大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・204『自転車で並走』

2021-05-04 09:11:48 | ノベル

・204

『自転車で並走』さくら     

 

 

 留美ちゃんと並んで自転車を走らせる。

 

 いつもやったら自転車の並走なんかせえへん。

 学校の安全指導でも言われてることやねんけど、バイクや自動車で檀家周りしてるおっちゃんとかテイ兄ちゃん知ってるさかい。

 横並びの自転車は、すれ違うにしても追い越すにしてもメッチャ気を使う。この頃は自転車保険も義務化されてきてるし、取り締まりもキツなってる。こないだもネットニュースが自転車同士の事故で6000万円の補償を求められたて出てた。

 そのうちが、掟破りの並走やってるのは、留美ちゃんの目がイッテしもてるから。

「お母さ……!!」

 スマホのメッセを見た瞬間、留美ちゃんは口に手を当てたけど、悲鳴同然の声が漏れてしもた。

「病院?」

「うん」

 同居してから姉妹同然に暮らしてる二人にややこしい言葉はいらへん。

 すぐに自転車を出して山門を飛び出した。

 お母さんが転院したH病院には自転車で行くのが一番早い。

「赤信号!」

 これで二回目や。

 テンパってる留美ちゃんにはろくに信号も見えてへん。

「う、うん」

 いま変わったばっかりの赤信号。

 産業道路で、車歩行者分離式やから、一分以上青にはなれへん。

 落ち着かせるためにも質問をする。

「お母さん、どないやのん?」

「転院させるって、お父さん……」

 とりあえず最悪の知らせではなかった。

「まだ、お母さんの顔見てないのに……」

 コロナ患者を受け入れてる病院の看護師をやってるお母さんは感染してしもて、重篤な状態が続いてる。

 分かれて暮らしてるお父さん(どうもよう分からへん人やねんけど)が色々手配して、お母さんの入院中の事はやって、留美ちゃんに負担がかかることは無い。無いどころか、留美ちゃんは、お母さんが重篤になってからは面会もできてへん。

 それが、メール一本で転院させると連絡が来て、とても冷静ではおられへん。

 せやさかい、うちは、掟破りの並走をやってる。

「青になった」

「あ」

 促されてペダルを踏む留美ちゃん。

 信号待ちしてる間に、不安に押しつぶされそうになって信号が見えてへん。

 交差点渡ると、前から並走して喋りながらのオバハン二人。

「チ!」

 舌打ち……したのはオバハンの方。

 せやけど、迫力負けして道を譲ったのはオバハンの方。

 

「303号室に入院してる榊原瑠璃の娘です!」

 通用口のインタホンに食いつくように叫ぶ。

『少々お待ちください……』

 くぐもった声がして、三十秒ほど。

『さっき転院されました』

「そんな……」

『申し訳ありませんが、転院先、その他のことは追って連絡されるということです。大変申し訳ありませんが、ここではお伝えできません』

「そんな……そんな、そんなあ!」

『申し訳ありません』

 プツン

「もしもし! もしもし!」

 インタホンは、それっきり切られてしもた。

 留美ちゃんは、もう自転車に乗る気力も残ってへん。

 病院の外壁に背中を預けてホロホロと涙を流してズルズルと崩れてしまう。

「ちょ、ちょ、留美ちゃん」

 うちも、どないしてええんか分からんようになって、いっしょに泣いてしまう。

 

「あなたたち、どうかした?」

 

 何十秒か、何分かして声が降ってきた。

 見上げると、女性警官のおねえさん。

 うしろに停まってるミニパトには堺中央のロゴがあって、運転席にはもう一人の女警さんが無線連絡。

「じ、じつは……」

 事情を説明すると、女警さんはインタホンに警察バッジを突き付けて病院と話しをしてくれはる。

 数秒話すと、カチャリとドアが開いて、マスクに手袋した看護師さんが出てくる。

 二人とも、二メートルほどのソーシャルディスタンスをキッチリとって、テキパキと会話。

 見ると、看護師さんもメッチャくたびれた感じ。

 一分もかからんと話しは終わって、通用口の扉は再び閉められる。

「やっぱり無理みたい。お家の人に連絡とれるかなあ」

「あ、いえ……大丈夫です。自分で帰れますから」

 留美ちゃんも、わずかに落ち着いて自分で返事。

 パトカーを見送って、留美ちゃんと二人自転車を押して帰る。

 家に着くと、留美ちゃんはペシペシと自分の頬っぺたを叩いて、うちといっしょに晩ご飯の手伝いをしに行きました。

 

 

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ライトノベルベスト・『憧れの莉乃と同じクラスに! その①』

2021-05-04 06:14:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『憧れの莉乃と同じクラスに! その①』  




 心臓が口から飛び出すかと思った!

 昇降口の入口に新しいクラスの編成表が貼り出されていた。
 オレは会田だから、保育園以来、たいてい出席番号は一番。だから、すぐに自分が4組だということが分かった。

 次に担任を見る。西村郁美、地歴の中堅教師だ。地歴に多いZ教組の教師。時々授業を脱線して体制批判をするのが玉に瑕。いい意味で生徒のことは分かっていないしZ教組らしく『自主性』の信奉者で、あまりうるさいことは言わない。組合優先の人で、仕事は二の次。担任としては申し分のない無関心なオバサン。問題行動を起こさなければ、うるさいことは何も言わない。

 それより、ビックリしてラッキーと思ったのは蟹江莉乃と同じクラスになったこと。

 編成表には「蟹江」としか書いていないが、この珍しい苗字は学年で一人しかいない。で、AKBのセンターを張ってもおかしくないほど可愛い子で、新三年大方の男子の憧れの的である。
 今時めずらしいお嬢様で、大きな声一つあげたことがない。けして無口ではないが、荒っぽいところが丸でなく、掃き溜めに鶴を絵に描いたような美人だ。その莉乃と同じクラスになっただけではなく、その本人が、いつの間にかオレの後ろに立っていることに気づいて二度ビックリ。

「会田くんと同じクラスだね。よろしく!」

 そう言って、あろうことか、握手をしようと手を差し出してきた。

 わ、手とは言え莉乃体の一部に触れられる(#'∀#)!

 そして握手をしたあと、莉乃はとんでもないことを言いだした(とっても、いい意味で)

「会田くん、わたしと付き合ってくれない?」

 信じられなかった。学校一の美人と同じクラスになることが奇跡なら、握手出来たのはメガ奇跡。でもって莉乃の方から「付き合って欲しい」だなんてギガ、いやテラ単位の奇跡で、担任の好きな言葉で言えば「大革命」だ!

 莉乃も、なんだか嬉しそうで、いつもより口数が多く、お互い早めに学校に来たことを素直に喜びあった。

 十五分ほどたっただろうか、大方の生徒が揃ったところに、スケバンの海老原のグループがやってきた。
「ち、ばらばらにされちっまってる」
 編成表を見て、海老原佳乃子が呟いた。

 こいつらは、単なるワルじゃない。制服や生活態度で問題にされるようなことは(目につく限り)することは無い。頭も悪くない。ちょっとした言葉じりを捉え「ちょっと待ってよ今の言葉……」そこから理詰めで相手を追い詰め怒らせ、先に手を出させ、それから相手をボコボコにする。実に陰湿なやつらだ。
 こいつらを、バラバラにしたのは学校の知恵だと思う。
「ちょっと、この編成表の話を付けに行こう」

 佳乃子は、本当に切れたようで、なんと職員室へ向かいだした。

「ちょっと待って、海老原さん」

 あろうことか、莉乃が佳乃子に声をかけた。

「なに、ちょっとあたしら機嫌が悪いの、声かけないでくれる。お嬢さん」
「クラス編成なんて、成績とか名前とかがファクターになって決められるけど、他にもいろんな要素を加味して決められるのよ。でも、それは過去のファクター、新しくシャッフルしたら、おのずと新しい展開が開けるものよ。ネガティブにだけとらえるのは、どうかしら?」

「なんだって……」

 佳乃子が静かにキレてきた……。


 つづく 

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真凡プレジデント・72《昭和20年10月20日》

2021-05-04 05:48:23 | 小説3

レジデント・72

《昭和20年10月20日》     

 

   

 きらいよ

 え?

 

 ビッチェの一言にたじろいでしまった。

 木の間がくれの沖合に三本の水柱。

 もう一度カーブを曲がって、海岸沿いを走る。その間水面から生えたみたいに屹立しているものに目を奪われて、唐突な「きらいよ」が意味不明。

「その『嫌い』じゃなくて『機雷』、進駐軍が敷設した機雷を処分してるの」

「え? ええ?」

「昭和20年の10月20日よ」

 フロントガラスに映った文字列を指しながらビッチェが言う。消防自動車のフロントガラスがコンソールパネルになっているようだ。

「やっぱりタイムリープしたんだ……」

 納得しながらも、沖合の水柱から目が離せない。

 人の形をしているわけではないんだけれど『風の谷のナウシカ』に出てくる巨神兵を目の当たりにしたようで目が離せない。

「危険なところを担当しているのは雇われた旧海軍の日本人だろうけど……曲がるわよ!」

 グワッと風景が旋回する。

 一叢の木々に視界を奪われて、嘘のように眼前に現れたのは白亜の鉄筋三階建てだ。

 建物の屋上には赤十字が星条旗と並んで翻っている。乏しい知識でも、戦後すぐに米軍に接収された病院だと見当が付く。

 

「降りて」

 

 ドアに手を掛けたビッチェはカーキ色の制服に変わっていた。

「真凡もよ」

 バックミラーに映ったわたしもカーキ色で、顔つきは外人さんになっている。

「さ、行くわよ」

「う、うん」

 その時、サーーっと雨粒が顔を撫でて行った。

「水柱の崩れが届いたのよ、海水だから拭いた方がいいわよ」

 言われて、ハンカチを出して顔や手を拭いているうちに病院の受付だ。

 受付には日本人とアメリカ人のスタッフ、ビッチェの相手をしたのはアメリカ人の方。それも、ビッチェの敬礼の手が下りるまで敬礼しているところを見ると、かなりのエライサンに化けたようだ。

「化けているのは、病室に着くまでね……はい、ここまで」

 そう言うと、ビッチェの姿が消えた。

「え? ビッチェ?」

「あ、ごめん。指を鳴らして」

 不器用に指を鳴らすと半透明のビッチェが見える。

「待って、ビッチェ半透明」

 ドアノブに手を延ばすビッチェを止める。

「完全に消えたら見えないでしょ、大丈夫、見えてるのは真凡にだけだから」

 

 音もなくドアを開けると広い個室で、ベッドには抜けるように白い肌の少女が半身を起こして海を見ていた。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

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