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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・210『西郷の頼み事』

2021-05-02 09:25:14 | 小説

魔法少女マヂカ・210

『西郷の頼み事』語り手:マヂカ     

 

 

 

「西郷さん、その姿は!?」

 

「ワハハ、被災者ん者らが安否確認やら尋ね人ん張り紙をすっんで、こんありさまじゃ」

 まるで色を塗る前の張り子のだるまのようになっているが、どこか楽しそうで、思わずつられて笑ってしまう。

「フフ、なんか楽しそうですね」

「ああ、いつもはボサっと突っ立ていっしか能んなかおいじゃが、こうやって尋ね人ん手助けになれれば、ちょっと嬉しか」

 楽しそうに腹をゆすって笑う西郷さん。

 こんな大災害の後でも気負うこともなく、ワハハと笑える西郷さん。リアルに見えたら被災者の人たちの心も和むんだろうが、この姿は魔法少女のわたしらにしか見えていない。

「最初は、こげん西郷でも遠慮して張り紙すっ者もおらんかったが、父親とはぐれた子供が居って、そいを憐れに思うた学生が紙に書いちょいん腹に貼りよってな。おいもツンを遣わして探したりしてやって、無事に再会すっこっがでけた。
すっと、我も我もと真似をすっ者が増えて、こんありさまじゃ。今じゃ、広瀬中佐も楠木正成も掲示板になっとっらしか」

「これはいい、アメリカだったら、コロンブスやリンカーンの銅像が掲示板になるようなものだな」

「じゃっどん、ちょっと困った張り紙があってな。魔法少女に頼みたか」

「なんでしょう、わたし達で間に合うことなら力になります」

「すまんな……これなんじゃ」

 一枚の張り紙がスポットライトを浴びたように明らかになった。

――羅行五段の者仏蘭西波止場にて待つ 聖ヨセフ――

 16文字の簡単なメッセージが聖ヨセフの名と共に書かれている。

「これは……?」

「難しい日本語だ、訳してくれないか」

「うん、でも何だろう、仏蘭西波止場はフランス波止場ね。羅行五段……聖ヨセフ。簡単だけど意味深だ……」

「聖ヨセフ……イタリアの聖人だと思う。たしか飛行機乗りの守護聖人……フランス波止場というのは?」

「横浜の波止場だ、震災後は瓦礫の捨て場になって、埋め立てた後は山下公園と呼ばれるようになる」

「波止場に飛行機……羅行五段というのは?」

「羅行……ラ行……そうか、ラリルレロの五段『ロ』のことか?」

「ロだと?」

「ロというとロシアの事か?」

「聖ヨセフ……待て、飛行機意外に日付であるかもしれない。キリスト教には聖人の日というのがあるんだ。聖ヨセフは……たしか9月18日」

「明日のことじゃないか」

「明日、フランス波止場でロシア関係で集まりがあるんじゃないか?」

「うん、おいも、悪か予感がすっ。すまんが、ひとっ走り見に行ってくれんじゃろうか、おいは動っわけにはいかんでな」

 張り紙の掲示板になっていては、軽々と動くわけにもいかないだろう。

「分かりました。明日の朝、一番で行ってみることにします」

 横浜は、ちょっと遠い。人間の霧子と準魔法少女のノンコは置いて行かざるを得ないだろう。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
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ライトノベルベスト『さくらの気になろう・第一話』

2021-05-02 06:12:21 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『さくらの気になろう・第一話』   



 染井さん……

 気軽に声をかけたようだが、守田千造が染井に声を掛けるのには半月ばかりかかっている。
「なんですか、守田さん?」
 佳乃は外しかけたエプロンをもどして車いすの守田に寄り添った。
 マニュアル通りと言ってしまえば、それまでなのだが、佳乃がしゃがんで守田と同じ目の高さになってくれるのには心が籠っている。

「染井さん、あんた今月いっぱいなんじゃろ?」
「え……どうして?」
 佳乃がかすかにたじろいだのを、守田は見逃さなかった。

 低気圧が近いのか、ガラス窓から見える琴吹園の桜が身震いしている。

「染井さん……あんたは桜のように分かりやすいお人だ。顔に出とるよ」
「そうですか?」
「そうだよ。あんたは日に日に明るくなっていく……きれいにもなった」
「いやだわ、こんなオバサン捕まえて」
「桜の花も同じなんだ。寿命が来て枯れる寸前の桜は怖いほど綺麗に、ほんで、枝一杯に花をつけて……夏ごろには枯れ始める」
「そう言えば、守田さん、お仕事は城址公園の桜守りをしてらっしゃったんですよね?」
「ああ、爺さんの代から三代やってきた。今は市の公園課の連中が片手間でやっとるようだがね……勤務時間が切れているのに申し訳ないんじゃが、城址公園まで連れて行ってはくださらんか」

 一瞬、桜のそよぎが止まった。

 佳乃は一拍置いて、守田の頼みを快諾した。

「まだ蕾は硬いようですね……」
 佳乃は、城中の桜を車いすを押しながら言った。もっとも車いすは空であったが。
 車いすの主は、おぼつかない足取りながら、杖を突きながら自分の足で城の階段を上っていく。
「桜に適した土は、足で感じなければなあ……ちと硬いなあ」
「名もなき城址公園で、すっかり有名になりましたからね」
「町おこしだかなんだか……ここは、元々は奈茂名五万石の居城で、終戦までは奈茂名連隊の駐屯地じゃった。桜の季節には駐屯地を市民に開放して……それぐらいの付き合い方が桜にはいいんだ。年がら年中人がやってきては土を踏み固めてしまって……足で歩くと土の硬さが良く分かる……その遊歩道もいかん。花見に来て遊歩道の通り歩く人間なんかおらん。それに遊歩道自体が桜の根の上を走っとる……これじゃ、桜が可哀想じゃ」

 そう愚痴をこぼしながら、守田は肩で息をしながら本丸の隅にやってきた。

「これは、儂が六十年前に苗木から育てた桜じゃ。あえて名前はつけなんだ。城の中で一番の桜……それだけでいい」
「はい」
「染井さん……あんたは、この桜じゃ」
「光栄です」

「……たとえ話なんかじゃない。あんたはこの桜の精じゃろ?」

「ハハ、なんだかジブリの映画みたいですね」
「隠さんでもええ、名前で分かる。染井佳乃……まんまじゃないか」

「…………だって、守田さん、名前つけてくださらないから」

「ソメイヨシノも手当が良ければ百年は持つ。六十年で枯れるとしたのは人間の都合だ……もう五年も早く根方の養生をしてやれば、もっと寿命のある木だった」
「いいんです。今の桜は人の雑踏の中にいて、そして六十年の命を全うできれば。世界中の花で、こんなに人から愛されている花はありませんから」
「そうかの……」
「ええ、それが桜の気持ちです」
「そうさのう……」

 守田が諦観したようにため息をつくと、目の前のソメイヨシノが満開になった。守田は不思議にも思わなかった。

「さ、そろそろ冷えてくる時間です。もどりましょうか」
「ああ、そうだな……」

 下りは、さすがに車いすに乗った。守田が通ると近くの桜が満開になる。そうして大手門跡までくると、城中の桜が全て満開になった。それに気づいた市民たちは写メを撮ろうとしたが、直ぐに桜たちは硬い蕾の姿に戻った。

 守田は、その年の桜を見ることも無く、三月の末に琴吹園で息を引き取った。最後を看取ったのは佳乃だった。その佳乃も四月になってからは姿が見えなくなった。

 本丸の城中一の桜は、今までにない花を一週間ほどつけて、夏の始まりには枯れてしまった。

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真凡プレジデント・70《エマヌエラ・2》

2021-05-02 05:41:54 | 小説3

レジデント・70

《エマヌエラ・2》  

   

 

 なかなか顔おぼえてもらえないんでしょ?

 

 半ばまで開いた閻魔帳をバタンと閉じ、頬杖ついたままでエマがこぼす。

「え、あ……えと…………」

 突然の状況で突然のことを突然に、しかも不機嫌に言われて、とっさには言葉が出ない真凡。

「お姉ちゃんがベッピンさんで……フリーの女子アナだったよね。スタイルとか顔のパーツが似通ってるから、お姉ちゃんの印象に引っ張られて憶えてもらえないとか思ってるわよね」

 ここへきて印象の薄さを言われるとは思わなかったが、自分の特徴である『なかなか人に憶えてもらえない自分』を思い出す。

「あ、でも最近は、あんまし気にしてないから。うん、生徒会長やるようになってからは、ほとんど。あ、それにね、一発で覚えてくれる人もいるし、生徒会のみんなんとか先生とか」

「それはね、先生は、あんたの成績とか素行とか、提出物とかの記録で覚えてんの。でしょ、直接のかかわりがない先生は、よく間違えるっしょ? 生徒会とか友だちはね、真凡という子の……気障な言い方すると魂と付き合ってるから。魂にはスタイルと顔とか以上に表情があるからね。でも、その友達にも、将来合わなくなると数年で忘れられるわよ」

「そんなこと……」

「これ見て」

 エマが指さすとモニターに副会長のみずきが映った。私服で、ちょっと大人びている。

「五年先の福島みずき」

 パソコンの前で、なにやら考えている。

「えーーーどんな顔だったかなあ……」

 むかしの記録を見ているようなんだけど、みずきの頭に真凡のイメージが湧いていない。

「えーーーうそ!?」

 記録には写真も入っているんだけど、むかし教科書で見た歴史的人物のようにイメージを結ばない。

「それとかさ、中学の下校中にさ、暗闇で変質者に付けられたじゃん」

 そうだ、明るいところに出て、勢いよく振り向いてやったら、とたんにやる気なくしたように遠ざかっていった。

「萎えちゃったんだよ、その変質者」

「な、萎えた?」

「真凡が吸い取っちゃうんだよ、気持ちをね」

「気持ちを吸い取る?」

 それは……ビッチェが何か言いかけ、言わない方がいいという顔になって俯いた。

「幽霊を襲おうってやつはいないでしょ」

「ゆ、幽霊?」

「みたいなもん、あんたは、魂の半分を置いてきてるんだよ」

「置いてきた……って……どこへ?」

「う~ん、表現がむつかしいんだけど……ま、ざっくり言って異世界だね」

「異世界?」

「やっかいなことに、今でも、少しづつ異世界に流れ出している。それを回収しない限り、真凡は消えてなくなる」

「消えてなくなる(;゚Д゚)?」

「うん、きょう退院した時に体重が10キロ減ったのが、その兆候。退院して病院を出たところで二人に分裂したよ。ほら、道の向こうをもう一人の自分が歩いてただろう?」

 あ、あの時の……。

「自分を回収する旅に出なくてはならない、ビッチェ、あとはヨロ~」

「あ、ちょ……」

「こんど会う時は完全体で会えるように祈ってるわよ~」

 ヒョイと椅子を下りると、トコトコと地平線に向かって走り出し、ほんの数秒で消えてしまった。

 

「じゃ、いこっか……」

 

 ビッチェが消防車のエンジンをかけ、ドアを開けてオイデオイデをした。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

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