大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記・2『転生ことはじめ・1』

2021-06-12 15:00:26 | ノベル2

ら 信長転生記

2『転生ことはじめ・1』   

 

 

 転生したか。

 

 気が付くと狭間(鉄砲を撃ったり矢を射かけるための△や▢や〇い穴)が穿たれた白壁に沿った石段だ。

 石段は緩やかに湾曲して石垣の向こうに下っている。

 岐阜城の二の丸から三の丸に抜ける石段に似ている。

『ちょっと待って、信長君』

 熱田大神の声がする。

 右手に手鏡のようなものを握っていて、大神の声は、そこから聞こえてくる。

 これは……スマホというものか。

 瞬間驚いたが、頭の中から湧き上がってくるものがあって、すぐに理解できた。

 タッチすると、大神の顔が現れた。

『さすが、呑み込みが早いわね。一度にインストールするとバグっちゃうから、必要なものからやるわね』

「ああ、よろしく頼む」

『まずは、今の信長君の姿を確認』

 画面が切り替わって、妹の市の顔が現れた。

 ちょっと古い。まだ長政に輿入れする直前の十七歳くらいであろうか。

 市には苦労をかけた。

 むろん、浅井との婚儀は、京への回廊である近江の安全を図るためであり、越前の朝倉に対する押さえでもあった。

 しかし、それだけで選んだのではない。長政はいい男だ。

 儂よりも一尺あまり高い美丈夫。聡明な上に情に厚く、なによりも儂の天下取りの意味をよく理解して、儂から一歩引きさがったところで友誼を持ってくれていた。

 越前攻めでは、見事に裏切ってくれたが、奴の心情は分かっている。父、久政に殉じたための裏切りであった。

 だから、長政は市が裏切りを知らせることにも邪魔をしなかった。両口を縛った小豆袋が『袋のネズミ』を意味していることなど、長政が知らぬわけがない。

 そもそも、完全に寝返るのであれば、市が越前攻め真っ最中の儂に使いを出すことを許したりはしない。

 小谷の城が落ちる時も、長政は市と三人の姫を猿に預けて助けてくれた。

 戦国の世の習い、前妻との間に生まれた男子こそは生かしておけず串刺しにしてやった。長政の首も久政や朝倉義景といっしょに箔濃(はくだみ)にしてやったが、聡明な妹は儂の意を汲んでくれておった。

 いずれ、三人の姫たち共々、身の立つようにと考えておったところだ。

 再婚を望むなら、今度は戦とは無縁な公卿。長政への想いを通すなら、それも良し。猿に命じて、長浜に隣接するニ三万石を与えて姫大名にしてやろうとも考えていたところだ。

 あの光秀の謀反さえ無ければ、中国の毛利を従えた後に、この兄は計らってやるつもりでいたのだぞ。

 

 そうか、この兄の気持ちが分かるか、分かってくれるのか……ニッコリと笑って、本当に可愛い奴だなあ、お市は。

 

『えと……それ、信長君の顔なんだけど……』

「え?」

『だからね、よく似た兄妹だから、似ちゃうのよ、女性に転生・す・る・と(^_^;)』

「え……ええええええええええええ!?」

『石垣の上を見てくれる、防犯カメラに写ってるから』

 石垣の上の防犯カメラはすぐに分かった。

 その防犯カメラの映像がスマホに転送されていることも分かる。

 だが、小袖に似た着物を着て、市よりもナヨリとした姿で立っている自分の姿には、ただただ口を開けて驚くだけだ。

『ここは城山公園でね、信長君の生活圏の真ん中にある憩いの場なの。今から、自分の家に向かうからね。さっきも言ったけど、必要なことは、順繰りに解凍してインストールしてあげるから。ま、取りあえず、石段を下って、自宅に向かいましょう!』

「あ、ああ」

『あ、それから、この世界でも名乗りは織田信長だから、混乱しなくても済むわよ。ま、そういう設定にするには、ちょっと苦労したんだけど、ま、いつか感謝してくれたら嬉しい、かな?』

「だ、だれが感謝するかあヽ(#`Д´#)ノ」

 石段を下り、堀にかかった橋を渡るころには、取りあえず、目の前に開けた我が街の風景には慣れてきた。

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銀河太平記・050『ミクの父』

2021-06-12 09:22:07 | 小説4

・050

『ミクの父』  ミク   

 

 

 お父さんの機嫌が悪い。

 

 どのくらい悪いかと言うと、飲み終わった湯呑を握りつぶしてしまうくらい。

 バギ!

「あー、せっかくお土産に買ってきた備前焼なのにい!」

「あ、ああ、すまん」

 そう言うと、破片を集めて袋に入れる。こまごまとした破片も、年寄りがするみたいに、お煎餅の欠片を集めるようにしてテーブルを撫でる。年寄じみて見えるんだけど、こういうお父さんも嫌いじゃない。

 ないんだけどね……

「いいよ、浅草で買ってきた安物だから」

「いや、それでもな……浅草の備前なんて貴重じゃないか」

 ちょっと嫌味っぽい。

 あたしも嫌味っぽかったかも。お父さんが機嫌悪くなるのは、たいてい仕事の後の賭けマージャンだからね。

 でも、たまに、仕事上の事だったりするから、とりあえずは黙ってる。

 犠牲になったのは、修学旅行の二日目に浅草で遊んで、たまたま見かけたアンティークの店先に特売で出ていたやつ。

 そんなに古いもんじゃない。満州戦争のころに作られたというだけの広島のお土産品。

 備前焼は、古くは水ガメや水道の土管なんかにも使われていて、丈夫にできている。

 それを握りつぶしてしまうんだから、よっぽどムカついているんだ。

 でも、仕事の事は、お父さん言わないし、こちらから聞かないことが、我が家の不文律だ。

 たとえ、不首尾だった賭けマージャンでもね。たぶん、仕事の憂さ晴らしだし。

 

 これ、ミクのお父さんじゃないか?

 

 昼休みの食堂、二つ目の焼きそばロールをパクつきながらダッシュがハンベを示す。

 ちなみに、一つ目の焼きそばロールはテーブルに着くまでに胃袋に収まっている。

「なに?」

 天ソバにトンガラシを振りながら、あたし。

「ああ、それなあ」

 ヒコが、子供用の椅子を置くと、犬ころのようにテルが収まって、ハンベを覗き込む。

 ズルズル~ ムシャムシャ ハグハグハグ……

 四人、それぞれ違う昼ご飯を食べながら、ハンベに出ているSNSの記事に注目。

 扶桑の西部丘陵でマス漢戦争の古戦場が発見され、そこから複数の遺体が発見されたというもの。

 火星は、地球より大気が薄い分、降り注ぐ紫外線が多く、生物の遺骸は、驚くほど早く分解される。

 それが、砂嵐に埋もれて、ほぼ完全な姿で発見されたというものだ。

 遺体は扶桑軍の五人の兵士で、全員が手足を拘束され、一体は首が切られて、女性兵士は下半身の衣類を付けていなかった。

 あ……お父さん、この遺体の検視をやらされたんだ……。

 

 お父さんは町医者だけど、若いころに監察医務院の勤務経験があって、ときどき不審死の検視をやっている。

 ビジネスライクにこなしているんだけど、たまに惨いのを検視した後にブチギレる。

 たぶん、賭けマージャンすらもやらないで、そのまま帰ってきたんだ。

 文句言わないでよかった。

 

 あれ?

 

 家に帰ると、壊れたはずの備前焼がダイニングの棚の上に置いて……いや、飾ってある。

「直したんだ」

 朝とは、打って変わって、にこやかにお父さん。

「どうやって?」

「まあ、見てみるといい」

 恐るおそる持ち上げて、驚いた。

 まるで、電気が走ったみたいに金色の稲妻が茶碗の肌を走っている。

「どうやったの?」

「金継って手法でな。金の針金と漆で直すんだ、かえって良くなっただろ」

「う、うん」

 でも、思った。

 金の針金と漆だよ。

 きっと茶碗の値段の十倍……もっとかかってるかもしれない。

 

 ひょっとして!?

 そう思って、医院の方の玄関に周る。

『本日休診』

 ああ、仕事休んでまで……。

 ため息をついていると、カチャカチャとツッカケの音。

「今から営業だ」

 休診の札を回収するお父さんだった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト『魔法蚊高校の劣等生』

2021-06-12 06:26:05 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『魔法蚊高校の劣等生』  




 ボクは魔法蚊高校の優等生……だった。

 ちょっと説明がいる。

 蚊に高校があるということが釈然としないだろう。

 それがあるんだ。

 普通、蚊柱っていう。

 数百匹の蚊が、背の高さほどの筒状になって、水たまりの上や、湿気た地面の上を円筒状に群れ飛んでいる。あれが、蚊の学校で、基本的には男子校。

 ときどき女子が入ってくる。

 そこで、男子達は、入ってきた女子の取り合いをする。

 で、上手いことやった優等生が女子とイイコトができて、イイコトをした女子は、すぐに卒業して、タマゴを生んでお母さん蚊になる。そして、子孫が繁栄するというわけだ。

 これが普通の蚊の学校で、そこの生徒は普通蚊と呼ばれる。

 ボクは違う。

 なんたって魔法蚊だ。

 魔法蚊の高校=蚊柱は、めったに見つけられないぞ。どこと言って場所は決まっていないし、普通蚊の蚊とは外見上区別がつかない。

 あ、ボクは魔法蚊だから、ちゃんと名前を持っている。

 赤井敬蚊(あかいたかふみ)っていう。魔法蚊の中では名門……と言っても、この魔法蚊高校の生徒のほとんどが赤井の姓を名乗っている、いわば親類になる。

 そうそう、魔法蚊の特徴を言わなくっちゃね。

 魔法蚊は、女子の魔法蚊とイイコトができると、人間の姿になる。

 時間は24時間と決まっている。そしてその間に人間としてイイコトができると、女子は本当の人間になれる。男子は、また蚊に戻るけど、ランクが上がる。最高の魔法蚊になると、東京なら成城。アメリカならビバリーヒルズあたりの魔法蚊の大学に入れる。そんなヤツは何百億匹に一匹ぐらいしかいない。そうなると、男子の魔法蚊でも人間になれるらしいが、そういうヤツを見たことがないので、ただの伝説かガセかもしれない。とにかく女子の魔法蚊の方が人間になれる確率が高い。

 だから、人間は、男性より女性の方が人口が多い。

 元は蚊であった女の子の事を『モトカノ』と呼ぶ。

 じゃあ、人間になった魔法蚊は、どうやって、人間社会に溶け込むかというと……これ、秘密だから、人に言っちゃだめだよ。

 人間の姿のまま人の血を吸うんだ。

 そして、十人ほど吸うと、魔法で、気に入った家庭の人間として入り込む。むろん魔法だから、家族も知人も昔から、その子がいたように思うし、役所の書類やデータも魔法でできてしまう。

 ただ、そこまでいくと蚊であった記憶を無くし、完全に人間になりきってしまう。

 ボクは、一度だけ、女の子の魔法蚊とイイコトができた。

 相手の女の子は、無事に十人のいい血を吸って、とびきりの美少女になった。そしてAKBのアイドルになってがんばった。AKBってのは「あ、蚊が、ブンブン」の頭文字をとったものだ。カノジョは5年AKBでがんばって卒業し、今は歌って踊れる女優でがんばっている。

 ボクは、今日もダメだった。魔法蚊高校としてはラッキーで、5匹も女子の魔法蚊がやってきたけど、みんな他の男子にもっていかれてしまった。

 意気消沈したボクは、せめて昔のカノジョに会いたくて、たまたま近所にロケに来ていた彼女の後を追った。

――美しい……キミは本当にきれいな女の子になったね――

 気が付くと、スカイツリーの高速エレベーターの中。ボクは天井に張り付いて、カノジョの姿を俯瞰していた。
 もう春本番なのでカノジョは、胸の大きく開いたカットソーにカーディガンというどこか蚊であったころを彷彿とさせる姿。胸の谷間が、なんとも蠱惑(こわく)的にボクを誘う……。

 エレベーターが最上階に着いたとき、その隙を狙って、ボクはカノジョの胸元に飛び込んだ。

 パチン

 ボクは叩きつぶされてしまった。愛する彼女の手で。

「すごいね、モトカちゃん。一撃で蚊を叩きつぶすアイドルなんて、今時いないよ」

「そうですか」

 カノジョは付き人が差し出したティッシュで、グチャグチャになったボクを拭った。

「あ、この子アカイエカだ」

 ティッシュで拭う直前に発した一言が、ただ一つの救いだった。

「あ、思いついた(^▽^)/」

 ボクは、日本で一番高い建物の中で生涯を終えた蚊として、ギネスブックに申請されて名前を残したのだった……。

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コッペリア・21『二枚の写真』

2021-06-12 05:53:54 | 小説6

・21 

『二枚の写真』   

 



「あら、今日は栞ちゃん一人?」

 お隣のセラさんが眠そうな顔で開け放したドアから覗きこんだ。

「ごめんなさい、起こしちゃったわね。今日からお兄ちゃん仕事だから、その間にお掃除してます」

「そういや、散らかってるわね……」

 ポリポリ

 股ぐらを掻きながらセラさんは遠慮なく観察する。それほどセラさんとは親しくなった。

「んー、なんだか箱を開けて適当に並べたとか積んだってレベルだね……オーシ、あたしが手伝おう!」

 セラさんは、てきぱきと荷物を整理していく。なんだか、あらかじめ片付けのプランを持っているみたいに慣れている。

「セラさん、すごい!」

「あたしたちの仕事はね、意外だろうけど整理整頓が第一なの。お店って、裏も狭いけど、表も見かけほど広くないのよね。ほっとくと直ぐに散らかっちゃうからね……ま、とりあえず、それらしく並べて、積んでと……ん、なんだこの写真は?」

 セラさんが取り上げたのは、どうってことのない富士山の絵ハガキを入れた写真立てだった。

「富士山が、どうかしました?」

「今時いい歳したオニイサンが、富士山の絵ハガキなんか写真立てに入れとくか……」

 セラさんは、遠慮なく写真立ての裏蓋を開けた。すると富士山の絵ハガキの裏から女の人の写真が出てきた。

「きれいな人……」

「きれいなだけじゃないわね……」

 セラさんの目が光った。

 そのころ颯太は、今日から自分の城になる美術教室と準備室の整理に余念が無かった。自分の部屋はほったらかしでも気にならないが、仕事場は念入りになる。性分というものだろう。

 その間に、年度初めの職員会議が行われている。非常勤講師は、これには出ない。そもそも今日来なければならないという義務もない。

 颯太は美術の講師なので、備品の確認や、消耗品の見積もりや発注という仕事がある。それに粗々ではあるが年間の教育計画も立てておかなければならない。行き当たりばったりと一応の計画を持っているのとでは、授業への力の入り具合が違う。で、力を抜くと、生徒は美術の時間を息抜きとこころえ、収拾がつかなくなることを経験上よく分かっている。

「ちょっと失礼しますよ」

 教頭が、形だけノックして、ずかずかと準備室へ入ってきた。

「職会終わったんですか?」

「ええ、で先生がお越しだと聞いて、ちょうどいいと思いましてね……」

 そう言うと教頭は、バインダーに挟んだ生徒指導書を出した。生徒の経歴や連絡先などの個人情報が書かれている。

「あ、水分咲月だ……」

「御存じだったんですか?」

「ええ、最初は学校の正門で見かけて、初めて伺った時です。時期的に留年生だと思いました……ドンピシャですね」

「先生の美術をとっているんですが、ちょっと扱いに注意のいる生徒でして……」

「それにしても……」

 指導書の写真は、今まで見たこともないほどの穏やかさだった。

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