大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・78『ただいまーと檜のお風呂』

2021-05-12 08:16:50 | ライトノベルセレクト

やく物語・78

『ただいまーと檜のお風呂』    

 

 

 あら?

 

 框を上がって靴を揃え『ただいまー』を言うのを忘れていたのを思い出し、あらためて『ただいまー』を言おうとしたら、リビングからお婆ちゃんが顔を出して「あら?」っと言ったところ。

「いま、帰ってきたの?」

「う、うん。考え事してて『ただいま』が遅れちゃった(n*´ω`*n)」

 この家に越してきて『ただいま』を言う習慣が身についた。

 越してくる前はお母さんと二人暮らしで、お母さんの帰りも遅かったので『ただいま』を言う習慣が無かった。

「おかえり」も言ってもらえないのに「ただいま」って言うのは間が抜けてるし、寂しいもんね。

 今の家は無駄に広いので『ただいま』を言わないと、帰ってきたことに気付いてもらえないことがある。

 黙って帰って、のっそり廊下を歩いていたりすると、リビングのあたりで孫の存在に気付いてビックリされる。一度など、おトイレから出て来たばかりのお爺ちゃんとトイレドアの前で出くわして、お爺ちゃんが腰を抜かしたこともある。

 それ以来、帰宅したら『ただいまー』と声をかける。

「ただいま」じゃないよ『ただいまー』だよ。

 ちょっと大きめの声で語尾を伸ばす。

 そうしないと、ふつうの「ただいま」だと聞こえないことがあるから。

「うちは無駄に広いからねえ」とお婆ちゃんも言う。

 だけど、聞こえないことがあるのは、家が無駄に広いせいばかりではないんだけど、そのことは言わない。

 おのわたしが『ただいまー』を忘れてしまったのは考え事をしていたから。

 考え事は、ほら、例の二丁目断層。

 もう、少々のあやかしには驚かないんだけど、二丁目断層は驚きだよ。

 教頭先生の話によると、断層という地学的な現象がお化けになったものだし。なんだか、このあたりでも別格のあやかしみたいだし。

 なにより、わたしと同じ姿で出てくるし。

 そういうことを考え考えしていて、つい『ただいまー』を忘れてしまった。

「ああ、ごめんごめん。つい考え事をしていて(^_^;)」

「ふふ、やくもも、そういうお年頃なんだ(^▽^)」

 誤解されてるけど「アハハ」と笑って、自分の部屋に入って三十秒でジャージに着替えるとお風呂に直行。

 日課のお風呂掃除。

 

 あら?

 

 今度は、わたしがビックリする番だ。

 なんと、お風呂掃除は終わっているのだ。

 それも、念入りのピカピカになっている。

 わたしが越してくるまではお爺ちゃんがやっていた。

 何十年もやっているためと、年を取って膝とかいためてるので『一応やりました』というレベルだった。

 うちは、今どき珍しい檜のお風呂で、きちんとお掃除しないと、すぐにヌルヌルになったりカビが生えたり。

「うちの風呂は一寸五分の檜だから、いざとなったら削ってもらったら新品になるぞ」

 お爺ちゃんは自慢げに言うけど、素人がサンドペーパ掛けるようなわけにはいかない。専門の風呂桶職人さんに頼んでやってもらわなければならないので、ちょっと大事(おおごと)なので、ずっと先延ばしになってる。

 その檜ぶろが新品みたいになって、いつもの三倍くらい濃厚な檜の香りをさせている。

 風呂桶は、同じく檜のが四つあるんだけど、一つだけがピカピカ。

 むろん、他の所も普通には掃除が済んでいて、あとはお湯を張ったらおしまいというくらいになっている。

 

 あやかしの仕業だなあ……。

 

 膝まで上げたジャージの裾を戻して部屋に戻る。

「よ、お帰り(^▽^)/」

 そいつが居た。

 ほら、わたしにソックリな二丁目断層。

 わたしと同じジャージで、ベッドの上で胡座をかいている。

「やっぱり、あんた……てか、いつから居たの!?」

 さっき着替えた時は居なかったよ。

「お風呂に驚いてからの方がいいと思ってな、隠れてた(^▽^)/」

 こいつ、着替えるとこ見てたのか(;'∀')。

「いいじゃないか、同じ姿かたちなんだし。いやな、ちょっと友情の印に掃除しといてやろうかと思ったら、嬉しいことに檜ぶろじゃないか。つい力が入っちまった。ぜんぶやっとこうかと思ったんだけど、家の者がビックリしたら困るだろうって、風呂桶一個きれいにしたところで気が付いてなあ、あ、お礼とかはいいからな」

「……どうも、ありがとう」

 下手に苦情を言ったらこじれそうな気がして、取りあえずお礼を言っておく。

「まあ、座ってくれよ」

 まるで、自分の部屋みたいにベッドの横をホタホタ叩く。

「実は、一人の女の子を紹介したくってなあ」

「女の子?」

「うん」

 短く返答すると、二丁目断層の頬がポッと赤くなった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層
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ライトノベルベスト・一週間物語・3〔水曜日はスイッチオン〕

2021-05-12 05:11:46 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

一週間物語・3〔水曜日はスイッチオン〕  




 うちの犬は「ポチ」だ。

 ありふれているようで、めったにない名前。種類は雑種。お父さんが酔っぱらって連れて帰ってきたときは、まだほんの子犬だった。もう二歳になるんで思春期の高校生ぐらい。高校生って多感な年ごろ。自分でも自覚はある。

 自分で言うのもなんだけど、あたしは可愛くない。

 え、火曜日まででよくわかった? それは早とちり。あたしは間違っているとか、理由もなくエラソーにしてる奴は嫌い。先輩とか先生とか関係なし、小暮先生とのやりとりでも分かってもらえると思う。ダメな作品には、はっきりダメと言う。去年の東北大会でも、あの大震災の被災者の描き方にデリカシーがないので食いついた。

「どうして、姉を失った妹をグロテスクに描くんですか? それに交通事故で死んだ幽霊が『あたしたちも同じ幽霊だよ』で片付いちゃうんですか? あの震災での死は交通事故とは違います。イージーなカタルシスに持っていくのは、被災された方への冒涜です!」

 我ながら手厳しい。

 で、大会での幕間討論は「互いに認め合う精神を大事にして発言しましょう」の、注意事項を枕詞で言うようになった。やれやれ……。

 でも、そうではない局面。相手が失敗しても真剣にやっていたりすると、すごく言葉やリアクションに気を遣う。できるだけ優しく、可愛く対応しようと、時に相手を面食らわせてしまう。

 それが、今日あるんだよ~。

 一年の時から同じクラスの相原雄介があたしにコクってきた。

「話があるんだ、ちょっといいかな」

 緊張しながらも、手順を踏んで真剣に、小さな声で、昼休みの中庭という人がたくさんいて目立たない状況の中で手短に言った。
 演劇部の問題があったので、あたしの脳みそのキャパを超えてしまうので「ごめん、来週の水曜日。もっときちんと話そうよ」ということで、今日の放課後、いったん家に帰って私服に着替えてから話し合うことになっている。制服で話したら、うちの学校の生徒だって直ぐに分かってしまう。制服は学校の看板だ。最終的に個人として傷つくことがあっても、学校の看板は傷つけられない。

 媚があっても、だらしなくてもいけない。チノパンにブルゾンといういでたちにした。あとは心をシャキッとしてスイッチオン。

 場所は、学校の一駅向こうのカラオケ屋。ロケーションとして完全とはいえないけど、互いのプライベートは確保できる。一応カラオケ屋なんで、景気づけの意味もあって、4曲ほど歌う。3曲はAKPの曲になってしまった。雄介も不器用ながら付き合ってくれて、一曲はソロで歌った。

「さあ、本題にはいろうか」
「え、あ、うん……」
 場所がカラオケなんで、あたしはカラッと事務的に切り出した。
「雄介が言う『付き合う』ってのは、どういう感じなの?」
「えと……好きだって気持ちで、お互いピュアに高め合えたらなって、そういう感じ」
「回りくどい言い方やだから、単刀直入に聞くね。あたしのこと独占したいわけなの?」
「独占てのは……ちょっと違う」
「分かんないなあ。あたしのこと好きになってくれたわけでしょ。そういう気持ちって独占欲なんじゃないかなあ。悪い意味じゃないよ。当然な気持ちだと思う」
「じゃ、じゃあ、そうかな……で、妙子はどうなの」
「一年のときからいっしょだし、いいやつだと思ってる。いいやつの内容が自分でも分からないけど。突然の告白にたじろいでる」
「だろうな……」
「進路目指して、いっしょに励まし合ってなんてきれいごとじゃなくて確認しておきたいの」
「なにを?」
「好きだって気持ちの種類とレベルを」
「あ、どうやって?」
「キスしてみよう。ドキドキ感で、ある程度分かるような気がするの」
「キ、キスか!?」
「うん、ほんの軽いの。フレンチキスはだめだよ。ま、勢いで胸が触れ合うくらいは許容範囲」

 で、5秒ほどキスした。

「雄介のドキドキってか、あたしへの気持ちは分かった。ありがと」
「で、妙子は?」
「言っとくけど、今のファーストキスだからね。そのわりにはドキドキしない。とりあえず、お互いの心に住民登録はしておこうか。半端な答えはきらいだから、こんなのでいい?」
「う、うん、いいよ。予想より良い答えもらえてよかった。オレ、妙子のそういう正直なとこが好きなんだ」
「正直になろうとはしてるけど、あたし、まだまだだよ。住民登録はしたけど、あたし、しょっちゅう家あけてるからね。それから、今日のキスは、あくまで試験だから。飛躍した行動はとらないでね」

 カラオケ屋は別々に出た。誰の目があるか分からないものね。

 帰りは二駅歩いた。学校の誰かに見られたくないのと、考えをまとめるため。
 学校関係者には会わなかったけど、考えもまとまらなかった。結論は出たけど、出し方は、あれでよかったのかと思った。
 きちんとやっても、気持ちのままやっても、スッキリはしない。

 明日から週も後半、波乱の予感。

 あたしは秘密の多い妙子です。

 つるべ落としの夕陽がシュートを間違えたスポットライトのようだった。

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真凡プレジデント・80《東京タワーの上半分》

2021-05-12 05:00:02 | 小説3

レジデント・80

《東京タワーの上半分》     

 

 

 ガルパンのお蔭なのよ

 

 含羞を含んだ声でケイ・マクギャバン軍曹が言うと、境内に散った少女たちがエヘヘと笑う。

「あなたたち、東京タワーの上半分なのよね」

 ビッチェが言うと、エヘヘの笑い声がアハハと膨れ上がる。

 

 そうだ、増上寺の本堂の屋根越しに見えたんだ!

 

 幼い日のお正月、初詣で混雑する境内、お祖父ちゃんに肩車してもらったら、間近に東京タワーが見えてビックリしたんだ。

 しかし、本堂の上は青空が広がるばかり。

「もう少し山門の方に寄ってみたら見えるわよ」

 そんなに低いわけない。

 スカイツリーに取って代わられたとはいえ、堂々の333メートルだ。

「リフトしてあげよう」

 ケイ軍曹が手を上げると、山門付近にいた隊員たちがチアガールがやるようなピラミッドをつくり、アッと思った時には両脇に居た隊員二人に投げ上げられて、おっかなびっくりで三段目に着地した。

 

 あ………………

 

 見えるには見えたんだけど、東京タワーは第一展望台までしかなかった。

 なんだか、カメラを着けずに立っている三脚のようだ。

「リアルには、ちゃんと上まであるんだけどね。ここはスピリッツの世界だからね」

 ビッチェがニヤニヤしている。

「どういうことなの?」

「東京タワーの上半分は、朝鮮戦争でスクラップになった戦車で出来ているんだ。そうだよね軍曹」

「検索すれば分かることなんだけど、意外に知られていなかった」

「ホーー……でも、上半分とは言え、東京タワーになるんだ、大きな戦車だったのね!」

 ガルパンに出てきたドイツのカール自走砲とかマウス超重戦車を思い出した。

「一両じゃないわよ、この境内に集まった人数と同じだけ」

「……九十台?」

「うん。マヒロをリフトしてくれてんのがM24チャーフィー。わたしはM26パーシング、そっちがM4シャーマンの子たち」

 紹介される度に、一群の少女たちが顔を見合わせて微笑む。

 わたしも健二のお付き合いだったけど、映画版のガルパンは知っている。小五らしからぬ知識でガルパンの魅力についてYouTubeの動画を観ながら聞かされたので戦車の名前くらいは「あ、あれか」という程度には分かる。

「それが大事なのよ。M26とかM4とか言われてMサイズの区分とか思われてるようじゃ、たとえスピリッツの世界でも実体化はできない。戦車のことだって分かってもらえて、その何パーセントが――東京タワーの上半分は戦車で出来てる――ことも理解してくれて、初めて里帰りもできるのよ」

「そうなんだ……でも、戦車だったら男のイメージじゃないのかなあ」

「それは、マヒロもさ、わたしたちを見てガルパンのサンダース付属高校を思い出したでしょ?」

「あ、うん」

「ガルパンで、ほとんど忘れられていたわたしたちが思い出されて、その思い出してもらったエネルギーのおかげで実体化できているの」

「ああ、オタクの力だ!」

 嬉しそうに画面に食い入っていた健二の姿が浮かんだ。

「軍曹、まもなく迎えが来ます」

 シャーマンの一人が山門の方を指さすと、十数台の軍用トラックがやってくるのが見えた。

「予定より早いなあ……よし、各自本堂の阿弥陀様にお礼を言って乗車しろ」

 少女隊員たちは、各々の居所で姿勢を正して本堂に一礼して山門に向かって行った。

 

「それで、みなさんは、どこに向かわれるんですか?」

 

「決まってるでしょ、六十五年ぶりのアメリカ」

 ふと、この少女……戦車たちの精霊は戻ってこないんじゃないかという気がした。

「あの……」

「サンクスギビングは向こうで過ごすわ」

「サンクス……?」

 アニメのスポンサーになっていたコンビニを思った。

「アハハ、感謝祭のことよ。クリスマスには帰って来るわ。じゃあね」

 

 九十人の少女……戦車の精霊たちは、わたしには『ゴンべさんの赤ちゃんが風邪ひいた』に聞こえるマーチを口ずさみながら山門を出て行った。

 

「さ、わたしたちも行くわよ!」

 

 ビッチェが消防車のステップに足を掛けながら気合いを入れた。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号
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