goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記・4『転生ことはじめ・3』

2021-06-14 14:46:50 | ノベル2

ら 信長転生記

4『転生ことはじめ・3』   

 

 

 デフォルトにするわね(^▽^)/

 

 熱田大神の声がしたかと思うと、衣装が変わった。

 なんだ、これは?

 一瞬驚いたが、すぐに情報がインストールされて合点がいった。

 細身のジーンズに茜のカットソー、カットソーにははみ出るように木瓜の家紋と永楽通宝がプリントしてある。

 左肩からか斜めに掛けたボディーバッグは足軽めいてはいるが、俺好みに機能的な装いだ。

 いきなり、この出で立で転生していたら驚いただろうが、いったん小袖姿になっていたので混乱は無い。

 場所も、表通りから入りこんだ生活道路で、人に見られることも無かったようだ。

 

『ここが信長君が生活する街ね』

 

「承知」

 五十坪前後の家が立ち並んでいる。

 ほとんどの家に、猫の額ほどの坪庭と駐車スペースが付いている。

 足軽組頭ほどの者が住む中産階級の街だ。

 天下人の信長が住むには物足りないが、一(はじめ)という弟との二人暮らしなら、こんなものだろう。

 あの角を曲がると俺の家か……。

 

 角を曲がった。

 

『いかがかしらあ?』

 やや大きい。

 軽なら二台は置けそうな駐車スペース、扉の無い門柱が結界のように立っていて、伴天連の文字で『ODA』と鉄の細工文字が打ってある。二階建ての屋根瓦は当世風のペラペラだが、安土の天守を偲ばせる青瓦だ。

「太陽光パネルが無いところがいい」

『あ、するどーい! あれって、いろいろ問題あるのよね』

「テレビアンテナはあるのか」

『元は伯父さんの家だから』

「伯父とは?」

『あ、設定だけ』

「掃除が行き届いておらん」

『三か月前から空き家だもん』

「庭の祠は何だ?」

『わたしの』

「熱田神宮があろうが」

『出張所』

「……であるか」

『ちょっと、わたしのこと嫌い?』

「きれい好きなのだ」

『むーー!』

「少し黙れ、神のおしゃべりはみっともない」

 さっそく大工を入れて手入れしなければと検分していると、背後から声が掛かった。

 

「さっさと開けろよ!」

 

 振り返ると、変な奴が手下を従えて立っている。

 ちょっとかぶいたナリはしているが、手下を含めて女子高生か中学生。

 近所のバカどもか?

「なに、ジロジロ見てんだ、さっさと玄関開けろよ、ネーチャンよ」

「ネーチャン? 脅しで言ってるのか?」

 赤の他人を「ネーチャン」とか「ニイチャン」と呼ぶのは下賤のチンピラと決まっている。

「ちげーよ! あたしは、あんたの妹だ! で、この家で一番偉えんだよ!」

「妹? 妹はおらん」

「んだと、この、腐れ信長あ!」

「腐っているのはお前だ、頭を冷やして自分の家に帰れ」

「妹だつってんだろーが! 織田信長の妹の一(いち)だ!」

「いち……だと?」

「ああ、この世で一番、何をやらせても一番の一だ!」

「ちょっと待て!」

「スマホなんか見るな!」

「『一』と書いて『はじめ』ではないのか?」

「な、なに言ってんだ! 信長の妹つったらイチに決まってんだろーが!」

「……そうか……そうであったか……アハ、アハハハハ」

「わ、笑うなあ!」

「これが笑わずにおれるか、アハハハ アハハハ……」

「く、くそ、もう許さねえ! お姉ちゃんだって許さねえ! みんな、このクソをたたんじまえ!」

「「「「「お、おう!」」」」」

 ドシ! バシ! ゲシ! ドガ! ドコ! ボコ! ズコ! ドゴゴーン!

 三回蹴り倒し、四回殴り倒すと、イチを除いて全員逃げ散っていった。

 最後の『ドゴゴーン!』はイチに飛び蹴りを食らわせた衝撃音だ。

 パシパシ!

 伸びたイチの頬に往復ビンタを食らわせる。

「答えろ。お前は……俺の妹の市なのか?」

「たった今、妹は辞めた……」

 こんな恨みに満ちた目を向けられたことは無い。

 無いが……この切れ長の美しい目はまごう事なき、妹の市ではあった。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・211『ちょっと太ったんじゃない?』

2021-06-14 09:00:40 | ノベル

・211

『ちょっと太ったんじゃない?』詩(ことは)    

 

 

 ちょっと太ったんじゃない?

 

 そう言うと、さくらと留美ちゃん、お母さんまで虚を突かれたような顔をしてわたしを見る。

 それからの反応は三人三様。

 さくらは『バレたか(^O^;)』という感じで頭を掻く。

 留美ちゃんは『え(;'∀')?』と怯えたように目を点にする。

 お母さんは『何を今さら(ー_ー)』と平然を装う。

 

「あはは、みんなのことじゃないわよ(^_^;)」

 

 コロナ自粛も一年と半年。

 コロナの間に、高校を卒業して大学生になり、あれだけ熱心にやっていた吹部からも遠ざかり、相棒のサックスもケースに入れっぱなし。

 これはマズいと、久々にサックス出して、それでも人恋しくてリビングに隣接する八畳間で手入れをしていた。

 すると、だれにも構ってもらえなくなったダミアが膝に乗ってきた。

 

 ダミアは、一昨年、さくらたちが拾ってきた子猫。

 最初の内は、それこそねこっ可愛がり。

 なんせ、ちっちゃくて、つぶらな瞳で、モフモフで、『可愛』という文字が生き物に化けたらこうなるって感じだった。

 お祖父ちゃんまで、むかし飼っていて、永久欠番になっていた飼い猫の『ダミア』の名前を付けてくれた。

 これは、ジャイアンツの新人に背番号『3』が与えられるようなもの。

 ダミアはメインクーンという種類の、マリーアントワネットも飼っていたという高貴な種類の猫で、大人になると並みの猫の三倍ほどになる。

 そいつが、サックスの手入れをしているわたしの膝の上に乗ってきたのだ!

 不意に乗ってきたこともあるんだけど、思っていたよりも重い!

 で「ちょっと太ったんじゃない?」になって、我が家の女性たちに要らぬ衝撃を与えてしまったというわけ。

 

「よし、散歩に行くぞ!」

 

 ダミアを散歩に連れ出す。

 一年前、さくらが面白がってダミアにリードを付けて散歩に引っ張り出したことがある。

 その時の首輪とリードを持ってきて装着。

「いざ、出陣!」

 景気を付けて境内に出るわたし。リビングの方からは『ようやる~』『だいじょうぶ?』『がんばれ!』とかの視線を感じるけど、まあ、ダミアは末の妹のようなもの。お姉ちゃんがしっかりしないでどうすんだ!

 しかし、標準の三倍のブタネコは山門の前まで出たところで、尻餅をついて動かなくなってしまう。

「散歩だって言ってるのにい……!」

 十キロを肥える、いや超えるブタネコは微動だにしない。

 山門の前を通るご近所さんたちに目を丸くされる。新聞配達のオニイサンは遠慮なく笑っていくし、ゴミを漁っていたカラスまでも「アホーー」と笑って飛んでいく。

 めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。

「もう、また今度だ!」

 宣言すると、ブタネコが笑った。

「ニャハハハ」

 そして、悠然とリードを引きずったまま本堂の階段を上がっていく。

 くそ!

 フギャ!

 わたしの怨念が通じたのか、ブタネコは、五段目を踏み外して、ゴロゴロ、ベシャッ!

 一番下の石畳に転げ落ちて『笑うな!』という顔をした。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『その人が通る』

2021-06-14 06:48:15 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『その人が通る』 

 




 午前四時に起きてその人を待った。もう、これが最後になるから……。

 午前五時に、その人が起動したサインがした。この日この時のために選んだAKB結成五十周年記念の曲『MAM』だ。お祖母ちゃんが好きだった『SO LONG』でもいいかなと思ったんだけど、やっぱ、最後の日ぐらいは自分の趣味を通したかった。

 その人が、三つ向こうの角を曲がったことを、スマホのナビが教えてくれた。

 ここから駆け出せば、ちょうど三つ目の角で出くわし、上手くいけば公園のベンチに座って話ぐらいできるかもしれない。

 不自然にならないように、最初の角までは全力疾走した。角を曲がったら適度に汗が噴き出し、心臓もドキドキしてきた。

「こんにちは」

 で、躓いてしまった……て、こけたわけじゃない。予定では「おはようございます」のはずだった。

 でも、その人は「こんにちは」と返してくれた。少し動揺したけど、ジョギングの息の乱れでごまかせた。

「まだ、ジョギング始めて間がないんでしょ?」

「え、ええ、やっと三日目。ちょっと、その公園で休んでいきます」

 脇腹を抱えて、わたしはベンチに腰掛けた。

「わたしも……始発電車には間があるから」

 その人が横に座った。
 

 まぶしくて、悲しくて、まともには見られなかった。汗拭くふりしてチラ見するのがやっとだった。

 とても若くて、きれいだった。

 そっとスマホをアナライザーモードにして、ナニゲにみたら「推定年齢22歳、身長158……」から始まっていろいろ出てくる。

 グッと胸がせきあがってくるばかりなので、すぐに切った。

「オネエサンは、この町の人?」

「職業柄言えないの。でも好きよ、この町」

「な、名前聞いていいですか?」

「友香。渡辺友香。あなたは?」

「杉本アヤ。名前は片仮名」

「そう、素敵ね。片仮名だったら、大人になっていろんな意味が載せられるわね」

「言葉の綾とか怪しいのアヤとか」

「まあ、アハハハ」

「「アハハハ……」」

 いっしょに笑えるとは思わなかった。最後に笑えた、いっしょに笑えた。

 それで満足だった。たとえ渡辺友香が、次の仕事に就くまでの仮名だとしても、満足……。

 ううん、満足なんかじゃない。でも、これが、わたしの限界だった。でもいい、夕べは笑えなかったんだから。

「さあ、じゃ、そろそろ行くわ。ジョギングがんばってね」

「うん、ありがとう、友香さん!」

「じゃ、アヤちゃん!」

 その人のドットは、駅の改札前で消えた。正確には消した。

 怪しい発信機の付いたアンドロイドは、駅でチェックされる。で、いろいろ調べられてアンドロイドだと分かれば物扱いで、リース会社に送り返され、わたしが送信機を付けたことも分かってしまう。

 あの人は、12年間わたしを育ててくれた、わたしのお母さん。

 わたしが13歳になる前日までの契約だったんだ。

 わたしが生まれたとき、生んだお母さんは23歳だった。まだ仕事一本で行きたかったお母さんは、代理母のアンドロイドを雇い、この歳まで、ほったらかしておいた。

 気づいたのは8歳の時。

 生んだお母さんが妹を妊娠した。その間だけ生んだお母さんが戻ってきた。

 あたしは、なんとなく違和感があった。

 お父さんが点けっぱなしにしていたPCで、みんな分かっちゃった。でも、わたしは知らんふりした。

 だって、わたしにとってお母さんは、例えアンドロイドでも、あの人だから。

 アンドロイドのお母さん、中身は機械だけど、皮膚は生体組織で、雇い主の年齢に合わせて歳もとっていく。夕べまでの、あの人は35歳だった。今は、次の契約者に合わせて22歳になった。そして今までのお母さんとしての記憶は消去されてしまった。

 そのときスマホが鳴った。

 瞬間、
訳も分からない期待が突き上げてきた。

 奇跡がおこったんじゃないかって!

 少しは当たっていた。5歳の妹がオネエサンぽい言い方で言った。

『お姉ちゃん、どこ行ってるのよさ。早く帰ってこないと、お父さんもお母さんも起きちゃうよ!』

「分かった、すぐ帰る……」

 声で分かった。

 妹は発育促進処理されて、10歳程度に飛躍させられている。法律で定められた限界を超えている。もともとザル法だけど。あの人を雇い続けるよりは安くつく。

「急いで帰らなくっちゃ」

 わたしは、家に帰るまで、その人がお母さんとして戻ってきてくれる幻想を持ちながら……走った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コッペリア・23『パセリは式神の香りがする』

2021-06-14 06:22:56 | 小説6

・23 

『パセリは式神の香りがする』 

 

 


 まな板を叩く音が乱れた。


「栞ちゃん……?」

「え、あ、いえ……」

 

 事の起こりはスマホだ。

 校門を出たところで着メロが鳴った。A大臣の伸子夫人からだった。

――遊びに来ない?――

 50も歳が違うというのに、同級生を誘うような気楽な文面だった。

 で、伸子夫人から、簡単な料理の基本を習っているところだ。

 パセリを微塵切りにして保存する方法を習っている。

 微塵に切るのはお手の物だった。

 朝ごはんに入れるネギを切るのと変わりない。だけど、その変わりの無さから、写真立ての中身が思い出された。

 写真立ての表は富士山だが、その下には女の人の写真が隠れている。

 セラさんといっしょに部屋の掃除をしているときに発見したのだ。

 焼きもち……ではない。颯太とは兄妹の関係……ということになっているし、そう思っている。

 栞は、かなりの確率で人の心が読める。

 颯太の心もほとんど分かっているつもりだ。

 ただ、あの写真の女の人に関しては、颯太の心の鍵が硬くて読むことができない。そして半分は読むことそのものに栞は恐れをいだいていた。それが包丁の音の乱れになった。

「……そうだったの」

 伸子夫人は聞き上手だ。

 聞いてもらうと、それだけで安心できるような穏やかさと心の広さが夫人にはある。

「そうだったの……それだけ鍵がかかっているというのは、強い思いが、その写真の女の人にあるのね」

「恨みとかじゃないんです。そんな暗い感情は感じませんから……でも痛みを感じるんです。大阪からわざわざ東京に越してきたことも、その人が関係している……勘ですけど」

「そうね……あ、パセリは布巾で包んで水に晒して、ギュッと絞る……そうそう、脱水機にかけたぐらいになるまでね。あとは少し乾燥させて密封容器に入れて、冷凍庫で保存。必要な時にお料理にかければ、新鮮な刻みたてのパセリに戻るから」

 二度絞って布巾を開くと、パセリの青い香りが広がった。

「……こんな風に、お兄ちゃんの心も解凍できればいいんですけど……パセリの青い香りっていいですね」

 栞は、パセリのまじりっけなしの青い香りが、こんなにいいものだとは思わなかった。

「お兄さんの想いも、パセリと同じかもね……そうだ、ちょっと待っててね!」

 伸子夫人がキッチンを出ていくと伸子夫人の孫の竜一がスーツ姿で現れた。

「やあ、今日も来てたんだ」

 本当は、伸子夫人がいなくなるのを見計らって入ってきたのが丸わかりだった。

「あ、コーヒー飲もうと思って」

 見透かした栞の目にたじろいで、竜一は一時しのぎの出まかせを言う。

 栞は竜一の無邪気な自分への関心を不愉快には思っていなかった。

「それなら、あたしが一から淹れます。そこに座って待っててください」

 豆を挽くところから作ってやった。

 竜一は心ときめかして栞を見ている。

 竜一の頭の中では、背を向けてコーヒーを入れている自分が裸にされているのがおかしかった。女の子への憧憬が少年のように初々しい。

 三人分のコーヒーが入ったところで伸子夫人が戻って来た。

「またこんなところで。今日は就活のガイダンスでしょ、さっさと行きなさい」

「お引止めしたのは、あたしなんです。コーヒーが飲みたいっておっしゃるんで、パックのじゃ味気ないから、伸子さんの分もいっしょに作っておきました」

「そうなの、ありがとう。飲んだらさっさと行くのよ竜一」

「う、うん」

 竜一が出ていくのを見計らって、伸子夫人は人型の紙を取り出した。

「これ、式神っていうの。実家が陰陽師の家系でね、ちょっとこんなことも。ご先祖は、これを人間に化けさせて、いろんな用事をさせたらしいけど、そこまでの力はさすがに無い。でも、お兄さんの枕の下にでも置いておけば、お兄さんの深層心理が分かるかも……」

「これでですか……」

「まあ、半分遊びだと思って」

 栞は、式神が優しいオーラを放っていることに気づいた……パセリの香りに似合うオーラだった。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする