鳴かぬなら 信長転生記
そこに座れ。
リビングの床を指し示すと、一(いち)は大人しく正座する。
俺は、リビングから続く六畳に座る。むろん胡座だ。
リビングのソファーに座らせてはツンツルテンのスカートの中が見えてしまう。
いまの俺は女だから、見えても構うことは無いのだが、俺の美意識に反する。
それに、六畳の部分は畳の分だけ高くなっていて、図らずも上段の間になっている。
位置関係は人間関係を現す。
不肖の妹には、それを示すところから始めなければならない。
一も呑み込んだので、素直に正座している。
「何故だ!?」
「追ってきた」
「何故死んだ?」
「あんたが死んだあと、勝家の嫁に出された。勝家の城を猿が攻めてきた。三人の姫を逃して、勝家と共に死んだ」
「なぜ逃げなんだ?」
「逃げたら猿しかおらん」
「猿は嫌いか?」
「嫌い」
「猿は、一に惚れておる。意に添わんことはせん」
「猿と同じ空気を吸うのも嫌」
「……茶を、いや、コーヒーを淹れてくれ」
「……うん」
妹でなければ切っている。
『タメ口だから?』
熱田大神、お前の居所は、庭の祠だ。
『いっちゃんのことは、わたしの責任でもあるから』
好きにしろ。
『心で喋ること覚えたんだ(^▽^)』
妹の前だ。
『やっぱ、妹には優しいんだ』
祠、叩き壊すぞ。
『はいはい、もう黙るから。あ、冷蔵庫にイチゴケーキ入ってるから。じゃね』
であるか。
「砂糖は四つ。冷蔵庫のイチゴケーキも出せ……いや、自分で出そう」
「糖尿になるよ」
「いまの俺は17歳だ」
「女子高生の信長だなんて、キモイんですけど」
おお、冷蔵庫の中はスイーツがいっぱい!
これだけでも転生した甲斐があるぞ。これ……と……これと(^▽^)
「二つも!?」
「食べずに死ねるか(^^♪」
「って、もう死んでるし」
最初にモンブランを平らげ、砂糖四つのコーヒーを飲みながらイチゴケーキを食べるのだ。
「キモイと言ったか」
「う、ううん(聞こえてたんだ(;'∀'))」
「一こそどうした。なぜ、女のまま転生しておる」
「天下なんて、どーでもいいし。でも、熱田大神が転生するならあんたの妹って枠しか無いってゆーし」
「キャラが違いすぎるが」
「いい子ぶるのは止めたの!」
「ほう……」
「前世のあんたは、好き放題やってたじゃん。今度は、あたしがやるんだ!」
「……………」
「……………」
「……………」
「な、なんか言ったら!」
「……食っている」
「もう!」
「そういうかぶき方をしていたのは桶狭間までだぞ」
「い、いいじゃん。いまのあたしは、こーゆーの好きなんだから!」
「……………」
「……………」
「……………」
「な、なんか言ったら!」
「……食っている」
「もう!」
「二回目だ」
「な、なにが!?」
「まあ、好きにしろ」
パンパン
「なに、手叩いてるの?」
「手を叩いたら、誰が出てくるのかと思ってな」
『はいはい、お呼びかしらあ?』
「あ、熱田大神!?」
「一にも見えるのか?」
『あんたたち仲良くなったみたいだし。で、用件は?』
「『一』では馴染めん、元々の『市』にしろ」
『うん、いいわよ。もともとドッキリのつもりだったし』
「「ドッキリか!?」」
『うん』
「それから、こいつは妹では無くて女中という設定にしろ」
「じょ、女中!?」
「この時代はお手伝いさんであったか」
「お手伝い!?」
「いっそ、メイドがいいか。うんメイド服が似合いそうだな……」
「いやだ!」
「では、人間に化けた宇宙人」
「……………」
「妖ではどうだ。熱田大神といっしょに祀ってやるぞ」
「無理!」
『妹というのはデフォルトなんだけどなあ』
「こいつは、妹を辞めたいそうだから、なんとかしてやれ」
「あ、あの……」
「そうだ、従姉妹がいい。そうしろ」
『仕方ないなあ……ここ変えると、他の所で歪が出てくるんだけど』
「い……市の頼みだ、聞いてやれ」
『分かった。じゃね……』
「…………………………………」
「な、なによ」
「……イチ」
「え?」
「イチ……ゴケーキ、食べないんだったら俺にくれ!」
ズコ
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で打ち取られて転生してきた
- 熱田大神 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)