大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・211『仏蘭西波止場・1』

2021-05-08 09:08:10 | 小説

魔法少女マヂカ・211

『仏蘭西波止場・1』語り手:マヂカ     

 

 

 ブリンダと二人、魔法少女同士、払暁の空を南西に飛んで横浜に向かう。

 

 この時代はレーダーはおろか、飛行機も稀な時代だ。空を飛んでも人目につくおそれはほとんどない。

「まるで空襲の跡だな」

「……まあね」

 震災から、まだ半月余りの東京はブリンダの言う通り空襲の跡に近い。

 地震は昼前に起った。

 ほとんどの建築物が木造であったので、昼食の調理や準備のため多くの家で火が使われており、それが瞬くうちに燃え広がって手が付けられなくなって、あたかも空襲に遭ったように火災が広がったのだ。

 それをブリンダは感想として口にしたのだけど、三十余年後の東京大空襲は、この比ではない。

「屈託ありげだな」

「ごめん、東京大空襲のことを思いだしてね……」

「そうか……」

 この短い会話でブリンダは、自分の理解が浅かったと分かってくれる。ブリンダとの付き合いも長いからね。

「明け方と言うのは直感か?」

「うん。張り紙には18日の日付しかなかったけど、アヤカシたちなら夜の間に移動して明け方に上陸、明るいうちは山や森や忌地に身を隠して、行動を起こすのは今夜だろう。おあつらえ向きの新月でもあるし」

「では、迎えの者たちは……」

「到着ギリギリまで潜んでると思う、震災の後で忌地は増えているから」

「なるほど、そいつらが道案内をするというわけだな」

「見えてきた……」

 桜木町方面から侵入すると、右側に山手、左側に横浜港が広がって来る。

 東は、水平線がようやく明色に染まって波頭を煌めかせている。

「あれが仏蘭西波止場か……」

 波止場の前方100メートル、はば800メートルほどに渡って震災の瓦礫が投げ込まれて、ちょっと禍々しい。

 なんと言うか、日本という巨大な竜の腹が裂けて臓物が飛び出したように見える。

 来年になれば、この上を大量の土砂で覆って山下公園と新しい波止場が作られる。

 歴史的な事実としては知っていても、実際に空から見ていると被害の大きさが実感されて、心の中に泡立つものを感じてしまう。

「よし、あのビルの屋上で待ち伏せよう」

 ブリンダは歴戦の魔法少女でもあり、震災の惨状から戦災の傷を重ねてしまうこともないので、すぐに戦術的に待機地を発見する。のちに山下公園通りと呼ばれる海岸沿いには貿易関係のビルが幾つも建っている。

 震災後間もないので、半分以上のビルは安全確認ができないために無人になっている。給水タンクの陰にでも身を隠せば気づかれることもないだろう。

 待機して観察するにはうってつけだ。

「中に入れるぞ」

 下りてみると、屋上の階段室のドアは開いたままで、簡単に最上階の部屋に侵入できそうだ。

 思った通り、ビルは無人。やや歪んでいるようで、ドアは解放されたまま動かなくなっていて、室内は什器や備品が散乱。おそらく二三か月の間には中身ごと解体されて、真ん前の仏蘭西波止場の埋め草にされるのだろう。

 課長か部長が座っていたのだろう、ひじ掛け付きの椅子を窓際に据えて、海岸を監視する。

「船でやってくるのだろうな」

「おそらくね、それも幽霊船だろう。生きている船じゃ、この瓦礫だらけの仏蘭西波止場には接岸できないだろうしね」

「この波止場なら、一万トンクラスか……」

「客船か貨客船……」

「一万トンクラスなら、乗っている妖は千匹前後……」

「一人で500……」

「……それ以上は想像しない方がいい」

「そうね」

 二人で覚悟を決める。

 

 カサ

 

「後ろだ!」

 意に反して、気配は開け放たれたドアの向こうから起こった!

 二人正反対の方角にダッシュして、ドアの左右に隠れて身構えた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
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ライトノベルベスト・(はがない 任侠編)

2021-05-08 06:08:22 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『はがない 任侠編』  




 御維新からこちら、関東八州は治安が悪かった。

 旧幕府時代は天領が多く、公方さまのお膝元ということもあり、関八州見回り組などが置かれ、幕府自身も諸大名の模範たるべく努力したので、周囲の大名領よりは民政は安定していた。

 しかし、御維新後はそれが裏目に出た。

 明治初年ごろは、全国の各藩には旧大名が治藩事として、そのまま領地を支配していたので、革命直後の国とは思えないほどの治安の良さであった。
 しかし、関八州は違った。特に上州といわれる地方は、施政者の代官たちが居なくなったので、ほとんど無政府状態であった。
 この上州陣内と呼ばれた宿場は、地元の侠客たち、良く言えば自警団。有り体に言えばやくざたちが力の張り合いをやっていた。

 ここに谷川静六から実力で支配権をもぎ取った喜六と、静六と縁戚関係のある政八とが、陣内の支配権をめぐり一触即発の状態であった。

 そんなある日、ふらりと橘清十郎が、この抗争の街にやってきた。

 一応武士のナリはしているが出自は明らかではない。浅黄の一重をゾロリと着流し、下地の赤染めが浮き出した黒の袴は絵に描いたような田舎のサンピンであった。
 清十郎は、穏やかにこの町を通り過ぎるつもりでいたが、運が彼を引き留めてしまった。

 町の真ん中を流れる陣内川にかかる橋の上で、喜六と政八の手下どもが睨み合っていたのだ。

「おっと、こりゃ剣呑だ」

 清十郎は、御難を避けるため、川上へまわり、小舟を拝借して向こう岸へ渡ろうとした。
「てめえ、政八の用心棒だな!」
 河原の草むらから長ドスを構えた喜六の手下が十人ばかり一斉に立ち上がった。
「い、いや、わしは違うのだ!」
 そう叫んだ時には、飛び込んできた三下の胴を払っていた。
「しまった、切ってしまった……」
 血を見た手下たちは収まらない。清十郎を取り巻き始めた。その囲みが出来上がる前に清十郎は川下に走った。手下たちは無言で清十郎を追いかけた。
 これを橋の上から見ていた静六の若頭は、清十郎が政八の手下を引き連れ、搦め手から攻めてくるように見えた。
「橋の下からかかってきやがったぞ!」
 若頭が叫ぶと、橋の上で対峙していた静六の手下たちがバラバラと河原に駆け下りた。
「てめえ、政八の用心棒だな……九人も引き連れやがって。こいつが大将か、野郎共囲んで三下共々たたんじまえ!」
「だから、わしは……」
 静六の手下を袈裟懸けにしたが、さすがに今度は峰打ちだ。手下は鎖骨に右腕と肋骨を折られて昏倒した。
「あ、クマ公がやられた!」
 それからは、喜六と政八の両方から目を付けられ、清十郎は橋の上と下を駆け回って、両者を相手に峰打ちで、次々と、両者の主だった者たちを打ち倒した。

「だ、だから、人違いだって……」

 荒い息の下から言う声は誰にも聞こえなかった。
 
 橋の上の果たし合いが、一人の浪人者によって片づけられると、陣内の宿場の者達は恐る恐る顔を出した。やがて、町名主が現れ、懇切に礼を言った。
「これだけの子分共が使い物にならなくなれば、喜六も政八も、うかつには、この宿場には手がだせないことでございましょう」
 それから、宿場を挙げての清十郎の祝賀会になった。

 清十郎は、黙っていると往年の三船敏郎のように渋いが、なにか喋ったり笑ったりすると、えも言えない無邪気な顔になった。
 その顔が幸いし、清十郎は、名主たちを手伝って、宿場の差配をすることになり、陣内のみんなから慕われた。

 清十郎が、後年宿場の者達と撮ったフォトガラフが残っている。

 大口を開けて笑っているところから見ても、正規の武士の出ではないであろう。

 その笑った顔には歯がない。上の門歯が一本抜けていた。これが、この男の愛嬌のもとであろう。この時の出入りで抜けたものか、それ以前の浪々の生活や戦いの中で失ったものかは定かではない。

 この「歯がない清十郎」は長く町の者に慕われ、大正の中頃まで生き。その死にあたって、胸像が作られ、町の大通りに百年の長きにわたって町を見守ってきた。

「歯がない」清十郎の前にはシネコンができ、『はがない』実写版が上演されていた。このダジャレのような組み合わせは、地元のローカル局がとりあげ、オリンピックに負けない程の話題になった。

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真凡プレジデント・76《見晴るかす限りの草原・2》

2021-05-08 05:45:14 | 小説3

レジデント・76

《見晴るかす限りの草原・2》     

 

 

 わたし昭和元年です     白いのが言った。

 わたし昭和六十四年です   黒いのが言った。

 

 なんというか、二人とも可愛いアニメ声だ。

 

 まだ昭和二十年十月を経験しただけなので勝手がわからずビッチェに目配せするが――あんたが相手しなさいよ――という顔をしている。

 仕方ないので、一回肩をすくめて白黒昭和少女に向き直る。

「あなたたちは妖精さん?」

「鈍いですねえ。わたしとロクヨンは、昭和の最初とお終いが人格化したものなんですよ」

 黒がコクコク頷いて白に目配せ。なんだか、これからの会話は白に任せたって感じ。

「そうね、ここって昭和ヶ原って言うんだもんね」

「「うんうん」」

「でもさ、元年と六十四年じゃ六十四年も違うわけじゃない。それがどうして同い年の双子みたくなってんの? それも、どう見ても7・8歳の女の子だし」

「鈍いわね、わたしもロクヨンも七日しかなかったからよ」

「え、そうなんだ」

「「もーーーー」」

 

 二人が揃ってため息をつくと、それぞれの頭の上に画面が現れた。

 

 昭和元年    1926年(12月25日 - 12月31日)の七日間

 昭和六十四年  1989年(1月1日 - 1月7日)の七日間

 

 そうなんだ、平成が区切よく四月の月末で終わったから、変な気がするけど、昭和以前の年号は天皇陛下が亡くなった日に変わるんだ。

 でも、揃って七日間というのは、あまりに短くというか……

「儚いなんて思ったでしょ?」

「え、あ……」

「あなたといっしょよ」

「わたしと?」

「なかなか人に覚えてもらえない」

 

 言いたいことを言うやつらだ。たしかに上出来のお姉ちゃんの陰に隠れて、なかなか人に覚えてもらえないわたしではある。

 でも、こんな七歳の子どもに指さされて言われることではないとも思う。

「はーーーーーーーーーーーーーーー」

 沈黙の黒が盛大なため息をつく。

「そんなため息ついたら、体中の空気が抜けてペシャンコになっちゃうぞ」

「三十点」

「なにが三十点?」

「いまのツッコミ」

 べつにツッコミ入れたつもりじゃないんだけど、なんか、この白いのはムカつく。

「ねえ、あなたには、草原以外に見えるものってないの?」

「あ……うん。わたしだけじゃないけど」

 ビッチェは背を向けた体育座りで草原の彼方を見ている。

「ビッチェはあなた次第だと思う」

「わたしなの?」

「昭和ヶ原にはロクヨンの他にも62人の妹たちが居るの……ほら、あの血みどろなのが二十年。ランニングウエアーで張り切ってるのが三十九年。パビリオンのエスコートみたいなのが四十九年……見えないのよね、この平成少女には」

えと、西暦で言ってあげれば

「ロクヨンは気弱すぎるのよ」

「でも……」

「1945年。1964年。1970年……」

「……1945年」

 

 瞬間、赤いワンピースの女の人が見えたんだけど、すぐに消えた。

 

「見えたのね……一瞬だけみたいだけど」

「うん……赤いワンピース」

「元々は白いの……赤いのは血染めだから」

「昭和二十年て終戦の年なんだよね」

「そうよ、あなたの頭の中じゃ単なる昭和二十年、終戦の年。そう書けばテスト的には完璧だもんね」

 少しは知っている、ついさっき美奈子ちゃんのこと見てきたところだし。でも、それで知っているとは言えない。

 ビッチェがゆっくりと立ち上がって振り返った……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

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