大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・209『図書室再開』

2021-06-02 09:18:05 | ノベル

・209

『図書室再開』さくら    

 

 

 読み間違いかと思いました。

 

 銀之助が呟いた。

 百貨店の平日営業が復活したからなのか、図書室の使用が認められるようになった。

 もともと図書室利用者って、そんなに居てへんねんけど、三密を避ける施設の一つにカウントされて利用禁止になってた。

 どうも、公立の図書館が20日まで閉鎖になるので、学校か教育委員会か知らんけど、図書室を使用禁止にしてた。

 せやさかい、文芸部としては、真っ先に復活した図書室に赴いたっちゅうわけ。

 その文芸部でも、銀之助がわたしらよりも早いのは、二年のフロアーが三年のうちらよりも図書室に近いということだけやないと思う。

「夏目君、なにを真剣に読んでるの?」

 留美ちゃんが傍に寄って、銀之助が言った一言が「読み違いかと思いました」やった。

「なにがやのん?」

 三密も忘れて、銀之助の真横に首を並べて新聞のコラムに目を落とす。

 

 え……ほんま!?

 

 読んでビックリした。

 それは、ワクチン接種に駆り出されたお医者さんやら自衛隊員やらのことが書いてある。

 基本的にボランティアみたいな仕事やと思うねんけど、今のご時世、ギャラは払われる。

 その、ギャラがね……。

「え、ウソ!?」

 わたしの十倍は冷静で穏やかな留美ちゃんも、思わず、わたしらと並んでビックリした。

 

 お医者さん 10万6000円  自衛隊 3000円

 

「自衛隊は時給かなあ……」

 いや、時給としても、八時間で24000円。四倍以上違う。

「お医者さんは月給?」

「違います、日給です!」

 銀之助が、目を三角にして言い返しよる。

「ということは……」

 

 同じ、コロナのワクチン注射をやって、お医者さんは106000円。自衛隊は3000円。

 その差……スマホを出して電卓モードにする。

 35倍!?

 ちょっと世の中間違うてません?


「手当やからね。自衛隊は、給料に加算される手当の分」

 注釈をつけて割り込んできたのは、公民の某先生。組合のバリバリさんです。

「だから、そこまでの開きは無い」

 せやけど……。

 自衛隊の給料が安いのは国民的常識。

 仮に、手取り換算で1万円として13000円。

 八倍以上の開きがある。

「勤務医だと、月給は別に支給されてますから、もっと開きます……平均1200万の年収ですから、月給100万……」

「それは、手取りじゃないよ」

 某先生も食い下がる。

 食い下がられても、中学生が義憤にかられるくらいの手当格差やいうのいは変わりがない。

「せやけども……」

 二人は黙ってるけど、うちは、やっぱり口ごたえしてしまう。

「いや、先生も、残業手当とか出ないしね。自衛隊も公務員だし、ま、おたがい大変やいうことだよ(^_^;)」

 いや、この先生が残業してるとこなんか見たことないねんけど。

「教師の給与は、教育職の別建てになっていて、一般行政職よりも4%の上乗せが、そもそもしてありますが」

 銀之助が、中学生とは思えん知識で反撃してきよる。

 

 ちょっと、そこ!

 

 司書室の方から声がかかる。

 顔を向けると、我らが担任・ペコちゃん先生がマスクの上の目を三角にしてる。

「あ、すみません。三密でしたよね(^_^;)」

 某先生が頭を掻いて、ポケットから携帯スプレーを出して消毒液を散布する。

「いえ、それ以前に、図書室では静粛に願います」

 

 そうでした、三密以前の問題でした……。

 

 

 

 

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ライトノベルベスト・『となりのアノコ・1』

2021-06-02 06:37:15 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『となりのアノコ・1』  


       
 アノコが越してきてから三週間になる。

 でも、一向に学校に行く気配が無い。

「高校生なんで、ナリは一人前なんですけど、何も出来ない子なんです」

「お母さん、余計なことを」

「だって、ホントのことだもん」

「引っ越しのご挨拶で言うこと?」

 で、お袋がオバサン特有のお愛想笑いで済ませた。

「オホホホ、おとなり長い間空き家でしたので、寂しかったんですのよ。これからもどうぞよろしく」

 しかし、4月になっても、アノコは学校に行く気配がない。

 お隣りのお父さんは、8時前には会社に出かける。お母さんも9時前に家のことを済ませて、どこかにパートに行ってるようだった。

 ただ、アノコだけが家を出る気配が無い。

 それどころか、お互い建て売りの安普請。ちょっとした音でも聞こえることがある。で、その音が聞こえるのだ。換気扇の回る音、テレビの微かな音、そして二階の部屋の電気が点いたり消えたり。あきらかに誰かが家の中で生活している。

 引っ越しの挨拶にきたときは、三人家族だと言ってたから、アノコが居るのには間違いないだろう。

 なんで、ボクがこんなに詳しいかというと、ボクも学校に行ってないからだ。

 正確には昼間の学校に行ってない。訳あって、通信制の高校にいっている。

 それは、突然だった。

 うちの二階の東の六畳は姉貴が使っていたけど、この春に就職して、家にはいない。

「時々空気入れ替えといてね」

 そう言われて、一度もやってなかったので、掃除機ぶら下げて、姉貴の部屋に入った。

 わずか三週間あまりだけど、人がいない部屋は、かすかに空気がよどんで、机やサッシにホコリが積もっている。で、カーテンと、サッシを同時に開けた。

 で、見てしまった。

 半開きになったアノコの部屋の窓から、裸のアノコの背中が!

 ギクっとしたあと、アノコは裸のまま、窓辺に来て、サッシを閉めカーテンを引いた。時間にして、ほんの2秒も無かった。

 いきなりで、ほとんど一瞬だったけど、アノコが素っ裸だったことはハッキリ目に焼き付いている。

 女の子のことはよく分からないけど、こういう場合、悲鳴を上げたり、とっさに身を隠したり、少なくとも見られて恥ずかしいところは、反射的に隠すだろう。

 アノコは、テスト期間中の職員室に生徒がドアを開けたのを締めに来た先生のような迷惑顔で、胸も隠さずにやった。突然で、やや異常な状況に、ボクは「ごめん」というヒマもなかった。

 裸だったということは省いて、アノコが昼間家に居ることをお袋に言った。

「そう……なんか事情があるんだろうね、明みたいにさ。ま、人のお家、あまり詮索は無し。ちょうどいいわ、回覧板、こんどから明のかかりね。同じ年ごろ同士仲良くなれるといいね」

「え、ああ……」

 ボクは、あの時の異常さから、ちょっと気が引けたが、積極的に断る理由もない。

 で、その緊急の回覧板が明くる日にやってきた。

「道路工事の関係で、明日のゴミ収集変更なの、明君至急回してくれる?」

 アノコの反対隣りのおばさんがやってきた。

「じゃ、お願いね……」

 ボクは重たさ半分興味半分で、アノコの家の呼び鈴を押した。

「あ、明君ね、ちょっと待って」

 意外に明るくクッタクのない声……回覧板を渡したらすぐに帰るつもりだった。

「あたしって、自分をモデルにヌードデッサンやってたの」

「ヌ、ヌードデッサン?」

「アハハ(n*´ω`*n)」

 そこから話が始まって、玄関先ぐらいで済ますつもりが、アノコの部屋まで入ってしまった。

 なるほど、アノコの部屋は書きかけや仕上げた油絵、デッサンが所狭しと散らばっていた。

「キミ、高校生なんだろ?」

「そうよ。明君と同じ通信制」

 そう言われて、不登校、イジメなんて言葉が頭をよぎった。

「そんなんじゃないわよ。絵の勉強したいから、最初から通信制。でもね、他のアートもそうだけど、絵って、ある程度社会のこと知ってないと、限界。それに、美大とか出とかないと、世の中相手にしてくれないのよね。だから、近々全日制の学校に編入するの……どこの学校かって? フフ、それは登校するときのあたしの制服姿楽しみにして。で、明君は、なんで通信制?」

 ボクは……

 ボクは、めったにしない身の上話をアノコにした。

 ボクは、元々は全日制の私学に通っていた。でも、あるクラスの子がイジメが原因で学校に来なくなった。学校は家庭訪問をくり返し、イジメが原因であると断定。イジメた何人かの中にボクの名前が入っていた。当然だけど、ボクたちにイジメた意識も事実も無かった。収まらないボクは、謝罪を前提に、その子の家に担任に連れていってもらった。

「こいつだ。こいつが辞めたら、ボクは学校にいける!」

 で、ボクは責任と、潔白を証明するために学校を辞めた。

 結局ボクが辞めても、その子は学校には来なかった。

 学校は、ボクに復学するように言ってきたが、断った。一方的な事情聴取で、イジメの主犯と断定し、退学届けを喜んで受け取った学校に戻る気にはなれなかった。

「そう……明君て、苦労した末の通信制なんだ」

 感受性が強いんだろう、アノコは頬を染め、涙を浮かべて話を聞いてくれた。

 そして、知った。アノコの名前が亜乃子ということを。だから、呼び方がアノコなんだ。苗字は小野。小野亜乃子。なんと雅やかな古典的な名前であることか。

 ほんの五分ほどのつもりが、一時間ほどになったころ、アノコが急に苦しみだした。

 最初は指先の震え、それが瞬くうちに全身に広がり、唇は紫に、顔色は青白くなっていった。

「しっかりしろ! いま救急車呼ぶから!」

 ボクは、救急車に同乗した。アノコは、なぜかスマホを手から離さなかった。治療の邪魔になるので、やっと手放せたのは、病院に着いてからだった。

 

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コッペリア・11『やることなすこと』

2021-06-02 06:07:28 | 小説6

・11 

『やることなすこと』  






 栞の不思議さは、ぶっ飛んでいた。

 まあ、元々ぶっ飛んだ話ではあるが。

 引っ越し先の前の住人が同姓同名で、亡くなった一か月後に越してきて、前の住人宛てに送られて来たドールの世話をしなくちゃならなくなった。

 で、そいつが人間みたく、喋って動く。百人の人が聞いたら、百人、不思議とかあり得ねえって言うだろう。

 でもって
、やることなすことぶっ飛んでいるから厄介だ。

 今も、ビールをこぼして、拭くと吹くを間違えて、こぼれたビールをフローリングいっぱいに吹きひろげてしまった。

「拭くっていうのは、こういう字を書いて、ダスターとか持って、こぼれたのを吸収させること。栞がやったのは、単に吹き広げてるだけなの!」

「ごめんなさい……」

「この子は、喋って動けるけど、言葉の意味と行動が結びつかないんだぜ。一から教えてやるしかねえなあ……」

 大家が、半ば他人事のように言う。

「したっけ、不思議なんだけどさ。どうして、自分の名前を最初から『栞』って知ってるんだ? それに、どうして関西訛なんだ。この人形は東京の葛飾で作られたようだぜ」

 不動産屋が、栞の送り状を見て、不思議を広げてしまう。

「それにさ、隣のセラちゃんとこに行ったときは、人間だと思われたんだろ?」

「ええ、その上に誤解してましたね。ボクが女の子を連れ込んだように思ってましたよ」

「ま、とにかく一から教えなくっちゃな……それに着るものなんとかしてやろうよ。こんなディスカウントのペラペラじゃあ。ちょっと栞ちゃん、立ってごらんな」

 栞が気を付けをすると、大家は右手の指を尺取にして、栞のサイズを測りだした。

「大家さん手馴れてますね」

「集団就職で最初に来たのが洋裁屋だったからね……うん、孫娘のサイズでいけるな。S~XSってとこだ。見繕ってきてやるよ」

「ちょっと実験してみるな……」

 パシャ

 不動産屋が、スマホを出して栞の写真を撮った。

「こりゃ、どう見ても人間だ!」

 スマホの画面に写っていたのは、十五・六の小柄な女の子だ、寂しさと好奇心が同居したような、見ようによっては今時珍しい、媚も開き直りも無い無垢な姿ではあった。

「こりゃ、どうやら他人様には人間に見えるんだ。訳知りの三人だけが、本来のドールの姿に見えるらしいな。だからセラちゃんは、あんなこと言ったんだぜ」

「大家さん、下着も用意してやった方がいいぜ。安物のコスプレ衣装だから、座ると丸見えだし、生地が薄いから透けて見えるよ」

「分かった、なんとかするよ」

「すみません」

 と、言いながら、なんでボクが謝らなければならないのかと思った。

 どうやら、先代の立風颯太氏には、完全な妹としての栞のイメージがあったようだが、ドール本体が届いて躾ける前に亡くなってしまった。それがあとからやってきた颯太に憑りついたというか、託されたというか、一応いのちを吹き込み、ある程度喋ったり動いたりできるようにはなったようだが、所詮は同姓同名だけのよしみ。大半の事は颯太が教えてやらなければならないようだ。

 箸の上げ下ろしから教えなければならなかった。

 だが、産業用ロボットのように、手を取って一度動きを教えてやると、一発で覚えた。

 立ち居振る舞いは、颯太の動きを見て覚える……のはいいが、当然のごとく男の動きになる。

「困ったなあ……」

「困ったなあ……」

 栞は関西訛の言葉で、同じように腕を組む。颯太は無意識に胡坐をかいてしまうので、栞も胡坐である。短いスカートの中が丸見えになってしまう。

 颯太は、いいことを思いついた。パソコンで自分が好きなAKPの矢藤萌絵の画像を見せた。萌絵はAKPの選抜のセンターなので、テレビ番組の他、プライベート映像も沢山ネットで流れている。颯太自身、非常勤講師採用のための健康診断に行かなければならなかったので、半日パソコンで矢藤萌絵の画像を見ておくように言った。

「ただいまあ」

「おかえりなさい」という声が返ってきた。

 立ち居振る舞いも矢藤萌絵のようになってきている。ただ言葉は関西訛がとれなかった。

 まあ、本来のオーナーは大阪の人なんだから仕方ないかと思い直した。

 そこに、大家がトートバッグをぶら下げて、うかない顔でやってきた。

「ほら、お古だけど、衣装だ。下着はネットで注文しといたから、明日には届くよ」

「すみません、ご面倒おかけして」

「それはいいんだけどよ、こんなものが来ちまった」

 大家が差し出したのは、大家気付にはなっているが、栞の神楽坂高校への転入許可書であった……。

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