大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・82『約束のお地蔵さん』

2021-06-05 09:01:59 | ライトノベルセレクト

やく物語・82

『約束のお地蔵さん』    

 

 

 二丁目の断層の手前の道を横に入ったところにお地蔵さんがいる。

 

 お地蔵さんというのは、単にお地蔵さんだと思っていたんだけど、どうも種類があるらしい。

 子安地蔵とか、延命地蔵とか。

 わたしの生活圏の中にあるのは、このお地蔵さんだけなので、わたしは単にお地蔵さんと呼んでいる。

 でも、延命地蔵と呼ぶのが正しいと、交換手さんが教えてくれた。

 交換手さんの正体は、むかし樺太の真岡というところで電話交換手をやっていた親類筋にあたる女性で、むかしの事をよく知っている。だから、たまにお地蔵さんからかかってきた時に『延命地蔵さんからです』と、さり気に教えてくれて、今日に至っているんだ。

 

 夕べ、その延命地蔵さんから電話があって、図書当番で遅くなったんだけど、チカコを連れて訪れた。

『ごめんね、図書当番だったんでしょ』

「うん。でも、ずいぶん日が長くなってきたし平気だよ」

『そう、だったらいいんだけど……あら、そのカバンから覗いているのは○○さん?』

「あ、お地蔵さんには分かるんだ。エヘヘ、縁あってうちに来てるチカコだよ。よく分かったわね、姿形は黒猫なのに」

『こう見えてもお地蔵さんよ。たいていのことはお見通し』

「でも、○○さんてのがよく分からない。なんで伏字なの?」

『あら、聞こえなかった?』

「うん」

『やくもと同じようにチカコって呼んだんだけど』

「え、そうなの?」

『そうよ』

「アハ、そうなんだ」

 ほんとは不審だった。

 だって、お地蔵さんは○○さんと呼んだんだよ。チカコなら○○○って三文字だよね。

 でも、相手はお地蔵さんだから深く追求はしない。

『じつは、きょう来てもらったのは、ちょっとお願いがあってね』

「え?」

 ちょっとビビる。

 この春も、この二丁目断層付近の不良あやかし退治を頼まれたところだ。なんとかこなしたけど、わたしはゲゲゲの鬼太郎でもネコ娘でもないので、やっぱり怖気が先に立ってしまう。

『アハハ(^_^;)、そんな冷や汗流すようなことじゃないから』

「い、いや、大丈夫ですよ(;'∀')……で、なんなのかなあ?」

 努力して平気な顔を作ってみる。

 クス

 カバンのチカコが笑ったような気がした。

「あ、いま笑った?」

『ううん』

 確かに笑われたんだけど、チカコもリラックスしてる感じなので、追及はしない。

『じつは、お地蔵ギルドから頼まれごとがあってね』

「え、お地蔵様にもギルドがあるの!?」

『そりゃあね、人目には街角でノホホンとしてるように見えても、いろいろあるのよ。だから、ギルド組んでるの』

「そうなんだ。で、お願いと言うのは?」

 クス

 またチカコが笑う。

 どうも、緊張しているのがバレバレのよう。通学カバンをギュっとしているので、チカコには心臓のドキドキが分かってしまうのかもしれない。

『大阪の「しらみ地蔵」さんからの頼まれごとなんだけど……』

「し、しらみ地蔵!?」

『あ、可笑しいんだったら、今のうちに笑っておいて。途中で笑われたら話の腰が折れてしまうから』

 アハ アハハハ……

 しばらく、チカコといっしょに笑ってしまう。それにつられてお地蔵さんまで笑い出して、なかなか本題には到達しなかった。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ)
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ライトノベルベスト〔存美女学院高校物語・1〕

2021-06-05 06:36:26 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

存美女学院高校物語・1』 




 誰だってゾンビと読む。

 存美女学院高校の存美……本当は「ありみ」と読む。

 昔は、もっと街の中心に近い存美(ありみ)町にあったから、創立者の苗字でもあった町の名前がついただけで、だれも「ゾンビ」なんて呼ばなかった。

 ところが、前世期の終わりごろ映画やゲームソフトが売れだしてから「ゾンビ」という言葉が市民権を得て、学校もゾンビ女学院と呼ばれるようになった。

 最初の頃は、生徒や先生も面白がって「ゾンビ」と呼んでいた。なんといっても町と同じ名前で、成績も評判も良かったので、シャレということがすぐに分かる。

 ところが90年代に入って、学校が手狭になってきて、バスで五つほどいったところに移転した。

 そして、まずいことに、地域の統廃合で存美町という名前が消えてしまったのだ。

 地元の人たちが話し合い「本町有美」と変えてしまい、これは、どう見ても「ありみ」だ。

 かわいそうなのは、うちの学校で、まんま「存美女学院」

 少子化の影響で、うちの学校への進学希望者は減る一方。成績も落ちてきた。評定平均で3近く落ちてしまい、正直落ちこぼれ学校。

 でも、生活指導ってか、しつけは厳しい。制服、髪形、登下校の指導もカチカチで、もともとそういう指導に馴染まないまま中学生活を送り、うちに来た生徒は不登校の末に辞めていくか、それこそゾンビみたく元気のない姿で登校するので、ますますゾンビ度は上がっていった。

 で、このゾンビ学校が潰れないで存在しているのは、経営者の存美一族が、業務本体のアリミグループの利益をつぎ込んでいるからだ。

 生徒に元気はないけど礼儀作法は、県下でも有数だったので、就職先には困らなかった。東京に本社があるような企業は無理だけど、地元のそこそこの企業に需要はあったのだ。

 でも、そろそろ限界だった。お茶くみや受付に座らせておくのには問題はないけど、このIT化された世の中、スマホがいじれる程度の情報処理能力では務まらない。最低エクセルやパワーポイントぐらいできなければ通用しない。

 アリミグループの中心、アリミホールディングスも代替わり。この、お荷物の存美女学院の整理にかかりだした。来年募集定員割れするようなら、再来年から募集停止にし、3年間で廃校にするというのだ。これに抗議したのか嫌気がさしたのか、8月で校長が辞めてしまった。

 で、8月末の始業式に着任してきたのは、加藤不死美という年齢不詳の……制服着せたら生徒でも通りそう……ババ服着せて髪の毛いじったら、定年間近にも見えそうな、女性であること以外分からないのが着任した。

 あ、あたしは山田花子。

 17歳で人生お先真っ暗。まあ事情はゆっくり話すけど、真っ暗の原因の半分は、この、いまどき役所の書式にも載らないようなチョー平凡な名前。吉本に同姓同名のタレントさんがいて、中学のときなんか、この名前だけで、どこのLINEにも入れてもらえなかった。姿かたちは上の絵みたい。
 無気力という点では、他の生徒とどっこいどっこい。

 で、本題には、明日から入ります。ああ、くたびれた……。

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コッペリア・14『栞のスマホを買いに行く』

2021-06-05 06:08:16 | 小説6

・14 

『栞のスマホを買いに行く』 






 栞は一日半で教科書に飽きた。

 正確に言うと、一日半で教科書の内容を理解してしまい、やることが無くなったのである。

 栞の脳みそはコンピューター並のようだ。

「ねえ、兄ちゃん、野坂昭如の本が読みたい」

 まだ眠りから覚めない颯太を上から覗き込むようにしてねだった。

 栞の顔は、他の人がみればAKPの矢藤萌絵似の美少女だが、目鼻を描きこんだ颯太には、へのへのもへじに毛の生えたテルテル坊主ほどの顔にしか見えない。

 ただ、少し変化があった。

「栞、瞬きするようになったんだな……」

「あ、そう? 栞、自分の顔は分かんない」

「いや、目も動くよ、ちゃんとオレと視線があってる」

 颯太がガバッと起きると、栞の五百円玉ほどの目玉が瞬きしながら颯太の顔を追いかけてくる。しかし颯太は、さほど不思議には感じなかった。なんせ大家と不動産屋と自分以外は普通の人間に見えているのだ。

「で、なんで野坂昭如なんだよ?」

「教科書に『火垂るの墓』の一部が載ってるんだけど、全部読んでみたくて」

 味噌汁に玉子焼きと進化した朝食を食べながら朝の行動が決まった。

 区立図書館でカードを作り、限度いっぱいの十冊の本を借りて図書館を出た。

「キャー、痴漢!」

 という叫び声がした。

 女子学生風が胸をかばって、逃げるオッサンを指さしている。

「……!」

 栞は無言でおっさんを追いかけ、数秒で追いついて足払いを掛け、まるでベテラン刑事のように犯人を確保した。

「兄ちゃん、警察に電話。そこの女の人は、こっちに来て!」

 当たり前だが、手錠が無いので、犯人のベルトを外して腕を縛り上げ、ズボンを足許まで引き下ろした。

 これは警察や軍隊の特殊部隊が倒した敵を確保するための方法だ! きっとパソコンを触っているうちに逮捕術の動画にヒットして覚えてしまったのだろう。

 警察からは誉められた。そしてマスコミまできてコラム記事にしていく。これは栞の行動が水際立っていたこともあるが、被害者の女性が、実はネットなどで有名な女装家の男性で、そっちの方が注目された。マスコミは、そっちの方に興味をもってくれた。

 栞の事が、あまり目立たなくて良かったと思った。栞には信じられない秘密が多いからだ。

 なんとか栞を、普通の少女にしなくては……このままでは学校にも行かせられない(^_^;)。

 颯太は、無い知恵を絞り、普通の女子高生なら必需品のスマホを買ってやることにした。

 これなら、いつでも栞の動向がつかめるし、意志疎通もできる。なにより普通の女の子らしい。ただ、栞の事情から登録できるのが颯太と大家と不動産屋しかないのが寂しかったが、大家も不動産屋も喜んでいる。

 そして、メル友に隣のセラさんが加わったころに予想もしない問題が起こり始めた……。

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