大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 10『天下布部のお茶会』   

2021-06-22 14:50:44 | ノベル2

ら 信長転生記

10『天下布部のお茶会』   

 

 

 一つぐらいは同じ部活をやろうということで、天下布部の三人で茶道部に向かった。

 

「茶道部に行くのは初めてなのか?」

「ああ、前世ではさんざんやったからな」

「飲むものと言えばお酒よ。信玄の言う通り茶道は人付き合いの手段に過ぎないからね」

 二人とも茶道が確立する前に死んでいる、そろって酒豪でもあるから、興味が薄いんだろう。

 

 茶道部は校舎裏の竹林の中にある。

 

「寺の山門に似ているわね」

 山門は二層のこけら葺きで、軽やかな印象なのは女子高のせいか。

「恵林寺の山門に似ている」

 信玄が呟いて思い出した。

 俺の意に逆らって六角義弼をかくまったので、寺の坊主ごと焼き払ってやった。

 心頭滅却すれば火もまた涼し……強がりを言って焼け死んだのは何という坊主だったか。

 打ち水をした飛び石の向こうに茅葺の茶室。

 茶道部に足を向けることを決めたのは、ついさっきなのだが、準備が整った様子。

 信玄か謙信のどちらかが見越して連絡を入れていたのかもしれない。

 まあ、この二人なら、それくらいのことはするだろう。

 

「あら、珍しい人が来たわね」

 

 茶室の裏から回ってきたのは、ショートカットが似合う三年生だ。

「ああ、一つぐらいは同じ趣味を持とうということになってな。こちら、転校生の織田信長だ。信長、この三年生が千利休だ」

「千利休……」

「はい、待機時間が短かったので」

「待機時間?」

「ええ、一瞬に思えるけど、死んでからこちらに来るのは時間があって、人によって違うみたいよ。それで、織田君よりも先に、こっちにきたみたい」

「であるか……信長だ、よろしく」

「ん、茶室は閉まっているの?」

 謙信が変なことを言う。

「分かった?」

「炉に火が入っていれば、窓から微かにでも陰ろひが窺えるんだけど、それがないわ」

「今日は、お紅茶の日なの。それでよかったら、東屋の方にいらして」

 紅茶……ああ、伴天連の茶か。

 茶室のある竹藪を抜けると、芝生の庭になっていて、アイボリーと淡いピンクの東屋が見えてきた。

「お客様の分もご用意お願い」

 利休が声を掛けると、お下げの一年生が顔を出した。

「いらっしゃいませ、ちょうどお湯が沸いたところなので、すぐにご用意します」

「一年生の弟子です。自己紹介なさい」

「初めてお目にかかります、一年生の……古田(こだ)です」

「ふふ、じゃ、今日はあなたが亭主ね。こ・だ・さん」

「はい、どうぞ、こちらへ」

 東屋のテーブルに着くと、すでに伴天連の茶器が用意してある。

「お知らせ頂いていたら、マイセンとかご用意したんだけど、今日は茶道部の普段使い。ごめんなさいね」

「そのぶん、お茶の葉は届いたばかりのハイグローブです」

「ああ、プリンスオブウェールズブランドのお茶ですね」

 謙信は紅茶についても見識が深いようだ。信玄は、ただニコニコと座っている。

「新しいお茶を開ける時は、ワクワクしますね。それじゃ、開けてもらえます!」

 利休が子どもっぽく時めいている。

 知っている利休はこうではない。伴天連のお茶を開けてみると言うワクワク感を演出しているのだろうか。

「それでは……」

 パシュ

 小気味よく、一閃で封を解く。

 この鮮やかさ……ただの一年生ではないな。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田大神        信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・46『タケミカヅチ』

2021-06-22 09:08:04 | 評論

訳日本の神話・46
『タケミカヅチ』  

 

 

 イザナギ・イザナミのミトノマグワイ(男女でいたすこと)の最後に生まれたのが火の神(ホノヤギハヤヲ)であることは、5『イザナギ・イザナミの神生み』で触れました。

 イザナミを焼き殺したホノヤギハヤヲはイザナギによって切られてしまいますが、この時に使われた剣がイツノヲハバリで、このイツノヲハバリに着いた血から生まれたのがタケミカヅチです。

 アマテラスにすると、母の仇の火の神をやっつけた特別な剣で、その剣が神として神格化したものですね。

 

 アマテラスに命じらて出撃したのは息子に当るタケミカヅチです。

 

 タケミカヅチはアメノトリフネに乗って出雲の國の伊耶佐小濱(いぎさのおはま)に降り立ちます。

 この時の現れ方が、赤塚不二夫の漫画風なのです。

 最初に、このくだりを読んだ時は『天才バカボン』の一コマかと思いました。

 

 岩の上に突き刺さったトツカノツルギの上で胡座をかいています。

 ときどき、上下が逆さまになったりして、驚くオオクニヌシに凄いことを言います。

「オオクニヌシ、ここは豊蘆原の中国(トヨアシハラノナカツクニ)は天照大神のお子であるアメノオシホミミ(アマテラスの玉から生まれた)が治めることになった」

「え、初めて聞いたぞ」

「初めて言ったのだ」

「なんだ、それは!?」

「これまで、アマテラスさまは、三人の神を遣わされたが、ことごとく役に立たなかった」

「ワハハ、頼りない奴ばかりだったからだ」

「ちがうぞ、オオクニヌシ。アマテラスさまは、なるべく穏便に国譲りを果たそうとなさって、穏やかな神たちを遣わされたが、仏の顔も三度まで……神さまだけどな。もう、四の五の言わせねえぞ。俺は、イザナミノミコトを焼き殺した火の神をギッタギタにやっつけたイツノヲハバリの息子だ。でもって、親父よりも強いからな、逆らったらぶっ殺す!」

 バカボンパパのようなシュールな現れ方だけでも不気味なのに、その出自を聞いて、オオクニヌシはビビってしまいます。

「えと……わたしはね、根の国粗忽国の……」

「粗忽な国なのか?」

「いや、底つ国だ。いちいち変換ミスを言わんでもいい(^_^;)、で、粗忽国……うつってしまった」

「底つ国がどーした?」

「底つ国のスサノオノミコトから頂いた土地だ、簡単には渡せるか」

「アホか。スサノオなんて、とっくの昔にアマテラスさまに負けとるぞ。んなのは無効に決まっとるだろーが。粗忽国なんてめじゃねえ」

「あ、また変換ミス」

「変換ミスは、おまえがバカだからだ、さっさと譲れ。譲ったら、ちゃんと神社たてて祀ってやるぞ。嫌なら、ここで死刑だ!」

「わ、分かった(;'∀')」

 オオクニヌシは降参しますが、取り巻きの部下の神たちが剣を抜いたり、大岩を投げつけて抵抗しますが、タケミカヅチは特大の雷を落としてやっつけてしまいます。

 ガラガラ ピッシャーーーン!!

 タケミカヅチは剣の神でもありますが、雷神でもあります。

 オオクニヌシは出雲の多芸志(たきし)の小浜に神社を建ててもらって隠居することになります。

 こうやって、アマテラスは、改めて息子のアメノオシホミミを遣わすことにします。

 しかし、先にも書きましたが、このアメノオシホミミが、どうにも頼りない。

 一番最初に、中つ国遠征を命じられた時も、あれこれ理由を付けて断っていました。

 そのために、アメノホヒ → アメノワカヒコ → タケミカヅチ の三人が相次いで派遣され、その都度、アマテラスは気をもんで、皴の数を増やしてしまったのです。

 話は、まだまだ二転三転の気配です。

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ライトノベルベスト・〔予感〕

2021-06-22 06:38:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

予感』  




 気が早いけど、コスモスが咲く予感がした。

 と言って、ジュンはコスモスが好きなわけではない。

 コスモスが咲くころまでにはケリを付けなければならないのだ。

 去年は、暑い夏が続いたので油断していた。

 コスモスが咲いて、彼は逝ってしまった。

 今年は、死なせてはいけない。

 

 そう思って、もう三日もメールに返事もしていない。今朝からはブロックさえしている。

 もうメールを送ってきてもアンデリバリーになるはずだ。

 二学期に入ってからは学校に入る門も変えている。

 当たり前なら気づいていいはずだ。

 オレはジュンに嫌われている……って。

 ところが、今朝のあいつは、南門でジュンを待っていた。

「あはよう。帰り、ここで待ってっから」

 笑顔でそういうと、返事も聞かずにあいつは昇降口へ走っていった。

 直に本当のことを言えたら、どれだけいいだろう……。

 ジュンは裏の裏をかいて、その日は、南門から学校を出た。

 よかった、あいつはいない。

 きっと裏をかいたつもりで正門でジュンを待っているだろう。少し心が痛んだけど、ジュンはこれでいいと思った。

 念のため、駅一つ分先で電車に乗るため、大川の堤防の上を歩いた。

「おう、こんなことだと思ったぜ!」

 河川敷から陽気な声が駆け上がってきた。

「三加くん……」

「ちょっと暑いけど、歩くか!」

 三加は、シャツの袖をまくりながら歩き出した。気づくとジュンが付いてきていない。

「もう、あたし三加くんのこと嫌いなの」

「ジュン……」

「ウザイの。三日もメールに返事しなきゃ分かるでしょ」

「わかんね」

「毎日、学校に入る門変えて、三加くんに会わないようにしてたじゃん。もうストーカーみたく付きまとわらないでくれる!?」

「付きまとうっていうのは、相手が迷惑してる場合に相応しい言葉だ。ちがう?」

 

 三加は陽気に肩をすくめてみせた。

「迷惑なの!!」

 そう叫ぶと三加は、ノーとイエスを聞き違えたイタリア人のように軽々と近寄ってきた。目の前10センチまで。

「でも、ジュンの目は迷惑がっていないぜ」

 瞬間見つめあってしまった。

「わーい、アベックアベック!」

 河川敷の小学生たちがはやし立てる。

「うっせー! アベックだと思ったら冷やかすんじゃねえ!」

 三加の意外な迫力にガキどもは逃げて行った。

「ここで話そう」

「いいよ」

 三加は気を利かして、タオルハンカチを二枚出して、堤防の傾斜にしいた。

 上手い具合に雲がかかって、あたりに日陰をつくった。

「三加くんのことは好きだけど、コスモスが咲くまでに別れなきゃ、三加くん死んじゃう。嘘じゃないほんとよ」

「上等じゃん」

「あたし、あたしね……」

「ジュンは天使みたいだ……天使すぎて、ほとんど悪魔。悪魔なんだろ芽扶ジュン」

「んなこと……」

「あの雲が真上に来てるのは偶然じゃない、ジュンの力だ。優しさだ」

「あ……」

 雲が動き出した。

「大丈夫だよ。おれ、汗なんかかかないから」

「三加くん……」

「オレ、落ちこぼれだけど、天使だから」

「え……?」

「ジュンも落ちこぼれだろ? 修業が足りないとかで、人間界に落とされた。メフィストの娘だ。毎年春に恋をして、コスモスが咲くころまでに別れなきゃ、相手の男は死んでしまう。一年の秋からの転校って、そういう事情があるからなんだよな。オレも似たような事情」

 三加が指を動かすと、雲がラテン語でミカエルという字になった。

 ジュンは、地獄を追放されてから、初めて喜びが込み上げてきた。

 人生も捨てたもんじゃないよね。

 こうして、悪魔でも天使でもない存在が生まれ人の中に強い血が混じっていった。その吉凶は、もう少しすれば分かるだろう……。

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コッペリア・31『二つの安心 二つの驚き』

2021-06-22 06:22:47 | 小説6

・31

『二つの安心 二つの驚き』  

 



 なんか変だったんですよね、昨日は……休憩室で横になってたら、あたしの分身が現れて、その日の仕事を全部やってくれたんです。

 でもね、ちゃんと仕事の中身も自分がやったみたいに憶えてるんですよね。

 でも、なんか実感が乏しくて。

 でね、生まれて初めて心療内科って行ったんですよ。

 そしたら先生が疲れからくる離人症だって。あたしって直ぐに頷いちゃうんだけど、分かってないんですよね……でも、調べると半分寝てる状態で、やることはやっちゃうって、なんか心理的な自己防衛らしいんです。

 まあ、調子はともかくAKPの総監督ってのは、こんなに忙しいもんなんだってこと、分かってもらえるかなあ……?

 

 アハハハハハ

 仲間や後輩たちが笑う気配。

 どうやら、矢頭萌絵は、疲れた末に、なんだか夢のようなことをやったと思っているらしい。

 栞は安心してAKPのホームページを閉じた。

 萌絵と入れ替わったことは、本人も含め、夢のような話で終わったようだ。

 あとは、咲月の合否だ。

 大仏康と話はつけたが、最終決定権は大仏にある。以前も土壇場で合格者を変更している。

――受かった!――

 メールが夕べ遅くに咲月からやってきた。

 二つ目も安心。

 で、今日学校に行ったら、驚くことが二つあった。

 咲月の合格が、静かに広まっていたこと。

 AKPの合格者はネットで公表される。むろん住所や学校名なんかは出てないけど、咲月は、このAKPのために留年までしていて、半分くらいの生徒と先生の全員が知っている。

 みんなは、なぜ咲月がAKPにこだわったかを知らない。

 だから、十七にもなってAKPのオーディションを受け、そのために落第までしたことを半ばバカにして見ていた。それがコケの一念で合格すると評価は百八十度変化した。

――今回の十二期生は粒ぞろいですよ!――

 大仏康の講評も後押ししてくれて、咲月は一晩で、神楽坂高校のヒロインになってしまった。

 予想以上の反応に、栞も我が事のように嬉しかった。

 そして、朝のホームルームで驚いた。

 今日は身体測定と内科検診なのである。

 検診で裸になることは恥ずかしくない。

 そういう神経は颯太が命を吹き込んでくれた時から持ち合わせていない。

 問題は内科検診。

 見かけは人間そっくりだけど、元はビニールの外皮に塩ビの骨格である。

 レントゲンや心臓検診をやったら人間でないことが分かってしまうんじゃないか?

 心配だ……。

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