大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・214『仏蘭西波止場・4・激突!』

2021-05-26 09:11:09 | 小説

魔法少女マヂカ・214

『仏蘭西波止場・4・激突!』語り手:マヂカ     

 

 

 上野大仏!?

 それは、震災で大破して首だけになった上野大仏だった!

 

 座った姿勢だけで6メートルの大仏は、首だけになっても人の背丈ほどもある。

 その大仏が、くわッと特大の中華鍋ほどに口を開いて、竜巻を横にしたような烈風を放って妖たちを吹き飛ばしているのだ!

「避けろ! 傍にいると吹き飛ばされるぞ!」

 突然の大仏出現にほとんどゲシュタルト崩壊していたわたしをブリンダが突き飛ばす。

 その勢いで仏蘭西波止場の上空を百メートルあまりぶっ飛んでしまい、魔法少女コスの半分を千切られてしまった。

「大仏の口から出ているのは、本物のカンザストルネードだ!」

「ブリンダのはニセモノだったの!?」

「オズの魔法使いからライセンスを買い取ったものだ、オレのジェネレーターでは50%の力しか出ない……くるぞ!」

 大仏の首を大きく回り込むようにして回避する。

 回避しながらも、運よく逃げおおせた妖どもをぶちのめす!

 セイ! トー! オリャー!

 詠唱している余裕もないので威力は半分に落ちているが、敵の妖どももトルネードにもみくちゃにされているので、大半を撃破できる。

 ズボボボボボ!! ズボボボボボ!! ズボボボボボ!!

 

 江戸時代生まれの大仏は、首だけになっても律儀で、ほとんど首を振動させるようにしてトルネードを吐き出しているので、目鼻も髪もブレまくって、ほとんど球体のようになっている。

 それでも、遠く離れた妖どもは躱す者が居て見逃すわけにはいかない。

——これから船を攻撃する、あなたたちは取りこぼしをやっつけて——

 意外に幼い声で大仏の思念が飛び込んでくる。

 高速旋回している影響で声が高くなっているんだろう。

 大仏だけに負担はかけられない『いくよ!』『いくぞ!』と思念を交わし合って、マッハのスピードで妖たちを追い回す。

 ザバッ!

 大波が砕けるような音がしたかと思うと、大仏の首が三倍ほどに膨れ上がる。膨れ上がった球体はグラデーションになって、まるで小さな太陽が熱戦を放射しているように見える。

『爆発するのか!?』

『いや、違うみたい』

 大仏は、桟橋を目指している敵の艦船に突入する姿勢をとったので、様子がハッキリする。

『螺髪(らほつ)が解けたんだ』

『ラホツ?』

『パンチパーマみたいな髪だ、勢いがすごいので伸びてしまったんだ』

 解した螺髪は、けっこう長く、もし胴体が付いていたら腰の上に届きそうなくらいだ。

 この姿……どこかで見た事がある。

 考えている余裕は無かった。足の速い残敵は三浦半島を超えて外海の上空に差し掛かろうとしているのだ。

 セイ! セイセイ! トー!

 なんとか湘南の沖に逃げた一匹を撃墜し、横浜の上空を目指して旋回する。

 ドン ドン ドン

 腹の下から突き上げるような衝撃!

 しまった、伏兵か!?

 反射的に高度を取って縦旋回、身構えたまま眼下を窺う。

 

 あれは!?

 

 それは、半ば傾いた戦艦三笠だった。

 三笠は、横須賀の岸壁に係留されていたが、震災の衝撃で岸壁に激突して浸水して、ほとんど死にかけていたはずだ。

——ごめん、やっと立ち直って、少しは役に立ちたくてね——

 三笠の船霊の声だ。

——日露戦争以来、二回も爆沈したり座礁したり、この震災でも傾いてしまって世話のかけっぱなしだったから、少しはね……——

 ドン ドン ドン

 三笠は、その傾斜を利用して主砲の仰角を上げて、横須賀の山間に隠れた妖を潰していく。

 まだ残敵がいたんだ。

 負けていられない、夏島を飛び越えて横浜に戻る。

 ウオーーーーーーー!

 雄たけびを上げながら、髪を振り乱して敵の主力艦にトルネード攻撃を加える大仏。

 この姿は……将門の首だ!?

 ドッコーーーーン!

 主力艦はド級とか超ド級の語源になったドレッドノートで、装甲も厚く、大仏は体当たりするのではないかと心配するくらいの近距離で、やっと仕留めることができた。

 ドーン ゴロンゴロン ゴロゴロ……

 ドレッドノート爆沈の衝撃で吹き飛ばされた大仏の首は、海岸通りまで吹き飛んできて、舗装道路の上をゴロゴロと百メートルほど転がって、やっと停まった。

「大丈夫か、大仏!?」

「大仏!」

 山手の方から戻ってきたブリンダと共に地上に降りる。

 やっと停止した大仏の首からは、二本の華奢な脚が覗いていた……。 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  •  

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『その他の空港・1』

2021-05-26 06:15:56 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト 

 

『その他の空港・1』

 


 荒れ模様の雷雨も収まって、ようやく、空港法第二条で『その他の空港』と雑に分類されるY空港は、その一日の役割を終えようとしていた。

「いやあ、マスコミもねばるもんでんなあ」

 次長が、その性癖であるマメさから、広報室のあちこちに散らばっている湯飲みを片づけ始めた。

「選挙も終わって、もうオスプレイでもないやろにな。あ、すんまへん片倉はん」

「なんの、こないして体いのかしてるほうが、むつかしいこと考えんでええんですわ」

「そのサラリとしたとこは、勉強になりますわ。悪い癖で、ついムキにになってしまう」

「……なんや、あの放送局スマホ忘れていきよった」

「電話したろか、困っとおるやろ」

 空港長の飯山は生真面目にスマホを手に取った。

「触らんほうが、ええですよ。スマホは個人情報の固まりですよって」

 広報の出水結衣が、実年齢より十歳は若く見える顔でたしなめる。

 

 プルルルル プルルルル

 そのとき、管制塔から、広報室に電話が入った……。

『管制塔です、こちらに向かってくる編隊があるのですが、無線連絡に応えません』

「なんで無線にも応えへんのや……向こうからも何にも言うてけえへんか?」

『はい、互いに無線連絡をとってる様子もありません。真っ直ぐうちに向かってきます』

「なんで、うちの空港やねんな?」

 やっと、マスコミとの我慢会が終わってホッとしたところだったので、空港長の眉間にしわが寄る。

 空港長が尖がって、次長が湯呑を片付け終わったころに、それはレーダーに映ってきた。

 九機の小型機が、三機ずつの編隊を三つ組んで、空港法によって「その他の空港」と雑に類別されるY空港を目指して飛んでくるのである。関空でも、神戸空港でもなく。全国でも数少ない交差滑走路を有する他は、先日のオスプレイで問題になるまで、日本中から忘れ去られ、しかも嵐の夜、営業時間も終わった午後八時過ぎにである。

「間もなく視認できます」

 管制塔のみんなは双眼鏡を構えた。赤青の翼端灯の感覚はセスナほどしかなく、それが三機ずつ、三つの編隊になって向かってくる。

「単発の低翼機やなあ、きれいな編隊飛行や……発光信号『本日営業終了』」

「……あきません。ギア降ろして、降りる気満々でっせ!」

 図体に似合わない爆音を響かせながら、九機の小型機はA滑走路に着陸した。ガラに似合わず飛行機にくわしい広報の出水結衣が呟いた。

「うそ、みんな鍾馗や……」

「正気やないで、着陸許可も出してへんのに……」

「飛行第246戦隊・第246飛行場大隊・蟹江中隊九機帰投……だれもおらんのか!!」

「やっぱり、正気やない……」

「鍾馗三編隊の帰投だ、だれも出迎えんのか!」
 
 隊長とおぼしき一番機の搭乗員が叫んでいる。駆けつけた整備員や、警備員と言い合いになり始めた……。

「なんだと、昭和三年だと。違う? 令和三年? なんだそれは? 貴様ら寝ぼけておるのか。今日は昭和二十年五月十七日だ……なんだ灯火管制もせずに、貴様らでは話にならん。大隊長か飛行長殿のところに案内しろ」

「せやから、わたしがこの空港長で……」

「クーコーチョー? なにを寝ぼけたことを、ここは陸軍飛行第246戦隊・第246飛行場大隊の基地だ、見ろ周りを」

 空港長たちは、びっくりした。あたりは真っ暗で、ついさっきまで煌々と輝いてた大阪の街はおろかY市の灯りも見えない。

「ただちに灯火管制、今夜半の敵の襲撃に備え、機体を整備し燃料弾薬の補給をせよ」

「隊長殿、周りの風景が……」

 今度は、周囲の景色が、夕闇の中の二十一世紀のそれに変わった……。

「なんだ、これは……!?」

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コッペリア・4『そもそも人形が届いた理由・2』

2021-05-26 05:30:29 | 小説6

・4
『そもそも人形が届いた理由・2』




 

「実は、その枕は立風さんが作ってくれたものなんだ」

 家主のジイサンの言葉に不動産屋のジイサンも驚いた。

「いや、この座布団もそうなんだ『若いお客や、外人のお客さんには、こういう方が喜ばれますよ』って」

 あらためて座布団を見るとキティーちゃんの市松模様だった。

 細かい格子縞の中に小さなキティーちゃんが散らばっている。けして押しつけがましくなく、気づかない人の方が多いだろう。で、その分気づいた時は何倍も嬉しいに違いない。

「オイラの枕は、中村屋が亡くなった時に立花さん歌舞伎座まで行ってさ、中村屋の手拭い二枚買って、帰り道オイラが中村屋の贔屓だってことに気づいて、そいで枕にしてくれたんだ。かっちけねえんで、ずっとお飾りみたいにしてたんだけどね、あんたが同姓同名なんで持ってきたんだ」

「器用な人だったんですね……」

「これを見てくんねえ」

 家主がスマホを見せてくれた。

 そこにはセーラー服を着た1/3程の人形……ドールっていうんだろうか、知っていた子がドールが趣味で、少しは知っている。素体やヘッドを買ってきて自分でカスタマイズするんだ。メイクは自分でやって、同じヘッドや素体を使っても、メイクの仕方やポーズの付け方で、一つ一つ違って、それぞれ世界に一つだけのドールができる。僅かだけども男の人にもファンがいるらしい。

「こいつもね、立風さんが作ったんだ……オイラ、こういうものには疎いんだけどね、六十を超えたオッサンが作ったとは思えねえほど無垢でさ。可愛く微笑んでいるようで、どこか儚げでさ。ありがたくいただいたんだ。あとで娘にネットで調べさせたら衣装とかも含めたら、ここの家賃の半月分もするじゃねえか。そいで、ドール屋のファンクラブみてえのがあって、みんなが写真を撮っては投稿するんだよ。そこにこのドールが載ってたのには驚いた。それも銀賞だぜ、銀賞。きっと売ったら原価の十倍くらいの値はつこうってしろもんだ」

「家主さんは、いただいたままなのかい?」

 不動産屋が突っ込んだ。

「いや、一度は返しに行ったよ。こんなもの頂戴できませんてね……そうすると『これは習作です。まだまだ、その子らしさが出てませんから』ときた」

 三人揃ってスマホの小さな画面を見つめた。見れば見るほどよくできている。

 あの子が作っていたのは可愛くてきれいだったけど、こういう情感は無かったと、颯太は思った。

「で、このでかい素体は?」

 不動産屋が、箱に入った等身大を顎でしゃくった。

「うちの娘が、ネットで見つけたんだ。ホベツ製作所ってドール屋が等身大のドールの素体を発売したって。で、立風さんに見せたんだけど……注文してたんだね。なんせ受注生産だから、届くのに一か月ぐらいかかる」

「そいつが、今日来たってわけだ……」

 不動産屋は、ごく自然に手を合わせた。

「これ、どうしたらいいんでしょう……?」

 颯太は途方にくれた。

「同姓同名のおまえさんに来たのは、偶然じゃねえと思うんだ……立花さんには、まだ話があるんだ。聞いてくれっかい」

 家主は颯太と不動産屋に、ぐっと顔を寄せた……。 

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