やくもあやかし物語・80
お雛さまが人の左手首に変わって、そのあとは気配だけになってしまった。
例の親子さん。
こういうのが、自分の部屋に居たらビビりまくると思う。きっと、夜も寝られずに、食も細くなって、心配した家族に付き添われて心療内科とか受けに行くんだろうね。
でも、わたしの周囲はあやかしたちで一杯なので、これくらいではビビらないし、驚きもしない。
気配は、わたしと同年配の女の子。
「親子さんて、お雛様のあやかしなの?」
机に頬杖ついて聞いてみる。
親子さんの気配は、黒電話の横にいる。立っているのは気の毒なので、フィギュアに付いている椅子を置いてあげたら座ってくれた。
わたしと、わたしの部屋にあるあれこれに興味があるようなんだけど、育ちがいいんだろう、キョロキョロすることもなく、ニコニコとわたしに顔を向けている感じ。
『まあ……そんなとこよ』
「そうなんだ……」
『あら?』
「え?」
『納得?』
「まあね、わたしの周りってあやかしだらけでしょ、詮索してたらキリがないからね。とりあえず、見えてるとか感じられてる雰囲気で付き合うの。中には元々の自分の姿を忘れてるってあやかしもいるしね。取りあえず、チカコ……でいいかな? 雰囲気は同年配って感じだし」
『うん、それがいい(^▽^)』
「じゃ、この部屋の住人から紹介しておくわね」
『うん』
「チカコの右隣に並んでるのが『俺妹』のキャラたち」
『オレイモ……お芋さん?』
「あ、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』ってタイトルのラノベの登場人物のフィギュア……お人形さんたち」
『そうなんだ……なんか、こわそう』
「アハハ、ツンデレの代表格だからね、知りたかったら、そこの本箱に全巻揃ってるから、自由に読んでくれていいわよ。ただね、見かけは『俺妹』のキャラだけど、中に入ってるのは別の魂かもしれない」
『フフ、わたしといっしょかも』
そうなの?
聞きたくなったけど、本人が言わない限りは聞かない。
「元々は、そのアノマロカリスのお腹の中に入っていたの」
『この、海老のお化けみたいなの?』
「うん、大昔の海に住んでた海老の仲間……かな?」
『食べたら美味しいのかなあ?』
「あ、食べるって発想は無かったなア(^_^;)」
『アハハハ』
「左横が黒電話。中に交換手さんがいるんだよ、あやかしとかからの電話を取り次いでくれる。たまに本人が出てくるけどね」
『それは楽しみ』
プルルルル
わ!
急に黒電話が鳴って、チカコと二人そろってビックリ。お揃いになったことが可笑しくて、ちょっとだけ二人で笑ってから受話器を取る。
『お地蔵さんからお電話がありました』
「あ、出るわ」
『親子さんとお話し中だと申し上げると、伝言でいいとおっしゃいまして。よろしいですか?』
「うん」
『明日の放課後、よかったら寄って欲しいということでした。あ、親子さんもご一緒にということです』
「ちょっと待って……お地蔵さんからお誘いなんだけど?」
『お地蔵?』
「あ、断層の坂道上がった横丁の」
『ああ、あの延命地蔵……うん、やくもがいいなら、いしょに行こう』
「うん、じゃ、明日の放課後伺いますってお伝えしておいて」
『承知しました』
朝日の楽しみが増えた。チカコが『懐かしい』って呟いたんだけど、詮索はしなかった。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)