大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・79『二丁目断層に頼まれる』

2021-05-18 14:24:59 | ライトノベルセレクト

やく物語・79

『二丁目断層に頼まれる』    

 

 

 わたしにソックリな二丁目断層が頬を染めると、机の上に雛人形が現れた。

 

 雛人形?

 おすべらかし……だったっけ? 天皇陛下が即位された時に、おそばにお並びになっていた皇后さまのような髪型。お衣装は、本当に十二単のようで、袖口から指先だけを出して、七色の飾り紐をゆったり巻いた扇を持っている。

「ようく、見てごらん……」

 二丁目断層に誘われて雛人形を見つめると、かすかに息をしているのが分かった。

 おお……

 机に並べてある俺妹のフィギュアたちも一歩踏み出してため息をついている。壁のアノマロカリスも目をぱちくりさせている。

「もうちょっとで目を覚ます、それまで静かにして見守ってやってくれ」

「う、うん……」

 フィギュアたちは一歩下がって座ったりしゃがんだりして……そう、なんだか白雪姫が目覚めるのを待っている小人さんたちのようだ。

「名前は、こう書くんだ」

 二丁目断層が目の前で指をそよがせると『親子』という字が浮かんだ。

「オヤコ?」

 素直に読んだら、みんなが笑う。

 アハハハハハハハ

「なによ!」

「おまえ、中学生だろ?」

「ちょ、ちょっと間違えただけよ」

 わたしは、こういうシチュエーションに弱い。

 ふつうに応えたり反応したりしたら、思いがけず、とんでもないスカタンだったりして、みんなに笑われる。そういうのに弱い。

 小学校の時に掛け算を習いたてのころ、先生が、黒板に一ケタの掛け算をいっぱい書いて、座席順に答えさせていった時のこと。

 3×3= 2×2= 1+1= と書いていって、トドメめの「1+1=」を当てられた。

「1!」

 自信たっぷりに答えて、みんなに笑われた。

 ようく見たら、あるいは、深呼吸一つして見直したら、すぐに分かる事なんだけど、いったんテンパってしまうと、ぜんぜん正解が浮かんでこない。

 あの時と同じ感覚になって「オヤコ」以外の読み方が浮かんでこない。

 えと、えと……

「ちゃんと、呼んであげないと、この子の眠りは、どんどん深くなっていくぞ」

 二丁目断層に言われると、それこそ頭の中に断層が生まれて、それが、ズンズン大きくなって、断層の向こうにあるはずの答えが遠のいていく。

 プルルルル プルルルル

 突然のベルに、その子以外のみんなが驚く。

「な、なんだ?」

 二丁目断層まで驚いたので、ちょっといい気味。

 フィギュアたちの陰に隠れていた黒電話が鳴ったんだ。

「もしもし」

 受話器を取ると、いつもの交換手さんが出てくる。

『その子はね「ちかこ」って読むんですよ(^▽^)』

 正解を教えてくれて、クスリと笑う交換手さん。

「どういう子なの?」

『それ以上は、二丁目断層さんに聞いてください』

 それだけ言って電話が切れる。

「ち、余計なことを……まあいい、そいつはチカコだ。わけあって、ずっとオレが面倒を見てきた。見ての通り眠り姫だけど、そろそろ目が覚める。覚めたら、やくも、おまえが面倒見てやるんだ」

「わたしが?」

「ああ、いろんなところに連れて行ってやって、親子が望むことをさせてやってくれ。親子の姿はお前以外の人間には見えない。時間と移動手段は、オレが面倒見てやるから、よろしく頼むぞ」

「頼むって……」

「まあ、付き合ってみれば分かる。頼んだぞ。今日は鯉のぼりを見せてやったり風呂掃除をしてやってくたびれたから、もう休む。じゃあな」

「あ、二丁目……!」

 手をヒラヒラさせたかと思うと、空気に滲むようにして二丁目断層は消えていった。

 キャ!

 フィギュアたちの悲鳴がして振り返ると、チカコは華奢な左手首に変わっていた。

 ヒ!?

 ひきつるような悲鳴が出てしまう。

 すると、左手首はピクピクと痙攣したかと思うと、二丁目断層と同じように空気に滲んで消えていってしまった。

 でも、二丁目断層と違って、気配だけは机の上に安らいでいたよ……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子
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ライトノベルベスト『小林イッサの憂鬱』

2021-05-18 06:41:08 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『小林イッサの憂鬱』  





「おーい、小林イッサの、む・す・め!」

 仁のバカタレが窓から囃し立てた。
 

 みんなが一瞬窓の仁とわたしを交互に見る。
 クスリと笑う子や、ひそひそささやく子もいたけど、シカトした。
 もうすぐこの学校ともお別れ。事を荒立てることもない。そう思って知らん顔、そう、それに限る。

 みなみは、この学校で何事もなく卒業できるだろう……ひそかに期待していた。

 みなみは、幼稚園のころから転校ばかりしてきた。お父さんの仕事がら、転勤のたびに転校させられてきたのだ。

 中学に入ってからは転校もなく、居心地も良いので、この中学校にずっと居たかった。ウザイのは、さっきの仁くらい。自分と同じ名前の主人公がドラマになり、それがヒットしてからは、友だちにも「仁」と呼ばれていい気になっている。
 性格は悪くないのだけど、どうにも子どもっぽい。まあ、中学生というのをどうとらえるかで、仁の評価は分かれるだろうけど、わたしのカテゴリーの中では……ガキだ

 あれは、中一の梅雨ごろだった。

 朝から雲一つない上天気だったので、みなみは傘を持たずに学校へ行った。ところが、昼過ぎから雲行きが怪しくなり、下校するころにはポツリポツリ。そして、バス停のところまで来たところで本降りになってきた。家まで三〇〇メートルほど。ずぶ濡れになりそうなので、バス停の小さな庇(ひさし)の下で雨が小降りになるのを待っていた。ワンマンバスが停まるので恐縮だった。
 そこに通りかかったのが、仁。一瞬通り過ぎて傘を押しつけてきた。
「……使えよ」
「いいよ、家すぐそこだから」
「使えって、小林が濡れんのに、中林がさしてるわけにいかないだろ……それに、おれ仁だし」
 そう言って、あいつは行ってしまった。

 それは、それでおしまいだった。

 ところが、その年の夏、大型の台風がまともにこの地方を通り、町は道が寸断され、川は氾濫。町役場から避難勧告が出された。そして、町の多くの人たちが、高台にある中学校に避難してきた。午後になって電気も停まってしまい、県知事は自衛隊に災害出動を要請。
 
 そして、やってきたのが、お父さんの部隊だった。

 中学校の校庭が派遣部隊のベースになった。

 部隊の大半は、避難地域の警戒に出動していったが、学校に残った隊員の人たちも、避難してきた人たちの面倒をよくみてくれた。中には体調を崩すお年寄りもいて、ヘリコプターで搬送したり、発電機の用意や、食料の配給までやってくれた。堤防の一部が決壊して、みんなが動揺したとき、部隊長のお父さんが体育館にやってきて、みんなを励ました。
「お父さんて、言っちゃだめよ」
 お母さんに言われていたので、まったく他人の顔をするのに苦労した。

 幸い、堤防の決壊は畑をかなりダメにしたけど、流された家もなく、怪我人もなく、この地方では比較的被害は少なくてすんだ。

 そう、それで済むはずだった……あの記事が新聞に載るまでは。

 その年、お父さんはS新聞の「国民の自衛隊員」に選ばれてしまい、町長さんも感謝状を渡すことになった。

 そして、わたしが、その部隊長小林二佐の娘だということが知れてしまった。

 おおむね、みんなの反応は良かった。あの仁はなんとなくおかしくなった。あいつは、あれでみんなに影響力のあるやつで、クラスの何人かの態度がよそよそしくなった。べつにイジメられたり、シカトされることはなかったけど、ちょっと寂しかった。

 でもって、今度お父さんは一階級昇進して転属することになった。

 台風で避難したとき、みんなを励ましたときのおとうさんは弁舌爽やかだった。みんなも勇気づけられ感心してくれた。だけど、お父さんは、取材にきた記者に余計なことを言った。

「名誉なことですが、小林イッサになってしまいました」

 このフレーズがウケて、新聞に、こういう見出しで載ってしまった。

『小林イッサの憂鬱』

 ……で。

「おーい、小林イッサの、む・す・め!」になったわけ。
 幼稚園のころから慣れた「おわかれの挨拶」をした。ただ、今回こまったのは、「ぜひ、全校集会の場で」と校長先生に頼まれたこと。
 で、わたしは全校の生徒や先生の前で挨拶することになった。
「……というわけで、わたしは、また転校することになりました。みなさんありがとうございました!」
 アイドルの卒業のように元気に挨拶……ところが、拍手に混じってすすり泣きが始まった。

――まいったなあ……。

 泣き出したのは、仁といっしょにヨソヨソだった女の子たち。
「……うちでは、小林イッサは禁句です。なんというか分かりますか?」
 すすり泣きが止み、みんなの注目が集まった。
「カーネルサンタって言うんです!」
 くすくす、笑い声が湧いてきた。
「カーネルって言うのは、英語で大佐の意味です。自衛隊じゃ一佐って言いますけど。そう、カーネルサンダースって言うのは、カーネル大佐って意味なんです。ま、フライドチキン揚げたり、そんなもんです。で、うちの父は三太って名前なんで、カーネルサンタです。アハハ……じゃ、みなさん、お元気で!」

 わたしは、その足でカバンを持って、校門を出た。
 後ろから、仁が思い詰めた顔で追いかけてきた。
「なあに?」
「…………………………」
「なによ?」
「……メールとかしていいか?」
「う、うん。いいよ」
「よかった、オレ、みなみに嫌われてんじゃないかって……」
「そんなことないよ。ほら、あのときだって傘貸してくれたじゃない」
「じゃ、オレ、メールする」
「じゃ……」
 わたしが、スマホを出しているうちに、あいつは行ってしまった。

 メアドの交換もしてないのに……。

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真凡プレジデント・86《戻ってきた!》

2021-05-18 06:25:11 | 小説3

レジデント・86

  《戻ってきた!》      

 

 

 お姉ちゃんと間違われて誘拐された。

 顔以外の背格好が似ているわたしが、お姉ちゃんの服を拝借して出かけたんだから間違えられても仕方ない。

 仕方ないというのは、間違えられたことで、誘拐が仕方がないということじゃない。

 お姉ちゃんが狙われてるって知ってたら、お姉ちゃんの服を拝借したりしないよ、まったく。

 犯人は、お姉ちゃんに恨みがあるテレビ局の関係者。もう掴まったり死んじゃったりしたけどね。

 幸運にもあくる日には発見されて、念のため一日だけ入院。

 異常なしで、あくる朝には退院した。

「でも、しばらくは通院してね」

 異常なしなのに、ドクターが条件を付けたのは、病気とか命に関わるようなものではないけど、常識では考えられない変化があったからだ。

 

 なんせ、戻ってきたら、体重が13キロしかなかったのだ。

 

「ごめん、まだ警報も出てないけど休むね」

 沖縄南方の海上で進路を変えた台風が、速度を上げてきて、今夜にも影響が出そうなんだ。

――うん、わかった。飛ばされないように柱にでも括りつけとくのよ――

 なつきに電話すると、真面目に言われた。

 一つ前の先月の台風で、表に出た女の人の腕からペットの犬が風で吹き飛ばされる動画を観た。

 犬は、あっという間に舞い上げられ、飼い主さんたちの悲鳴がした。一か月近くたった今でも犬は行方不明のままだ。

 13キロの体重じゃ、ほんとうに吹き飛ばされかねない。

 だから、台風の当たり年みたいな、この秋。警報が出るまえに学校を休むようになった。

 

 いいことって言うか、面白いこともある。

 

 体育でバレーボールをやると、ブロックの名人になった。

 軽い分だけ高く、それも素早くジャンプができるので、相手チームのボールを易々とブロックできるのだ。

 ただ、踏ん張りどころを、きちんと意識していないと、簡単にぶっ飛ばされてしまう。

 二三度、派手にひっくり返ったけど、隣や後衛の人がキャッチしてくれて事なきを得た。

 

 フライング真凡!

 

 そんなタッグネームを頂いたころ、体重が戻り始めた。

 今朝、朝シャンのあとに計ったら、五十パーセントまで戻ってきた。

 ゆうべ、秀吉さんの侍女になった夢をみた。妹のあさひさんの婚礼から始まって、後に家康さんの後添えになる為に離縁されるところまで……ご亭主の茂吉さん、一言も文句も言わないで疾走してしまった。

 茂吉さんの顔、思い出せない……思っているうちに目が覚めたんだ。

 

 わたしに限ったことではないけど、ティーンの女の子というのは見かけよりは重たい。

 だから、ティーンの体重と言うのは、ほとんど国家機密(^_^;)

 その五十パーセントなんだから、本人的には大いに満足!

 この分なら、来週には八十パーセントくらいには戻るだろう。

 

 満足すると、なにか人の為になることをやってみたくなる。あまりグダグダしていたらリバウンドするかもしれないしね。

 

 調子に乗ったわたしは、生徒会役員のみんなといっしょに○○県水害被害地のボランティアに行くことにしました!

 次回からは、そのお話をしたいと思います。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号

 

 

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