大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・049『赤さびの露頭』

2021-06-06 09:40:58 | 小説4

・049

『赤さびの露頭』  バルス   

 

 

 自分が聞くのが一番だと思った。

 

 マース戦争で死にかけた自分は、ほとんどロボットだ。

 ほんのわずかに残った脳組織を生かして人がましくファルコン・Zのパイロットをやっているが、どこまでが人間としてのバルスの判断か、バルスのスキルをコピーしたPCの判断か分からない。

 児玉元帥のようにPI(パーフェクトインストール)をしていないので、自分の言動・思考・能力が自分のものであるという確信がない。

「バルスのオペは独創的だ」

 船長が言ってくれているので、操縦と戦闘に関するスキルには、まだ人間バルスの創造性が残ってはいるんだろう。

 操縦や戦闘は個人的なスキルだ。いわば、兵や下士官のスキルであり、戦術を担う左官や、戦略的意思決定を任せられる将官級のスキルではない。そういうものは船長が担っていればいい。

 自分の生き残った脳細胞の寿命は、そう長くはないだろう。

 自分のスキルは兵・下士官のそれであるから、換えはいくらでもある。

 ひがみで言うわけではないが、ファルコン・Zのチームで、一番互換性があるのが自分だ。

 昼食後、殿下が「ちょっと遠乗りをして帰りたい」とおっしゃったので、自分一騎だけがお供することになった。

 全員がベースを空けるのは二時間を限度としているからだ。

 

「すまないね、わたしの我がままに付き合わせて」

「いえ、殿下が見分を広められるのは、火星のためにも地球のためにもなることです」

「アハハ、そんな意気込みは無いよ。これからは火星での隠遁生活だからね、運動を心がけていないと、すぐに太ってしまう。森ノ宮親王家はデブの家系だからね」

「そうなんですか、そのようには見えませんが」

「明治大帝の死因を知っているかい?」

「はい、恐れながら糖尿病であられたと兵学校で習いました」

「うん、そうなんだ。うちは、その明治大帝の素因を受け継いでいるらしい。父はそうではなかったけど、祖父は肥満の傾向があって、食事制限や薬が欠かせなかったからね。僕は食いしん坊の我がままだから、食事制限なんてまっぴらごめんだから」

 殿下は体質についておっしゃられているが、受け継がれている素因は体質だけではないと思う。

「バルス君、あの丘の麓だけが、微妙に砂の色が違うと思うんだけど、気のせいかなあ」

「あれはマース戦争でマス漢の機甲部隊が潜んでたところです。わが軍の試製パルス弾の直撃を受けて鉄屑になったものが劣化して酸化第二鉄の砂のようになってしまったものです」

「あんなになってしまうものなんだね……」

「非鉄パーツはチーチェの餌食になってしまいました。初期チーチェはPCやICチップをそのまま使っていましたから」

「そうなんだ……」

「あそこに行ってもいいかい?」

「はい、お供いたします」

 

 殿下は、麓に着くと、馬を下りて、端正な姿勢のまま歩かれた。

 遠くから見れば赤茶けた砂地なのだが、現場に立ってみると、まだまだ砂に還らない破片や残骸が散らばっている。

「これは軍服の切れ端だね」

 一群れのボロを持ち上げられる。軍服の生地は対紫外線の繊維が使われているので、鉄がボロボロになった中でも、ある程度は残っている。

「タグが残っている……七号サイズ……小柄な女性兵士が着ていたんだね……紫外線が強いから、骨は分解されてしまったんだろうね」

 マース戦争のころは、ロボット兵は補助的な役割で、第一線には生身の兵隊が数多く送り込まれていた。

「先月の砂嵐で、丘の一部が露頭して、地形が変わって崩れやすくなっています。お気をつけください」

「うん、ありがとう」

 殿下は、露頭部分がお気になるようで、お近づきになると、露頭からはみ出ているボロを引っ張り出された。

 ザザザーー

「危ない!」

 露頭が崩れ落ちるので、庇おうと思ったが、殿下は身軽に身を避けられる。

「これは……」

 露頭から出てきたボロは、ほぼ完全な数体分の軍服。

「扶桑軍……」

 早くに埋もれてしまって紫外線の影響をうけていない、それは、まだ、しっかり形を保っていて、中身があった。

 つまり、ミイラ化した扶桑軍兵士のそれであり。ミイラはことごとく手足を結束されたままで、そのうちの一体には首が無かった。

「捕虜になった人たちだね……」

 ミイラは五体分あって、軍服から、二人が男性。三人が女性であることが分かる。

 首を切られていたのは男性で、曹長の階級章を付けている。

 それに、女性兵士の三体分は下半身が露出している。

「惨いことがあったようだね」

 殿下は、ミイラ七体の結束を解いておあげになり、一カ所に集めると「せめて、シートを掛けてあげよう」とおっしゃり、自分も馬の鞍からシートを外し、殿下といっしょに掛ける。

「この悲劇が、又起こるかもしれません」

「そうだね……今度は火星ではないかもしれない」

「女系天皇でなければ、殿下が皇位に就かれておられました」

「…………」

 言葉に詰まると、殿下は地球のそれよりも丸く感じられる地平線の向こうに目をやっておっしゃられた。

「今上陛下は、よくやっておられるよ」

「はい。しかし、殿下が……殿下を皇位にお付けしようという動きもございます」

「そういうことが起きて欲しくはないから、僕は元帥に無理を言って、ここまで逃げて来たんだよ」

「殿下」

「壬申の乱を起こす気は僕には無い……勘弁してください、バルス君」

「失礼しました……遺体の回収をベースに要請します」

「そうだね、そうしてあげてくれたまえ」

 

 殿下は、コスモスたちが回収に来るまで振り返られることは無かった。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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ライトノベルベスト〔存美女学院高校物語・2〕

2021-06-06 06:32:58 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

存美女学院高校物語・2』 



 

 誰だってゾンビと読む。

 存美女学院高校……本当は「ありみ」と読む。

 加藤不死美新校長が最初にやったのは、AKBの『フォーチュンクッキー』を全校生徒でやることだった。

 撮影などのスタッフは、校長が以前勤めていた専門学校の映像科の学生さんらが実習を兼ねてやってきた。

「すごい、まるで放送局のロケ隊だよ!」

 ふだんゾンビの親玉みたいに表情の暗い生徒会長のお岩さんが叫んだ。お岩さんこと岩田奈々子はなりたくって生徒会長をやってるんじゃない。立候補者がいないために、生徒会の役員は全生徒のくじ引きで選ばれる。

 不承不承やっているから、ただでも暗いお岩さんが学校でも有数のゾンビになっていた。

 そのゾンビ生徒会長が、笑顔でびっくりしたのだ。これが変化の現れ第一号だった。

 全校生がグラウンドに集められ、専門学校の演劇科の学生さんの指導で、一時間かけて『フォーチュンクッキー』の練習をした。

「うん、リズムにのりさえすればいいからね」

「いいよ、足の運びきれいだね。そうだ、足から抜いていってカメラ上げてくから、感じたままの表情して!」

 演劇科の学生さんが数十人、生徒の中に入って、励ましたりアイデアを出したり。足から上にカメラが上がっていくと、相変わらずのゾンビ顔の子、体と顔のイメージの違う子、思わず吹き出してしまう子、さまざまだった。

 半日かけて、全体、グループ別、個人別、ご近所のお百姓さんまで入って、延べ6時間分の収録をした。

「選抜メンバー選びまーす!」

 ラッシュの映像を見ながら、スタッフのプロディユーサー格の学生さんが言った。

 14人が選ばれ、その中にはお岩さんも、あたし山田花子、そして不死美校長まで入っていた。

「この選抜がトップに来ます。あとは、ランダムに僕らの偏見でやらせてもらいます。放課後には編集し終えてユーチュ-ブに投稿します。終業のチャイムと同時に投稿するんで、スマホで見てもらってもいいし、体育館のモニター見に来てもらっても結構です!」

 存美女学院開校以来のハイテンションになってきた!

 そして、運命の放課後になった!

 あたしは、スマホ片手に体育館に向かった。

 今朝まで面識もなかったお岩さんたち選抜の子たちとも、すっかり仲良くなった。そんなグループがあちこちで出来て、楽しげに、モニターやらスマホの画面にくぎ付けになった。

 びっくりした!

 最初の選抜のメンバーが、みんなゾンビになっていた!

「ちょっと遊んでみました。CG処理してゾンビ風。まあ、最後まで見てください」

 フォーチュンクッキー 存美女学院版

 おどろおどろしい文字がエフェクト共に出てきた。それから、3秒~5秒おきにカットバックして、参加者全員が収まって、最後は選抜の台詞で決まった。

「ゾンビじゃないよ、アリミっていいまーす!」

 むろんゾンビ姿じゃなくて、ちゃんとしたセーラーの制服で。

 ユーチューブのアクセスは、その日のうちに3000件を超え、夜には『セーラーゾンビ』のタイトルで、再編集したものも流され、一躍存美女学院は全国区になってしまった。

 あくる日は、これが存美高校の生徒かと思えるほど、みんなニコニコしていた。昼にはアクセスが5万件を超えたということで、マスコミが取材にきた。

 もともとお行儀の良さだけが取り柄だったとこに、このニコニコ笑顔。学校の好感度は一発で上がった。

 不死美校長は、生徒会やクラブの部長会と話して、演劇部、ダンス部、軽音部をまとめて『舞台芸術部』にまとめてしまった。

 一気に100人を超える部活になってしまった!

「普段はバラバラでいいから、ときどき集まって、面白いことして動画サイトに投稿しよう!」

 そして、年末には動画サイトの常連になり、なんと部員が2人しかいなかった演劇部は、舞台芸術部として結束。

 作:大橋むつお『すみれの花さくころ』を一大ミュージカルにして県大会、関東大会にも優勝!

 何を隠そう、このあたし、山田花子が部長になって、来年は全国大会を目指す。『舞台芸術部』のダンス部門、軽音部門も活躍中。

 あくる年は、競争倍率2・8倍の入学試験になった。

 もうゾンビ女学院とは呼ばせないわよ!

 

 https://youtu.be/xoHJ-ekEnNA (名古屋音大による上演)

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コッペリア・15『栞のおしりブログ』

2021-06-06 06:15:44 | 小説6

・15 

『栞のおしりブログ』 




 

 栞がブログを始めたことに気付いたのは三日目だった。

 その名も『おしりブログ』 

 名前を知っている颯太には栞(しおり)のもじりであることは、すぐに分かるが、知らない人には意味深である。

『お尻』と連想する人が半分。『お知り』と、高圧的に感じる人が半分だろう。

 これが、どこにでもある女子高生の他愛ない日常を綴ったものであれば問題は無かった。

 読んでびっくりした。大学生の卒論並の緻密さと論理構成で、野坂昭如の評論をやっている。

 特に『火垂るの墓』に対しては、実際の野坂の体験と比較しながら、かなりあからさまに書いている。

『火垂るの墓』の主人公の妹は4~5歳くらいに見えるが、実際は乳飲み子の養女で野坂自身とは血のつながりは無い。野坂自身も養子で戦災で亡くなった家族のだれとも血縁関係は無い。

 主人公は、駅で野たれ死ぬが、モデルの野坂本人は生き延びている。

 栞は『ぬけぬけと生き延びた』とまで書いている。

 乳飲み子の妹を連れて、大阪市の北東部の街に住み着き、妹用の粉ミルクの配給も受けているが、ほとんど自分で飲んでしまって、その結果妹を死なせ、そこから野坂の自暴自棄な少年時代が始まる。

 どこで調べたのか、アニメや小説から読み取れる時系列、事実関係を現実のそれと重ね合わせ、克明に書いている。

 ジブリのアニメファンと思われる匿名のコメントが、炎上と言っていいほどの数で来ていた。

「どうすんだよ。こんなにコメント書かれちまって……管理人の承認無しにしてるから、中身も量も半端じゃないぜ」

「いいの、みんな匿名の的外ればっかだもん。相手にしない」

 栞は眉を開いてヘッチャラという顔をした。

 栞の顔は、相変わらず颯太が描いたままだが、かなり表情が出るようになった。デジタルアニメの『アナ雪』のアナを連想させる顔になってきた。

 そんなコメントの中に、栞に好意的なものが一つあった。

――あなたの作品と野坂氏の分析は、一見批判的に見えますが、読み込むと、随所に、あの時代を生きてきた人間への洞察に満ちた畏敬の念を感じます。野坂氏が、ああ書かざるを得なかった真摯さからくる嘘を好意的に書いていることがよくわかります。あなたは一体どんな方なんでしょうか。なんだかわたしと同じ年代のようにも、文章の軽やかさから、若い人に見えたり、とても興味があります。わたし、日課で午後三時ごろ赤坂のコ-ヒーショップSに居ます。よかったらお話ししませんか。目印に野坂氏の本を持っていてくだされば、わたしの方が発見します。ノブコ――

「あたし、ノブコさんに会ってくる(^▽^)」

 栞は、こともなげに言った。

「大丈夫か、栞?」

「うん、街にも慣れたし、スマホもあるし」

「萌恵とまちがわれないように気を付けてな」

「うん、大丈夫!」

 お気軽に、そう言うと栞は出かけて行った。

 驚くことに、栞はアパートから赤坂まで歩いて行った。電車と地下鉄を乗り換えても一時間はかかる距離だ。

「なるほど……」

 栞は、赤坂までの距離感と周りの景色、そんで、空いているときには赤信号を無視していいことなどを学習した。

 コーヒーショップに着いてびっくりした。

「あら、あなたが『おしり』さん!?」

 そう声を掛けてきたのは国務大臣A氏の奥方で、自身もともとは国会議員だったA伸子さんだった。

 そして、藪蛇だったのは、景色に気を取られ、つい萌絵そっくりな顔を晒してしまったことである。

 パパラッチは見逃さなかった。その日の夕刊にはこう出てしまった。

――AKPの矢頭萌絵、国務大臣夫人のA伸子さんと親密な仲!――

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