたちが大汗かいて協力している姿は、何度読み返しても微笑ましいですね。

 玉櫛姫と倭迹迹日百襲姫命は恥ずかしい死に方をしますが、歴史的には、男の歴史的人物で、もっとすごいのがあります。

 上杉謙信の急死は、大きい用を足している時に、武田の間者によって下から串刺しにされたというのがあります。

 大河ドラマで上杉謙信をやることになった有名俳優が引き受ける前に、死に方の確認をしたという、それこそ有名な話があります。脱線しすぎますので、それについては深入りはしません(^_^;)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『ジュリエットからの手紙・2』

2021-05-17 06:10:56 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ジュリエットからの手紙・2』  
 

 

 

 ジュリエットに手紙を出してみることにした。

「どうしていいか分からない」ということを主題に、長い手紙を書き、そのジュリエットのポストに投函しようとしたのは、ポストを発見してから、十三日目だった。

「あ……」

 思わず声が出てしまうところだった。黒いエプロンをしたオネエサンが、ポストの取りだし口から、手紙を取りだしていた。
「……あ、ごめん。このポストは、うちのお客さん専用なの」
「専用……って?」
「うち、ヴェローナって、イタリアンレストラン。で、サービスでやってんの」
 オネエサンは呆然としたわたしに説明してくれた。
 
 イタリアのヴェロ-ナには、ジュリエットの屋敷というのが、本当にある。そして毎年四万通あまりの恋の悩みを綴った手紙が寄こされ、ジュリエットの秘書と言われるオネエサン達が、その手紙に返事を書いてくれている。で、イタリアンレストランのヴェローナは、お客さんへのサービスとして、店の裏にポストを営業時間である夜間に設置して、まとめてジュリエットの事務所に送っていることを。

 そして、あまりにしょげかえっているわたしに「特別にあなたのも預かってあげようか」と言ってくれたけど、真剣に悩んでいるわたしは興ざめだった。
「いいえ、けっこうです」
 わたしの悩みは、シャレや冗談じゃなかった。こんなおとぎ話みたいなものを信じた自分が、アホらしく、情けなく思えて、手紙はシュレッダーになった気持ちで、公園でビリビリにして捨てようと思った。
 ゴミ箱の近くにいくと、マッチ箱が落ちていた。普通のマッチの倍くらいの大きさで、ラベルは横文字。
 破るよりは、灰ににしてしまった方がいい。そう思って、マッチを擦って手紙に火を付けた。

 思いの外、煙がたち、その煙は人の背丈ほどのところでワダカマリ、そして……人の姿になった。

「あ……あなたは」

「ジュリエット」

 そう、ジュリエットだった。

 ブルネットの髪を大きな三つ編みにして背中に垂らし、スカートの切り返しの位置が高く足が長く見えるオレンジ色を主体にしたドレスは、DVDで観た、ジュリエットそのものだった。
「あなたの気持ちは分かったわ、お返事は、あなたのお部屋の机の上に置いておくわね」
「ちょっと待って。本物のジュリエットさんなら、直接お話したいわ!」
 わたしは、ジュリエットのドレスの、長い袖を掴んだ。
「気持ちは分かるけど、お手紙で返すことは決まりだから……でも、あなたのは秘書に任せずに、わたし自身が書くから。ね……」
 ジュリエットは、そう頬笑みながら言ったかと思うと、数秒で煙りになって消えてしまった。
「今の、なんだったんだろう……」

 わたしは、狐につままれたような気持ちで家に帰った。
「お帰り」というお母さんの声にろくに返事もできなくて、わたしは自分の部屋のドアを開けた。

「え……うそ!?」

 机の上には、赤いロウで封緘(ふうかん)した手紙が載っていた。
 手紙の表紙には、わたしの名前だけ。裏をかえすと、ジュリエットの署名。
 わたしは、震える手にレターナイフを持って封緘を解いた。

――お気に召すまま――

 手紙には、それだけが書いてあり、あとは、ジュリエットと(多分イタリア語)サインがあるだけ。

 ガックリきたけど、念のため封筒を逆さに振ってみた。三本のタグの付いた赤い糸が出てきた。三本の内、二本のタグには、名前が書いてあった。「杉本」と「稲葉」と……。

 わたしは「稲葉」と書かれた赤い糸を手にした。

 すると、部屋の中は、白い霧のようなもので一杯になり、赤い糸は、その霧の彼方に繋がっていた。
 わたしは、糸を小指に絡めて、その先をたどった。六畳しかない部屋は限りなく広くなっていて、いくら、その糸をたぐっていっても際限がなかった。そして五分ほどたぐっていくと、急に赤い糸に手応えが無くなり、糸は力無く落ちて赤黒く枯れたようになってしまった。

 そして、部屋は、いつものわたしの部屋に戻っていた。

 わたしは、二本目の「杉本」というタグのついた糸をたぐってみたが、結果は、稲葉さんと同じだった。
 ため息一つして、三本目の糸を手にした。そのタグには何も書かれてはいなかった。
 この糸は、五分たっても手応えが消えることはなかった。

 そして、十分ほどたぐったところで、それが見えた……。

 霧のむこう、ほんの五メートルほど先に、その人が見えた。霧のために、ボンヤリとしたシルエットしか見えなかったけど、ほのかな横顔と、なんとなくの人格が感じられた。
 そして、そこで、糸の手応えが無くなった。さっきと同じように、自分の部屋には戻ったけど、糸はちゃんと赤いままで、その端は窓枠に繋がっていた。わたしは、その先が知りたくて、窓に手をかけた瞬間、その糸は消えて無くなってしまった……。

 明くる日は、珍しく朝寝坊してしまい、牛乳を飲んだだけで、家を飛び出した。近道の「く」の字の道を通っって、駅前に出たとたん、斜め後ろからきた人がぶつかっていった。
「ごめん」
 その人は、そのまま駅の改札に飛び込んで消えた。
 その人の横顔は夕べ見た、その人によく似ていた。なんとなくの人柄も、その人のそれだった。
 でも、その人の後ろ姿は、S高ともY高とも分からないそれ。二つの高校は、よく似ていて、後ろ姿では、まるで分からない。
 そして、この駅は、S高、M高に通う生徒がもっとも多く。個人を特定することはほとんど不可能だった。
 で、ノンコが学校で教えてくれた。
「人数は少ないけど、A高やB高なんかM高に似てる、後ろ姿では、どの学校か分からないけどね」

 わたしの赤い糸の先、ジュリエットと、わたしの直感でしか分からない……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・85《日向守失踪》

2021-05-17 05:58:50 | 小説3

レジデント・85

《日向守失踪》        

 

 

 もとより我らは羽柴家の藩屏でござる。

 

 静かに、しかし凛とした声音で茂吉……いや、日向守さまはおっしゃった。

 佐治家の書院に通され、あさひさんを離縁して家康さんに嫁がせるという秀吉さんの考えを伝えた。

 いくら秀吉さんの考えとは言え、日向守さまにはお辛い話に違いない。

 二十年以上連れ添った恋女房と別れてくれろと、藪から棒に言ったのだ。

 それを顔色も変えずに聞き終ったあとで、まるで生まれつきの名家の当主のように、あるべき応えをなさった。

「羽柴家、天下万民のためであれば、この日向に否やはござらぬ。さすがは天下の太平を祈念して止まざるお方でござる。さすれば、あさひには某から申し伝えまするによって、暫時これにてお待ち下され」

「日向守さま」

 石田さんが声をかけ、立ち上がりかけた日向守さまは静かに座り直された。

「主秀吉は、こたびのことで日向守さまに五万石の加増をなされます」

「よかった……」

 

 ちょっと意外。

 日向守さまにはお辛い話であるはずなのに、うすく笑みさえ浮かべて「よかった……」はないだろう。

 

「加増の話を先にされておれば、この佐治日向守は五万石目当てに離縁すると思われるところでござった。義兄上さまのありがたいお申し出なれど、加増の儀は平にご容赦をとお伝え下され。されば、暫時中座いたしまする」

 軽く頭を下げると、日向守さまは奥に下がられた。

 

「感服いたした……」

 

 石田さんが、珍しく素直に感動している。

 わたしとすみれさんはショックだ。

 秀吉さんは、天下人になりかけた今でも、丸出しの尾張言葉で、口の悪い大名たちは「禿鼠のくせにみゃーみゃー鳴きよる」などと陰口を叩いている。それを気にもかけない秀吉さんも偉いけど、茂吉さんのキチンとした大名としての風格……わたしたちにはショックだ。

「これは五万石では足りない、八万石は用意して差し上げねば……」

 石田さんは、聡明な頭脳で羽柴家の領地を頭に浮かべ、八万石をひねり出す算段にかかった。

「……よし、これでなんとかなろう」

 石田さんが膝を叩いた時、奥の方から尾張弁で諍う声が聞こえてきた。

 

「あれは……」

 

 すみれさんが顔色を変える、石田さんは腕組みして目をつぶった。

 少しあって、御家老さんが現れた。

「御台所様も合点為されましたよし、お伝えするように仰せつかってまいりました」

 それだけを述べると、御家老さんは蛙のように平伏した。

「承知いたしました」

 すみれさんが短く返答して、我々は退出。

 

 大坂城の天守が四天王寺の甍の向こうに見えたころ、ふと、不思議になった。

 

「日向守さま……どんなお顔をなさっていたかしら?」

「尾張の名家佐治家当主として相応しい武者ぶりでございましたよ」

「それは……」

 石田さんの感心ぶりは分かっている、立派なお殿様ぶりだった。

 でも、お殿様ではなく、茂吉さんとしての顔……思い出せない。

 

 帰城して報告すると秀吉さんは金扇をハタハタさせながら感心し「茂吉には十万石をくれてやろう!」と叫んだ。

 

 二月がたち、あさひさんが家康さんに輿入れすると、日向守さまは忽然と屋敷から姿を消した。

 家来たちを始め羽柴家からも捜索の人数が出たが、摂河泉のお膝元はもとより、尾張まで足を延ばした者たちも見つけ出すことはできなかった。

 佐治家は、先代当主の血筋の若者が後を継ぎ江戸期一杯を大名として続き、後年、養子に入った者が日本有数の洋酒メーカーを起こした。

 

「さ、つぎ行きましょうか」

 ビッチェに戻ったすみれさんが明るく言って、この時代から去ることになった。

 あ……

 去り際に、一瞬日向守の顔が浮かんだ気がしたけど、昼寝の夢のように儚く、きちんと像を結ぶ前に消えてしまった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする