大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・80『例の親子さん』

2021-05-24 09:43:31 | ライトノベルセレクト

やく物語・80

『例の親子さん』    

 

 

 

 お雛さまが人の左手首に変わって、そのあとは気配だけになってしまった。

 

 例の親子さん。

 

 こういうのが、自分の部屋に居たらビビりまくると思う。きっと、夜も寝られずに、食も細くなって、心配した家族に付き添われて心療内科とか受けに行くんだろうね。

 でも、わたしの周囲はあやかしたちで一杯なので、これくらいではビビらないし、驚きもしない。

 気配は、わたしと同年配の女の子。

「親子さんて、お雛様のあやかしなの?」

 机に頬杖ついて聞いてみる。

 親子さんの気配は、黒電話の横にいる。立っているのは気の毒なので、フィギュアに付いている椅子を置いてあげたら座ってくれた。

 わたしと、わたしの部屋にあるあれこれに興味があるようなんだけど、育ちがいいんだろう、キョロキョロすることもなく、ニコニコとわたしに顔を向けている感じ。

『まあ……そんなとこよ』

「そうなんだ……」

『あら?』

「え?」

『納得?』

「まあね、わたしの周りってあやかしだらけでしょ、詮索してたらキリがないからね。とりあえず、見えてるとか感じられてる雰囲気で付き合うの。中には元々の自分の姿を忘れてるってあやかしもいるしね。取りあえず、チカコ……でいいかな? 雰囲気は同年配って感じだし」

『うん、それがいい(^▽^)』

「じゃ、この部屋の住人から紹介しておくわね」

『うん』

「チカコの右隣に並んでるのが『俺妹』のキャラたち」

『オレイモ……お芋さん?』

「あ、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』ってタイトルのラノベの登場人物のフィギュア……お人形さんたち」

『そうなんだ……なんか、こわそう』

「アハハ、ツンデレの代表格だからね、知りたかったら、そこの本箱に全巻揃ってるから、自由に読んでくれていいわよ。ただね、見かけは『俺妹』のキャラだけど、中に入ってるのは別の魂かもしれない」

『フフ、わたしといっしょかも』

 そうなの? 

 聞きたくなったけど、本人が言わない限りは聞かない。

「元々は、そのアノマロカリスのお腹の中に入っていたの」

『この、海老のお化けみたいなの?』

「うん、大昔の海に住んでた海老の仲間……かな?」

『食べたら美味しいのかなあ?』

「あ、食べるって発想は無かったなア(^_^;)」

『アハハハ』

「左横が黒電話。中に交換手さんがいるんだよ、あやかしとかからの電話を取り次いでくれる。たまに本人が出てくるけどね」

『それは楽しみ』

 

 プルルルル

 わ!

 

 急に黒電話が鳴って、チカコと二人そろってビックリ。お揃いになったことが可笑しくて、ちょっとだけ二人で笑ってから受話器を取る。

『お地蔵さんからお電話がありました』

「あ、出るわ」

『親子さんとお話し中だと申し上げると、伝言でいいとおっしゃいまして。よろしいですか?』

「うん」

『明日の放課後、よかったら寄って欲しいということでした。あ、親子さんもご一緒にということです』

「ちょっと待って……お地蔵さんからお誘いなんだけど?」

『お地蔵?』

「あ、断層の坂道上がった横丁の」

『ああ、あの延命地蔵……うん、やくもがいいなら、いしょに行こう』

「うん、じゃ、明日の放課後伺いますってお伝えしておいて」

『承知しました』

 

 朝日の楽しみが増えた。チカコが『懐かしい』って呟いたんだけど、詮索はしなかった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)

 

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ライトノベルベスト・〔ピンク色の防寒ジャケット〕

2021-05-24 06:48:44 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト  

 

〔ピンク色の防寒ジャケット〕




 コンビニを出て自転車に跨ったところであった。

「おかあさ~ん!!」

 悲惨な声で呼ばわりながら、複々線の踏切をピンク色の防寒ジャケットが、ピョコタンピョコタンと駆けながら渡ってきた。
 場所はT町の駅前で、名ばかりの対面通行路。大阪市内なら完全に一方通行になるような道であり、踏切である。

 幼児というのは、ただでさえ自分の前しか見ていない。

 踏切を渡る車の運転手や通行人は、危なかしそうに、その女の子を見ながら踏切を渡っていく。
 踏切を過ぎると三叉路になっており、付近に「あかあさん」らしき人が見えないので、その子の進路の可能性は二つしかない。
 駅前で左折するか、そんまま直進し名ばかり体面交通のこの道にやってくるか。直進されれば、わたしの自転車ともろに行き違う。
 歩道を含めてやっと道幅五メートルほどのところをピョコタンピョコタン泣きながらやってこられては、交通量が多い踏切ではとても面倒だ。

 ピンク色の防寒ジャケットは、運よく左折した。わたしも左折して家に帰る。

 ピンク色の防寒ジャケットは、その子にはいささか大きく、フードをしていなくても頭の上半分しか見えず、折り返しが解けてしまった袖口からは手の先も出ていない。泣き叫んでいるのと着丈が大きいので、その子の視界は、ひどく狭い正面だけである。
 左折の道も狭いので、下手に追い越すわけにもいかず、ノロノロと女の子のあとを付いていく。その子の前には母親らしき人の影が見えない。
 踏切からこっち、その子は、わたしが気づいてからだけでも二百メートルは走っている。でも、ペースがちっとも落ちない。ノロノロとはいえ自転車は八キロぐらいの速度が出ている。距離が縮まらないので、その子は八キロ以上の早さで走り続けていることになる。
 子供の体力と言うのは大したものだ。

 ちなみに大阪では、こういう光景は珍しくない。

 子どもがぐずり倒すと、親、とくに母親は無慈悲にも子どもをほっぽらかして、さっさと前を行く。しかし、このピンクの防寒ジャケットの母親の姿は、なかなか見えない。
 線路沿いに緩く「へ」の字に曲がった先に子供用シートを後ろに付けた自転車が見えた。どうやら、それが母親のようである。
 子どもの叫び声が「おかあさ~ん!」から「のりたい~!」に変わった。
 なにか、踏切の向こうでいざこざになり、ピンク色の防寒ジャケットは自転車のシートに乗せてもらえなかったようだ。

「もう、仕方のない子ね!」

 他の地方なら、母親は、ここらへんで音を上げて、子どもを自転車に乗せてやる。河内のオカンは腹が据わっている。「のりたい~!」を無視し、そのままの速度で自転車を転がしていく。
――きついオカンやなあ――
 生まれながらの河内原人であるわたしでも、そう感じ始めた。

 オカンの自転車は、道に面した別のコンビニの駐車場に乗り上げたところで、やっと止まった。
「さっさと、乗りーいな!」
 そう言うと、ピンク色の防寒ジャケットは器用に自分の背丈ほどのシートに収まった。
 オカンは、なんだかんだ言いながら、安全な場所まで子どもを誘導していた。さすがは、アッパレ河内のオカンである。

 オカンは、ピンク色の防寒ジャケットを乗せると、暴走女子高生並のスピードで、はるか先までいってしまった。

 さらに三百メートルほど行った先で右折。そこでくだんの母子を発見。
「乗りたい~!」の雄たけびはまだ続いていた。
 母子の前にはマンション風。どうやらお住まいのようである。
 しかし、念願の自転車に乗って、さらに続く「乗りたい~!」
 どうやら、ピンクの防寒ジャケットは自転車ではなく、別なものに乗りたかったようだ。
 憧れの近鉄特急か、たまたま見上げた空を飛んでいた飛行機か……。

「もう、この子は!」

 オカンが思わず手を上げた。ピンク色の防寒ジャケットはビクともしない。オカンの手は空中で止まった。母子の呼吸で「これは本気でどつけへんな」と読んでいたのかもしれない。
 すれ違いざま、ピンク色と目が合った。

「見てたなあ!」

 そんな顔をして、また泣きわめき始めた。オカンはピンク色の防寒ジャケットを横抱きにして、マンション風の中に消えた。

 ピンクの雄たけびと、オカンのイマイマシサが、しばしの北風を忘れさせてくれた。
 

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コッペリア・2『家主と布団と宅配便』

2021-05-24 06:26:01 | 小説6

・2
『家主と布団と宅配便』 




 

 颯太の引っ越しは簡単だった。

 赤帽の軽トラ一台に積んで、まだ荷台には余裕があった。
「一人住まいにしても、少ないね」
 気のいい赤帽さんは、引っ越し荷物の配置まで手伝ってくれた。
 冷蔵庫は当たり前として、それ以外に生活を感じさせるものは、座卓にボックスの本棚、あとはほんの少しの着替えに食器、赤帽さんにはガラクタとしか思えない段ボールが一つっきり。
「布団はどうするんだね、これじゃ、寝ることもできないよ」
「あ、ハハハハ、急なことで、忘れた……まあ、この後で買いに行きますわ(^▽^)」
 颯太は、自分の粗忽さを笑い飛ばした。

 急がなきゃならない理由が……と思い出し、その思いは胸にしまい込んだ。

「あんたかね、新しい店子は?」
 布団を買いに行こうとして、玄関の鍵を締めたところに、思いもかけず家主と思しきジイサンが、二階の廊下に上がってきた。
「……まあ、儂の家に来なよ。ここじゃろくに話もできない」
 家主は部屋の中をざっと見て、呆れたように言った。赤帽さんと同じ心境だったのだろう。

「不動産屋から聞いてくれたと思うんだけど、あの部屋は事故物件だ。あんたに入ってもらって助かったよ。なんせ、あれ以来5室も空いてしまったからね。なあに、前の住人は仏さんみたいな人だったからね、亡くなったのは気の毒だったけど、化けて出てくるようなことはないから」
 そこからよもやま話になり、気持ちがほぐれたところで、颯太は本題に入ろうとた。
「あのう……」
「そうそう、布団も無かったんだよな。引っ越し祝いの代わりだ、うちのを一人前持っていくといい。来客用の新品同様だ」
 家主は、せかすように圧縮袋に入った布団一式を颯太に渡した。急に飛び出してきた颯太にはありがたかった。美大生だった颯太の所持金は、せいぜい三か月分の生活費ていどしかなかったのだ。

 颯太にも、事故物件でも入らなければならない事情があったのだ。

 アパートに戻る途中、宅配便のトラックがゆるゆると颯太を追い越して行った。
 部屋に戻ると、その宅配さんが棺桶ほどの大きさの荷物を二階に運んでいるところだ。二階は、颯太と、もう一人キャバクラに勤めている年齢不詳の女がいる。颯太は荷物は、その女宛てだと思った。

「立風颯太さん?」
「はい、そうですけど」
「いや、よかった。大きな荷物なんで持ち帰りも大変なんで、助かりました。サインお願いします」
 宅配のニイチャンは、書きかけの持ち帰り伝票を丸めると、ボールペンと伝票を渡した。

 ここに越してきたことは、誰も知らないはずなんだけど……。

 そう思いながら、颯太は大きな荷物を部屋に入れた。荷物には取扱注意と壊れ物の札の他は、送り状の伝票が貼ってあるだけである。
 送り主はホベツ製作所、中身は「玩具」と印字されていた。

「……いったいなんだろう?」

 開けて驚いた。

 中身は等身大の人形が入っていた……。
 

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